1週間、時間にして168時間が経過した今日。1万2000人の若人は人生の岐路へ立たされる。
肌寒さか、それとも緊張なのか、指先の冷えは明らかにそれを訴えかけてくる。少しだけ震えるのだ。
雄英高校に受験したありとあらゆる人間が、その難易度に打ちひしがれ、結果へと目に見えぬ恐怖は、足元から喉へと絡みつく。帰ってきた我が子が、合格発表その日に近付くにつれ、少しづつ衰弱して行く様は、親には怖いものだろう。
喉が何かによって少しづつ絞められるような、塞がれるようなそんな感覚で、受験生は水も喉を通らぬ。いくら気丈にふるえどやがて限界は来るものだ。
まぁ、我らが自由意志の象徴とルビコニアンには何一つ不安がなかったようだが。
我らが住処は、あの時オールマイトに助けられたあと、病院からヒーロー公安委員会へと移った。身寄りもない自分は、個性の強さと、危険性を鑑み、公安へと引き取られた。
東京都は千代田区。荘厳と佇むその建物の近くの寮へと移されていた。大して大きな部屋でもないが、それよりも個性を自由に使っても良いという訓練施設の解放が大きく、大浴場も使用できるし、彼女にとって食堂に行けば食いっぱぐれないというのも大きかった。
ほかの受験生はどうやら隠れて個性の訓練をしてるようだが、警察からはある程度黙認をされている…らしい。それでいいのか…?
寝るところしかないような部屋(公安による圧などではなく、単に他に何も趣味がなかった)だが、十分満足である。
受験が終わったあとも訓練と学習を続ける中、オールマイトと、スーツに身を包み、杖を着いた、静かでどこか懐かしい匂いのするの壮年の男が訪ねてきた。
「私が普通にドアから来た!」
「…」
呆れ顔でオールマイトを一瞥した後、しっかりと目を合わせ彼は簡単な自己紹介をした。
「私は多頭。君の、親代わりだ。」
『……』
少しだけ辛そうな顔をしながら手を伸ばしてきた彼の手を、やはり懐かしい気持ちで両手でしっかりと、握り込む。
「さて、突然の事で困惑しているようだが私の要件だ。本来は手紙で通達するのだが、用事があったから直接伝えるよ。」
オールマイトは、手紙をどこからか取りだし、手渡しながら続ける。
「レイヴン少女、筆記は見事満点。実技に関しちゃ、審査制の救助活動P含めて、他の追随を許さないポイント差で見事トップさ!!ようこそ、君のヒーローアカデミアへ!!!」
興奮した様子で合否を伝えられた。後で聞いた話だが、2位とは100点ほど離れていたらしい。
『レイヴンなら当然ですね。やはり、ほかの受験生には同情します。』
エアも満足気である。
「うむ、積もる話もあるだろうから先に帰るけど、被覆控除があるから彼から渡される資料にそってコスチュームを頼んでおいてくれたまえ!ああそうそう、それと君の言っていたサポートアイテムだが、これも彼から話されるだろうけど、許可が降りたよ!では、また雄英で会おう!!」
『また…?』
疑問もそこそこにオールマイトは多頭の肩を叩き外へ出てしまった。存在感も筋肉も声もでかかったオールマイトから、多頭へと目を移す。手は離していなかった。部屋の奥へとさっさと案内することにした。
私は、公安所属のヒーロー育成係だった多頭 躾。個性は…ハンドラー。決めた相手がどうしたら成長できるのか、何が正しいのかを、僅かに知ることが出来る。ただそれだけの個性。
公安でしばらく働き、辞めたはずだったが、また呼び戻されたのだ。新しく設立した隠匿局の局長にと。たった一人の少女のために。
C4-621。それが彼女の名前だった。報告書を読むに、顔を顰めるしかない。だが、それでも、今度は正しく努めるしかないのだ。
処遇と、個性。改造と記憶喪失に、コーラルが絡まった詳細は、14、5の少女にしてはあまりに見るに堪えなかったが、急激に回復したと聞いて驚いたものだ。
そして今日、初の顔合わせになる。
上から与えられた任務には、彼女の親代わりになるということも、含まれていた。さすがの公安様と言えど、同情の余地があったのかもしれない。だが、それでも罪は重なるものだ。公安の犬になど、なるべきでは無いのに、公安に飼われることが、最も安全とは……。
