プリンツェッシンの瞳   作:めめん

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 長文癖をどうにかしたくて始めた作品なのに、早くも文字数が7,500字を超えている件……
 もうちょっと文字数を短くまとめられるように精進ですね。



お父様は「御立派」ですわ!

『いや~、すいません。

 まさかヒトではなく馬に生まれ変わってしまうとは……

 完全にこちらのミスで――ブフッ!

 ほ、本当に申し訳ない……

 ク、クク……う、馬に()()れ変わるとか……

 だ、ダジャレじゃねーんだから……!

 

 笑ってんじゃねーですわよ!

 というか、どう考えても笑い事じゃねーでしょこれ!?

 さっさと転生をやり直してヒトに生まれ変わらせてくださいまし!

 

『あ~、それなんですけどね~……

 ぶっちゃけて言いいますと、私にできることって“こちら側”にやって来た魂を次の世界へと誘うことだけでして、生きている人に干渉することはできないんですよ。

 今回こうしてあなたに声を届けられたのは、これまたこちらのミスで本来は魂が次の世界に送られる際に消去されるはずの前世の知識や“こちら側”の記憶を持ったまま生まれ変わってしまったからでして……』

 

 ……それはつまり、今すぐにわたくしを人間に転生し直すことは不可能ということですの?

 

『ええまあ……

 そういうことになっちゃいますねぇ~』

 

 …………

 

 ……

 

 おFuck。

 

 なんてことですの……

 

『ですがご安心ください。

 あなたが人間だったことは私がこうして把握しておりますので、次に“こちら側”に訪れた時はちゃんとヒトとして転生させますよ』

 

 そうしていただかないと困りますわ。

 

 はぁ……

 人間に生まれ変わるためにまた死ななければいけないなんて……

 前世の記憶が残っていないせいで「死ぬ」ということがどういうものなのかわからないから恐ろしいし不安ですわ……

 

『あ。先に忠告しておきますが、自死や自殺など自らの意志で死ぬのはおすすめしませんよ?

 そのような形で死を迎えた場合、魂が幽霊や怨念といったものとなってそちら側の世界に長らく残留してしまう可能性が高いので――

 仮にそうなってしまうと“こちら側”に来れるまで相当な時間を要することになります。

 それこそあなたたちの時間で換算すると数十年から数百年といった単位で……

 ですので、普通に天寿を全うしたほうが死後“こちら側”に早く来れるとだけは言っておきます』

 

 ……マジですの?

 

『マジです。

 まあ、馬の寿命なんて長くてもせいぜい30年から40年くらい。普通に生きていけば時間なんてあっという間に過ぎていきますよ。

 それに、今のあなたはサラブレッド――競走馬となるべく生み出された存在のようです。

 ですから、今の生においてあなたが退屈するようなことはおそらくないでしょう』

 

 「退屈しない」というよりも、めちゃくちゃ大変そうな予感がするのですが……?

 

 

 はぁ……

 

 仕方ありませんわね。

 そちら側のミスとはいえ、こうして馬として生まれてしまった以上は最期までその生をやり遂げてみせますわ。

 

 

『頑張ってくださいね。

 先ほども申したとおり今のあなたに対して私にできることはありませんが……

 まあ、あなたならたぶん大丈夫でしょう。

 ――では、話は以上です。

 さすがにこれ以上の干渉は私たちのルールに反しますので、以後は黙って見守ることにいたします。

 久々にいい暇つぶしにできそうだし……

 

 なんか最後に余計な一言があった気がしますが、おkですわ。

 ――って、「私たち」ってことは、神様(仮)ってあなた1人だけじゃないんですのね。

 

『あなたの世界の人間だけでも数十億人もいますからね。

 私1人じゃさすがにさばき切れませんよ。

 じゃ、そういうことで――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――という会話を転生初日の夜に夢の中で神様(仮)と交わしてから早くも2週間ほどが経過いたしました。

