プロヒーロー御用達の町工場   作:エドモンド橋本

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ジーンズと兎

 

 

 「素晴らしい!一切無駄がないこの肌触り!!やはり君は最高だよ、磁牧」

 

 「うん、あの、ジーニストさん、頼まれたからやりましたけどね。ウチ機械加工の会社なんですよ。だからジーンズ作ってくれってのは根本的におかしいって分かります?」

 

 「理解しているつもりだよ」

 

 「じゃあ何で?」

 

 「多少の無理は押せばいけると聞いてね」

 

 「誰?それ言ったの誰?」

 

 どこの馬鹿だよ。工場の端っこで一日中ミシン動かしてた俺の気持ち考えろよ。

 

 「お願いですからこう言った用件は本職に頼んで下さい。俺がプロヒーロー達から請け負っているのは、コスチュームや武器のメンテナンス及び修理です。ですので今後は」

 

 「なるほど、コスチュームなら問題ないのだな?」

 

 「……いや、あの」

 

 「では今日はこれにて、次回もよろしく頼む」

 

 もうヤダ。どうしてヒーローには一般人の話が通用しないんだろ。高級車に乗って帰って行く姿はスマートだが、金属加工の会社にジーンズ作れとか言って来るバケモンだ。ジーニストを見送ってから事務所のデスクに突っ伏す。

 

 「鋼星、デステゴロとガンヘッドの装備修理終わったぞ〜って、あれ?何かお疲れな感じ?」

 

 声をかけて来たのは係長の竜也。指先をドラゴンの爪に変える事が出来る《竜爪》と言う強個性を持ちながらヒーローを目指さず、普通の工業高校を卒業して、工場を継いだ俺を支えてくれる最高の親友。

 

 「ああ、竜也、俺はもうダメかもしれねえ」

 

 「そうか、ゆっくり休めよ。それとこれ、チップス買ったら、リューキュウのサイン入りヒーローカード出て来たからやるよ」

 

 「めっちゃ元気出た。装備確認に行こうか」

 

 「おう」

 

 流石だ。俺の励まし方をめっちゃ理解してる。俺が長年リューキュウのファンだと言う事をしっかり覚えてる辺りマジだよな。

 

 「川田達の方の仕事はどんな感じ?」

 

 「大体仕上がって来てるよ。後はシリンダーの加工が終われば、エンジン部品は全部出荷出来る」

 

 「そっか、それじゃあそろそろ落ち着くな」

 

 話の通じないプロヒーロー達のせいで混乱してしまっているが、ウチの仕事は本来別でちゃんとあるのだ。最高の職人達のおかげで不良品ゼロの高クオリティ。技術力は大手企業にも引けを取らない。

 

 「一段落ついたら、久々に飲み会でもする?」

 

 「良いな。今年入った子の歓迎会もまだだし、やっちゃうか」

 

 あまりデカい声では言えないが金ならある。久々に盛り上がってもバチは当たらないだろ。楽しみが増えた事でウキウキ気分で工場に入ろうとしたが、正門の前に人影が見えた為、思わず立ち止まった。

 

 「へえ〜、ここが噂の工場か。思ったよりチンケなとこだな」

 

 小麦色の肌に、美しく白い髪、何より目を引くのは白く長い兎のような耳。これだけの情報できっとみんな誰の事を言ってるのか分かるだろうな。

 

 「あ」

 

 「ん?」

 

 それなりに離れている筈だが、俺の声が漏れた瞬間、彼女と目が合った。不気味な程上がる口角。大きく開かれた目。その姿を脳が認識するより早く、彼女は強く地面を蹴って俺に飛び込んで来た。

 

 「ここに居たのか磁石野郎!!探したぞ!!私のサイドキックになれえ!!」

 

 「どわああああ!!??ミルコおおおお!!!???」

 

 隣で悲鳴を上げる竜也のおかげでちょっと冷静になったが、殺しにくる勢いの彼女に思わず俺は個性を発動してしまった。地面と彼女にそれぞれS極とN極の磁力を与える。すると、一直線に俺に飛んで来た彼女は、地面へと叩き付けられた。

 

 「ぐえ!!テメェ、良い度胸じゃねえかあ!!ああん?」

 

 ドスの利いた声を出す人気ヒーローミルコ。自然と俺と竜也の視線が交わる。

 

 「知り合い?」

 

 「知らないで通せるか?」

 

 「無理」

 

 「だよな」

 

 「磁石野郎、私を無視するとどうなるか、分かってるよなあ」

 

 個性を解除すれば殺される。解除しなくても多分この人の場合何とか抜け出して殺しにくる。

 

 「短い人生だった」

 

 せめて生でリューキュウに会いたかった。

 

 

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