sideレイヴン
『爆豪勝己…彼はもう、ヒーローにはなれないかもしれません。』
爆豪勝己は立ち上がれない。ただの総評。客観的で恐ろしく正確な、ただの意見。
コーラルよりも燃えやすい彼の心は、今までに積み上げられた成功体験に基づくものなのだろう。このタイプは、ぴっちりと、しかし型通りにしか物事を組み立てられないタイプだ。
それはあまりにも弱い。横からとんと突けば崩れてしまうように、物事とはそれでいて、単純だが、乱雑な方が強くなる場合もある。
かつて自分のことを侮り、AIに吸収され、そしてなお自分に牙を向いた彼を思い出させる彼の態度は、拡張した聴覚には少し不愉快である。
『それにしてもレイヴンがかのような行動をとるとは思いませんでした。変わりましたね。』
今に思えば、組み伏せ、ましてや説教まがいを装うなど、飼い犬だった頃には考えられなかった。
「レイちゃん…私頑張るから、見ててね…!!」
透明な彼女が、目の前でぴょんぴょん飛び跳ねて自分の意思を伝えてくる。しっぽが生えた以外特に特徴のない道着の男子生徒とコンビのようだ。対する相手は身体の半分を氷で覆った男子と、手が多い、ガタイのいい男子である。霜でも踏むのだろうか。氷の彼は頻繁に地面とビルを交互に見ながら相方に語りかけている様だ。
それでは教えてやろう。傭兵の翼の使い方を。
side葉隠透
あんなことがあったばっかだから皆レイちゃんとの接し方に困ってるみたいだった。
確かに皆にとってはなにか思うところがあるかもしれないけど、レイちゃんは私達を、私の事をちゃんと見てくれている。それだけで十分じゃん!他に、何を望むの…?
「レイちゃん…私頑張るから、見ててね…!!」
レイちゃんの前で飛び跳ねて、見てて欲しいって伝える。目が合った。やっぱり…見えてるのかな…
「…始まったら…ジャンプ…」
「え…?」
「靴は…脱いじゃ…ダメ…霜は…降るものじゃ…ないから…」
どういう…意味なんだろう…でも、うん。分かったよ、レイちゃんが言うなら、きっと必要なことなんだよね…!
「分かった…行ってくるね…行こ!尾白君!」
「え?あ、うん、分かった。」
尾白君の手を引っ張ってビルまで行く、始まるまで少し時間があるから作戦立てなくちゃ!!
「…ねぇ、えっと…」
「ん?あー、葉隠透!透って呼んでいいよ!」
「いや、名前呼びはまだ…ってそうじゃなくて…レイ…ヴン…?さんとはさ、仲良いの?」
ビルの中に入ってから尾白君がそんなこと聞いてきた。
「どうして?」
「あんな事、言ってたから…」
少しだけ、ほんの少しだけ申し訳なさそうにさっきの出来事についての事…だと思うけど、やっぱり、他の人にはそうなんだね。
「…尾白君は…さ…無視された事ある…?」
「え?」
「透明なのって、結構辛いんだ…でもさ、レイちゃんは見てくれた。それだけで、私は救われたんだ。」
あのでかい仮想敵が出てきた時、セーフティがあるかもしれないし、安全策があるのかもしれないけど…でも怖かった、助けてって叫んでも、私をみんな見つけられなかった。
レイちゃんはそんな私をいっぱつで見つけて、目も見てくれる。見てくれてるかはわかんないけど、目が合うって、初めてのことで…こんな短い間に何回も救ってくれた。
まるで、私のヒーロー。
「皆、レイちゃんのこと嫌い?どうして?」
「嫌いってほどじゃ…」
「私は皆のこと少し嫌いになりそう…あの言葉を否定できなかったのは事実でしょ?私達はまだ弱い、でもレイちゃんはちゃんと道標を立ててくれたよ。何時まで嫉妬してるの…?何時まで…守られる側でいるつもり…?」
まだ皆の事は知らない、レイちゃんの事も知らない…全然…でも、その感情は知ってる。
「葉隠…さん…うん、そうだよね…これは…嫉妬だよね…」
オールマイトに認められたから?強い個性を持ってるから?弱いと言えたから?違う…違うよ…そんな…そんな理由じゃないでしょ…そんなに私達は強くない…!
「スタート!!」
オールマイトの声が聞こえた。空気が少し、冷たくなるような…
「尾白君!ジャンプ!!!」
「え?!うん!!!」
咄嗟に、レイちゃんの言葉を思い出して上に跳ねた。なんの作戦も立てられなかったけど…でもファーストブラッドは取られたくない!!
