プロヒーロー御用達の町工場   作:エドモンド橋本

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会社見学及びカチコミ

 

 

 ロビリスク本社

 

 「いやあ!磁牧さんが弊社の見学をしたいとお聞きした時は驚きました!しかしとても光栄です!是非見ていって下さい!」

 

 人の良い笑み。しかし貼り付けた様な笑みを浮かべる、ロビリスク代表取締役社長、阿木座。ダメ元で工場見学頼んでみたら案外すんなり行けた。何もやましい事はない。見たけりゃ見ろ。そういう挑発の意もあるのか、それはまだ分からない。しかし、こちらもこのチャンスを逃したりはしない。既に作戦は始まっている。

 

 「自分で言うのもあれですが、我が社は少数精鋭でして、限られた人員と限られた設備でお客様の望むものをお作りしています」

 

 言ってる事はまとも。説明する設備も怪しいものではなく、大手工作機械メーカーのもの。担当者も手慣れた様子。おかしな様子は無い。だが、それはあくまで説明された範囲内でのもの。山さんが言ってた様に、事業内容と工場の規模が一致していない。

 

 「阿木座さん、御社の事業内容と比較すると、いささか工場が」

 

 「ああ、その事ですか。それなら、これを」

 

 俺の言葉を遮り、阿木座は小さな家の模型をどこからともなく取り出した。これが何なのかは分からないが、見せてくると言う事は、何らかの意図がある。

 

 「この中には、生きた人間が入っています」

 

 「ッ!」

 

 「おっと!言い方が悪かったですね。これは私の個性、ガリバーハウス。ミニチュアの家や段ボールでも良いのですが、その中に私が触れた人を小人化して中に入れることが出来ます。勿論人以外も可能です」

 

 「ああ、なるほど」

 

 「理解して頂けましたね。流石は磁牧さん、聡いお人だ」

 

 ここまで言われたらバカでも分かる。つまり自分とこの社員を小人化して、この家の中で他の事業を行っているって事だ。妙に社内に家のプラモや模型が多いと思ったらそういう事か。怪しいポイントが1つ減った。残されているのは、他社製品をパクっている可能性について。これにはまだ幾つか謎がある。パクっているにしても、直ぐにデータや図面があっても、早々に作れるとは思えない。低コストで、大量生産し続ける事が何故出来るのか。

 

 「磁牧さん、今後私達はヒーローのサポートアイテムを作って行こうと考えております。ライバルになるかも知れませんが、どうぞお手柔らかに」

 

 挑発的な笑み。完全に黒だな。でも強く出るには証拠が足りない。ただ、何となく分かっていることがある。この男の個性、それは触れた相手を小人化して箱に入れることが出来る。聞く限り、強制的に可能。なら、中にいる人間の意思は?そして、低コストでの大量生産。これもまた、データや図面を見れば、再現出来るタイプの個性を持った人間がいる。ただ、どちらも確信に迫れない。俺はヒーローじゃない。だから、ここはヒーローを頼ろう。

 

 「そうでしたか、因みにどんなものを?」

 

 「磁牧さん、それを聞くのはマナー違反ではないですかね?まだ発表前の情報なんですよ?」

 

 バカにした様に笑う阿木座。良いね。それで良い。こういう粋がった、調子に乗ったクズの余裕のなくなった顔が見たい。

 

 「ああ、失礼しました。同業者として、トップヒーローにアピール出来るチャンスだと思っていたので」

 

 「トップ、ヒーロー?」

 

 「ええ」

 

 カツン、カツンと軽快な足音が近付いて来る。

 

 「なあおい!いつまで待たせんだよ磁石、いや、鋼星!!」

 

 「最近ウチの周り物騒でして、一時的ですが、ボディーガードをしてもらっているんです。No.11ヒーローミルコに」

 

 恐ろしい声が聞こえるが、口調を変えず阿木座に語りかける。一方ヒーローは、がっしりと肩を組んで俺の耳元に口を近づけて来た。

 

 「個性の使用、一般人の捜査関与承認、深くは聞かないことも含めて、これが終わったら、楽しませてくれるんだろうなあ?」

 

 「近い近い近い」

 

 顔をすり寄せて来るミルコ。怖い。帰りたい。でもロビリスクの事もあるから帰れない。

 

 「ミ、ミルコにボディーガードを依頼しているとは、さ、流石磁牧さん」

 

 「ええ、それで、どうです?ミルコにサポートアイテムのプレゼンでもしてみては?」

 

 「い、いえ!まだ制作段階でして!その」

 

 「どーでもいいけどよお」

 

 先程よりも低い声を発するミルコ。既に何かに気付いている様子。

 

 「さっきからよお、お前の持ってるその箱から、苦しそうな泣き声が聞こえるんだが」

 

 「ッ!!?」

 

 苦しむ様な泣き声。箱の中で働いている社員の声。それは、本当に社員なのか?やはり、意思に背いた無理強い。パワハラ?いや、そんな生易しいものか?

