「あ〜、もっと見たかった〜」
「子供みたいな事言うな。仕方ないだろ仕事なんだから」
「解斗さん!溶さん!出店バラすの手伝ってもらえますか!?」
ブツブツと文句を言いながらバリケードをバラしていく解斗に叱責を入れていると、屋台周りを片付けていた研磨がやって来た。
「ほ〜い」
「分かった。すぐ向かうよ」
「お願いします!」
一礼して戻っていく研磨。ウチの中でも数少ない礼儀正しい子だ。本当に大事に育てたいね。
「プロヒーローの得意先が居る上に社長は雄英高校OB。何で人が増えないかな〜」
「文句言う暇があるなら、体動かそうね」
「はーい」
口がよく回る解斗だが、その分ちゃんと手も動かす。手際の良さと要領の良さは元ヒーロー志望だったからかな。実技授業で両膝の靭帯断裂によって夢を絶たれた解斗。事故ではなく、解斗の成績を妬んだクラスメイトによって、故意に引き起こされたもの。絶望した解斗は、立ち上がる気力を失った。そんな解斗に、手を差し伸べたのが、社長だった。2人の間に何があったのかは詳しく聞いてない。でも、社長は解斗を立ち上がらせ、道は違えど自分の足で歩かせた。今も軽口叩き合う程には互いに信頼しあってるのはよく分かる。
「溶」
「ん?どうした?」
「俺、昔のヒーロー調べたりするんだけどさ」
急にどうした?と言いたくなる話題だな。ヒーローを調べるとか特に不思議な事じゃない。
「紅頼雄斗とか、ブレイブとか」
聞いた事のあるヒーローだが、話が見えてこない。だからなんだと言うのだ?
「それでさ、レールガンって女性ヒーロー、知ってるか?」
「レールガン?いや、聞いた事ないね」
「そうか、その名の通り、個性は電磁砲。今から約30年前に活躍したヒーローらしい。活動期間は大体5年程、その後結婚して引退したらしい」
「ん〜、結局何が言いたいんだ?そのレールガンってヒーローがどうしたんだ?」
「これは、俺の推測なんだけどさ、レールガン、社長の母親じゃないのかと思うんだ」
「は?いや、待て待て。どう言う経緯でそうなるんだよ」
突拍子もない事を言い出したが、正直理解出来ない。何がどうなってそんな話になるんだ。
「まず1つ、引退した時期が先代が結婚した時期に被る」
「はあ、それから?」
「2つ、先代が婿入りしている事」
「は?え、は!?」
先代が婿入り?そんな話聞いた事ないぞ。まあ、聞かなきゃいけない事じゃないし、別に珍しい事じゃない。
「それ、理由になるのか?」
「3つ、個性について」
「個性?」
「レールガンの個性はさっきも言った通り、電磁砲。社長の個性は磁力。そして」
そして。解斗が指す相手が誰なのか、分かっている。社長に残された唯一血の繋がった家族。
「お嬢」
「ああ、社長の妹、お嬢、波那さんの個性は」
「電磁波」
どちらも電磁砲から継がれた個性だと言われれば確かに納得は出来る。でも気になる点がある。
「個性は、夫婦の個性が混ざり合い変化する事がある。なら、先代の個性は?」
「先代は、無個性だ」
「え」
「無個性。もちろん社長かお嬢に無個性が遺伝する可能性は充分あった。でも、どちらも個性を持って生まれた。それは何故か」
これは、流石に理解できる。2つ目の理由で、何故先代が婿入りした事が理由になったのか、よく分かった。
「磁牧は、血の濃い一族だ」
前に一度、源さんから聞いた事がある。磁牧はかつて名家だったと。そして、時代の流れによって今の姿になったと。血の濃い人間からは、個性も強く引き継がれる事がある。解斗の推測も確かに説得力がある。でも、だから何だ?社長のお母様はヒーローでした。それで良いんじゃないのか。悪い事じゃないし、気にすることでもない。ただ、ここまで来てそうだよねなんて言う奴じゃない。それに、この話の結末は、何となく想像がつく。
