手術廻戦   作:神撃のカツウォヌス

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 時系列ちょっとズレてるとこあるけど、全体の流れはあんまり変わってないので大丈夫なはず


第二話

 呪霊は人間の負の感情が蓄積し形となったものだ。

 その性質上、口裂け女などの、多くの人が恐怖のイメージを抱く都市伝説のようなものからも生まれる。その中でも地方特有の風習や信仰からは強力な呪霊が生まれやすい。

 

「コレ完全に1級案件だね。窓の仕事が雑だったか上層部の嫌がらせか。まぁ、どちらにせよ怪我人が居るんでね、さっさと消えてもらおう」

 

 任務として派遣されたのであろう、2人の学生を背後に庇いながら目の前の呪霊へ向けて言葉を吐くが、当然呪霊が聞いているはずも理解しているわけもなく襲いかかってくる。

 右手の人差し指と中指を立てて、向かって来る呪霊に合わせながら一言

 

「『(かい)』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 呪術高専の医務室にて、家入硝子は運び込まれた怪我人、灰原雄と七海建人の治療にあたっていた。

 

「噂には聞いていたけど本当に反転術式を他人に施せるんだね。怪我の治療はお手の物って感じだね」

「まぁ私にかかればこのくらい…って言いたいところですけど、灰原は応急処置がなかったら駄目だったと思いますよ。えーっと…」

「周防戒斗、ここのOBだよ」

 

 今回、七海と灰原が受けた任務は2級呪霊の討伐であった。が、蓋を開けてみると目標の呪霊は1級、産土神信仰から生まれた土地神であった。

 本来なら2級に回されるはずのない危険な任務。偶然にも、帳が見える位置に戒斗が居なければ最悪、2人とも死んでいたであろう。

 戒斗が到着した時、灰原は下半身が千切れかけていたがその場で縫合し、比較的軽症であった七海が止血を続けたおかげでなんとか一命は取り留めた。

 

「知ってますよ。日本に4人しか居ない特級呪術師の1人なんですから」

「流石に名前くらいは知られてるか。さて、僕に出来ることはないし、せっかくだから夜蛾さんに挨拶に行こうかな」

「それでしたら着いて行きます、報告があるので。家入さん、灰原の事お願いします」

「ん、任せておきな」

 

 

 

 医務室を後にし、夜蛾の下へ向かう2人。

 七海は少し前を歩く戒斗を見やる。

 

 ──あの土地神を一瞬で祓った、五条や夏油と同じ特級呪術師。

 運良くこの人が近くにいたから助かったがもしそうでなかったら…

 

 と、そこまで考えたところで声をかえられる。

 

「今回は災難だったね。でも術師をやってる以上、こういうことはよくある」

「……」

「2級だと聞いていたのに1級どころか特級だったり、1体じゃなくて2体も3体も居たり。もちろん、同僚が死ぬのもね」

「…貴方も、そういう経験が?」

「あるある、何度もある。というかそこそこ術師やってれば皆それなりの回数経験してるよ」

 

 高専に入学してから、呪霊と戦うようになってから、そして今回の任務と今の話を聞いて七海は思う。

 

「…呪術師はクソですね」

「うん、呪術師はクソだよ」

「万年人手不足で常に死と隣り合わせ。ブラック企業のほうがマシじゃないですか」

「ハハッ!たしかにブラック企業のほうがまだマシだ。でもまぁ、呪いに関わるってそういう事だからね」

 

 戒斗の落ち着いた雰囲気のおかげか、あのふたりとは違って尊敬出来ると感じたからか―おそらく後者であろうが―その後も崩壊したダムのように愚痴があふれる。

 任務は多い。五条は性格悪くて夏油も性格悪い。移動は疲れるし、先輩2人は性格悪い。怪我は当たり前だし、灰原はちょっとうるさいし、ストレスは溜まるし…

 日々の不満を吐き出してある程度、ほんの少しスッキリした七海は問う。

 

「…貴方は何故、呪術師を続けられるのですか」

「強いから。でもそれ以上に慣れてるから」

「慣れ…ですか…」

「人によるけどね。死んだら死んだで仕方が無いって諦観したり、本当に大切な人さえ無事なら他はどうでもいいって開き直ったり、戦うのが楽しいって術師もたまにいるよ」

「……」

「もちろん、辞めた人だってたくさんいる。怪我で辞めざるを得なかったり、単に死にたくないから辞めたり。面白いのでは実家の農業を継ぎたいからって理由で辞めた人もいたよ。だから七海君、無理に術師を続けなくていい」

 

 呪術師を辞める。

 たしかにそういう選択はある。現実から目を背けて逃げることになるが死ぬくらいなら、目の前で知人が死ぬのを見るくらいなら逃げてもいいだろう。

 たとえ辞めても呪いは見えるし、知り合いの術師が無事かどうか気になるかもしれないが、それなら補助監督という道もある。

 一般家庭の出身なのだから、御三家のように術師の道に縛られることはない。

 

「まぁ、今高専辞めたら最終学歴中卒だけどね」

「…少なくとも卒業までは術師を続けますよ。愚痴に付き合ってくださりありがとうございます」

「どういたしまして」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜蛾への挨拶を終えたあと、灰原の様子を見に行くと言った七海と別れ、懐かしさから高専をぶらついていた戒斗は学生2人と話をしている九十九を見つけた。

 