 人間から馬――サラブレッドに生まれ変わったわたくしですが、前世の人間だった頃の記憶がきれいさっぱりなくなっているおかげか、それとも馬としての本能が人間としての意志よりも勝っているのかまではわかりませんが、今日までは特になんの不自由も違和感も抱かず過ごせております。

 

 ――さすがに自分の寝る馬房(へや)でションベンやクソをたれるのは前世から引き継いだ知識と美意識的にアレなので外でしておりますけど。

 

 ちなみに本日わたくしは――

 

 

「どうも。今日はよろしくお願いします」

「はい。こちらはすでにスタンバイOKなので、あとはそちらの準備が整い次第いつでもいけますよ」

 

 

 牧場のスタッフ数名、そしてお母様と一緒に牧場の外に出ておりますわ。

 

 お母様と一緒に馬運車という車に乗せられて1時間ほど走って到着したのは、わたくしたちの住んでいるところよりもデカくて広い牧場。

 大きさだけでなく設備や雰囲気からも明らかにわたくしの生まれた牧場よりも格上だとわかりますわね。

 「隣の芝生は青く見える」と言いますが、ここと比べたらわたくしたちの牧場なんて言っちゃ悪いですけどクソザコナメクジもいいところですわ。

 

 まあ、牧場の格はともかく、馬としての格ならわたくし負けてはいないと思っておりますけど。

 

 なぜなら――

 

 

「お――?

 この子ですか、先日おっしゃっていたシラヒメの仔というのは?

 確かに綺麗な子ですね~」

「ええ。場長をはじめ牧場のみんなもそう言ってます。

 毛色もそうですが、馬体もこの時点でかなりいいんじゃないかと――」

「そうですね。見た感じトモ(ケツ)とかかなりいい気がします」

『ぶるるる……』

 

 

 ふふふ……

 早速わたくしの美しさが目にとまったようですわね。

 

 そう。わたくしの自慢は生まれた時点で牧場スタッフ、そしてお母様をはじめとした馬たちからもベタ褒めされたこの美しい栗毛!

 太陽の光に照らされると文字どおり赤々と輝くこの栗毛こそわたくしの美しさの主軸ですわ!

 

 それと、まだ生後半月ほどの子供ですけれどスタイルにも自信はあるんですのよ?

 特に今言われたように「おケツがいい」とよく褒められていますわ。

 

 ……もちろん脚とか体型とかそれ以外のところも褒められておりましてよ?

 断じてケツだけがデカい女なんかではありませんわ!

 

 

 

 

 

 さてさて、格上牧場を訪れて早くも10分ほど経過しましたが、今わたくしたちは屋外から床一面に木屑が薄く敷き詰められた小屋の中にやってきました。

 現在わたくしの前ではお母様が後ろ脚にスリッパのようなものを履かされ、ぶっとい柱に無口を鎖で繋がれております。

 数分前には見知らぬずんぐりむっくりしたおっさん馬に匂いを嗅がれたり、体が火照って少々湯気が立ち上っていましたわ。

 

 ――はい。

 ここまで言えばなぜわたくしたちが今日この牧場にやって来たのかおわかりでしょう。

 ズバリ。お母様の「種付け」です。

 来年の出産――お母様がわたくしの弟か妹を産むため、そのお腹に子種をもらいにきたというわけですわね。

 

 ちなみに現在わたくしは生まれた牧場のスタッフの方――見るからにまだ若い青臭そうなにーちゃんですわ――と一緒に小屋の隅でじっとして見学中です。

 馬、それも牝として生を受けた以上、いずれはわたくしも経験することになるでしょうから今のうちにしっかりと学ばせていただきますわ。

 

「こんな時でもお姫ちゃんは大人しくしていてくれて本当にいい子だね~。

 他の子だとじっとしていられないやつもいるのに……」

 

 そう言いながら青臭にーちゃんがわたくしの曳き手を持っていないほうの手でわたくしの頭をガシガシと撫ではじめました。

 ちなみに今彼が言った「お姫ちゃん」とはわたくしのことです。

 いわゆる幼名というやつですわね。

 

 ふっ。わたくしが大人しいのは当然ですわ。

 わたくし文字どおりの意味で他の子たちとは違うんですもの。

 レディの体に触れているのですからもう少し優しく撫でてほしくはありますが、褒められて悪い気はしませんわね。

 思わず尻尾がビュンビュンしちゃいますわ。

 ふふ……もっと褒めてくれてもよろしいんですのよ?

