文才が欲しい。
きがつけば おれはほいくえんをそつえんしていた
それでも おれはしょうがくせいになるのだ
だけど おれはまだまだおさないこどもである
まさに光陰矢の如しとはよく言った物である。
保育園卒園までの日々を何をしていたかと言えば、相変わらずのジャリガキわからせに、ウマ娘の先生の大豊に襲撃したり、ちみっこたちとおままごと*1したり、
テレビの前で変身ヒーローにヒロインたちを応援したり、アニメ見たり、園の行事に、母上殿の家事手伝いに食っちゃ寝の日々である。
うーむ、実に自堕落な日々だ。このままずっと社会人になりたくないぞ、おれ。
さて、そんなおれも明日からは、ぴかぴかの小学生一年生である。
有名な童謡の如くまさに友達百人できるかな、のあれである。
「──ちゃーん、みずほちゃん」
「あゐ」
己の武具の手入れは大事。古事記にもそう書かれている。
筆箱やら何やらにペタペタと俺の名前の書かれたシールを貼り付ける作業を黙々とこなしていたところを母上殿に呼ばれ、振り返る。
「瑞穂ちゃんの明日の衣装。しわにならないように注意してね」
「あいわかりもうした」
母上殿の手には俺の晴れ着。
衣類の入ったままの透明なビニール袋を片手に鑑の前に立ち、衣装あわせをする。
中身は明るいベージュ色のワンピースに、灰色の縞々のボレロ。礼服とはいえ七五三みたいな格好をイメージしていたのにこれは意外。
小学校の入学式ともなれば、きちんとした格好をするものである。たとえ普段の日常生活では一山幾らの服を着るにしても。
「おぉ、まさに、おににかなぼう、まごにもいしょうである」
「ふふ、ではお父さんの所にいきましょう」
「うぃ、まだむ」
デジカメやらの機材を説明書を片手に、明日の支度をする我が父上殿の前にトトっと歩み寄る。
近頃では何でもスマホで済ませることが多いと聞くが、こうして相応しい場に合う機材を用意するのはなかなか好ましい物である。
「ちちうえどの、どうであろう」
「うん、うん、よく似合っているよ。流石は僕たちの自慢の娘だ」
くるり一回転。
大きなかたくごつごつとした男性の手で頭を撫でられた。
父上殿、嬉しくも恥ずかしい気分になるので辞めてくれ給へ。
「晩御飯まではまだ時間があるから、みずほ、おとうさんと一緒にお風呂にいってきなさい」
「はーい」
小学校低学年ぐらいまでは家の中とはいえ、事故防止の為にも入浴も保護者同伴である。国民的アニメでも度々描写があったから問題ない。イイネ?
俺もそれぐらいまで父上殿と一緒に湯舟に入るものだろうか?
んー、外見はともかく別に前世男だったし、特に気にならないな。
残念だったな、入浴シーンはカットだ。
コンテンツポリシー違反だの、コンプライアンス違反だので訴えられてしまうモンニ。
「ちちうえどの、よいゆぶねでありましたな」
「うむ、サッパリしたな瑞穂」
我が国に古来より伝わる伝統技能、お風呂上りにタオルでパァーンをやりたいところであるが生憎尻尾が邪魔である。
仕方がないのでタオルで体をよくふき取る。
「きゃすとおんー」
「さあ瑞穂、尻尾を拭くからあっちを向きなさい」
蹄鉄がプリントされた黄色のウマ娘の女児向けのパジャマを着て、ウマ耳と尻尾を乾かすのを父上殿に手伝ってもらう。
構造状、ウマ耳に水が入った場合、一人だと水抜きが大変である。
それゆえ幼いウマ娘はシャワーやプールが嫌いだそうで。
プール、ドラム缶、カンカンカン、うっ、頭が…。
これは懇意にしている耳鼻科の先生から聞いた話である。概ね事実なのであろう。
湯舟を出れば母上殿の用意してくれた夕食が待っている。
ウマ娘という種族は大飯ぐらいだそうで、幼児ぐらいの年頃でも外見に似合わない量を食べるのだと聞く。
今でこそ俺は只人の幼子と変わらぬ食事量だが、何れは俺も母上殿にかけるであろう苦労に思いを馳せながらも、感謝の言葉と共に夕餉を食むのだった。
「うまし、うまし、ははうえどのめしがうまい」
食事中に一度は言ってみたい言葉が一つ、ニンジン要らないよ!
