sideレイヴン
昼食(ドーナッツ)を終えて、午後の授業が始まる。この日はヒーロー基礎学であり、きっとまた外で訓練をするのだろう。
灰被から連絡があったのは、まだ昨日日が暮れる前のことだ。
「やぁビジター、多頭から連絡先は貰ったから、何かあったら直接話すことにするよ。本題だ、新しい装備を作ったから試して欲しい。ヒーロー科なら使う機会も多いだろう。データを読み込めば使えるようになってるよ。ま、ちょっと容量は多いが…何とかなるだろう。」
そう言って送ってきたデータを開けば武装と脚部パーツだった。
「まず脚部パーツだが、RC-2000 SPRING CHICKEN、ま逆関節だね。MT用に開発したんだが、妙にバランスが取れなくてね。あんたなら使いこなせるだろう。武装は本来重機用なんだが、破砕をするためのものと、無理やり斬ったりするようで2つ載せといた。片方はベイラムグループが1枚噛ませろって言ってきてね。今後もなんかかしらは送ってくると思う。WB-0010 DOUBLE TROUBLEがチェーンソーだ。PB-033M ASHMEADが…俗に言うパイルバンカー…人間に使うには過剰だが、対物体、建物に使うには最高だろう?」
途中から、灰被の声が聞こえなくなる。ああ、導きのとっつきよ…ずっと居てくれたのか…過去、または未来に、どんな強敵でも必ず自分を救ってくれた其れを。しかし今となっては威力が高すぎるそれを、懐かしげに眺めた。
1回変換した装備はデータとして残る。1回につき4つの武装を持つことが出来る。それ以上は持つ場所がない。アセンブルは1日1回。一日は変更できないクールタイムのようなものが存在する。恐らくコーラルが記憶してしまうのだろう。忘れるまでの時間が24時間ということだ。
体のパーツも、MT用のものを転用することが出来る。ACはACたるものだ。データさえあればコーラルとして読み込むことが出来る。まぁアセンブルは1日1回しか変えられないのだが…
普通の二脚にも少し飽きたところだったので、ちょうど良かったと、逆関節に変えた。
『レイヴン…普通AC乗りはそんな簡単に装備を変えられないのですよ…』
呆れ気味のエアだが、そんなことを言われても昔からほいほいパーツを変えていたのだから、今更遅いと思う。
「気に入ったかい?そいつは良かった。近いうちに非殺傷弾を開発するつもりだから楽しみにしておいてくれよ。」
「災害水難なんでもござれ、人命救助訓練だ。」
教室に入ってきた相澤はオールマイトが授業前に出した謎のカードを出してみせる。RESCUEと書かれていた。あれは出さないといけない決まりなのだろうか…?
昨日の今日で、外に出るのはと思ったが、オールマイト、相澤、そしてもう1人の3人の教師で見るらしい。つまりプロヒーローが3人…返り討ちにでもするつもりだろうか?
「コスチュームの着用は各自の判断で構わない。場所を限定する物もあるだろうしな。」
着れるのなら喜んで着よう。あのコスチュームはいいものだ。灰被には感謝しかない。今も、昔も、未来も。
直ぐに着替えて(変換させて)バスに向かう。結局委員長を飯田に渡したのだが、いい仕事をしてくれそうだ。バスに乗る時にもスムーズになるように前もって並びを伝えてくれる。
「こういうタイプだった!!!!くそう!!!」
『難儀な性格です。』
まぁ、軍用車両のように向かい合うタイプのバスだったから意味が無かったのだが。
演習場に着くまで少し時間がある。取り留めもない話を各々して過ごしている。
「ねえねえレイちゃん、なんかいい事あった?」
当然の権利のように隣に座った透が聞いてくる。どうして分かったのか。
「なんか…雰囲気?」
まあ新しい装備を届けられたのだ、ウキウキもする。
「そっか、レイちゃん可愛いよね!」
楽しそうに笑う透。そうだろうか?透の方が可愛いと思うのだが…
「ふぇ?!///」
『たらし』
「レイヴンちゃんがたらしやん!」
「なに?!レイヴンはたらしなのか!オイラも口説いてくれよ!!」
おい待て、エアの声が聞こえたのか?それとも総評なのか?もはや悪口だし峰田、そんなに口説いて欲しいなら腹に直接パイルバンカーで口説いてやろうか。
「ひぇ…ごめん…」
宜しい。
「もういい加減着くぞ」
苛立ちを隠さない相澤の声に、クラスメイトは負けた。
「すっげー!USJかよ!」
誰かの声だが、USJとは…?