「あれ?由基も来てたんだ」

「戒斗?そっちこそ来てたんだね。私はちょっとした野暮用でね」

「怪我人を送るついでに夜蛾さんへ挨拶をね。懐かしくてちょっとぶらついてたんだ」

「誰、オマエ?」

「悟、態度には気をつけようって言ってるだろう。すみませんが貴方は?」

「特級呪術師の周防戒斗、って言えば分かるかな?」

「「!」」

「プッw」

 

 驚く2人と吹き出す1人。

 五条と夏油は2人目の特級呪術師がやって来た事に。

 九十九は、

 

「ってなんで九十九は笑ってるの?しかもちょっと嬉しそうだし」

「だって今の名乗り方、私のと全く同じだったからね?」

「ホント?まぁ長い事一緒にいるから似てくるか。それで君達は…」

「夏油傑です」 

「…五条悟」

「あぁ、君達が。いつか会ってみたいと思ってたんだ」

 

 同じ特級、しかも学生だというのだから興味が惹かれるのは当然。

 九十九も似たような事を言っていたので、余程仲が良いのだろう。

 ふと、怪我人の発言が気になった夏油がその事について訊ねる。

 

「そういえば怪我人というのは?」

「灰原君と七海君。七海君は軽症だけど灰原君は重症、命に別状は無いけど術師を続けられるかはわからないね」

「灰原が…2級討伐の任務のはずでは…」

「油断かなんかしてたんじゃねぇの?」

「どうやらミスがあったようでね、報告では2級という話だったけどあれは土地神、完全に1級案件だったよ」

「?まるで実際に見たような言い方じゃないか」

「偶然近くにいてね。なんとなく気になって駆けつけたんだ」

 

 戒斗の話を聞いた夏油は思う。もしかしたら灰原は死んでいたかもしれない

 常に命の危険が伴う呪術師は、一体何のために戦っているのか。

 呪霊による、呪いによる被害から弱者を守るため。

 その為に呪霊を取り込む。

 何のために?

 守るべき弱者は呪いを垂れ流し、形となったそれを術師が祓う。

 人は醜悪で人を殺す事を厭わない。

 天内理子を殺すために呪詛師を雇った連中のように。

 しかし、弱いからこそ尊くて、そんな非術師を守るのが術師の務めだ。

 ブレてはいけない。

 自分は強者(術師)弱者(非術師)守ら(殺さ)なくては。

 そこまで考えていた夏油は唐突にかけられた声により思考を中断される。

 

「夏油君?なんだか疲れてるようだね?」

「…えぇ、まぁ…」

「…ふむ、悩みがあるなら吐き出したほうがいい。いや、吐き出すべきだ」

「……」

「…傑?」

「……私は──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、辛い思いをしてまで守る価値は非術師にはないと思う…」

「しかし、だからこそ庇護するべき対象であるとも思っていると。板挟み状態か…」

「…傑、オマエ…」

「……」

 

 夏油の口から語られた言葉を聞き、一様に顔を暗くする3人。

 親友がそこまで追い込まれていたことに気付けなかった事実に、流石の五条も申し訳無さを感じている。

 

「…うん、君が1番にすべきなのは休む事だ」

「そうだね、私もそれが良いと思うよ」

「休む…ですか」

「疲れてる時は何を考えても身にならないからね。1度休んで、心身共にリフレッシュするといい」

「私みたいに海外プラプラしてみたらどうだい?」

「何?さっきの根に持ってんの?」

「チッ、やっぱりかわいくなーい、高専きらーい。戒斗〜、こいつ等さっき私の事ろくでなしって」

「言われても仕方無いと思うよ」

「戒斗もかわいくなーい」

「…ふふ」

 

 吐き出した悩みは全てではないが、それでも聞いてもらったおかげで、休むという単純な助言を貰ったおかげで、思わず笑いが溢れるくらいには気持ちが軽くなった。

 

「さっきより顔色が良くなったね」

「少しは楽になりました」

「多分、君はひとりで抱え込みすぎなんだ。不満も不安も、本心から全部吐き出してみな。さっきのが全部じゃないんだろう?」

「えぇ、まぁ…」

「本心を曝け出すには感情にまかせるのが1番簡単だ。例えば五条君との本気の喧嘩とかね」

「ケンカァ?」

 

 五条と夏油は顔を見合わせる。

 入学してから常に一緒に歩んできた。“ふたりで最強”を名乗れる唯一無二の相棒にして親友。

 価値観や方針の違いで何度かぶつかることはあったが、振り返ってみれば、本心をぶつけあったことはなかったと思う。

 

「“喧嘩するほど仲が良い”。仲が良くないと本気の喧嘩はできないよ」

「戒斗?ちょっとクサいよ?」

「うん、自分でも思った。とにかく、ちゃんと休んで、思いっきり吐き出すこと。わかった?」

「はい、ありがとうございました」

「…一応、俺からも感謝しておく」

「じゃあね、僕らはそろそろ行くよ」

「これからは特級同士、4人仲良くしよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…傑、悪かったな。オマエがそこまで悩んでるのに気づかなくて」

「はは、悟のそんな顔は初めてかもね」

「うっせ!こっち見んな!」

 

 特級の先達と出会った事は2人にとって為になった。

 夏油は悩みを吐き出すことができたし、親友が心配してくれた事実が嬉しかった。

 五条は親友の悩みを知ることが出来たし、親友の事を全然見てなかった現実を理解できた。

 

 ──まずは助言通り休もう

 ──ちゃんと親友を見よう

 ────そして思いっきり喧嘩しよう

 




九十九が余計な事言わない
灰原が生きてる

夏油闇堕ちその2,3回避
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