〜マイケル・マーフィ〜
高速修復剤のおかげでだいぶ体が楽になった。
でも足だけは上手く動かない。
「折れては無さそうだけど・・・」
「足ですか?」
「うん、どうにも動かしにくいのよね・・・」
「たぶん、筋が切れたか何かしてるんだと思いますよ」
「それっぽいのよね・・・ねえ、貴女にこんな事お願いするのおかしいけど、あそこに置いてある艤装持ってきてもらってもいいかしら」
「お安い御用です」
「さっきまで撃ち合ってたのに・・・ずいぶん打ち解けれたわね」
「本当です。やっぱり・・・あなたの所の提督はいい人ですよね」
「突然どうしたのよ」
「仲間のために・・・提督のために命を掛けれる所を見ると・・・って感じです」
「そうかしら?あれでもただのセクハラ提督よ」
「そうやって冗談言えるくらいが私は良かったです」
悲しそうな顔で話すシンビルスク。
話が終わると艤装を取ってきてくれた。
「ありがと、これ装備したら動けないかしら・・・」
装備してみるとさっきより体が重くなった気がする。
やはり艤装のダメージは大きかった。
「ソナーがダメ・・・あとミサイル誘導装置も破損・・・残ってるのは主砲のみか・・・」
「どうするんです?」
「どうするって、とりあえずアンタの仲間を水中から引っ張り出して1発ファックしてやろうかしら」
「・・・下品です」
「うるさいわよ」
ただ、艤装をつけたおかげで何とか立てる。
私はそのまま海に行く。
海岸に体を固定して、迫ってくる深海棲艦を仲間の到着まで追い払えば大丈夫だ。
救難信号も発信すれば確実にここに来てくれる。
「シンビルスク、絶対にあなたを連れて帰るから」
「なんですかそれ・・・私行きたいなんて・・・」
「いいから。私は貴女と一緒に仕事したいって思っただけよ」
「・・・私・・・」
「はいはい、核ミサイルの事は置いとく。とりあえず隠れてなさい。いい?」
「・・・分かりました」
シンビルスクが去るのを確認して使える兵装をもう1度確認する。
単装速射砲と短魚雷のみ・・・
レーダーは幸い無事だ。
水上目標は探知できる。
そして、すぐにレーダーに反応があった。
救難信号に反応した深海棲艦だ。
駆逐艦クラスが4・・・
「来なさい・・・ファックしてやるわベイビー!」
先制攻撃とばかりに先頭にいた駆逐艦に砲弾を浴びせる。
敵も負けじと反撃してくる。
ソナーがない以上、敵潜水艦と魚雷を探知できない。
常に海面に目を配る。
「早く来てよ・・・!何時間も持ちこたえられないわ・・・!」
駆逐艦も最高速で逃げ回りながら砲撃してくる。
FCSの1部が破損してマニュアルで照準しなければならないため、命中率も少し下がっている。
「クソ・・・!当たんない!」
その時、弾倉が空になる。
弾倉交換しようとした時、腕に砲撃が命中してしまう
「うぐッ・・・!」
だが今度はまだ腕が動く。
足の間に砲を挟んで弾倉を交換しボルトストップを押してスライドを前進させて初弾を薬室に送り込む。
「いい加減・・・沈んでよッ!!!」
叫びながら砲撃を行う。
「くっ・・・あと弾倉が2つ・・・!」
短魚雷が残り8本だ。
ミサイルはまだ残っているが誘導装置が壊れていて敵をロックオンできない。
「誰でもいいから早く来てよもう!」
その時だった。
聞き慣れた爆音がし駆逐艦が大爆発する。
空を見上げるとハープーンが飛んできていた。
残りの駆逐艦にも命中する。
「このハープーン・・・」
その時遠くに発光信号が見えた。
「えっと・・・オ・マ・タ・セ・・・お待たせ・・・まったくよ・・・」
遠くから艦隊がこっちに向かってきていた。
その中には、いそかぜの姿があった。
「いそかぜ・・・?良かった艤装が治ったのね」
私はそのまま砲を杖にしてしゃがみこむ。
もう脚が動かない。
機関故障のようだ。
「シンビルスク?もういいわよ」
シンビルスクの名前を呼ぶが返事がない。
どこにいったのかしら・・・
「シンビルスク?」
もう1度呼ぶと、聞き慣れた声がした。
シンビルスクのものでは無い声が。
「シンビルスクならここよ」
「!?クルスク!!」
「私に気付かないなんてとんだお間抜けね、アンタもシンビルスクも」
「は、離して・・・」
「うるさいわよ、裏切り者」
「え、ち、違います!」
シンビルスクは首に腕を絡められ、人質に取られたような形になっている。
「あ、が・・・く、くる、しい・・・!」
