プロヒーロー御用達の町工場   作:エドモンド橋本

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呪い

 

 

 

 「……」

 

 「何か、あの、お疲れ様でした」

 

 「大変、素晴らしい走りだったと思います」

 

 「ヒーロー科のチア良かったっすよね。あ、社長もカッコ良かったっすよもちろん」

 

 大袈裟に顔面包帯まみれにされた俺に同情の眼差しを向ける溶ちゃんと川田。多分俺の走りそんなに見てなかったであろう解斗。JKのチアに鼻の下伸ばしやがって。しかしまさか先生達から説教されるとは思ってなかった。悪いとは思ってるけど何も逃げられないように囲んで説教する事ないだろうに。

 

 「今、どんな感じ?」

 

 「もう結構進んだっすよ。社長が怒られてる間に」

 

 「でも良かったかもしれません。社長が気になってる、緑谷君と轟君の試合、今からですよ」

 

 色々聞いてはいた。鬼強個性の普通科の子や、弟君に瞬殺された子、爆弾イガグリ君と重力を操る個性の子、暑苦しい硬化個性のぶつかり合い。気になる試合も多いが、まあどうせ見逃し配信やるだろうし、今はこの試合を見ておきたい。

 

 「始まるっすよ!俺緑谷君に500円」

 

 「自分は、轟君が勝つかと」

 

 「ん〜、俺も轟ですかね。社長はどちらが勝つと思います?」

 

 マリモ君、もとい緑谷君の強さは未だによく分からない。でも、彼が何かを秘めている事は分かる。運だけで勝ち上がって来れる程雄英体育祭は甘くない。先の騎馬戦では洞察力と分析力の高さが見えた。そして、僅かな時間と限られた選択肢の中で、最適解を下す判断力。後は、周りを巻き込む影響力。

 

 「緑谷君が勝つだろうね」

 

 「お!社長と一緒!」

 

 もし緑谷君が弟君に影響を与える事が出来たら、弟君が原点を思い出せたら、結果は変わるかもしれないな。

 

 『緑谷対轟!!START!!』

 

 開始の合図と共に会場全体を包み込む冷気。弟君の広範囲に渡る強力なその一撃は、緑谷君に破られた。でも、あれは。

 

 「うお!?打ち消した!!すげえなあ!!」

 

 「あの氷を打ち砕く程の超パワー。何故今まで使わなかった?」

 

 「いや、使えなかった」

 

 どうやら川田は気付いたようだ。あの一撃は、ポンポン使えない。

 

 「見えにくいが、今緑谷君が氷に向けて弾いた右手の中指、あれは粉砕骨折なんてもんじゃねえレベルの損傷だ」

 

 「個性を使って骨折?」

 

 「そんな発現したてのガキじゃあるめえし」

 

 そう。普通なら個性が発現したら、成長につれて個性が体に馴染んでくる。パワー強化型の個性なら、自分の出力に応じてそれに耐え得る肉体へと成長する。しかし緑谷君は、個性が体に馴染んでいない。この状態で、今まで生きて来たのだとしたら、相当苦労しただろうな。

 

 「これ、リカバリーガールがいなきゃ実技授業もまともに出来ないんじゃないっすか?」

 

 「そうだな」

 

 雄英は個性伸ばしの授業も行う。彼があの状態を果たしてどうやって克服するのか。今もなお、何度も氷を打ち破ってはいるが、それも無限にできる訳じゃない。

 

 「轟君が有利か」

 

 「そうでもないっしょ」

 

 何かに気付いた様子の解斗。コイツもふざけてるようで目敏い奴だ。

 

 「最初よりも動きが若干鈍い。何度もあんだけ派手に氷ブッパしてるから、自分も冷気に耐えられなくなって来てんじゃねえかな?」

 

 個性の部分的使用を行いすぎた事によるバランス崩壊。やっぱ起こるか。流石に危ない気がするが。

 

 「うおっ!モロに入った!!」

 

 「重い一撃。苦しいな」

 

 弟君の腹に、超パワーで強化された緑谷君の拳が突き刺さる。緑谷君には良いところが多いが、自傷に躊躇が無いのは、褒められないな。でも、躊躇出来ないような理由があるのか。それは、焦り?

 

 「現時点では互角の筈なんだが、何故だろうな、互角に見えない」

 

 「緑谷君がボロボロ過ぎる」

 

 「さっきから轟君に必死に何か訴え掛けてるみたいっすけど、作戦か何かっすかね?」

 

 賢い子なんだろうな、緑谷君は。そして優し過ぎる。弟君がその力を抑え続けたのは、エンデヴァーのせいだ。でも、それを理由に個性を封じてヒーローになった時、彼は後悔する。彼がもし、未来で誰かを救えなかった時、全力じゃなかったからと、遺族に言えるだろうか。例え全力でも救えない命がある。だから多くのヒーローが居る。ヒーロー達は、自分に出来る全力の力で、職務を全うする。弟君は気付かないといけない。全力を出さないと言う事が、守るべき立場の人達に不安を与えるという事を。

 

 「緑谷君はこの後の試合に影響出るレベルの損傷具合だな」

 

 「リカバリーガールの治癒にも限度があるんじゃないっすか?流石に損傷する前の状態に戻せないだろうし」

 

