ねんがんの とうきょう ゆうしゅん だーびー げーむ をてにいれたぞ!
⇒そう かんけいないね
なかしてでも うばいとる
せつめいしてくれ たのむ!!
「そう かんけいないね」
「ぜんぜんだめ、じぜんのうちあわせとはちがう。しょうたろう、もういちど」
「しょうくんしっかりしてよ」
「そうだぞ」
「おねがいします」
四月の頭に入学式を行ったと思ったらもう月も半ばの土曜日。俺は空野家──近所に住むジャリガキの家に遊びに来ていた。
今日はジャリガキこと空野翔太郎の誕生日であるため、幼少からのお付き合いのある俺は、コヤツに呼ばれしたのだ。
呼ばれたのは保育園時代からのお付き合いのある俺、只人の暁美ちゃんと彼女の双子の弟の翼少年、ウマ娘のミズノアベニールちゃんの以上4人。
いつものメンバーである。
そして明日の日曜日にはクラシック三冠が一つ皐月賞を控えているのだ。
となれば当然このゲームをやるわけである。
「じゃあ、もういちど。ねんがんの とうきょう ゆうしゅん だーびー げーむ をてにいれたぞ!」
⇒せつめいしてくれ たのむ!!
東京優駿ダービーゲームとはご存じ東京優駿をテーマにURA監修の下、老舗玩具メーカーが製造販売しているすごろく形式のボードゲーム*1である。
デフォルメされた東京競バ場をステージにルーレットをまわしてイベントマス*2を進みながら、ゴールを目指すゲームなのだ。
この他にもクラシック三冠で有名な皐月賞・菊花賞は当然の事、他にも様々なG1レースをモチーフとしたボードゲームがシリーズ展開されているぞ。
これらボードゲームにはウイニングライブを再現するために各レースで歌う曲のCD音源*3が付随しており、レース後はノーサイドと言わんばかりに皆で歌って踊って締めるのだ。
ホームパーティーや宴会ではダービーゲームは鉄板中の鉄板で、さらにウマ娘気分を盛り上げるためにウマ娘耳カチューシャと尻尾風アクセサリーも必須という具合である。
お小遣い貯めてG1レース全種類を集めるのが俺のささやかな野望である。
さてこのゲームに付属するの駒はあらかじめ組み立て塗装済みだけど、満足しないユーザーの為に、往年のスター選手をモチーフとした無塗装・未組立のミニチュアキットが模型店やおもちゃ屋では販売しているぞ。warhammerかな?
きみだけのオリジナルウマ娘を作ろう。URA公式サイトやおちかくのスポーツ用品店・模型店、おもちゃ屋で販売中だ。Buy Now!!
他にもURA監修のトレーディングカードゲーム*4も絶賛販売中だぞ。
ぱかぷちと併せてこれら3本の柱がURAの主な収入源*5であることは知っているな?