 

 「な!何をおっしゃっておられるのですか!?泣き声など」

 

 「聞こえるなあ、私は耳が良いんだよ。それ、こっちに渡せ」

 

 「ッ!それは、クッ!!!」

 

 箱を抱えて勢いよく後ろに走り出した阿木座。こうなれば最早証拠もクソもない。

 

 「逃げられるわけねえだろ!!」

 

 「ッ大上!!」

 

 「グルルルオアアア!!!」

 

 阿木座に蹴り掛かるミルコに飛びついて来たのは、ウチの社員の筈だった大上さん。

 

 「テメェ、狼男か?」

 

 「だったら何だ?迫害も差別も知らないぬるい生き方して来たヒーローさんよお」

 

 異形差別。やっぱりあったか。大上さんが田舎育ちだってのは聞いていた。竜也は無口でコミュニケーションが取れないと言っていたが、俺に一度だけ溢した言葉がある。それが、こんな身体に生まれたくなかった、という一言。

 

 「死ねええ!!!偽善者があああ!!!」

 

 床が抉れる勢いで地面を蹴ってミルコに突進する大上さん。しかし、相手はあのミルコ。少ない動きで体を逸らして、大上さんの背中に蹴りを入れる。

 

 「ぐぅ!?」

 

 「ひ、ひいいい!!!」

 

 一撃で立ち上がれなくなった大上さんを見て、阿木座はさらに奥へと逃げていく。

 

 「ミルコ、追って良いよ」

 

 「おう」

 

 兎とは思えない、肉食獣の様なギラついた目と笑みを浮かべて後を追うミルコ。ものの数秒で阿木座の悲鳴が聞こえた。

 

 「大上さん、何で貴方、あんなゴミの下についたんだ?」

 

 「……田舎で生まれた俺は、この身体のせいで、迫害を受けた」

 

 予想通りの過去。犯罪に走る理由としては充分だ。まあ、どんな理由があれ、罪は罪だが。

 

 「都会に出て来ても、バカな俺に仕事は無かった。そして騙されて阿木座の元についた。直ぐに辞めてやるつもりだった。でも、あいつの個性の、あの箱の中で出会ったんだ」

 

 個性の箱。ミルコが言っていた、泣いているという人?

 

 「あの中にいるのは、ガキだ」

 

 「子供?誘拐したのか?いやでも誘拐なら直ぐに大きな問題になる筈だ」

 

 「ならねえよ。ならねえガキを攫ってんだ。もう、分かるだろ?」

 

 誘拐で騒ぎにならない。ああ、そうか。

 

 「捨て子か」

 

 「ああ、無個性や没個性を理由に捨てられたガキ共を善人のふりして手を差し伸べ、連れて来ては無理矢理働かせる。ここには再現の個性持ちがいるからな、図面で見たものは無限に生成出来る。だから、難しい仕事はない。運搬や掃除。それをガキどもにやらせてる。数少ない飯と、布団も与えねえ固い床での睡眠。あれは奴隷と一緒だ」

 

 いるんだな。救い様のねえクズってのは。

 

 「そんなガキ共は俺を見て、何て言ったと思う?カッコいいって言ったんだよ。こんなバケモンの見た目の俺をだ。飯も食えず、ろくな睡眠も取れてねえ体で寄って来て、俺の手を引くんだ。遊ぼうって」

 

 「……」

 

 「紫電もその1人だ。あいつは恵まれた個性に生まれたが、親に売られてここにいた。他のガキよりも扱いは良いものだったよ。それでも、死んだ目をしてた」

 

 絶望感漂う語り口調。この後に起こる事が、何となくだが予想出来た。

 

 「俺は、受け入れてくれたガキ共を救いたかった。だから証拠をかき集めて、ヒーローに通報した。でも、ダメだった。この辺のヒーローは全員、阿木座に金を握らされていた。そのヒーロー連中にボロ雑巾にされた俺は、目の前で、助けたかったガキの1人を、殺された」

 

 耳を塞ぎたかった。でも、最後まで聞かないといけない。体がそう言っていた。

 

 「次裏切れば、また誰かが殺される。俺はあいつの言いなりになるしか無かった。見限って、ガキの事なんか捨てて逃げて仕舞えば良いとも思った。でも、出来なかった。何も無かった俺にとって、初めて愛しいと思えた存在を、捨てられなかった」