 

 

「ルドルフ入りまーす!」

 

 

 おっ?

 

 格上牧場のスタッフと思わしき男性の声が小屋の外から聞こえてきたのでそちらのほうに目を向けると、声の主と思わしき男性に引かれて小屋の中に1頭の馬が入ってきました。

 

 ――見るからにもう初老と言って差し支えない、先ほどお母様の匂いをくんくん嗅いでいたおっさん馬よりも年上だとわかる黒みががった鹿毛の牡馬。

 しかし、その身にまとった雰囲気(オーラ)は衰えをまるで感じさせないどころか、まるでいまだに現役の競走馬を思わせるほどの“凄味”があります。

 その毛色や雰囲気から肉体も非常に頑健そうに見え、老体でありながらも若々しさまで感じさせますわね……

 

「やっぱりいつ見てもカッコいいなぁルドルフは……」

 

 わたくしの頭上から青臭にーちゃんのそんな感嘆の声が漏れておりました。

 

 ――あの方、ルドルフというのですわね。

 残念ながらわたしくの前世の知識には競馬や馬関係のものはほとんど存在しないので、「ルドルフ」という名前の馬には覚えがないのですが……

 前世の知識で馬の名前として出てくるのは、せいぜい「ディープインパクト」とか「オルフェーヴル」とか、あとは「アーモンドアイ」くらいでしょうか?

 ……ああ、あとは確か「ナリタブライアン」とかもありましたわね。

 どれも「めちゃくちゃつえー馬」として前世の知識には記録されておりますわ。

 

 ――考えてみれば、この世界ってわたくしが前世で生きていたと思わしき日本とそっくりですけど、どこまで前世の世界と似ているのかしら?

 

 人間たちが話している言葉や、使われている文字は間違いなく日本語。

 壁にかけられている時計も長い針と短い針の2本で時を告げ、そこに書かれている数字も1から12。

 空に浮かんでいる太陽と月もそれぞれひとつずつ――

 

 神様(仮)は「必ず前世とは違う世界に転生する」的なことを言っておりましたが、この世界は明らかに前世の知識にある世界と瓜二つですわ。

 もしかしたら、この世界が歩んできた歴史も前世の世界とほぼ同一という可能性もありそうですわね。

 仮にそうだとすれば、前世の知識にある実在の人間たち、果てには競走馬もこの世界に存在している可能性も――

 

 う~ん……

 時間に余裕があればこの世界に関する情報を集めたり調べてみたいところですけれど……

 生憎と今のわたくしは馬。人間と違ってそのようなことが簡単にできるとは思えません。

 

 ――まあ、無理に調べようとする必要もないですわね。

 今のわたくしは馬なのですから。

 馬には馬としての生き方というものがありますもの。

 

 

「お、おい、ルドルフ!?

 どうしたんだ!?」

 

『――へっ?』

 

 

 なにやら小屋の中が少々騒がしいなと思い、意識を思考の海から現実へ戻してみると――

 

 

『…………』

ファッ!?

 

 

 なんと、わたくしの目の前に先ほど小屋の中に入ってきた初老のお馬さん――ルドルフ氏がどんと立っているではありませんの!

 先ほど同様の凄まじいオーラを全身にまとわせながら――

 

 ど、どどど、どういうことですの!?

 わたくし無意識のうちになにかこの方の気に障るようなことでもしてしまったのかしら!?

