「甚爾…前に言ったよね?いい加減ギャンブルは止めたらって。止めなくてもせめて頻度を落とすとかさ」
「開幕説教なんて聞きたくねぇよ。金なんてあったら使うもんだろ」
「君の浪費癖は理解してるけど、連日ギャンブルで金溶かすのは父親としてどうなのかって思うんだよ」
「お前がどう思おうが、アイツが何も言わねぇから良いんだよ」
「その奥さんから相談されたんだよ。何とかならないかって」
とある競馬場。
見るからに一般人とは思えないガタイ良い男が、明らかに一般人然とした男に説教されていた。
説教されている男の名は
「あ?何でアイツが」
「“稼いでくれるし子供の面倒も見てくれるからあまり強く言えないんだけど…”って」
「そんな事よりアレ頼むぜ。流石に10連敗は勘弁だ」
「まったく…しょうがないね」
そう言うと戒斗はパドックを周回する出場馬を“診る”。
歩き方や重心、呼吸や心拍から体調とやる気を比べ、どの馬がポテンシャルを発揮しきれるかを判断する。
「…1番と6番と7番。6番が絶好調で次点で1番、7番だね」
「6、1、7だな。サンキュ」
「甚爾なら目以外も臭いとかで判るんじゃないの?」
「判るっちゃ判るがある程度だな。オマエのソレ程の正確じゃねぇ。てかオマエ…」
「ん?」
甚爾がジト目を送る戒斗の手には馬券、それも先ほど狙い目だといった番号しか書かれていないものが。
出会い頭に説教をした人間とは思えない行動だが、当の本人は
「ちゃんと勝てるからギャンブルじゃないよ?運任せじゃなく計算や観察のうえでの判断だから株とかFXみたいなもんさ。投資だよ投資」
「そういうの屁理屈っていうんだぜ」
「それが勝たせてもらう人の言葉かい?」
と開き直っている。
程無くしてレースが始まるが、周囲は熱狂しているが二人は意も介さず雑談に耽ける。
「それで?仕事なんだろ?」
「正確には仕事の話を聞きに行く、だね」
「聞きに行くだぁ?」
「せっかくだから久しぶりに3人で飲みに行こう、って由基がね。だから仕事の話はその時だね」
「…メンドクセェな」
面倒だと言いながらもその顔は笑ってる。
高専時代からの付き合いなだけあって、親友3人で行動するのは家族とはまた別の楽しさがあるのだ。
そうこう話してるうちにレースが終わり、結果は6-1-7。甚爾も戒斗も手持ちの金を全部注ぎ込んだので財布はパンパンに膨らみ、持ち主もホクホク顔である。
待ち合わせの居酒屋に到着し予約していた旨を伝えると、店内奥の個室へ案内される。
個室には誰も居らず、どうやら戒斗と甚爾が先に来たらしい。
「…普通呼び出したやつが先に待ってるもんじゃねぇのか」
「まぁ、由基だからね。いつもの事だし、先に飲んでようか」
「俺が酔えないの知ってるだろうが。飲むけどよ」
「ツマミは何にする?」
「おっと、私抜きに始めないでおくれよ。待てない男はモテないよ?」
先に注文しようと話している2人に声をかけたのは、長身で引き締まった肉体の美女。
最後の1人、特級呪術師九十九由基。
「遅れておきながら最初に言うことじゃねぇだろ」
「言い出しっぺが最後なのはどうなんだ?由基」
「まぁまぁいいじゃないか」
ここにいる3人とも長身で引き締まった身体に加えて三者三様に顔が整っている(約1名悪人面)ので、個室でなければ多かれ少なかれ注目を集めていただろう。
更に付け加えると、彼らの素性を知るものが見れば目を剥いて驚くに違いない。
なにせ、2人の特級呪術師と呪詛師殺しが揃い、一様に駄弁って寛いでいるのだから、壮観な光景だろう。
「こうやって飲むのは何時ぶりだろうね」
「5年くらいじゃねぇのか」
「3人ではそれくらいだね。あ、レモンかけるね」
「おい!全部にかけようとすんじゃねぇ!」
「恐ろしく速い箸さばき。やっぱり身体を調べさせてくれよ」
「嫌だって言ってるだろうが…ったくよ。それで?仕事の話ってのは?」
実は甚爾は今回の仕事について少々気になっていた。何故なら、普段通りなら甚爾に直接仕事の依頼が来るからだ。斡旋業者を通して来ることはあるが態々九十九を通す意味はなく、その上直接話すというのならばそれだけ特別だという事。
「天元の肉体の初期化は知ってるね?」
「この界隈じゃ常識でしょ。甚爾はともかく」
「オレはともかくってなんだ。知ってるに決まってるだろ。逆に知らなかったらどの面下げてって話になるだろうが」