「まぁ多頭さん。彼女は感情が希薄そうに見えますが、しっかりとこちらのことを信用してくれる。強い女の子ですよ。」
トップヒーローには、どうやら少しの心配ですら見抜かれてしまうようだ。
その邂逅には、何故か懐かしさを感じた。肩までの白髪…というには少しだけ赤みが走り、同じく赤い目を光らせている、健康そうだが、どこか儚さを感じるそんな彼女は、私の目を見て少しだけ表情を変えた。
手を握れば壊れてしまいそうな雰囲気だが、力強く握り返してきた。オールマイトから合格発表され、その間驚く顔ひとつせず、しかし私の手は、しっかりと握られていた。
話が終わり彼は私の肩を叩き出ていったが、恐らく本職に勤しむのだろう。しばらく彼が出ていった扉を見つめていた彼女は、聞いていた通りの電子音混じりの声で、私を部屋の奥へと導いた。
「こっち…珈琲…入れるから。」
ベッドと机しかない、なんの飾り気も…いや、生活感すらないその部屋の奥に入れば、その少女は手を離しすぐに珈琲を入れてくれた。その動きにはついこの間まで動かなかったなど、嘘のように感じるほど滑らかだ。
「ありがとう…あー…なんと呼べばいいか…」
「?レイヴン、それか…621。」
彼女は少しだけ不思議そうな声で621と、付け加えた。珈琲の良い香りと、有り得ない話だがその名前に、何故か感情が揺さぶられた。
「レイヴンと…呼ばせてもらおう。」
「ん…」
満足そうに頷くと私の前へ珈琲が置かれた。
「さて…レイヴン、なんの相談も無く決めてしまって申し訳ないが、私が君の親代わりになる。」
「…大丈夫。」
「そうか…仕事の話も、聞いているか。」
「……」
返事はなく、ただ目を見つめられた。返事を面倒くさがってるような節はなく、ただ続きを促してるような目だ。私は珈琲で口を軽く湿らせた。良い香りがする。
「美味いな…」
「教えて…貰った…」
「ほう…誰にだ?」
「……」
また沈黙、何かが引っかかるのか、それとも忘れてしまったのかは分からないが、それでも話は進めるしかない。
「まぁいい…公安には、新しい局が作られた。今のところ私しかいないが…個性犯罪並びに生体物質対策局…長いな、まあ隠匿局でいい。ここに雄英高校卒業後属してもらう事になる。これはつまり、君は今後の全てを公安に決められることに、なる……済まない…。」
私は、深く頭を下げた。私のせい…と言う訳では無いが、年端もいかぬ少女の未来を決めてしまったのは、危険な道を定めてしまったのは、そしてその罪は遠巻きに私にあるのだ。公安と、そして私を…ひいてはヒーローを彼女は、恨む権利があるのだから。
「大丈夫。私は…貴方に…飼われる…1人では、生きていけ…ないから…。」
レイヴンは私の手を握り、ハッと顔を上げると、短い時間の中だが初めて、感情が見える応答を、しっかりと伝えてきた。
「私は…レイヴン。貴方の…猟犬。」
あぁ…なんて残酷なんだ。彼女のその目を見た私は何故か安堵が浮かぶのだった。
レイヴンは多くは語らないが、もう私のことを信用してくれているようだ。強いな、もはや。ならば、確りと答えねばなるまい。
個性犯罪並びに生体物質対策局
隠匿されたその課は、限られた人間にしか知ることが出来ない。生体物質、コーラルに関する個性犯罪において我々は無力である。それ故に、我々はハンドラーと、その猟犬を雇う他ないのだ。彼女を保護し、敵に奪われないように、そして敵にならないように。たとえ恨まれたとしても、成し遂げなければならない。
コーラルの指向性を保つには、簡単では無い術を執る他ない。何故ならコーラルと正義には、燃えやすいという性質があるのだから。
多頭 躾(たとう しつけ)つまり、彼です。ごす…
恋愛要素は必要?
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素敵だご友人(Yes)
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はぁ…残念ですレイヴン(No )