「だああぁぁ〜疲れた〜」
「まさか屋台の骨組みすら俺たちがやる羽目になるとは」
「いくら個性の使用が認められてたって流石に広すぎるし細かい作業が多すぎる」
雄英高校の敷地内に仮設されたコンテナハウス内。中で休憩する磁牧製作所の社員達は皆疲れた様子だった。根津校長からの次なる依頼、雄英体育祭の準備は想像以上にハードなもので、ウチの自慢の職人達がこうなるのも無理はない。まず、竜也が言う様に、外部の人間がなるべく変なものを持ち込まないように、屋台の骨組みすらウチが行わないといけない。更に、当日警備を行うプロヒーロー達用の待機所の設営。他にも防犯カメラの増設や、観客が校舎内に入らないようにバリケードを設置したりと、やる事が多すぎる。
「USJの件もあるからなあ、外部業者を絞る理由も分かるが、天下の雄英にしては効率が悪い」
本当にその通りだ。俺以外にも他に信頼出来る連中は山ほどいるだろうに。
「でもまさか雄英体育祭に携われるなんて、一生の自慢です!!」
「festival giapponese 楽しみ」
夕島君の隣で興奮した様子で話す平島君と、落ち着いているが瞳がキラキラとしてるアリアさん。正直俺からしたらあれだが、普通に考えれば光栄な事だよな。
「なあ、今年の注目って何年生?」
「やはり1年A組だろうな」
「まあ1番はやっぱそうだろうけど、3年生も凄いんじゃねえの?」
若手組が盛り上がり始めたところで、俺は静かにコンテナハウスから出た。もう直ぐ5月に入るが、それにしても強すぎる日差しに思わず顔を顰める。
「はあ」
最近になってあまりにも心境が複雑になる事が多すぎる。黒瀬さんもそうだが、先日来客したサー・ナイトアイの事もそうだ。
『サー・ナイトアイ、申し訳ありませんが、このお話、お断りさせて頂きます』
『……そうか』
基本どんな仕事も断らないのがウチの良さでもあった。しかしそれには限度がある。ベストジーニストみたいにジーンズ作れとか言われたって一回やってはみる。別にそれで何か大損をするわけじゃないから。だが、今回は大きく話が違う。
『俺は、技術者です。ヒーローじゃありません』
『……』
『サー・ナイトアイ、俺は貴方に返しきれない恩がある。貴方の頼みなら、無理してでも叶えたい。でも、今の俺には職人達の生活を守る責任がある。なるべく、危ない組織から恨みを買いたくない』
『ッしかし!君の』
『お引き取りください』
正直驚いた。まさかあんなに声を荒げるとは思わなかった。まあ、何を言われても職人達を危険に晒すわけにはいかない。
「にしても、このペースで終わるかな〜、ん?」
悩んでいても仕方ないと思い、ヘルメットを被って現場に向かおうとすると、緑色のロボみたいなのが屋台の周りを彷徨いている。見覚えあるぞ、ヒーロー科の入試や、それこそ体育祭にもいたな。てか、在学中にイジった記憶がある。
「仮想敵じゃん。何でここに?」
「ビッ!標的捕捉!!」
「は?」
何か急に俺の方向いたと思ったら凄い勢いで突っ込んで来た。
「ブッ殺す!!!」
「前から思ってたけど随分物騒だな」
仮想敵のスピードは速いが、ミルコに比べたら大した事はない。落ち着いて磁力付与で地面に縫い付ける。
「ビッ!!ブッ殺す!!!ブッ殺す!!!」
「それしか言えんのか。雄英の敵のイメージどうなってんだよマジで」
正直、仮想敵に俺達がせっかく組んだ屋台を壊されたらどうしようかと若干焦ったが、杞憂に終わった。
「さて、後はパワーローダー先生にでも引き渡せば良いか?」
「おーい!鋼星!!これどうする?急に襲ってきたから始末したけど」