 

 「大上さん」

 

 「あんたの会社のデータも、本当はもっと上手くやれた筈なんだ。でも、焦ってた。ヒーロー用のサポートアイテムは大きな利益につながる。だから、これが成功すれば子供達を数人解放してやるって約束をした。何としても、成功させる。そう意気込んで、結果がこれだ」

 

 悔しそうに顔を歪める大上さん。正直、あの阿木座が約束を守るとは思えない。だから、結末はこれで良かったと思う。

 

 「あんたが盗んだデータには、顧客情報も製品情報も入ってねえよ」

 

 「あ?」

 

 「あれはブラフ。中には平和の象徴オールマイト密着ドキュメンタリーが入ってる。それぞれ別バージョンのね」

 

 「……間抜けに見えて、意外と用意周到だな」

 

 ごめん大上さん。俺じゃない。竜也と事務の双葉さんによる対策だから俺関与してない。

 

 「おい鋼星、こっちは片付いたぞ!このおっさん以外にも、何人か反抗して来た奴は蹴っといた」

 

 阿木座を引き摺りながら戻って来たミルコ。社外に逃げた者達もいたが、既に配置していた竜也や解斗によって取り押さえられたようだ。話を聞く限り、ロビリスクは未成年者を強制的に働かせ、数多くの中小企業に忍ばせたスパイからデータを盗んで、多少スペックをいじった製品を販売していた。黒も黒の、ドス黒企業。

 

 「大上さん、あんたはここの子供達を助けようとした。なら、情状酌量の余地がある。この後どうなるかは俺は分かんないけどさ、俺はあんたの力は正しく使えるものだと思っている。仕事が欲しかったらいつでもおいで。待ってるよ。勿論姫崎さんも一緒にね」

 

 「……もっと、早くあんたと出会いたかった」

 

 10分後、警察が到着した。阿木座を筆頭に大上さんや姫崎さんなど、社員が続々と逮捕された。阿木座の個性によって捕らえられていた子供達は保護されたが、連れて行かれる大上さんと姫崎さんを助けようと必死にしがみついていた。

 

 「ミルコ、今回はありがとう」

 

 「後味悪い事件だな」

 

 阿木座を蹴ってた時は楽しそうだったが、事情聴取をしてから少し元気がなくなった。まあ、正直俺もここまでロビリスクが腐っているとは思わなかった。

 

 「今度お礼するよ」

 

 「ならエンデヴァーみたいに私と勝負しろ!」

 

 「それは嫌だ」

 

 一気に機嫌良くなったミルコをあしらい、俺は外で待機している竜也達に連絡を入れた。

 

 

 その日の夜、ロビリスクの件は速報により直ぐに世間に知れ渡った。後日ニュース番組やワイドショーでも取り上げられ、事件を解決したミルコは改めて高く評価される事になる。そして俺はと言うと。

 

 「美味っ!!これおかわり!!」

 

 「よく食うな。流石ヒーロー」

 

 ミルコの家で、謝礼として人参料理を振る舞っていた。ガキの頃から家事はやって来たから一般的な料理は出来る。しかし、こんな美味そうに食う辺り、どんな食生活してんだコイツ?トップヒーローなら結構稼いでるだろうに。

 

 「飯も作れるサイドキック、便利だな」

 

 「ならねえって言っただろ」

 

 最近分かった。こうやって強気にいかねえとコイツの思う壺だ。こっちも反抗していかねえと、舐められっぱなしは性に合わない。

 

 「飯食い終わったら俺は帰るからな」

 

 「あ?泊まってけよ」

 

 「何でだよ」

 

 どうすんだよ週刊誌にでも撮られたら。自分の立場考えて欲しいよマジで。俺明日からエンデヴァー事務所で仕事だから、ある程度体力残しておきたい。あそこはあそこでクセの強い連中多いから。

 

 「泊ってけよ、なあ」

 

 「帰る!ちょ、引っ張んなって!自分の力考えろよ少しは!!」

 

 玄関先で一悶着あったが無事帰宅に成功した。色々あったが、今回のロビリスクの事件は、関与していた警察の人間や黙認していた連中を片っ端から逮捕して回り、全てが終わる筈だった。

 

 

 唯一の想定外は、大上さんの言っていた、阿木座に金を握らされたヒーロー6名が死体で発見された事。

 

 

 

 

 

 「正さねば、贋物の蔓延るこの社会を」

 

 

 

 

 

 

 

 






ミルコに関して、体育祭終了時点のヒーロービルボードチャートJPのランキング順位が不明なので適当に11位にしてます。
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