姉 弟
[ ゲ ー ム 盤 ]俺
翔 ミズノ
こんな形で椅子に座り、テーブルに置かれたゲーム盤を囲んでいるのだ。
「みんなでじゅんばんをきめていくのです。ルーレットをまわして、ばんごうのおおきいじゅんです。わたしは──3…あぅ…」
手始めにとルーレットを回すと小さな出目でションボリとミズノちゃんはウマ耳を前に倒す結果となった。
幼いからか喜怒哀楽がとても耳と尻尾によく表れているのだった。
「いっくよー。おおきいかずになりますように…やった7!」
続くように双子の姉弟のコンビが回しはじめる。姉の暁美ちゃんは大きい出目で喜ぶが、はたして──。
「よし、9!!いちばん、やったー!」
「つばさ、あたしとかわりなさい」
「えぇ、やだよー。るーるだもん!きちんとまもらないと」
「ふたりともおちついて…」
「ぼくは5だった…」
きゃいきゃいと騒ぐ二人と宥めようとするミズノちゃん。
いつの間にか翔太郎も回して終えていた。
ルーレットを回して任意の数で止めるのは容易であるが、ここは順当に俺が最後でいいだろう。
「さて、のこるはおれだけだな。よし、1」
「なんでそんなにうれしそうなのよ!?」
こうして順番が決まった。
1番手、翼少年
2番手、暁美ちゃん
3番手、ジャリガキ
4番手、ミズノちゃん
5番手、俺。
「ゲームをはじめるけど、みんなコマはわすれずにもってきているわね?あたしは、とうぜんこのコ。シャイニープリンセスよ」
彼女の手の平には、フリルのついた衣装に身を包んだウマ娘のミニチュア。
日朝の女児向けアニメ爆走猛姫☆プリンセスファイターより主役のシャイニープリンセスである。
「あーねぇちゃんはいつもそれだな。オレはソニック、せかいでいちばんはやいハリネズミでいく」
世界的に有名なとんがりハリネズミの姿。何故かこの世界、普通にソニックがいる。というよりもSEGAがアーケードゲームで天下とっている。
どういうことなの?
「あぅ…わたしもってきてない…どうしよう…」
ミズノちゃんはウマ耳と尻尾をシュンとさせ、俯きションボリする。先ほどから不憫である。
ダービーゲームで遊ぶから各自コマを用意するべきと連絡が行き届いていなかったか、はたまたうっかりで忘れたのか。幼い娘だから恐らくは後者だろう。
しかしホストでありながら客人を、女の子を悲しませるジャリガキには後でくすぐりの刑に処する他あるまい。
「だいじょうぶ。ミズノちゃんは、おれのとっておきのこれくしょんをつかうといい」
プラスチックの小物入れを差し出し、蓋を開けるとキラキラと目を輝かせる。
ケースの中身はボードゲームの駒と同じぐらいの大きさミニチュアたちである。
「しょくがんのおまけのおもちゃに、ちちうえどのといっしょにつくったコもいる。どれでもきにいったコマをつかっていいよ」
「うーん、どうしよう…あ、わたしこれにするね」
そう言って彼女が手にしたのは瑞獣、麒麟。
輪廻転生の際、一度だけ会って話しをしたことがある。
曰く今の中華は徳とは全くの無縁で、太平の世と遠くかけ離れており、出番が全くなくて暇で、逆に黙示録の四騎士のうち第二と第四の騎士が出ずっぱりで忙しいとか近々残りの騎士たちも出番が来るとか…。
おい、こんな重要なこと俺に言ってよかったのか?
この世界には馬が存在しない故に、ぺガサスやユニコーンなどの馬に由来する幻想的・空想的存在も全てウマ娘の形をとる。
馬を象るあるいは似た存在は他者はどの様に認識するのか気になり、スレイプニルや麒麟、ウチャイシュラヴァス等の駒をこっそりと作ってみたのだ。
「そのこはきりん。こだいのちゅうごくではかみさまのつかいとしてひとびとからあがめられていたの。それをえらぶとはおめがたかい」
「あのね、あのね、きらきらしててね~すっごくかっこいいの。しゅらっとしたからだで、あしもすごくて、すごくはしるのがはやそう」
「しょうくんはどうするの?」
暁美ちゃんの言葉に待ってましたと言わんばかりの顔をする。
拙い字で『たからばこ』と書かれたクッキー缶から一つ取り出すとゲーム盤に置いた。
茜色のスーツと緑色の差し色のヘルメットに身を包み、ファイティングポーズをとるその姿。
日朝に幾度なくその勇士を拝む存在──。
「ほぉ…いいせいのうだな。きさまのさくせんもくひょうとあいでぃは?」
「しょうり。キャロットマン」
「なるほど。キャロットマンにソニック、ヒーローがあいてならば、おれはかれをださざるをえない」
「あ、ティラノサウルスだ」
「きょうりゅう?」
俺はとっておきの駒を盤上に置く。
二本の脚で大地を踏みしめる黒い巨体、鋭く大きな青白い背びれ、唸る尻尾。今にも咆哮を挙げんとする雄々しきその姿。
日本人のプリミティブな心を揺さぶる造形──。
「あらぶるかみ、ごじら。しゅうまつのけもの。かいじゅうおう。とうきょうわんからたまがわをそじょうして、こことうきょうけいばじょうにじょうりくした」
「みずほちゃん、またへんなのだしてる」
「まあまあ、これでみんなのこまがそろったわね。じゃあはじめるわね」
ウマホでQRコードを読み込み、再生ボタンを押すとおなじみのファンファーレが鳴り響く。
パパパパパウワードドン
「にっぽんだーびーの、おやのこえよりききなれたファンファーレ」
「ちゃんとパパとママときちんとおはなししなさいよ」
「ていけいぶんなのに…」
いかれた奴らを紹介するぜ!