ニンジンが大好きなウマ娘が人参不要と唱えれば食卓への激震不可避である。
「うんうん。みずほちゃんはいっぱい食べれてえらいえらい」
「瑞穂はご飯を残さずに食べれてエライ。よく食べて大きくなるんだぞ」
母上殿も父上殿も俺の食事っぷりに満足である。
俺がヒト生まれ*2である事を心配してくれるのは嬉しいが、いささか恥ずかしいモノがある。
俺自身は健康体である。それも掛かりつけ医の先生のお墨付きがあるほどの。
俺がウマ娘の身で生まれたのは恐らくは閻魔様の粋な計らいに違いないのだ。
夕餉を終えたあと、テレビを前に家族の団欒のひと時である。
今年は三冠ウマ娘が生まれるだろうか等に、小学生になるのだからレーススクール*3に通うのはどうであろうか等である。
俺がウマ娘だからか気を遣ってくれるのは嬉しいが、レースを夢見て一所懸命に努力するちびっ子たちと一緒に混じるのは解釈違いである。
俺としては習い事をするのならば綺麗な字を書けるように習字教室一択である。
前世の社会人時代、取引先の担当者が汚い字で発注書の解読によく難義した物である。
それに綺麗な字を書ける事は上司の心証が良くなるのだ(経験談)。
時計の針も九時を過ぎれば、模範的児童は眠る時間である。
翌日に晴れ舞台が控えれば興奮して眠れない等とよく聞く。
生憎ながら俺には布団に包まれれば、ドラえもんののび太くんの如きハヤワザで眠ることができるのである。
圧倒早さで夢の世界に旅立つのであった。
「ZzZZ…ZzZzz…zZZzz…」
ゆうべはおたのしみでしたね*4
翌朝、目覚まし時計が鳴らない等というトラブルも起こるはずもなく問題なく目覚め支度をする。
キャストオフからのキャストオン。これぞ高速早着替えである。
目指すはギャバンの蒸着0.05秒。
父上殿も母上殿も既に支度を済ませており、共に朝食を頂く。
朝餉を終え、歯磨き諸々を終えれば玄関前。
「いってきます」と俺。
「いきましょう」と母上殿。
「鍵も閉めたからさあ、行こう」と父上殿。
俺が今日から入学する小学校は俺の住む家やその近所一帯を学区にもつ公立の小学校である。
捕獲された宇宙人よろしく両手を二人にあずけ、歩く事十数分。
件の学校の姿が見えてきた。
『祝ご入学』だの『ご入学おめでとう』などと書かれた立て看板の飾られた校門の前には、俺の同級生になるであろう児童たちにその保護者たちの姿。
記念撮影に勤しんでいる者たちもいればそうでない者たちもいる。
「さきにきねんさつえいをするのですか?」
「入学式が終わりましたら後で写真をとりましょう」と母上殿。
「周りの人たちの邪魔になってしまうからね」と父上殿。
「oui」
門を潜れば、先生方や在学生の代表者たちが「ご入学おめでとうございます」と言いながら祝の一文字の入った白い花飾りを手渡していたりしている。
俺も先輩方から一つ造花をもらい、左胸にピンで付ける。ドヤァ
父上殿と母上殿と入学式の会場の体育館へと向かう途中の事である。
幾度となくわからせきた気配が一つ。
「ちちうえどの、ははうえどの、おれのおともだちがちかくにいるみたいですので、すこしあいさつにいってまいります」
「ここで待っているから直ぐに戻ってくるのよ?」
「うぃ」
そう言うと俺は校内を進む親子連れの前に姿を現す*5。
「うげっ」
「あら、瑞穂ちゃん。おはよう…コラ、もう翔太…ごめんなさいね、うちの子ったら。ちゃんと瑞穂ちゃんに挨拶しなさい」
「おれはだいじょうぶです。いつもしょうたろうくんにはおせわになっており、とてもたすかっております」