 

 ちょっ……! 怖ッ!

 なまじこっちは人間よりも背の低い生後半月あまりの仔馬で、相手は明らかにもう20年くらいは生きているであろう大人の馬だけに、サイズ比がハンパねえことになっているからマジでこええですわよ!

 

 ――現に格上牧場のスタッフさんや、青臭にーちゃんをはじめとしたうちの牧場の人たちもルドルフ氏をわたくしの前から引き離そうと大慌てになってますわ。

 ルドルフ氏ぜんぜんビクともしてねーですけど……

 

 

『――娘』

『は、はいぃ!?

 わたくしのことですの!?』

『うむ……

 汝、名はなんという?』

『な、名前……?

 え、ええと……まだありませんわ。

 牧場の人たちからは“お姫ちゃん”と呼ばれておりますけど……』

『……そうか』

 

 

 ルドルフ氏はそう言うと、あっさりわたくしの前からきびすを返してお母様のほうへと歩いていきました。

 ――最後に一瞬だけわたくしのほうに目を向けて笑ったように見えましたけど、たぶん気のせいですわね。

 

「いやぁ、びっくりした~……

 なんだったんだろうねお姫ちゃん?」

 

 青臭にーちゃんがわざわざわたくしと目線の高さを合わせながら話しかけてきました。

 いや、こっちが聞きてーですわよ。

 

「もしかしてあれかな?

 お姫ちゃんが()()()()()だってことに一目見ただけで気づいたとか――?

 うん。確かにルドルフほどの馬ならそれくらいできても不思議じゃないよな」

 

 ――え?

 自分の子供?

 つまり、ルドルフ氏がわたしくのお父様ということですの?

 

「こんなことお姫ちゃんに言ってもわからないとは思うけど……

 お姫ちゃんがこうして綺麗な子だから牧場のみんな“もう一度シラヒメにルドルフを付けよう”って決めたんだよ」

 

 そう言いながらまたわたくしの頭を雑に撫でる青臭にーちゃん。

 

 ――なるほど、把握しましたわ。

 確かにわたくしのような美しい馬が誕生したのですから、柳の下のドジョウよろしくもう一度チャレンジしたくなるのは頷けるというものです。

 

「――それにしても、ルドルフがあんな前に迫っていたのにビビりもしないなんて、お姫ちゃんはすごいやつだな。

 大人しいだけでなく肝も据わっているなんて、将来は大物になるんじゃないか?」

 

 いえ。めちゃくちゃ驚いたし、ビビりましたわよ?

 ま、まあ、人間にはそんなことわかるわけないから言いませんけど……

 

 それに、先も申しましたけど、わたくし褒められるのは嫌いじゃありませんの。

 もっと褒めてくださって結構ですわよ?

 また尻尾ビュンビュンしちゃいますわ~。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――久しぶりだな』

『そうですね。1年ぶりでしょうか?』

『正確には1年と16日だ』

 

 俺の目の前には今1頭の牝馬が柱に繋がれて俺のほうに尻を向けている。

 名前は――確かミヤズシラヒメだったか?

 

 年々種付け頭数が減り、集まってくる牝馬もそこそこ歳がいっている者たちばかりだった中、昨年俺のもとに突然子種を求めてやってきた若い娘だ。

 ――無論、俺の子種を望んでいたのはこいつ自身ではなくこいつの主人であるが。

 

『お前にこのようなことを聞くのは野暮なことだとは承知しているが、なぜ今年も俺のもとに来た?』

『あなたも先ほどご覧になられたでしょう?

