「え〜、社員、データ持ち逃げ、対処法、っと」
「ネットで調べてもどうにもならんだろ」
「ヒーローに頼りましょう、だって」
「前言撤回、俺もそう思う」
ヒーローに頼むのは良いけど、何故2人がウチのデータを持ち逃げしたのか、正直気になる。恐らく2人の後ろに誰かがいるのは分かる。でも、いくら何でも雑過ぎる。もう少し時間を掛けることも出来ただろうし、やりようはいくらでもあった。なのにデータをとって即逃亡。謎だな。
「知りたがりの鋼星君に耳寄りの情報を」
そう言葉を発したのは、白髪混じりの髪をオールバックにしているダンディな男性。切削加工を担当している山さん。
「山さん」
「耳寄りの情報って?」
「2人は知ってるかな?ロビリスクって会社を」
ロビリスクとは、最近低コストで大量の製品を売り出している、勢いのある企業。デトネラット社に並ぶ勢いと言われているが、それがどうしたんだ?
「ロビリスクの売り出す製品には統一性がない、最近だと、自転車、冷蔵庫、腕時計、テレビ。まあ、数多くの事業に取り組む企業は別に珍しくはない。ただ、ロビリスクは工場を一つしか構えていない。それも、ウチよりはデカいが、それにしたって製品の内容を考えれば小さ過ぎるくらいだ。しかも、下請けに依頼してる様子も無い」
「それ、かなり怪しいですよね」
「怪しいなんてもんじゃないだろ。でも、個性による敷地内での作業。と説明すれば、大体は問題なく通るんだろうな。決定的なものがないと、怪しいだけじゃ探り入れられないからな」
企業は毎年個性の使用届けを提出して、業務内容に沿っているかなどを念入りに調べられる。そこで問題が見つからなければ、その企業は白だって言ってる様なもんだ。もちろん、パワハラやセクハラなんかは別だが。
「ん?ちょっと待ってよ。山さん、それと2人と何か関係があるの?」
「ああ、私には同業他社の知り合いが多くいるんだけど、最近とある話を聞いてね。売り出そうとしていた製品によく似たものが、ロビリスクから売り出された、というもの。しかも自社よりも更に安い値段で。そしてお客さんは全部ロビリスクに乗り換えた。一社だけじゃなくて何社も同じ様な事があったらしい。被害届を出す会社もあったみたいだ。流石に警察が動いたけど、決定的な証拠は見つからず、更にロビリスクの商品は、所々寸法や仕様が違うって事で違法ではないってね」
ウチの現状に似ている。持ち出された製品データ。更に顧客リスト。要は、ウチのお客さんに、ウチはこれだけの値段でこれほどのクオリティを提供出来ますって宣伝するって事だろ?確かに理解出来る。ただ。
「今までそれだけ徹底してやって来たんだとしたら」
「あの2人」
「まあ、雑過ぎるよね」
マジで何であんな分かりやすい事をしたのか。理由があるのか、それともシンプルなバカなのか。分からん。
「取り敢えず、データを回収するのが先だな。ただ、同時にロビリスクについても探りたい」
ロビリスクが何をしているのか。2人はロビリスクと本当に繋がっているのか。何故あんな危険な真似をしてまでロビリスクに尽くすのか。ウチじゃダメなのか。やっぱり2人とも捨てがたい程優秀な個性を持っている。戻って来て欲しいというのが本音だ。データを持ってね。
「でも、俺達で勝手に動く事は出来ない。個性を公共の場で使うことが出来る、それこそヒーローの承認がないと」
「今この場で事情を説明して、直ぐに対応してくれるヒーロー、居るかな?」
「う〜ん、企業が相手だとヒーローも動きにくい筈だ。独断で動くなら、恐らく身軽なヒーロー、例えば事務所を構えないスタイルで、俺らの事情を深くは考えず、ただただ邪魔奴らをぶっ飛ばしてくれて、個性の使用も軽く認めてくれそうな、そんなヒーローは、いないよな!!」
一瞬とあるヒーローが頭をよぎったが、ダメだ。色々危ない。これはやはり危険を覚悟で俺達だけで動くしかない。そう思い立ちあがろうとすると、強制的に竜也に肩を掴まれて、戻された。
「いやいや、いるよね。お前の連絡1つで、まさに、跳んで来るヒーロー。ねえ、社長」
「いや、あ、ほら、俺連絡先知らな」
「以前ウチに来た時、連絡先書き置きして帰ったよな?なあ?どんな理由があれ、ヒーローを頼るのが安全だろ?昨日の火傷も癒えてないのに、これ以上無茶するとは、言わないよなあ?」
血走った目をかっ開いて見つめてくる竜也から目を逸らして、スマホを取り出す。今まさに連絡しようとした相手から、既に何件もメッセージと着信が入っている。昨日のエンデヴァーとのレクリエーションを見ていた様で、すげえ頻度で連絡が来ている。
「あ、れ、連絡するよ。そうだよな、まず急いでデータ取り返さないとだしな」
ワン切りしよう。通話中とか電源が入ってなかったとか言って誤魔化そう。相手には、間違えたって言おう。よし!
「あ、え?あ、も、もしもし」
何で出るんだよおおおお!!!!!
磁牧製作所社員情報
係長
爪多竜也(そうだ たつや)
個性《竜爪》
高校 工業
趣味 キャンプ
特技 自由奔放な奴の手綱を握る事
好きなもの 豚汁
嫌いなもの 時間にルーズな奴
推しヒーロー クラスト
加工担当
山内切矢(やまうち きりや)
個性《切削》
高校 普通科
趣味 ポーカー、チェス
特技 利き酒
好きなもの 煙草
嫌いなもの ピーマン
推しヒーロー ギャングオルカ