「え、レイちゃん知らない?」
「あらゆる事故や災害を想定して、僕が作った演習場。嘘(U)の災害(S)や事故(J)ルーム!」
(((USJだった?!)))
話に割り込んできた主の方を見ると、宇宙飛行士のような、しかし裾が伸びドレスのようになったコスチュームを着たヒーローがいた。
「スペースヒーロー13号だ!災害救助で目まぐるしい活躍をしている紳士的なヒーロー!」
「やったー!私好きなの13号!」
ヒーローオタクの緑谷の言葉に麗日が答える。しかし女性なのに紳士的というのだろうか?
「「「えっ?!」」」
「よ、よく分かりましたね。確かに僕は女ですが、公平という意味も紳士にはあるので、間違いでは無いと思いますよ。」
なるほど、日本語にはそういう意味も含まれるのか、勉強になる。
「いえいえ…んんっ…では始める前に小言を1つ…2つ…3つ…4つ…」
(((増えとる…)))
「皆さん、ご存知だと思いますが僕の個性はブラックホール。どんなものでも吸い込んで塵にしてしまいます。」
「その個性で、どんな災害からも人をすくい上げるんですよね!!」
…個性ブラックホール…?それはなんとも…危険だ。簡単に人を殺せる。しかし、その個性科学的に研究したらすごい成果が得られるのでは?よしんば指先にブラックホールが作れるのだとしたら(事実、理論上は陽子1つぐらいの大きさのブラックホールは存在するし、CERNのLHCがそう。地球サイズはコインほどの大きなにしかならない。)13号の指先を中心に姿が歪み、そして自身は吸われないのに相手を吸えるということは、指向性を持つということ。
吸われた相手はシュヴァルツシルト面に接するまでの短い時間を永遠と感じ、個性を切るまではそもそも時空が歪む。永遠に伸びていく敵を見ることになるのだろう。
しかし実際は…そう長くブラックホールを維持することは出来ないのだろう。何とかして回転させることが出来ればあるいは…と言うよりもワープとかできるのではないか…?タイムマシンでも作れる要な気もするが…
『レイヴン。考えているところ悪いですが…敵性反応…こ、れは…MT…?!』
分かっている。身体を変換させる。バイザーもおろしてしまおう。良かった、MTなら遠慮なくとっつけるな。
『メインシステム、戦闘モード起動します。』
「…おい、レイヴンどうし…?!ひとかたまりになって動くな!!!!13号生徒を守れ!!!」
空間が割れて、闇が広がる。手を身体に貼り付けた奇妙な見た目の敵を筆頭に次々にその闇から人間…と言うよりおぞましい悪が跋扈する。その中には他よりも数倍大きいMTの姿も何個かある。
「13号にイレイザーヘッド…そしてあれが例のレイヴン…」
「ちっ…平和の象徴がいねえじゃねえか…」
何故、自分の名前を呼んだ?いや違う、わかっている。あれは平和の象徴としての呼び名だ。そうか、自分だけじゃないのか。この世界に意識を宿したのは。面白い、退屈しないで済みそうだ。
身体が闘争を求めるのだ。
「子供を殺せば来るのかな…?」
残念だが、死んでもらおうか。
逆関節…跳べる。機動力の代わりにバランスがない。
とっつき…パイルバンカーのこと。射突をとっつきと誤読したのが始まり。