竜也の設定ちょい出し
隣に立つ人
それは、鋼星の何気ない一言から始まった。
「そろそろ彼女欲しいなあ」
その瞬間は、特に何も思う事はなく、また急に変な事言ってんな〜と感じた程度だった。
「つくれば良いじゃん」
「簡単にいうなよ」
「簡単に言うよ。彼女欲しいとか言う奴の大半は、自分から行動しない奴だよ。誰かに紹介してもらうとか、合コンとか、今ならマッチングアプリとかあるし、いくらでも方法はあるだろう」
「辛辣〜、でも正論」
そんなたわいもない会話でその時は終わった。その後社外に出ていく鋼星を見送り、俺は通常業務に戻った。しかし、ふと冷静なると、頭をよぎる鋼星の一言。
彼女欲しいなあ
今まであいつに彼女がいた事はない。それに実際あいつが付き合うとしたらどんな女性だ?俺も人並みに恋愛はして来た。でもあいつの彼女とか想像つかない。気になるな。
「なあ解斗」
「ん?何すか?」
ちょうど、外部工事から戻って来ていた解斗に声をかけてみる。
「鋼星が付き合うとしたら、どんな女の子だと思う?」
「え?社長の彼女?何で?」
「あ〜、それは」
頭に?が浮かんでいる解斗に、ざっくりと経緯を説明する。
「なるほど〜、でも社長彼女居なかったんすね、なんか元カノに刺されかけたって聞いたことあるっすけど」
「あれは勘違いしたストーカーみたいなもんだ。気にすんな」
「どの辺が気にしなくて良いポイントなんすか?」
でもそうだな〜と顎に手を添えて考える素振りを見せる解斗。鋼星の事をかなり信頼し、尊敬もしているこいつなら、案外それっぽい答えが見つかるかも。そんな淡い期待だった。
「ん〜、社長の恋人。やっぱ社長が好きになった人と付き合うのが1番っすけど、社長の好きな女性ってリューキュウしか思い浮かばないんすけど」
「リューキュウね、でもリューキュウっていわゆる推しだろ?恋愛感情のそれとは違うんじゃねえか?」
「竜也さんあれが本当に推しに向けるものだと思いますか?ストーカーに近いっすよ」
それは確かにそう。普通のヒーローファンのものとは違うな。たまにガチで引くときあるし。
「いやでもリューキュウが鋼星と付き合う様な事は絶対無いだろうけど、あっても多分鋼星が壊れる」
リューキュウの一挙手一投足に興奮して発狂しそうだし、鋼星が壊れるか、リューキュウが耐えられず逮捕するか。
「ん〜、あ!あの、社長の同級生の人!ほら、めっちゃ可愛い人居たっすよね?」
「あ〜、エンデヴァーの娘な」
「え?」
「冬美ちゃんだろ?学校の教師してる」
ガキの頃から問題ばっか起こしてた鋼星と、授業態度も良く成績優秀な学級委員の冬美ちゃん。交わる事はない2人だと思っていたが、何がきっかけになったのか、いつのまにか2人はよく一緒にいる様になった。エンデヴァーから職場体験の誘いが来たのも、ヒーロー科編入を勧められたのも、冬美ちゃんとの関係があったからだろうな。
「……何か、よく一緒に飯行ってたりするし、すげえ仲良さそうでお似合いだなあなんて思ってたっすけど、仮に付き合って、その後結婚するとかしたら、エンデヴァーが、社長のお義父さんになるって事っすよね」
「……まあな」
「……」
別に、鋼星も冬美ちゃんも、エンデヴァーも悪くない。ただ、凄く気まずい空気が俺と解斗の間に流れる。
「じゃ、じゃあ、竜也さんは、どんな人だと思うんすか?」
この空気を何とかしようとしているのは分かるが、余裕を装えていない口調で問いかけて来る解斗。
「鋼星は意外と変なとこでヘタレだし、遠回しな言い方が多かったりもするからな。鋼星が隔てる壁を壊して、芯に触れる様な、ガンガンいく人。ヒーローだと、ミルコとか?」
「社長絶対尻に敷かれますね、それだと」
タイプ的にはミルコだが、ミルコで考えると鋼星の怯えた顔しか浮かばない。難しいな。
「鋼星の隣に立てる度胸もないとだしな。あんなサイコパスに精強剤飲ませた様なバケモノの隣に立つには相当肝が据わってねえと」
「酷い言い方。でも社長の隣に立てる人って、俺竜也さんしか思い浮かばないっすね」
「幼馴染だしな」
「そーでしたね」
「苦労したよ。あいつ昔からイカれてたから」