あっという間に壁から床から空気中の水分を核として凍りついた。あのまま立ってれば、もしかしたら足ごと…寒気がする。
霜は降らないの意味も、今ようやく理解できた。氷が尖って上を向いてるのだ。裸足だったら血だらけになってたに違いない。
「尾白君、ひとりで少し頑張って!!」
私は手袋もその場に投げ捨て、ほぼ透明化する。裸だからすごく寒いけど、大丈夫、動ける。ゆっくり入口の方へ近づいていく。
「…マジかよ…あれを避けんのか…」
「まぁ…何とかね…」
轟君が、ゆっくり歩いてきた。壁際を歩いて、手で壁を撫でながら。それだけ余裕があったんだろう。尾白君は白い息を吐きながら尻尾を払って足元の霜を轟君の方へ飛ばす。
「お生憎、それは俺の十八番だ。」
彼は、舐めてる。きっと、あの言葉も響いちゃいない。だからもう一度、繰り返す。
「レベルが、違いすぎた」
足を、振り上げ、足の先の空気が白く…今しかない…!!握り締めていた捕縛テープを彼の腕に巻こうと飛びかかって…
「轟、伏兵だ!!」
「っ!!」
今思えば、確かに轟君一人だったし、壁際を歩いてることを警戒しなきゃ行けないんだ…何で、何も考えなかったんだろ…
「ふぎゅっ…ま、まだまだぁ…!」
轟君が咄嗟に自分を覆うように作った氷の壁にぶつかったけど、私は直ぐにもう1人、部屋に入らず入口で隠れていた障子君に向かって走る。
「葉隠さん、伏せて!!」
尾白君が叫ぶ、声に合わせて、倒れる訳には行かないから足をギリギリまで伸ばして上体を下げる。
何かが碎ける音がする。頭の上を何かがすっ飛んでいくのと、冷たい氷の粒が飛んできた。
何かを認識してる場合じゃない、そのまま靴も脱いで完全に透明になる。たった数秒、正確な位置を見失う、もう足がズキズキ痛くて、張り付いてるかもしれない、血が出るかも…でも、勝つんだ…レイちゃんが見てるんだ…!
「こっちを、見ろ!!」
「ちぃっ!」
尾白君が私を探す轟君の頭を尻尾で身体を浮かせて蹴り抜こうとすると、轟君は直ぐに凍ってない手で尾白君の足を防いだ。
「音が聞こえない…葉隠…歩いていないな…いや歩けないのかもな…この氷の上だ、足を切っただろう…靴を脱いで移動できるとこなんて…限られてんだ…」
障子君が増やした手に耳をつけて、聴音しながら歩いてくる。もっと、もっとこっちに…
「葉隠を舐めるな!痛い目を見るぞ!!ぐぅっ…」
「うっ、葉隠さん、ごめん…!間に合わなかった…」
もう一度轟君が足を踏み鳴らしたおかげで、足が凍ってしまった。尾白君の妨害も間に合わなくて…そっか…私…負けちゃったんだ…
「ううん、私こそ、ごめんね」
轟君は、悪かったな、少しだけ我慢してくれと、言いながら核を確保した。
「ヒーローチーム、Win!戻っておいで!」
オールマイトの声が響いた。
sideレイヴン
『彼女は少しレイヴンに傾倒しているような…でも凄いですね。』
貴方のおかげで、変わったのです。
「さて、帰ってきたね。葉隠少女、足は大丈夫かい?」
「…はい。」
「んんっ…さて、今回のMVPは誰だか分かるかな?」
八百万百が静かに手を上げる。
「轟さんですわ。最初に全体を凍らせるという大袈裟なのに、凍らせたのは足元がメインでした。ということはそこまで計算して個性を使ったということです。最初に避けられなければ、安全に、且つ確実に敵を無効…とまでは行かなくても、弱体化した上で、核にもダメージはありませんでした。 」
「んー!全部言われた!!!でも、私は葉隠少女にも1票入れたいね。」
静かに隣に葉隠が並んだ。
「ヒーローとは、真に諦めない心だ。どんな逆境にも、理不尽にも負けてはならない。それを示したんだ…お疲れ様!じゃあ次のグループ、準備しようか!」
彼女の顔は誰にも見えない。しかし、拡張した視覚が、聴覚が、嗅覚が…取り戻した人間性が、彼女の頬に涙を知らせる。負けた事への悔しさか、ナチュラルボーンヒーローの賛辞の言葉への感動か。
時として涙は様々な姿をとる。そして覚悟も時として流動性となり、頬を伝う。
「レイちゃん…私に、戦い方を教えてほしい。」
『泣かせましたね。』
傭兵レイヴンがその依頼を受けようじゃないか。少女の涙に、断る理由などないだろう?…泣かせてないよ…ね?
お気に入り100人到達しました、ありがとうございます。これからどんどん文が上手くなると思いますので、精進を辞めないことをここに覚悟として書き残しておこうと思います。