プロヒーロー御用達の町工場   作:エドモンド橋本

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炎の傷

 

 

 「エンデヴァー事務所の専属サポート技師になる気になったか?」

 

 「あ、バーニン元気ですか?」

 

 ボウッ!とエンデヴァーの炎が勢いを増す。キツい目つきが更に鋭くなり、最早一般人に向ける態度ではない。常人なら失禁するレベルだなこれ。

 

 「これ言うのもう何度目ですかね。今の貴方に協力する気は無い。以上!それでは」

 

 「何が不満なのだ。俺の元で働けば、今よりも良い生活が送れるぞ。もし、今の社員の事で困るなら、共に連れて来ても構わん。あんな小さな町工場畳んでしまえ」

 

 もう話す気は無いと、再びエンデヴァーの横を通り過ぎようとした。しかし、エンデヴァーの口から放たれた、悪意の無い、純粋な言葉に俺は足をとめた。

 

 「……エンデヴァー、磁牧製作所が普段何してるか知ってます?」

 

 「知らん」

 

 「でしょうね。じゃあ、教えてあげます」

 

 俺はエンデヴァーに向けて、磁牧製作所の1日を話す事にした。

 

 朝6時、誰よりも早く源さんが出社して来て、機械の点検をしてくれる。そして、6時半に、俺や大輔さん、山さん、シゲさんが出社して、コーヒーを飲みながら軽い雑談をする。7時を過ぎると、事務の双葉さんや竜也、川田、平島君やアリアさんが出社。7時半に、近所のお家の方と一緒に、道路のゴミ拾いをしながら、通学する小・中学生を見送る。大体半過ぎに溶ちゃんが出て来て、8時ギリギリになってから、解斗と夕島君が、慌ててやって来てタイムカードを切る。それをみんなで呆れて見ながら、ラジオ体操をして、朝礼。朝礼を終えると、その日の作業のKY(危険予知)をして、安全唱和で締める。そして、それぞれ仕事に入るが、源さんや竜也は、ライン作業に加えて、新たな案件の打ち合わせも行う。ある程度話が決まれば、作業に戻る。昼休憩を挟んで、また同じ様に仕事をするが、アポ無しでやってくるヒーローの来客対応や、近隣で何かトラブルがあれば手伝いに行く事もある。16時になると、休憩がてら下校する小・中学生を見送る。そして17時に仕事を終える。

 

 「残業はしたりしなかったりですが、ウチは基本的にはあまりしない感じですね。突発案件があれば別ですが」

 

 「結局何が言いたいのだ?」

 

 「あれ?伝わんないですか?」

 

 まあ、1日の話をしても確かに意味はないか。

 

 「ウチは、地域に寄り添いながら仕事をしています。ハロウィンやクリスマスになると、子供達にお菓子配ったり、夏は流しそうめんしたりと、小さな町工場だからこそ、やれる事があるんですよね」

 

 「それに何の意味がある?宣伝か?収益になるのか?」

 

 「ほとんど利益にならないですよ。でも、俺は繋がりが大切だと思ってます。昼間1人の高齢者や、登下校する子供にとって、もしもの事があった時、直ぐに助けを求める事が出来る場所って大事だと思うんです。俺達はヒーローじゃない。でも、俺達が守っている何かがあると思ってるんです。だから、そんなに簡単に、会社を畳む事は出来ません」

 

 下校中の子供達の中には、今日学校で何をしたとか、テストで満点だったとか教えてくれる子がいる。俺は別に子供が好きなわけじゃない。でも、前に一度、子供達が笑顔で「いつも見守ってくれてありがとう!」と言ってくれた時は、気分が良かった。近隣のトラブルも勿論業務とは関係ないが、それで助かる人がいる。きっと俺達の居る意味はあるはずだ。

 

 「エンデヴァー、俺は別に貴方が嫌いなわけじゃない」

 

 「……」

 

 ジッと俺の言葉を待つエンデヴァー。

 

 「何なら尊敬してます。その圧倒的な実力、迅速な対応、媚びない姿勢。素晴らしいヒーローだと思います」

 

 「ならば」

 

 「でもアンタは、見捨てた存在がいる」

 

 「ッ!」

 

 先程までと打って変わった俺の強い口調に、エンデヴァーは目を見開く。それでも、俺はエンデヴァーをどうしても許せない事が1つある。

 

 「ヒーローとしてじゃなく、1人の親として、1人の夫として、傷付け、壊した人達がいる筈だ」

 

 「貴様、何故」

 

 「泣いてたよ。冬美ちゃん」

 

 中学時代から友人である彼女が、高2の時苦しそうに話してくれた。溜め込んでいた何かを吐き出す様に、俺に助けを求めて来た。無力な俺には、何も出来なかったが。

 

 「冬美が」

 

 「知らないだろうね、冬美ちゃんと俺が同級生だって事」

 

 「……」

 

 「アンタのやり方には吐き気がするよ。でも、今更どうする事も出来ない。だから向き合って、償っていくしかない」

 

 冬美ちゃんから聞くに、エンデヴァーのヤバさは尋常じゃない。最早家族を家族として見てなかった。子供に愛情を注いでいなかった。

 

 「もし、貴方に何か心変わりがあれば、その時は、仕事のご依頼お待ちしています」

 

 何も言わなくなったエンデヴァーの横を今度こそ通り過ぎて、俺は足を会場へと向けた。近付けば近付くほどうるさくなる会場に思わず眉間に皺がよる。それでも、冬美ちゃんの弟君が、どんな思いで、どんな夢を抱いてヒーローを志すのか見てみたくなった。

 

 『さアさア序盤の展開から誰が予想出来た!?今1番にスタジアムに帰って来たその男———』

 

 歓声響く会場の観客席に入ると同時に、会場中央に、1人の生徒が走り込んで来た。一見パッとしないその少年。だが、言葉にし難い何かを感じる。

 

 『緑谷出久の存在を!!』

 

 雄英体育祭の予選といえど1位通過。全く見てなかったから個性や戦い方も知らない。それでも、何か気になるものがあった。

 

 「売り込んで、みるか」

 

 俺らしくない言葉が口から溢れた。てか弟君どこ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






 
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