俺の住む家とその近所一体が学区ということは当然ながらジャリガキも同じ学校である。
こやつの名を空野翔太郎という。どっかのホビーアニメの主人公みたいな名前だな…。
家族構成は只人の父親、そしてウマ娘の母親の親子3人暮らしである。
ちなみに母御のウマ娘の血が混じっているためか只人とはいえ整った容姿*6で栗色の髪にアクセントに一房の白い髪が入っているのだ。
この世界、わりとファンシーな髪の色をしているやつ多いな。
俺は手を差し出し、こう唱える。
「ドーモ、ソラノ=サン。ヒナタミズホです」
「ど、どーも、ミズホ=サン。ソラノショウタロウです」
いかにこれまで繰り返しわからせてきた敵同士と言えど、ウマ娘とヒト息子のイクサにおいてアイサツは絶対の礼儀だ。古事記にもそう書かれている。
しゅるりと腰を落とし、両手を広げ、指をワ キ ワ キと動かす。
悲しいかなジャリガキは、おれに散々くすぐり攻撃をされて来た為、パブロフの犬よろしく首を窄め両手で脇を守るような体勢を取るのだった。
おれが一歩足を踏み込めば、そのままの姿勢で走って逃げだした。
「ふふふ、おれはじぶんがおそろしい。はいぼくをしりたいものだ」
この様子を見て、彼の両親のうちウマ娘の母親は楽しそうな表情で、ヒト息子の父親は微妙な表情*7をしているのだった。
かわいそうに(性癖が)もう助からないぞ♡、と。
体育館での入学式は特にいう事もなく終わり、教室へと移ることとなった。
これから6年間の学び舎の最初の一年目、はたしてどのようなクラスか。
俺の通う小学校では、ひとクラスあたり24人の児童で構成されている。一学年に2つクラスがあり計48人。ちなみ各クラスにはウマ娘が一人か二人は在籍する形である。
これはヒト・ウマ娘の人口比率から考えると只人の男女がほぼ同数でウマ娘が+αであり、大体適正だと思われる割合なのだ。
小学校の各学年、各クラスには担任の先生以外にも、教育実習生として必ず一人は大人が配置されている。只人だったり、ウマ娘だったりは様々ではあるが。
というのもウマ娘の存在に起因しているからだと俺自身考えている。
小学生くらいの児童などは電子レンジに入れられたダイナマイトの如く、片時も目を離すことの出来ない存在であり、さらにそこに只人を上回る身体能力を持つウマ娘など言わずもがな、である。
幼い感性、情緒で暴れるモンスターになりかねない。ワンオペなど正しく論外である。
入学初日なので、やることなど自己紹介くらいなのだが、ここで問題が一つ。
「おれはひなたみずほといいます。みんなといっしょにこれからべんきょうができることをとてもうれしくおもいます。よろしくおねがいします」
挨拶の為、壇上に上がった俺だが、只人の父上殿と母上殿にウマ娘の俺という組み合わせが奇妙に映るのか、はたまたウマ娘にあるまじき只人的な名前*8か、
入学以前からの知己にある子たちを別として、周囲の児童が奇異の視線で俺をチラチラと見つめてくるのである。
彼らの父兄も申し訳なさそうにしているが、やはり視線は隠せない。ヒト生まれという存在はそれほどまでに奇妙な物だろうか?
俺が前世の記憶を持ち、さらに社会人だったから問題が起きないが、これがZガンダムのカミーユだったら今頃殴られているところだぞ。
ウマ娘が人間の母親から生まれて何で悪いんだ!俺は人間だよ!!とか。
なおジャリガキは普段通りのジャリガキムーヴであった。
こういう時にお前は頼もしいな。