『いだいよ、たすけて、だれかぁ』
『たつやみっけ!』
『うぇ、こーせぃ』
『やっぱりここにいた!ほら、かえろ!』
敵の子供。それが俺だ。誰も俺と話そうとしない。声をかけようものなら、泣かれ、石を投げられ、その親からも蹴られる始末。そんな俺の手を引いてくれたのは鋼星だけだった。
「ホント、イカれてんだよ。あいつは」
嫌われ者の手を引いたらどうなるか、子供ながらに分かる筈だ。それでも、あいつは、俺のいる場所を選んだ。バカだから、イカれてるから、そんなあいつだから、俺も隣に立つ事を選んだ。
「まあ、鋼星は技術者としては一流。でも、経営者としてはド三流。だから俺が支えてやるのさ。どーしようもねえ社長さんをな」
「……社長の隣に立てる様な女性がいれば、竜也さんの負担も、減るかもしれないっすね」
「ああ、そんな人がいればな」
鋼星の彼女か、いずれ出来るとしても、想像つかねえな。
商店街でバッタリ、後日デート
「あ、黒瀬さん」
「磁牧君、奇遇だね」
会社に帰る途中、消耗品が幾つか切れてた事を思い出して、雄英近くの商店街に寄ると、私服姿の黒瀬さんとバッタリ出会した。買い物した後なのか、手には大量の袋が提げられている。
「買い物ですか?」
「うん、これから帰るとこ。磁牧君も?」
「はい、会社の消耗品の補充に。それしても、黒瀬さんこの辺使うんですね」
「まあね、色々あって便利なんだ。雄英の備品もここで買ってたりするよ」
軽い会話をしながら黒瀬さんに歩み寄り、袋に手を伸ばす。
「持ちますよ。車、どこ停めてます?」
ここら辺には幾つか駐車場があるが、黒瀬さんはどこに停めているのか聞いてみたのだが、何故か本人は目をパチパチとさせていた。
「え、何?」
「磁牧君そんな紳士的な事出来る様になったんだね!」
「あんた俺の事なんだと思ってんだよ。これくらい普通でしょ。大人なんだから」
「うんうん、そうだねえ」
ガキを褒める様な言い方に無償に腹が立つ。バカにしてんのか?バカにしてるな?完全に。まあこの人が俺をバカにしてんのは別に今に始まった事じゃないが、それにしても。
「前ウチに来た時も思いましたけど、やっぱこうしてみると黒瀬さん」
「え!?な、何!?」
「デカいっすね」
180あるとか、俺とそんな変わんない。リューキュウとか166㎝だし、ミッナイ先生もたしか170ちょいくらいだった筈。うん、やっぱこの人デカいな。
「君は、やっぱり相変わらずデリカシーがない」
「雄英出身なんで、そこはどうしても」
「僕達が悪くなる様な言い方やめてくれるかな?それに色々と敵を増やす発言だからねそれ」
どこか懐かしさを感じる会話が心地良い。互いにニヤリと笑い合い、その後も下らない言い合いを続けると、黒瀬さんがふと下を向いて呟いた。
「磁牧君は、恋人はつくらないの?」
「急に何すか?まあ、募集してるんですけどね。中々どうして、良い人に出会えない」
「それって相手に求める条件が高すぎるんじゃないの?リューキュウみたいな人、とか?」
「いや、条件なんて1つですよ。俺の事をよく理解している人、それだけです」
俺が抱えているものを理解してくれる人。今の俺を、過去の俺を、ちゃんと理解して、隣に立ってくれる人。自己中と思われても良い。俺の事を深く知らないまま付き合って、後から嫌われる位なら、最初から俺を知ってくれている人といる方が楽だ。
「……そっか、君は、変わり者だし、変なとこでめんどくさがりだもんね」
「流石黒瀬さん、よく分かってますね」
「勿論、よく知ってるよ。学生時代から君は偏屈だったからね。他の人達とは違うって事をアピールする為に派手な事やっては叱られてばっかり。捻くれてるし、素直になれないから、ヒーロー科の生徒や先生達に協力しようとして、回りくどいやり方をしてた。気付いたみんなが君にお礼を言おうものなら、照れちゃってしらを切ったりしてさ。今も大人になった様で、それは外面取り繕ってるだけ。まだまだ子供っぽいし、先輩やマイク先生にもちょこちょこちょっかい出してるみたいだしね」
何か懐かしそうに話してるけど所々ディスってるよね。酷くね?