「何勝手に色々喋ってんの?アンタは」
「ご、ごめんなさい・・・」
「ごめんなさいで済むと思ってるの?ねえ、貴女のせいで私の命が危ないのよ?分かる?」
「ごめ、ごめん、なさい・・・!」
シンビルスクは首を絞められているようだ。
私はすぐに砲を向ける。
「やめなさい!その子を離さないとアンタが額でタバコ吸えるようにしてやるわよ」
「なにその脅し。まぁいいわ。ほら行きなさい」
クルスクは思った以上に簡単にシンビルスクを離した。
だが・・・
「まぁ無事に離すなんて言ってないけど」
腰からマカロフを出してシンビルスクの足に発砲した。
「あ、あぁぁぁぁ!!」
「何してんのよ!!」
私は反射的に引き金を引く。
砲弾はクルスクの腕に命中した。
「あぐっ・・・!!」
「アンタ、この子は仲間じゃないの?!何で撃つのよ!!」
「う、裏切り者を撃って・・・何が悪いのよ」
「裏切り者?どこがよ!別に貴女の情報なんて一言も言ってなかったわよ!」
「違うわ、艦娘何かと仲良くしてるのが裏切り者って行ったのよ」
「な・・・」
シンビルスクはその間にも苦しんでいた。
出血も酷い。
「う、ぅ・・・痛い・・・痛いよ・・・!」
「ほら、早く助けてあげないと」
「くっ・・・」
海面にクルスクが浮かんでいて、シンビルスクは海岸の砂浜に倒れている。
早く止血してあげないと・・・
「じゃ、私は貴女のお仲間を沈めてくるわね」
「やめなさい!!」
「ふん、止まると思ってんの?」
私はもう1度クルスクに砲撃した。
だが砲弾は命中せず、クルスクに逃げられた。
だけど・・・
「そうだ、向こうにはいそかぜがいる」
あの子のソナーは誰よりも強力だ。
あとはあの子達に任せよう。
私はシンビルスクに駆け寄る。
「シンビルスク!シンビルスク!大丈夫!?」
「あ、ぅ・・・痛いです・・・足が・・・」
「大丈夫、止血してあげるから!」
止血帯を救急セットから取り出して止血を開始する。
「頑張ってよシンビルスク!」
「は、い・・・」
だんだん弱々しい声になる。
それに出血も止まらない。
まさか・・・
「大腿動脈・・・クソッ!!」
動脈が縮んで体の中に入り込んでる以上、動脈を接合しないと止血できない。
手持ちの救急セットには接合セットも動脈を挟むための道具もあるが・・・
「シンビルスク・・・」
「ハ、ァ・・・ハァ・・・」
息も荒くなってきてる。
こんな小柄な女の子に・・・しかも艤装がない、普通の人と変わらない子に銃弾を撃ち込むなんて・・・
「シンビルスク、聞いて。今からかなり痛いことするけど・・・貴女を助けるため。分かって」
「や、だ・・・痛いこと・・・いや、だ・・・!」
「お願い!このままだと貴女は死んじゃうのよ!」
「やだ、やだ・・・死にたく、ない・・・!」
「じゃあ、我慢して!」
シンビルスクは震えながら頷く。
私はなるべく彼女が傷口を見ないように目隠しをする。
「やめ、やめて・・・こわい、こわい・・・!」
「大丈夫、大丈夫だから」
シンビルスクの頭を撫でてやり、そして傷口に手を突っ込んだ。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
シンビルスクの咆哮のような悲鳴が響く。
だがすぐに動脈を掴むことが出来た。
すぐに引っ張り出す。
「あとは・・・!!」
一気に動脈を縛り付け、接合する。
常にシンビルスクの事を見ながら作業する。
「いだい!!いたいいたいいたいよぉぉ!!」
「大丈夫!もう大丈夫だから!」
「うぁぁああぁぁ!!」
「暴れないで!お願いだから・・・!」
何とか接合に成功する。
だが傷口から出血はまだ続いている。
「お願い・・・はやく誰か来て・・・!」
「あ、あぁ・・・う・・・」
だんだんと弱々しい声になっていく。
止血帯で止血するがまだ軽く出血してしまう。
「無線機さえ・・・この!動け!動きなさい!!このポンコツ無線機!!」
怒鳴りながら艤装の無線機を叩く。
するとさっきまで聞こえなかったノイズが聞こえだした。
「この手に限るわ!!」
急いで鎮守府に周波数を合わせる。
「横須賀鎮守府!応答して!!」
《こち・・・鎮守府・・・誰・・・》
「マイケル・マーフィよ!」
《マーフィ・・・のか!》
「ノイズが酷い・・・こっちの声はちゃんと聞こえるの?!」
《あ・・・え・・る!!》
「聞こえてると信じて言うわよ!今から座標、S-B-0-9-3に救護ヘリを送って!大至急よ!」