 あの子を――』

『ああ』

 

 振り返ることなく視線だけを小屋の隅のほうへと向ける。

 赤色にも見間違えそうなほどの濃い栗毛の幼駒が、牧場の職員と思わしき若い男に頭を撫でられている姿が視界の中に映った。

 

『――よい子供を授かったな』

『ええ。

 ですから牧場の方々は皆、また私にあなた様の子を、と望んでいるのです。

 そして、この私自身も――』

『……そうか』

 

 ――ほんの一瞬だけだが、「本当に俺のような男の子種でいいのか?」と言いそうになった。

 

 俺とて今年で齢21となる。

 馬としても、人間の年齢で換算しても、すっかりいつ朽ち果ててもおかしくはない老齢の身だ。

 

 

 そして――それゆえに理解している。

 もう俺の血など今の競馬界は求めてはいないのだと。

 

 年々減っていく種付け頭数もそうだが、俺に声をかける牧場のスタッフたちの声も年々喜々したものではなくなっていることもそれを理解できた理由だ。

 

 ターフを去り種牡馬となったはじめの数年は、「早くも俺の後継者が現れた」だの「テイオーがジャパンカップを勝った」だのといった声を飽きるほど聞かされた。

 ――だが、数年前を最後にそんな声はぴったりと鳴りを潜めた。

 

 それはつまり、俺の血を引く者で「勝者」が現れなくなったということだ。

 

 俺たちサラブレッドは生まれた時から死する時まで勝負の世界を生きることを宿命づけられている。

 勝つか負けるか、「勝利」か「敗北」か、「勝者」か「敗者」か、その2つしか存在しない世界をだ。

 そして敗者は――「敗北」の二文字を刻みつけられた者は淘汰される。「弱者」であるがゆえに。

 俺たちサラブレッドは人間の手によって生み出された存在であるが、その血は弱肉強食という自然界の摂理を――生存競争を体現している。

 強き者からより強い者を、優れた者からより優れた者を、と願うのは人であろうと馬であろうと同じことだ。

 他者よりも強くなければ――他者よりも優れていなければこの世界では生き残れない。

 そして俺も――かつては絶対的な「強者」としてこの世に存在していたシンボリルドルフも、今やもう無数に存在する「弱者」たちの一員となってしまった。

 そんな者の血を今さら次代に繋ごうとしたところでなんになる?

 生まれた俺の子たちも、かつて俺が叩き潰してきた幾万の「弱者」たちと同じ末路を辿るのがオチじゃないのか?

 

 ――心の奥底で誰にも悟られぬことなく、そのようなことを思いながらこの数年間は生きてきた。

 

 それはなぜか?

 

 決まっている。

 

 俺がシンボリルドルフだからだ。

 

 「皇帝」「7冠馬」と呼ばれ、この国の競馬界における「最強」「強者」の代名詞的存在として今日まで生きてきたからだ。

 

 最強は死するその時まで最強でなければ、皇帝は最期まで皇帝であらねば俺を今日までこの世に繋ぎ止めてくれている者たち、そして繋ぎ止めてくれていた者たちに示しがつかない。

 たとえいずれ俺を超え、俺から「最強」の座を奪い取る者が現れることになったとしても、俺はシンボリルドルフであるがゆえに「強者」としてこの世に立っていなければならない。

 そして「強者」は「弱者」に己の弱さを見せるようなことをしてはならないのだ。

 それは今まで「強者」たる俺に敗れ「弱者」として消えていった者たちに対する冒涜にほかならない。

 

 

 ――だが、そんな俺が一瞬、本当に一瞬だけながら、そんな胸の内をぶちまけてしまいそうになる存在を見つけた。

 

 それも()()()()()()()でだ。

 

 

 あの栗毛の幼駒――「姫」と呼ばれた娘には間違いなくかつての俺に並ぶ力がある。

 

 いや、もしかすれば俺を超え――俺でも果たすことができなかった世界の壁をも超えることができるかもしれない。

 

 老いたがゆえのただの親バカという可能性もあるかもしれないが、それでもなおあの娘には類まれなる素質があるのは一目でわかった。

 

 あれ自身はまったく自覚していないようだが、あの娘の内に秘められている気迫は並大抵の馬が持っているものではない――

 

 

 もし――

 もしも、俺の血を引く者で俺を「最強」の座から引きずり下ろす者が現れるのならば――

 その時こそ俺はなんの悔いも未練も憂いもなく、本当の意味で「強者」という位を捨てることができるのではないか?