「……」
「お前の予想通りだと、思う」
「まあ磁牧家は今、社長とお嬢だけ。先代は社長が会社を継いで直ぐに病死した。社長のお母様については、何一つ話を聞いた事がない。考えたら分かる事だ。でも、もしヒーローだったのだとしたら、少し、変わって来るな」
「ヒーローは恨みを買いやすい。引退後に襲われる事なんて珍しくもない。もしかしたらって話だ。事実かは分からない」
「でも、事実はもっと残酷な可能性もある」
「考えたくはないがな」
世の中は理不尽で溢れてる。医者の家系に生まれ、医者になる事を当然として育てられた俺が、受験に失敗して、親に見放されたように。父が残した遺産を今まで顔も出さなかった親族達に根こそぎ奪われ、母と2人寒空の下に放り出された川田のように。この世は理不尽だ。それでも、手を差し伸べてくれる光はある。
「それにしても、お前それだけ推測しといてよくさらっと匂わせるような話題振れたな」
「単純な疑問だよ。何でヒーローを目指さなかったのか。あの人がものづくりを愛している事は知ってる。多分90%はそれが理由だろ。でも、もし僅かでも他に理由があったのなら知っておきたかった」
「ん〜、社長は嘘をつくような人じゃないし、聞いたら答えてくれるんだろうけど、何と言うか、触れ辛いよな」
もし、解斗の話が本当だった場合、あの人は復讐に走ったりするのだろうか。憎しみを抱き、殺意を抱き、その個性を、殺める為に使うのだろうか。俺に差し伸べてくれた手が、血に濡れたりするのだろうか。それは、嫌だな。あの人の手が血で汚れるくらいなら、俺は、俺が。
「なあ解斗、もし、社長が罪を犯すとしたら、お前はどうする?」
「俺は社長に恩がある。あの人が居るとこなら、俺は地獄でもついて行く。お前も、そうだろ?」
そう。俺達はもはや、あの人に心酔している。だってあの人が俺達にとってのヒーローだから。ヒーローを志した解斗は、同じくヒーローを志した者に未来を奪われて絶望した。医者になる事を絶対とされた俺は、1度の失敗で捨てられた。ただ普通の生活を送ろうとしていた川田は、汚い大人達に騙されて何もかも失った。誰も助けてはくれない。見て見ぬ振りをする中、あの人だけが夢を与えてくれた。
『どうした?泥だらけだけど、家は?帰らないのか?』
『そっか、じゃあウチ来る?』
『仕事見つかるまでウチで働けば良いじゃん。ちょうど君と同い年の子が居るから、仲良くなれるかもね』
『溶ちゃんは覚えるの早いから助かるわ。手際も良いし、仕事も早いし、優秀だね』
『あれだよ、もし、嫌じゃなきゃ、ずっとウチに居てくれても良いんだよ。もちろん強制じゃないよ!あんま言うと竜也がうるさいからさ』
いつかあの人に恩返し出来るなら、俺は。
「おう鋼星!今日はすまんかったな!そう言えばお前、リューキュウのファンやったな、どや、写真撮ってもらえや!」
「そうだったの?いつも応援ありがとう」
「あ、な、え、はい、その、ずっとファンで、その、本当お綺麗で、凄く魅力的な脚だと思います。はい。やっぱり、その」
「……復讐を考えるような人じゃないか」
「だな!それならそれで良い!!」
解斗の言う通り。社長が汚れる事がなければそれで良い。
「おいバラシコンビ!さっさとこっち手伝え!」
竜也さん、社長が怪我したからか機嫌があまり良くない。怒らせる前に俺達は屋台の方へと足を向けた。
のんびりとした話を書きたいのに、気付けばシリアスな方向に向かってしまうのが悪い癖ですね。
次回からはまた、主人公とプロヒーローの話になると思います。