「ふん。私はヒーロー、一般人をいきなり蹴ったりはしない」
「えと、あの、ウチの社長、ボロ雑巾みたいになってるんですが、それについては」
打ち合わせ室のソファーにどっかり座り込む私服姿のミルコ。部屋の片隅に転がってる鋼星をシバき回した張本人。彼女が何故ここに来たのか、何故いきなり鋼星をぶっ飛ばしたのか、それは竜也には到底分からない。
「磁石野郎が私のサイドキックになろうとしないからな、少しわからせてやっただけだ」
「あ、そ、そうですか」
兎とは思えない程恐ろしい目付きのミルコに震え上がる竜也。それでも2人の関係が気にならない訳ではない。
「あの、ミルコさんと、鋼星はどういった御関係で?」
「あ?ヒーローとサイドキック」
ダメだ話が通じない。竜也は頭を抱えそうになるのを何とか堪えて、細かく聞いてみることにした。
「で、では、2人が出会ったのはいつ頃ですか?」
「3年前。横浜で活動していた時にアイツを見つけた」
「3年前の、横浜」
竜也には覚えがあった。3年前、鋼星が工場を継ぐ事が決まり、新たな取引先を見つける為に、上手くマッチしそうな企業の多い横浜へ出張にいった事があった。
「その頃ちょうどな、横浜で複数の敵による暴走が起きた」
それにも覚えがあった。ニュースで見た時、鋼星が伺う予定のある企業の近くだった事もあり、工場の社員達はみんな心配していた。
「急いで私が現場に駆けつけた時、正直驚いたぜ。20人近くの敵が意識は残ったまま、地面に倒れて起き上がれずにいた。さっきの私みたいにな」
「なるほど」
鋼星の個性《磁気》。あらゆる金属を自在に操り、制御する事で自分の手足のように使える。そして生物問わず磁力を付与する事も出来る。3年前の敵や、先程のミルコに起きたのはこの磁力付与によるものだろう。
「一切の被害なく敵を制圧出来る程の個性。その時点で私はそこの磁石野郎をサイドキックにする事にした。まあ、敵の引き渡しや、警察連中とのお堅い話をしてる隙に逃げられちまったがな。横浜中探し回ったが、静岡に居たとは、見つからねえ訳だ」
公共の場で個性を資格なしに発動させてしまったとなれば、取引先どころの話ではない。鋼星が逃げ出すのも無理はない。しかし、ミルコから逃げるとは、長い付き合いではあるものの、そこ知れぬ鋼星の力に、疑問が募る竜也だった。
「話は分かりました。ですが、鋼星はヒーロー資格何て持ってません。何より、あいつはウチの社長です。どんな理由があれ、連れて行かれては困ります」
「私はサイドキックを連れるなら磁石、いや、磁牧鋼星って決めたんだ」
「ッ!!」
ミルコの放つ強者のオーラに竜也は飲み込まれた。指先までガッチリと固まり、瞬きも出来ず、声も出せない。捕食者を前にしたエサになった気分だ。
「まあ、でも言ってる事はお前が正しいよな。分かった。今日のとこは帰る」
「え、あ、」
「でも、客としてなら相手してくれんだろ?コスチュームのメンテナンスとかしてくれるみてえだしな。また来るぜ」
軽い足取りで立ち上がるミルコ。何とも言えない顔で鋼星を見つめると、そのまま打ち合わせ室を出て行った。
「な、何だったんだ?」
「本当にな」
「……お前、起きてたなら助けようとかしろよ」
「俺が話に入ってたら余計ややこしくなっただろ」
ズタボロのまま起き上がった鋼星をジトリと睨む竜也。しかし鋼星自身は特に悪びれる様子はない。
「また来るみたいだけどな」
「ああ〜、胃が痛くなってきた」
今朝よりもやつれて見える鋼星。疲労感漂う彼の耳に、更に最悪な情報が飛び込んで来た。
雄英高校、敵による襲撃を受け、プロヒーロー3名負傷。
磁牧製作所社員一覧(名前だけでも出て来た人のみ)
工場長
源田鍛蔵(げんだ たんぞう)
個性《鍛錬》
係長
爪多竜也(そうだ たつや)
個性《竜爪》
設計担当
線田大輔(せんだ だいすけ)
個性《直線》
資材担当
繁松真嗣(しげまつ しんじ)
個性《温度調節》
加工担当
山内切矢(やまうち きりや)
個性《切削》
板金担当
川田曲(かわた まがり)
個性《湾曲》
新卒
夕島元気(ゆうしま げんき)
個性《元気》
事務員
成田双葉(なりた ふたば)
個性《成長》