プリファイからシャイニープリンセス。
世界最速のハリネズミ、ソニック・ザ・ヘッジホック。
神話生物、麒麟。
僕らのヒーロー、キャロットマン。
怪獣王ゴジラ。
ダービーゲームなのに盤上にはまともなウマ娘が一人としていない事態である。
おさなごの感性故、仕方がない。
「皆、リンゴジュースはどうかな?」
と、そこに空野家の母御スミレアリエッタさん──ウマ娘だから当然の如く美人である─が、片手にデカいジュースの容器と人数分のカップを軽々持ち上げてやって来る。
前世であれば酒屋や業務用スーパーでしか見かけないような大容量の物であるが、恐るべきかな大食漢なウマ娘のいるせいか今世ではなんとその辺のスーパーで売っているのだ。
スーパーのひと大変だな…。
「スミレさん。ジュースをありがとうございます」
「おかあさん、いまからスタートするところだよ。さいしょはつばさからあけみで、ぼくにミズノでさいごにみずほのじゅんばん」
暁美ちゃんがペコリとお辞儀をし、翔太郎が答える。
「お邪魔じゃなければ観戦してもいいかしら?」
「はい」
「おねがいします」
「よろこんでー」
スミレさんが来たことでテンションがあがる翼少年。
そうだね、おちちたわわで叡智叡智な大人の女性は大正義だもんね!!
「プリンセスに、キャロットマンとソニックは暁美ちゃんに翔くんと翼くんで、えっと…何かしらこの駒?」
「わたしのコマはきりんさん。みずほちゃんがかしてくれたのー」
「こいつはかいじゅうおうごじら。しんちょう50めーとる。すいていたいじゅうは3まんとん。くちからほうしゃねっせんをはきだすのがとくちょう」
「よく出来ているのね…」
「うむ、ちちうえどのといっしょにつくった。じまんのこま」
スミレさんは俺の正面、テーブルの反対側に座ると卓上の駒を興味深そうに見つめ、指で突いてみる。
これも無理もないことである。
残念な事に、なんとこの世界ではゴジラが、いや怪獣という概念自体存在しないのだ。
特撮の神様こと円谷英二氏は前世の世界とは異なり戦後GHQによる公職追放を免れ、従って東宝を辞職することもなく、同社に留まり続け様々なジャンルの映画に於ける特殊撮影技術に磨きをかけて来た。
ゴジラの原案の一つが円谷氏が東宝に持ち込んだ大蛸が船舶を襲うというアイディアであったが、在籍していた為これがなかったのである。
では、この世界に於ける特撮番組の源流は何か──驚くべきことに時代劇の忍者なのである。
黒澤明監督の手がけた映画が、海外で高く評価されると共に国内に逆輸入された結果、時代劇がブームになったのだ。
只人では到底ウマ娘の身体能力にかなわない。だが忍者ならばはたして──。
戦前から存在した紙芝居のヒーローの概念と磨き上げられた特殊撮影技術、そしてウマ娘の身体能力。これら要素が合わさり等身大ヒーローが生まれたのだ。
やがて特撮と呼ばれる一大ジャンルを形成していくこととなる。
閑話休題。
「解説で参加しましょうか?」
「スミレさん、おねがいします」
「はい、わかりました♪コホン、では、すべてのウマ娘が目指す頂点、日本ダービー!歴史に蹄鉄を残すのは誰だ!各ウマ娘?ゲートに入って体勢整えました…。さあゲートが開いた」
