「感謝するぞ、磁牧。流石の腕前だ」
俺が手渡したコスチュームケース10個を全て確認し終えると、満足そうに笑うバカでかいシャチ。プロヒーローギャングオルカ。今回、彼からは自身のサイドキック達の装備のメンテナンスを頼まれていた。
「源さん、見て下さい。ギャングオルカですよ。先週はウォッシュ、その前はエッジショットでした。ウチの工場、人気ヒーローがやたら集まって来ますけど、どういう事ですか?何でこんなとこに?」
「鋼星の人たらしのせいだろうなあ。にしても、あの光景は何か危ない取引現場に見えちまうぞ」
事務所の外から聞こえてくる新卒君と源さんの会話。失礼な発言も聞こえるが今は無視しよう。
「そう言ってもらえると嬉しいです。請求書はまた改めて」
「いや、必要ない。既に振り込んである」
またこれだ。ウチに来るプロヒーローは人が請求書を発行するよりも先に金持って来たり、勝手に振り込んだりが多すぎる。更に問題なのはその額だ。
「うん、あの、桁がですね」
「足りないか?それでは」
「いや多いんです!あんなに貰う必要ないんですよ!」
「君の技術力への投資だと思ってくれ」
「そういう話じゃなくて!!会社として後々面倒な事になるから!!」
何故かウチに来るヒーローには会社の常識が通用しない。理解不能な発言を繰り返して結局俺が根負けする。いつも頑張ってくれているウチの職人達の給料アップ出来るのは嬉しいが、にしても貰い過ぎだ。
「す、凄え、社長、あのギャングオルカに怒鳴り上げてる、やっぱやべえ人だ」
「アイツは昔からあんな感じだぞ」
だから失礼なんだよ。間違った事言ってないだろ俺。
「では失礼する。また頼むぞ」
「いや、出来れば次回からはちゃんとしたメーカーに」
「天下の雄英サポート科卒の人間に依頼している。何よりこの技術。誰も文句は言わないだろう」
そう言い残して黒塗りの高級車に乗り込み颯爽と去っていったシャチ。あの人の場合見た目を隠しきれてないから近所迷惑なんだよなあ。出来ればもう来ないでほしい。
「鋼ちゃん、図面引き直したが確認してもらえるか?」
「あ、了解です」
俺が空くのを待っていたのか、設計担当の大輔さんが丸めた図面で肩を叩きながら立っていた。事務所に戻り、机に図面を広げて確認する。手書きの筈なのに綺麗に引かれた図面。一切線にズレがない。改めてここまで綺麗に図面を引けるのは流石と言ったところだな。
「腕部の厚みを2ミリ薄くしたって感じか」
「ああ、これでも充分軽量化できる筈だ。源の腕前と川田に曲げ加工を任せれば耐久性も問題ないと思うがね」
「うん、これで行きましょう。図面を竜也に回して3Dモデリングしてもらいますね」
「じゃあ現場連中には俺から伝えとくよ」
「お願いします」
事務所を出ていく大輔さんの後ろ姿を目で追うと、自販機の前で缶コーヒーを飲みながら笑う源さん達がいる。ウチの技術を買ってくれる企業は少なくはない。とは言え、たかが町工場と笑う奴らが多いのもまた事実。資本金がいくらだ、従業員は何人だ、くだらない事で計られてしまう。それでも俺はウチの技術に誇りを持っている。どんな無理難題だろうとこなせる。それがウチの強みだから。気を引き締め直して、俺も事務所を出る。
「あ、社長、お客様です」
「え?」
事務員の双葉さんの声に振り返ると、見慣れた4人の姿があった。
「煌めく眼でロックオン!!」
「猫の手 手助けやって来る!!」
「どこからともなくやって来る…」
「キュートにキャットにスティンガー!!」
「「「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!!」」」」
「帰れ」
やはり何でもやるのはやめておこう。