 「セメントス先生とミッナイ先生がどう対応するかだな。あの人達は、体育祭が盛り上がるとかよりも、当然生徒の安否を優先する。その判断は俺達よりも冴えているだろうから」

 

 ただ、ここで止めてしまっては、彼は変われない。それはきっと、緑谷君も分かっているはずだ。再び弟君の腹に重い一撃をぶつける緑谷君。立ちあがろうとする弟君に向けて放った言葉は、俺達のいる観客席にまで届いた。

 

 「君の!力じゃないか!!」

 

 子は生まれてくる家を選べない。親を選べない。個性も選べない。でも、進む道は選べる。何処へ向かうかは自分次第。進んだ先で得た力も、生まれ持った力も、それは全て自分の力だ。血の繋がりは、個性の繋がりは、呪いじゃない。

 

 「え?あれ、炎?」

 

 「凄まじいな」

 

 弟君の左腕に広がる炎。彼が呼び起こした、原点であり決意。

 

 「焦凍ォオオオ!!!やっと己を受け入れたか!!そうだ!!良いぞ!!ここからがお前の始まり!!俺の血をもって俺を超えて行き…俺の野望をお前が果たせ!!」

 

 弟君の炎を見たからか、興奮した様子で最前席から身を乗り出すエンデヴァー。

 

 「怖っ!エンデヴァーあんなキャラだったっけ?」

 

 「さあ、どうだったかな?」

 

 本当に、何処までも悲しいなエンデヴァー。今、弟君は、あんたを見てはいない。

 

 「次で、決まるっすね」

 

 「この冷気漂う空間に、あの炎、ただじゃすまんな」

 

 互いに構え合う2人、勢い良く飛び出した瞬間、セメントス先生とミッナイ先生も動いた。それでも、止まる事なく、2人の一撃はぶつかり合い、大きな衝撃を生んだ。

 

 「おおおお!!!すっげえなあこれ!!」

 

 「ッ予測していたがこれほどまでとは」

 

 「社長、大丈夫ですか?」

 

 「ああ、それより見ろ、決まったぞ」

 

 煙が晴れ、舞台に立っていたのは1人だけ。場外へと飛ばされた少年は、壁に打ち付けられ、意識もないまま、ズルズルと地面にずり落ちる。

 

 「緑谷君……場外。轟君3回戦進出!!」

 

 惜しかった、とかしょうもない事は言わない。どちらも自分の思いをぶつけ合った。後はお互いがこの戦いで何を得たかだ。

 

 「高一でこれ程とは」

 

 「まだまだ成長するからな。全く、日本の未来は明るいね」

 

 「さて、次の試合は」

 

 「む、解斗、お前何を言ってる?」

 

 「へ?」

 

 「忘れたのかよ、俺らはもう片付けに入るぞ。あと20分で回収のトラック入ってくるからな」

 

 「ええ!!?俺達の体育祭ここで終わり!?」

 

 「家帰ってから見逃し配信見ろ」

 

 「はあ、マジかよ〜」

 

 あくまで本格的な片付けはまだだが、それでもバリケードや待機室の解体位は早めに行わないと今日中には終わらない。確かに次も気にはなるがらこっからは仕事だからな。

 

 「あ、そうだ、社長って何でヒーロー目指さなかったんすか?」

 

 解斗の突拍子もない問いかけに足を止める。

 

 「おい解斗、あんまり詮索はするな」

 

 「いやでも、雄英は編入制度だってあるし、社長だったらヒーローになれたんじゃないかなって思ってさ」 

 

 「ああ〜、ほら、俺痛いの嫌いだし」

 

 「おい聞いたか、溶。エンデヴァーの炎に突っ込んでった人がなんか言ってるぞ」

 

 「うるせえな〜、良いからさっさと準備しろ。今日帰れねえぞ」

 

 「うい〜っす。おら!2人ともチンタラすんな!」

 

 「川田、殴って良いよ」

 

 勢い良く走り出した解斗の後を追う2人。最近はあまりされない質問だったから、少し動揺してしまった。俺はヒーローには、なれないからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 『ごめんね、鋼星、汚い手で、貴方を抱き締めて、本当に、ごめんなさい』

 

 『お母さん』

 

 『本当に、ごめんね』

 

 朧げな記憶の中で、母さんは泣いていた。いつも笑顔で、みんなを助けていた母さんの涙は衝撃的で、幼い俺は、どうしたら良いか分からなかった。

 

 『見つけたぞ、裏切りもんが』

 

 母さんの背後に現れた男の顔は恐ろしく、俺は声が出なかった。男は長い斧を引き摺りながら、ジリジリと俺たちに近付く。母さんの腕を引っ張って、逃げようと言う意思を示すが、母さんは先程よりも強い力で俺を抱き締めた。

 

 『大好きだよ』

 

 耳元で呟かれた言葉は儚く、優しかった。

 

 『死ね』

 

 男が斧を振り上げた瞬間、母さんは俺を突き飛ばした。離れていく暖かさと、この後起こる結末を察した俺は、ただただ叫んだ。大声で、助けを求めた。でも、助けは来ない。来るはずがなかった。何故なら、母さんに斧を振り下ろしたあの男が、ヒーローだったから。

 

 

 

 

 

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