「確かに。それでその星奬体の少女、天内理子の護衛を五条悟と夏油傑が2人が担ってたんだけど…」
「もしかしてその星奬体が死んだとか?」
「その2人に星奬体が拉致された」
「「………」」
話を聞いていた2人は絶句する。星奬体が拉致されたことに──ではなく拉致した犯人に。
五条悟と夏油傑。
呪術界の人間なら知らぬものは居ないだろう2人。
どちらも学生でありながら1級術師であり“最強のふたり”と名高い。
五条悟は六眼と無下限呪術の抱き合わせ。
夏油傑は呪霊操術の使い手。
どちらも十分すぎる実力を持っておりその2人が星奬体の護衛に付けば安全なはずだが、これが敵に回るとなると普通ならどうしょうもない。
普通なら…
「最強の護衛が最強の敵になったっていうわけか」
「つまりその2人から星奬体を奪回するのが仕事かい?」
「付け加えると
「パス」
「僕もパス」
「一応聞いておくけど理由は?」
「「割に合わないから」」
割に合わないから。
依頼の完遂自体は出来る。単純に等級で見てもこちらが上。人数も経験も上。向こうの情報をこちらは持っているが、逆に向こうはこちらの情報が皆無である。
だが、割に合わない。面倒くさいと言い換えてもいい。こちらが優位に立ってるとはいえ、相手は無下限呪術と呪霊操術。質と量の最高峰を相手にしたくないのだ。
しかも殺してはいけないというのだから難易度は上がる。
「それに本当に緊急事態なら多分天元から指名されるだろうけど違うんでしょ?なら放っておいても大丈夫でしょ」
「他に星奬体が居るのか進化しても問題無いのかは知らねぇがな」
「まぁそうだね、断っておくよ。それに、好きにさせてあげたいらしいからね」
九十九由基は元星奬体。加えて天元と同化した星奬体たちの意思を感じ取ることができる。
その星奬体たちの意思が好きにさせようと言うのだから九十九としてもその意思を汲みたいのだ。
仕事の話は終わり、それぞれの近況を話し合いながら飲み交わしていると甚爾の携帯が鳴る。
「おう、どうした?…飯は作んなくていいって言っただろ。何か買って帰るから食いたいもん津美紀と恵に聞いておけ……あぁ、無理すんなよ。じゃあな………なんだよ」
「いや〜、あの暴君が随分と丸くなったなぁって思ってね」
「まさか私達の中で最初に結婚するのが甚爾とはねぇ」
「…チッ、うるせぇ」
暴君だのろくでなしだのゴリラだの言われてきた甚爾が所帯を持ち妻子に愛情を注いでるのだから、生温かい目を向けてしまうのも仕方が無いだろう。
それに、嘗ての境遇を知ってるからこそ現在の甚爾が幸せそうなのが親友として嬉しくもあるのだ。
「ってかオマエらはどうなんだよ」
「ふっふっふ、良くぞ聞いてくれました」
「これを見るがいい」
そう言って2人は薬指にお揃いの指輪を嵌めて見せた。つまり、そういうことである。
「そろそろ良い歳だし、甚爾が結婚したから私達も良いかなってね」
「一番心配だった甚爾が結婚したからね。2年前に籍を入れたんだ」
「オレのせいで遅れたみてぇな言い方すんな…まぁ、良かったな」
「「ありがとう」」
高専3年生の時に戒斗と九十九は付き合い始め、甚爾もそれを知っていたがそんな事を気にする性格ではないし、2人も特に今までと変わらなかったので気不味くならなかった。
卒業して多少疎遠になりながらも3人の良好な関係は変わらず続き、そろそろ結婚しようかと考えていた戒斗と九十九はふと思った。
“甚爾は結婚できるのか?”
勿論結婚なんて興味が無い人間はいるし、ましてやあの禪院甚爾はそんなこと気にも留めないだろう。
しかし、気になる。
そして一度気になってしまったが最後、甚爾を置いて先に結婚するのは何だか憚られたので取り敢えず婚約という形に収まっていたのだ。
そして5年前、卒業後に初めて3人で集まった時に甚爾から結婚ししかも子供もいると聞いた時は驚いたものだが祝福し、次は自分達の番だとなったが互いに忙しく何だかんだ3年、現在から2年前に結婚。
因みに甚爾の結婚がサプライズだったので真似をして次に3人揃った時に報告することにしていた。
「お子さん何歳になるんだっけ?」
「恵は3つ、津美紀は4つだな」
「まだまだ可愛い盛りだね」
「…まぁな」
5年ぶりの再開を楽しむ3人。
闇を祓う日常の、穏やかな一幕。
羂索「なんか星奬体が同化拒否してラッキー」
夏油闇堕ちその1回避