プロヒーロー御用達の町工場   作:エドモンド橋本

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 何となく書き始めました。


町工場の職人

 

 

 なるべく埃が落ちないように取り外した蛍光灯をウエスで拭き取って床におろし、新品の蛍光灯を取り付ける。スイッチのオンオフを数回繰り返して、電気が付くかを確認。問題なさそうなので、これで終了。

 

 「田村さん、蛍光灯の交換終わったよ」

 

 ちょうど部屋にお茶を運んで来た家主の田村さんに声をかける。新品の蛍光灯特有の眩しさに少し目を細める田村さんはすぐに笑顔を浮かべた。

 

 「あらあら、鋼ちゃんありがとね。忙しいのにこんな事頼んじゃって、ごめんなさい」

 

 「気にしないでよ。ガキの頃世話になったし、田村さん1人だと蛍光灯換えるのも大変でしょ?こう言う時の為の町工場だと思ってよ」

 

 2年前に旦那さんを亡くしてから1人で生活する田村さんにとって、蛍光灯を換えるのは大仕事だ。慣れてる俺がやるのは当然とは言わないが、少しくらい恩返しにはなるだろう。

 

 「やってもらえる事を当たり前だとは思いたくないの。はい、お茶どうぞ」

 

 「ありがとう。これ飲んだら工場に戻るわ」

 

 「あら、それならお菓子持っていきなさい。みんなと食べて」

 

 「そんな気にしなくて良いのに」

 

 少し前まではお金を払おうとしてたから必死に止めたが、そうするとこうやってお菓子をくれるようになった。まあ、大事な生活費を削ろうとするよりはマシか。

 

 「じゃあ、またなんかあったら言ってね」

 

 「本当にありがとね。最近冷えてきたから身体には気をつけるのよ」

 

 「はは、田村さんもね」

 

 俺はミニバンに乗り込んで、工場へと向かう。静岡の田舎の方にある磁牧製作所は、俺が一応社長を務める小さな小さな町工場。3年前に親父から跡を継いだ訳だが、従業員は俺含めて僅か13人。とは言え実は13人と言うのは意外と多い方なのだ。やだねえほんと。昨今の人材不足問題のせいで、13人を多い方だと思えるのが怖いよ。

 

 「ん?あれは、まさか」

 

 ウチの工場が見えてきたのだが、駐車場に停まっている一台の白の普通車。ウチの社員達の車は大体把握してるし、そもそもこの辺はみんな軽自動車が多い。その中であの車は随分目立つ。と言うか大体分かった。いつもの場所にミニバンを止めると、慌てたように工場からウチの社員が出て来た。

 

 「社長!あ、あの!ゆ、雄英から!」

 

 「落ち着け、大体分かったから」

 

 最近この辺の高校を卒業して入ったばかりの新卒君は多分見慣れないタイプの人間にビビってんだろうな。まあこればかりは慣れてもらうしかない。俺がここの社長になってから、とんでもない客が増えたもんなあ。

 

 「やあ、磁牧君、久しぶりだね」

 

 工場の横に設置されたプレハブに入ると、スラッとした長身の女性が声をかけて来た。ツートンカラーのショートカット、ボーイッシュな見た目。多分この姿を見ても誰も彼女の正体には気付かないだろう。

 

 「ご無沙汰してます、13号先生」

 

 「え!?13号!?」

 

 予想通り俺の発言に新卒君は驚いてアタフタしている。多分最初は雄英高校の職員としか聞かされてなかったのだろう。そして彼女がまさかのプロヒーローだと分かればこの反応も無理はない。

 

 「困るなあ、今は黒瀬って呼んでくれないと。それともあれかな?アポ無しで来た事への仕返しかな?」

 

 「いえいえ、そんなつもりはないのですが、ご気分を害したのなら、謝罪します。申し訳ございませんでした」

 

 俺は黒瀬さんに向けて頭を下げて謝罪する。正直彼女への対応はこれが1番効くのだ。

 

 「ああああ!やめて下さいよ!そんなつもりないんですから!教え子に頭下げさせるような真似したくないんです!すみません!今度からは事前に連絡入れますから!」

 

 「そうですか。では2階の打ち合わせ室に行きましょう」

 

 「切り替えが早いなぁ」

 

 未だに戸惑い気味の黒瀬さんを連れてプレハブの2階に上がる。長机を挟んで座ると、黒瀬さんは持って来ていたコスチュームケースを開け始めた。大方予想通りだ。黒瀬さんが13号として活動する際に着用している宇宙服のようなコスチュームの左腕部分が完全に破損してしまっている。一昨日のニュースに上がってた巨大ヴィラン8人との戦闘時のものだろうな。

 

 「これは随分派手にやっちゃいましたね」

 

 「あはは、お恥ずかしい」

 

 顔をほんのり赤くしながら後頭部を掻く黒瀬さんは非常に可愛らしいが、正直運んで来た案件は可愛いものではない。

 

 「毎回言ってますが、ウチはヒーローサポート企業じゃないですからね」

 

 「うん、分かってるよ」

 

 「頼む相手が違うと言ってるんです。黒瀬さんなら、もっと大手メーカーに修理を依頼出来る筈でしょ」

 

 「僕はね、君に頼みたいんだよ。磁牧鋼星君に」

 

 眩しい程真っ直ぐな目を向ける黒瀬さんが見ていられなくなり、俺は言わなくて良い事を口走ってしまった。

 