「……始末?」
コンテナハウスの方からやってきた竜也の言葉に嫌な予感がしたが、まさかそんな訳ない。そんな筈は、そんな。
「雄英の作りもんは案外脆いな」
「だが技術は大したもんだ。これほど軽量で小回りが効くとはな」
「バラせば同じ事っすよ」
「これテレビで見たヤツだ!!」
「やっぱ雄英スゲエエエエ!!!」
「あ、あ、ああ」
コンテナハウスの前に山積みにされた仮想敵だったもの。大きな穴が開いたもの、バラバラになったもの、ドロドロに溶けたもの、身体が削り取られたもの、正確な数は分からないが、もしかてこれ。
「まさか、弁償もの?」
これ幾らぐらいすんのかな。いやてか先ず根津校長に頭下げるのが先か。ああ〜憂鬱だ。
「おや!?反応が途絶えたと思えば!!既に破壊されていたのですね!!」
「あ?」
大きな声をあげて俺達の前に現れたのはゴーグルを付けたピンク色の髪の女の子。ツナギについた油汚れや、先の発言からして、恐らくサポート科の子だろう。
「む?この破損状況。成程、瞬時に停止させられる部分を理解している。おや、こちらは」
「あ、あの、お嬢さん。一つ聞きたいんだが」
最早俺達なんか見えていないと言った様子で仮想敵の残骸をジロジロと観察する少女。雄英のサポート科なんて真っ当な人間がいる訳ないが、それにしたってだろ。
「ん?貴方は、どなたですか?」
「はあ、雄英体育祭の準備を任されている磁牧製作所の磁牧鋼星です。宜しく」
いらないだろうが、こちらも企業、宣伝も込めて名刺を渡す。少女は黙って受け取ると、ジーッと名刺を眺めてから、勢いよく顔を上げた。
「貴方があの磁牧さんですか!?」
「どの磁牧さんか分からないけど多分そうだと思う」
「おお〜!!私、サポート科1年H組!発目明です!!」
ゴーグルを外して俺を見つめる瞳は、個性と関係しているのかスコープの様になっている。にしてもえらい美少女だな。
「ああ、発目さん、この仮想敵だが」
「磁牧さんの事はパワーローダー先生から聞いてます!!在学中にUSJを作ったり、自分の美学に背くからとエンデヴァーをぶん殴ったり、後はミッドナイトの寝込みを」
「やめろおおおおおお!!!!!」
ちょっと待て。何故俺の黒歴史を知ってるんだこの子は。てかパワーローダー先生からとか言ってたな。あの人何してくれてんだよ。
「え、社長エンデヴァー殴ったの?」
「てかミッドナイトがなんだって?」
ほら〜、ウチの社員が気になり始めてんじゃん。勘弁してくれよ。まあ良いや。取り敢えず話を逸らそう。
「あ、あのさ、この仮想敵なんだけど」
「この子達ですか!?実は体育祭用のものらしいのですが、こっそりプログラムを弄ってみたら、暴走してしまったんですね!!」
「……」
え?すげえ事やってねこの子?てか仮想敵とか先生居ないと入れない倉庫に置いてるくね?侵入してプログラム書き換えたの?俺でもそこまではやらんぞ。
「ああ、とにかく怪我人が出なくて良かったけど、程々にね」
「そうですね!制御が効かなくなっては元も子もないので」
「ん〜、まあ技術者にとって失敗は前進。雄英にいる内に色々経験しておきな」
結局この一件は、雄英の責任として、弁償はせずに済んだ。しかし、謝罪に来たパワーローダー先生だけは絶対に許さない。俺の過去の事もそうだが、それより今この現状に対してだ。
「昨今の企業は、コスチュームのデザインにこだわり過ぎていて、機能面に問題があると思いますが、磁牧さんはどう思いますか!?」
「……発目さん、授業は?」
何故かあれ以降俺に張り付いて質問責めしてくる発目さんをどうにかして欲しい。