《了解・・・近・・・ヘリ・・・ヘリオス・・・8が・・・かう!》
「了解!!」
レーダーの端に小さな影が見える。
これがヘリだろう。
何とかして交信を試みる。
「マイケル・マーフィから近くの航空機!」
《こちらヘリオス78!君だな!今から向かう!あと15分だ!》
「了解!!シンビルスク!頑張って!!」
「は、い・・・が、がんば、り、ます」
だが、目が虚ろだ。
出血もまだしている。
「ヘリオス78!お願い!輸血の用意をして!!」
《了解!》
「シンビルスク頑張って!私と鎮守府に行くんでしょ!!」
「鎮守府・・・い、いきたい・・・で、す・・・」
「だったら元気になりなさい!!ねぇ!聞いてるわよね!!」
「ちゃんと・・・聞こえ、て・・・ま、す・・・」
だが目の焦点があってないようだ。
「ねえ!私の顔が分かる!?」
「も、う・・・よく・・・みえな、い・・・」
この状態はかなり危ない。
・・・最悪の事態なんて考えたくないけど・・・
「シンビルスク」
「なんです・・・か・・・?」
「何かして欲しいことある?」
「ぎゅって・・・」
「何?」
「もう、1度・・・ぎゅって、して、ほしい・・・です・・・」
私は無言でシンビルスクを抱きしめる。
彼女の体は小刻みに震えていた。
「あった、かい・・・です・・・」
「・・・あなたもよ」
「マーフィ・・・さん・・・」
「何?」
「も、し・・・出来たら・・・私、を・・・海の見え、る所、に・・・」
「・・・やめなさい、そんな話は」
「ごめ、ん・・・なさい・・・約束・・・」
「約束?」
「鎮守府に、いっしょ・・・に・・・」
シンビルスクは涙を流しながら言ってくる。
もうか細い声になっている。
私は少し抱きしめる力を強める。
遠くからヘリの音がする。
「シンビルスク、ヘリが来た。もう少しよ」
「あと、すこ、し・・・」
「そう、あと少し、楽勝よね?」
「あと、すこ、し・・・らく、しょう・・・」
「そう、楽勝。頑張って」
「らく、しょ・・・がんば・・・」
突然シンビルスクの体が重くなる。
「シンビルスク?シンビルスク!」
だが反応が無い。
呼吸も・・・止まっていた。
「シンビルスク・・・」
私はもう1度彼女の体を強く抱きしめて地面に優しく置いた。
そして目を閉じてやる。
「・・・・」
何とも言えない感情がこみ上げてくる。
「あ、ぁ・・・うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
怒りなのか悲しみなのか分からない。
ただ、強烈なクルスクに対する憎しみだけは分かった。
《こちらヘリオス78!到着した!!》
「・・・遅い・・・もう・・・死んじゃったわよ・・・」
《・・・了解》
「提督に、その子の遺体は私が帰るまで安置してって伝えて」
《了解した。これより収容する》
私はそのまま無言で砲を持ち上げる。
不思議と体は軽く、簡単に動けた。
機関だってまだなんとか動かせるようだ。
「沈めてやる・・・沈めてやる!!」
私は出せる最高速度でクルスクを追いかけた。
〜提督〜
「・・・・・・・・了解」
「どうしたのですか?」
「アンドロメダ・・・シンビルスクの死亡が・・・確認された」
「え・・・」
「クルスクに撃たれた怪我による失血性ショックだそうだ」
「同じ・・・仲間を・・・?」
「あぁ・・・」
信じたくない。
仲間が仲間を・・・
「艦隊の様子は?」
「えと・・・第1艦隊が・・・待ってください!マーフィさんが!」
「どうした?」
「マーフィが敵に向かって進行中!」
「マーフィ・・・おい!無線繋げ!!」
「りょ、了解!」
「おい!マーフィ!!何考えてる!その損傷状態で動くな!!」
《うるさい!!!私はアイツを地獄に落としてやらないと気が済まないわ!!》
「今のお前は冷静さを失ってる!やめろ!!」
《うるさい・・・うるさいうるさいうるさい!!!》
「おい!聞いてるのか!!おい!!」
だが無線からはノイズが聞こえるだけだ。
「交信途絶しました・・・」
「クソッ・・・あのバカ!!いそかぜ!聞こえるか!」
《はい、聞こえます》
「マーフィが今そっちに向かっている!アイツはクルスクを沈めるつもりだ!!」
《え・・・?》
「とにかく、今クルスクはどこだ!」
《それがマーフィさんの近く・・・え、待ってください!》
「どうした?」
《クルスクの位置?ダ、ダメです!教えれません!!》