 

 それこそ、俺自身の意志で――

 

 

 いいだろう。

 

 ならば授けてやろうじゃないか。

 

 俺を――皇帝シンボリルドルフを超えゆる者を生み出すやもしれぬ血を!

 

 今の俺に残されたものすべてもくれてやるつもりで、目の前にいる葦毛に再び俺の子種を与えてやろう。

 

 

『――わかった。

 では、あれに負けぬくらいよい子供をまた産んでくれ。

 できれば次は牡馬で頼む』

『そればかりは私にもどうすることもできませんね。

 また女の子かもしれませんので――』

 

 そう言って俺に尻を向けながら話す牝馬は視線を俺から目の前の柱へと変えつつおかしそうに笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お、おおお……!

 

 こいつはすげえですわ……!

 

 あ、あんなに大きくて長くて御立派なモノがお母様のケツ――いや、()に入っていくんですのね!

 

 おおおおお!?

 

 ルドルフ氏もといお父様がお母様の上にのしかかって……!

 

 うおっ……!

 

 うおおおおおおおおおおっ!?

 

 あ、あんなに激しく……!

 

 すげえ! すげえですわ!

 

 言葉では上手く表現できないけど、マジですげえでございますわよ!

 

 

「お、お姫ちゃん、なんか興奮してない?

 俺の気のせい?」




●お姫ちゃん(主人公ちゃん)
 シンボリルドルフ産駒。
 幼名の「お姫ちゃん」の由来は「皇帝の娘」かつ可愛いから。
 自身は気づいていないが、神様(仮)が振ったダイスの結果は馬に転生しても反映されている。
 つまり、競走馬として計り知れないほどの潜在能力を秘めているチート。
 だが、それを目覚めさせることができなければ完全に宝の持ち腐れである。
 ――目覚めさせることができたら?
 そりゃ当然「馬」というよりも「UMA」になっちゃいますよ……

●ミヤズシラヒメ
 お姫ちゃんのママン。架空馬。葦毛。馬齢5歳。
 競走馬時代はゲート試験を合格したが、デビュー直前に繫靭帯炎を発症してしまい未出走で引退・繫殖入りした。
 お姫ちゃんは最初の産駒。
 ちなみに牧場ではなく競走馬時代のオーナーが現在も所有権を持っている。

●シンボリルドルフ
 お姫ちゃんのパパン。馬齢21歳。
 ご存知日本近代競馬の歴史に長らく頂点として君臨し続けていた7冠馬の皇帝様。
 たとえ競馬の史実改変ものであっても、現役時代のこのお方とディープインパクトにだけは勝ってはいけないと作者は思っている。
 全盛期はとうの昔に過ぎ去ったが、老いてもまだその威厳とオーラはバリバリ。
 たぶんこの状態で擬人化したら外見のイメージはラオウ+バーン様。
 ――しかしその本質は、たとえ自らの血が今の競馬界には求められてはいないとしても「最強」であることを強いられているちょっとお労しいお方。
 そんな彼が種牡馬を引退するのは2年後のことである。
 なお、お姫ちゃんのママンとカッコいい大人の会話しているけど、この時点で彼の又の下のポニョは絶賛うまだっちしている。種付けだし。
 そう考えると本編中のママンとの会話シーンの絵面がシュールすぎる。

●神様(仮)
 本来は生きている者に対して接触したり干渉したりするのは自分たちのルールに反する行為なのだが、お姫ちゃんに状況を説明することだけは特例として許された。
 以後は暇つぶしも兼ねて世界の外側からお姫ちゃんの活躍を見守ることに。
 なお現在はコーラとポテチを貪りながら絶賛高みの見物中の模様。
 ポテチウマー。
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