スミレさんの言葉と共に翼少年がルーレットを回すと、大きい数字になるようにと祈る。
「オレからいくぞ…それ…5!」
ソニックの駒をスタート地点からひとつ、ふたつと口だしながら駒を進めていく。
ダービーゲームにおけるイベントマスは4の倍数に存在するため1マス多い。
「1マスおおかった…くやしい」
「つぎはあたしのばんね…6」
プリンセスの駒が盤上を進む。
「じゃあ、ぼくのばんだね。3」
「ようかい1たりないだ、1たりないがでたんだ。すごいようきだ。きたろーはどこ?ここ?」
「すごい名前の妖怪がいるのね…」
「わたしは…やったー8がでた」
いち、に、さん、しーと数えながら麒麟の駒を進めていく。8は4の倍数、当然イベントマスである。
「では、ミズノちゃんにはカードを一枚ひいてもらいます。さあ、どうぞ」
スミレさんがデッキをシャッフルすると上から何枚を取り、伏せた手札から1枚取り出すように差し出す。
どれにしようかなといいながら一枚取る。
「こんかんきょり〇がでました」
「次回の順番でルーレットとは別に1マス前進する効果です」
「みどりいろのカードはよいこうか、よいこうか」
ダービーゲームにおけるイベントカードには緑色と黄色の自身に対するバフとライバルプレイヤーに効果を及ぼす赤色のデバフカードと自身に効果を与える紫色のデバフカードの4種類のカードが存在している。
今回ミズノちゃんが引いたのは緑色のバフカードであり、コモンの緑色とレアの黄色とバフ効果の強弱に差異が存在する。
「おれのたーん、るーれっとをまわし、でたかずのぶんだけぜんしんする…1!」
そう言って駒を進める。
「よし、オレのじゅんばん。こんどはまけない…7、やったーイベントマス!!」とスミレさんにお近づきが出来て喜ぶ翼少年。
「あたしのばんって、4、うーん…」
「ぼくのばん、7」
「わたしのは、6」
「おれのたーん、3」
出目に一喜一憂し、そんなこんなでいよいよ終盤が近づいてきた。
首位を争うのは麒麟とプリンセス。その差1マス。ルーレットの出目次第で勝負の行方が決まる。
「最後のコーナー、最初に出てきたのはプリンセス、外からキリンが上がってきた!!栄光まで400!!」
「まけないよ」
「あたしだって!」
「「やぁああ!!」」
スミレさんがノリノリで解説し、はりあう二人。
対する俺たちはというと─。
「ま、まだ、あわてるじかんじゃない」
「ここからばんかいはむりだよ」
「おかしい、おれのるーれっとには3までのかずしかきさいがないみたいだ」
途中まで快調に飛ばし、首位争いをしていたけど途中で紫デバフを引いて見事、撃沈した翼少年。
可もなく不可もなくな出目のジャリガキ。
全体的に出目が終っている俺──まあ俺の場合、出目が故意に低い数字になるように調整しているけど。
「キリン、ダービーを見事制しました!2着、シャイニープリンセス」
「やったー!」
「うぅーくやしい!」
なお3着以降の順番は、順当に翼少年に、ジャリガキ、俺の結果であった。
終ったらノーサイドと日本ダービーのウイニングライブのテーマ曲winning the soulをみんなで歌ったり*6して誕生日パーティーを楽しむのであった。
ゴジラ-1.0大ヒット上映中!!
皆、劇場に行こう!