「マーフィか!?」
《はい、あのクルスクの位置を・・・》
「アイツを止めろ!!あのままだと二人同時に沈むぞ!!」
《りょ、了解しました!!全艦、マーフィさんを止めに向かいます!!》
今のマーフィは完全に頭に血が上っている。
刺し違えても沈める気だろう。
クルスクは原子力潜水艦・・・沈めれば放射能汚染が・・・
それよりも怨念も持って沈めば深海棲艦になる可能性が十分にある。
もし原子力潜水艦のまま深海棲艦になれば強敵だ。
「マーフィ・・・」
〜いそかぜ〜
「いそかぜ、どうするの?」
「こうなった以上、マーフィさんをどうにかしてでも止めないといけないです」
「でも、どうやって・・・」
それを今考えている。
だけど思いつかない。
その時だった。
「魚雷音聴知!方位240°距離3500!」
「クルスクが撃ってきた・・・全艦退避行動!あと、対戦戦闘用意!!」
「了解!」
「空母はすぐに退避してください!!」
「分かってるよ!」
すぐにアスロックを目標に発射する。
ただ、これにマーフィが気づいたようだ。
「マーフィさん!待って!!」
だがマーフィはクルスクが居そうな当たりに魚雷をばら蒔いた。
そして、爆音が水中から聞こえる。
・・・やってしまった
「マーフィさんの魚雷が命中!」
「やっちゃった・・・」
〜マイケル・マーフィ〜
大きな水柱が立つ。
命中だ。
だがしぶとくもクルスクは浮上してきた。
「いい気味ね、クソッタレピロシキ野郎」
「は、ぁ・・・」
「あら?喋れないのかしら?大丈夫よ顔面以外を刺身にしたら死人でも喋るらしいわよ。ちょうどナイフあるし試してみましょうか?」
「ふ、ふふ・・・本気で私を沈めるの・・・?」
「ええそうね。もっと苦しんでもらいたいけど」
「あ、あははは、バカね・・・私は原子力潜水艦なのよ・・・
」
「あぁ、そうだったわね。まぁ知ったこっちゃないわ」
私は砲をクルスクの眉間に向ける。
「最期に言いたい事でもあるかしら?一応聞いてあげるわ」
「ふふ・・・本気で怒ってるのね・・・いいわぁ・・・」
私はゆっくりとトリガーに力を掛けていく。
クルスクはそのまま続いて言ってきた。
「地獄でもまた戦いましょう・・・」
「地獄に落ちるのはアンタくらいよクソッタレ」
そして空に砲声が響く。
クルスクは眉間に砲弾を撃ち込まれ、崩れ落ちた。
そのままゆっくりと沈んでいった。
私はシンビルスクの仇をうった・・・そう思うと同時に力が抜けて崩れ落ちた。
意識が戻る。
電子音で目が覚めた。
「ここは・・・」
「・・・んあ・・・起きたか」
「提督・・・」
「気分はどうだ眠姫」
「・・・処分したいなら好きにすれば」
「処分してほしいのか?」
「え・・・?」
「俺は処分って言葉が嫌いなんだよ。それに・・・俺にも気持ちは分かる」
「・・・」
「シンビルスクの遺体はまだ安置してある。お前が動けるようになったら葬式をして見送ってやろう」
「そうね・・・ねぇ、提督。彼女を・・・その・・・遺灰でダイヤモンドを作れないかしら・・・」
私は彼女と一緒に居たかった。
ただそれだけだった。
「まぁ・・・できないことは無いが・・・」
「お願い」
「分かったよ。葬儀の後に遺灰は全部回収させる」
「ありがとう。提督」
「可愛い艦娘の頼みだ。お安い御用だ。」
「そういえば、電は?」
「アイツか・・・ずっとシンビルスクの身の回りの事してくれてるよ。アイツが自分がやるって言って聞かなかったんだ」
「そうなの・・・」
「今は居室で寝てると思うがな。さて、俺もその可愛い寝顔でも見に行くかな」
「いってらっしゃい」
提督はそのまま病室を出ていった。
後から聞いた話だと、クルスクは放射能汚染を起こすことなく沈んでいったらしい。
また鎮守府の被害は死者行方不明者含めて500人以上、その大半が防空指揮所の人間だった。
鎮守府は防空能力を今完全に失っている。
提督はその穴埋めということでWW2の艦娘にも対ミサイル迎撃の訓練をするという事だ。
「シンビルスク・・・」
私は腕の中で消えていった命を思い出す。
あの感覚は忘れたくても無理だ。
「ぅ、うぁ・・・グスッ・・・」
涙が頬を伝っていった。
私はあと2日は病室らしい。
寝ていた期間は3日も寝ていたようだった。
その間シンビルスクは冷たい冷蔵庫の中に居たと思うとやり切れない気持ちだった。
たまにはこう・・・バッドエンドもね?