「俺も知ってますよ、黒瀬さんの事」
「へ?」
「学食2周してるとことか」
「わー!わー!やめろ!」
俺の口を塞ごうと伸ばしてくる黒瀬さんの腕を掴んで、俺はそのまま話を続ける。
「心配なんすよ。またコスチュームのサイズが合わなかったらどうしようって」
「余計なお世話だよほっとけ!」
教え子の心配を余計なお世話とは酷い人だ。悲しくて泣けてくるね。
「後はそうだな〜。小さい子供達を助けた時、安心させる為に素顔見せては、初恋を奪ってる事とか」
「ちょっ!それどこで!?」
「人気ですよね〜、黒瀬さん。女の子達から王子様〜とか言われてね」
「な!やめてよ!」
「そしていずれ子供達は13号が女だと知った時、新しい扉を開いてしまう」
「君は何を言ってるんだ!?」
「この性癖クラッシャーがあ!!」
「何で僕が怒られてるんだよ!!」
ああ可哀想な子供達。このある意味ではミッナイ先生よりも卑猥なヒーローのせいでボーイッシュな女性に興奮する様になってしまうのか。
「少しでも大人になったなんて勘違いした自分が恥ずかしいよ」
「まあ誰にでも失敗はあるから、そう気を落とさずに」
「君ねえ」
「まあまあ、それよりお誘いがあるんですよ」
ジト目になった黒瀬さんは黄色信号。そろそろイジるのやめないと後が怖い。俺は胸の内ポケットに入れていた2枚のチケットを取り出した。
「お誘い?」
「覚えてるか分かんないですけど、俺が昔黒瀬さんにプレゼントしたドードーストラップ」
「お、覚えてるよ!」
ほら!と見せて来たのはリュックに付けられた、当時より色褪せたドードーストラップ。まだ現役な事に少し笑みが溢れた。
「ちゃんと、持ってるよ」
「そいつは良かった。そんでその子の出身地でもある東京の化石博物館がリニューアルするんですよ」
「あ、それはニュースで見た。結構広くなるんだよね?」
「そうです。実は、俺達も少し関与してて。そのお礼で入館券を2枚貰ったんです。ただ、俺の周りに博物館を楽しめる様な奴はいない」
チラッと黒瀬さんを見ると、俺の言いたい事を察した様子。過去に一緒に仕事した事ある人から貰ったお礼のチケット。彼女と行きなって渡されたが彼女はまだいない。となると、行く相手なんか1人しかいない。今日ここで会えたのはある意味ラッキーだったのかな?
「一緒にどうです?最近色々あったし、息抜きも必要でしょ?」
「磁牧君」
「あ、俺もう直ぐ誕生日何で、リニューアルドードーストラップ、プレゼントしてくれても良いんですよ?」
ニヒヒッと笑って黒瀬さんの顔を覗き込むと、黒瀬さんもまたニシッと笑った。
「仕方ない!まだまだ未熟なOBに、課外授業をしてあげよう!」
「え〜、俺もう勉強したくないんすけど」
「い〜や、君は勉強しないといけないよ。女性のエスコートの仕方をね」
元気になった黒瀬さんを車まで送ってその日は別れた。そして迎えた博物館デート?の日。
「あの!よければ一緒に回りませんか?」
「いや私と!」
何と逆ナンを受けていた。
「す、すみません。一緒に来てる人がいるので」
黒瀬さんが。これで本日4回目。まだアンモナイトも見れてねえよ。ステゴは?トリケラは?ティラノは?骨みれてねえのよ。石しか見てえねぞ。
「いや、だから、その、か、彼氏と来てるので!」
誰の事だよ。俺は教え子だぞ。色々複雑だわ。
「ご、ごめんね」
「本当にね」
もう黒瀬さんと出かけるのはやめよう。そう心に決めた。