 「雄英の汚点にですか?」

 

 天下の雄英を卒業したのに、就いた職は田舎の町工場。消したくなる過去に違いない。どれだけ俺が今の仕事に誇りを持っていても、周りからの目は冷たいものだ。同級生達は一流企業に入っていくのに、俺はこんなザマだ。何故今でも彼女が俺を気にかけてくれるのか意味が分からない。

 

 「僕の誇りである、君に頼みたいんです」

 

 俺が2年生の時、黒瀬さんは雄英の教師になった。最初の頃は、パワーローダー先生について周りながら、サポート科の授業を受け持っていた。別に興味もなかったから、特に気にしていなかったが、黒瀬さんは何故か俺に声をかけてくる事が多かった。俺は別に何もしていない。勝手に声をかけて来ただけだ。誇りなんて知らない。追い返したいが、情けない事に、仕事を選べる立場ではない。

 

 「……3日後、取りに来て下さい」

 

 「うん、ありがとう」

 

 俺はコスチュームケースごと受け取り、黒瀬さんを駐車場まで見送る。そして大きな音が聞こえる工場へと足を向けた。

 

 「源さん!!」

 

 「ん?おお鋼星!どうした!!」

 

 溶接面を被った白髪の男性、ウチの工場で最古参の職人である源さんに声をかける。工場内では声を張らないと会話が成立しない為、取り敢えず大声で呼んでから事務所に来てもらう。

 

 「こんな感じなんだけどさ」

 

 先程黒瀬さんから受け取ったコスチュームを広げて源さんに見せる。

 

 「ほう、そうだな、腕周りの防護繊維はどうにかなるが、問題は指先だな」

 

 「ああ、ブラックホールに持っていかれない耐久性の鋼材なんてそうそうないんだけど」

 

 「その為の、ワシじゃろ」

 

 ニヤリと笑みを浮かべる源さん。源さんの個性は《鍛錬》。金属を鍛えることで、自在に強度を上げる事が出来る。機械よりも精密なその練度は、長年培って来たものだ。とは言え既に老体、本来なら引退してもおかしくはない。

 

 「いつも無理させてごめんね」

 

 「何を言うか!お前さんが後を継いでからはやったこともねえ仕事が増えて毎日楽しくて仕方がねえよ!こんな仕事を簡単に辞めちまうなんて勿体ねえだろ!」

 

 豪快に笑う源さんの顔はガキの頃から何度も見た。大きくてゴツゴツした手で何度も頭をぐしゃぐしゃと撫でられた。親父から危ないから入るなって言われてた工場をコッソリ案内してもらった。俺が雄英に合格した時、めっちゃ喜んでくれた。俺にとって源さんは憧れの人だ。

 

 「そんじゃ、大輔の奴に直ぐに図面引かせるか、防護繊維はシゲちゃんに任せるとして、鋼材の加工は山と川田に。全体的に見て今からだと」

 

 「3日」

 

 「流石だな、父ちゃんと同じで作業工程からの逆算が早え」

 

 「鋼材の加工は俺がやるよ。山さんと川田には今の作業をそのまま続けて貰おう」

 

 「おう、それが良いか」

 

 「じゃあ、よろしく」

 

 「任せろ!」

 

 

 

 

 

 

 俺はこの町工場で育った。ガキの頃親父や源さんから教わった技術を高める為に雄英のサポート科に入った。一流企業に入って、最高の技術者になりたい。俺の技術で、誰かを救いたい。そう思ってた。

 

 『保って後、1年です』

 

 3年生の秋、親父が病気で倒れた。

 

 『お前の、好きにしろ』

 

 不器用な親父なりの、精一杯の優しさだったと思う。自分のせいで俺に迷惑をかけたくない。そう言いたかったんだろう。それでも、あの時の俺は、どうして良いか分からなかった。

 

 『なあ鋼星、この丸鋼、図面と同じ形に削ってみてくれや』

 

 工場に戻った時、源さんから唐突にそう言われた。渡された図面は正直そんなに難しいものでもなかったから、気を紛らわすついでにやってみた。

 

 『ふん、悪くねえな。80点ってとこだ』

 

 『は?』

 

 俺は雄英サポート科だ。正直言って既に親父や源さんを超えてるつもりだった。だからこそ、その評価は不満だった。俺が文句を言うよりも先に、源さんは旋盤の前に立った。

 

 『ほらよ』

 

 俺がかけた時間よりも5分早かった。それにも驚いたが、それ以上に、手渡されたものを見て、俺は言葉を失った。寸法に一切のズレがない。図面通り。当たり前に見えて難しい。俺が感動と恥ずかしさで動けずにいると、大輔さんやシゲさん、山さん達がやって来て、面白半分で同じものを削り始めた。あの時ようやく理解した。磁牧製作所の職人は、一流企業に負けてない。それ以上の技術者達だ。俺は、この工場を守りたい。そう思った。

 

 

 

 

 

 

 3日後。

 

 「おや、13号先生。先日の事件からまだ数日しか経っていませんが、もうコスチュームが直ったんですか」

 

 「ふふ、ええ、最高の職人に直してもらったんです」

 

 セメントスに笑って答える13号は、その日1日上機嫌だった。

 

 

 

 

 

 

 「やっぱり、いつもの仕事よりも0が多いな」

 

 請求書を出すよりも早く振り込まれた金額を見て俺はどうして良いか分からなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

閑話で絡みが見たいキャラがあれば

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