「彼女、凄まじいですね。」
ぼそりと誰かがこぼしたその言葉に皆一様に唸るしか無かった。どう表現したものか、饒舌に尽くしがたい其の強さはモニター越しにでも伝わる。
オールマイトが去年救い出した少女。身体に改造を施され、しかしそのこと以外の全てが不明。歴史から、彼女の逐一が抜け落ちたかのような、そんな虚ろにしか分からない情報を肩に持つ少女。
ついこの間まで、痩せ細り、歩くことすらままならなかったその少女は、今や雄英高校の入試首席。記憶喪失といった彼女の言葉は嘘か誠か、ただ結果だけが残った。筆記テスト満点、実技テストぶっちぎりの1位。
健全な肉体になり、声こそ出ないものの、電子音での声の復元と、意思疎通を可能にした。凄まじい身体能力と理解力は、其の身のこなしに滲み出ている。己の個性を把握し、最善手を常に選び続けることの出来る力は、まるで歴戦の猛者である。
感慨深いと、オールマイトはもう一度入試実技の映像を再生した。誰も止めることもなく、モニターに見入る。何度目の再生になろうか。
個性名を役所に提出、認定されてから早数ヶ月、巨大たる門前に圧倒されているところである。
『これは…大きいですね…。』
エアの言葉も当然で、その門の大きさ、それよりはるかに大きい敷地に、驚きを隠せない。
『確か最初は…講堂でガイダンスでしたよね。時間はありますが、早々に向かってしまいましょう。』
周りを観察しながら歩みを進める。1年間のリハビリにより…というより改造を施された身体のお陰であろうが、速やかに身体機能の回復が見られ、今では周りの人間以上に動く事ができるようになった。それでも声は、発することが出来ないのだが。
講堂につけば教師陣による誘導の元、着席を促された。見渡せばごまんと人が居る。ここまで人というのは多いものか。ルビコンでのことを含め、ここまで人間が集まっているところを見たことがなかった。
『…確か、偏差値79、入試倍率300倍…合格者数を見て計算してみても12000人は居るはずです。』
なるほど、それは…とても多いな。エアとそんなやり取りをしていると、マイクのスイッチが入る音が聞こえた。
「今日は俺のライヴにようこそー!!!エディバディセイヘイ!!!!」
サングラスをかけた髭を生やした男が、レスポンスを求めているが、誰一人として返さない。少し落ち込んだ様子だ。
『…ヒーロー情報と照合……ボイスヒーロー《プレゼント・マイク》。ヒーロービルボード圏外です。個性は…ヴォイス…?』
エアの呆れた声が頭の中で響いている。なんとも言えない表情を浮かべていると、すぐに気を取り直したのかプレゼントマイクは次のノリを繰り出した。
「こいつはシヴィー!!!受験生のリスナー!実技試験の内容をサクッとプレゼンするぜ!!アーユーレディ!?」
「Yeah!!!!」
またもやノリについていけずプレゼントマイクの子音だけが会場に反響を続けている。
『…なんというか、様子のおかしな人です…』
……なんだろうか、少し可哀想に思えてならない。
「んんっ……入試要項通り!リスナーにはこの後!10分間の模擬市街地演習を行ってもらうぜ!」
またすぐに切り替えたプレゼントマイクの言葉に連動するように、スクリーンに映像が映し出される。切り替えの速さはヒーローには必要なのかもしれない。オールマイトも速かった気がする。
「持ち込みは自由!プレゼン後は各自指定の演習会場へ向かってくれよな!演習場には仮想敵を三種・多数 配置してありそれぞれの攻略難易度に応じてポイントを 設けてある!各々なりの個性で 仮想敵を行動不能にしポイントを稼ぐのが君達の目的だ!!!」
そこまで一息に捲し立てた彼の肺活量には目を見張るものがある。1呼吸おいて大袈裟な仕草と共に重要であることを示唆させるような口ぶりをするプレゼントマイク。
「もちろん他人への攻撃等アンチヒーローな行為はご法度、だぜ?」
「…質問よろしいでしょうか!!」
今まで静かに聞いていたその1人、針金が入ってるかのように1本になった手を挙げ立ち上がり、眼鏡が良く似合う彼は、ハキハキとした、しかし何処か憤りを感じているような、そんな声で質問をなげかける。
「プリントには四種の敵が記載されております!誤載であれば日本最高峰である雄英において恥ずべき痴態!!我々受験者は規範となるヒーローのご指導を求めてこの場に座して いるのです!!」
彼もまた、一息に捲し立てた。
「ついでにそこの癖毛の君。」
「?!」
振り返り、1人の受験生を指さし、怒気を含む声で罵りにもまじる言葉を吐いた。
「先程からボソボソと…気が散る!!物見遊山のつもりなら即刻雄英から去りたまえ!」
正義感の塊のような彼の言葉は、緑髪の癖毛の少年には手痛い提言だったろう。周りからは小さな隠しきれない嘲笑が上がる。
『…難儀な性格ですね、彼は…それにしても、今笑い声を上げた人間はヒーローにはなれないでしょうね。』
プレゼントマイクは、気に求めず解説を加えた。それはゲームで言うおじゃま虫だと。ポイントの入らぬステージギミック。とは言え、倒せない敵など、クソゲーにも変わらないとは思うが。
「俺からは以上だ!!最後にリスナーへ我が校校訓を授けよう!!」
ガイダンスもこれで終わりである。皆も集中切らさず、彼の言葉に耳を傾ける。
「かの英雄ナポレオン・ボナパルトは言った!!」
「真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者と!」
「Plus ultra(更に向こうへ)
…それでは皆良い受験を!!!」
その言葉に感化されたのか、それとも実感が湧いたのか、周りの人間の顔つきが少しだけ、変わった。
恋愛要素は必要?
-
素敵だご友人(Yes)
-
はぁ…残念ですレイヴン(No )