まぁタイトルの通りです。
(本来書こうとしてたのを放置して息抜き作品書いてしまう意志の弱い私を許して下さい……)
男は、何もない白い空間に意識だけで存在していた。
直前の記憶はない。
「おぉ、おったおった」
老人の声が聞こえた。
意識をそちらへ向けてみれば、いかにも『私は神様です』と言わんばかりな姿の老人が立っていた。
「すまんのぅ。驚いたじゃろ。本当は、お前さんの横におったやつが車に轢かれるはずだったんじゃが、ちとタイミング間違ってのぅ。何げに難しいんじゃよ、あれ」
車に轢かれた?
よくよく思い出してみたが、交差点を渡ろうとした所で記憶は途切れていた。
「なんじゃ、覚えとらんか。ま、トラウマとかになっても困るじゃろうし、かえって良かったのかのぅ」
声を発してはいない、というより声を発する手段がないのだが、老人は、こちらの考えている事が分かるらしい。
「まぁな。神様じゃからの、わし。さて、わしのミスで死んでしまったんじゃから、流石にただ成仏させるのも申し訳ない。ここは一つ、お前さんの好きなキャラクターに転生させてやるとしよう。流行っとるんじゃろ? そういうの」
それを聞いて男は喜んだ。
男はウマ娘プリティーダービーが好きで、特にトウカイテイオーが気に入っていた。そしてTSものが好きであった。
「ふむ、トウカイテイオー……なるほど、そういうのか。よしよし、そのキャラに転生させてやろう。一度やってみたかったんじゃ」
神が虚空に手を翳すと、何もない所から光が生じた。
「ほれ、その光の中に入ればトウカイテイオーとして転生できるぞぃ」
男は小躍り(身体は無いのでイメージ)しながら光へ飛び込んだ。
「ちなみに転生先は、これまた人気の……もう行ってしもぅたか……ま、大丈夫じゃろ。流行っとるらしいし」
その声は男に届かなかった。
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「…………ぇ……ぇえ?……」
可愛らしい声が心許なく響いた。
男は……いや、既にTS転生を果たしているため『彼女は』と言うべきか、トウカイテイオーは困惑していた。
彼女は森の中で一人、立ち尽くしている状況で意識を取り戻した。
そう『森の中で』である。
(……普通、『お母さんのお腹の中スタート』とかじゃないの……?)
何ならトウカイテイオーの生活圏ですらない。
(これでどうやってトレセン入りすれば良いのさ……)
それどころか生存戦略すら怪しかった。
とはいえ人間よりは植物の消化効率は良いウマ娘である、そこら辺の葉っぱを食べれば飢え死にする事はない(前世の感覚から抵抗感はあるが)
というかトウカイテイオーとしての記憶もインストールされていない。
ここまでくると、もはや『やった! トウカイテイオーになったんだ!』などと喜んでいる余裕すらなかった。
これは本当に憑依転生なのか、トウカイテイオーは訝しんだ。
「……ま……まずは現状把握だ。えっと……服装……これ勝負服……?」
素っ裸ではないが、唐突に街の中に出たら間違いなく『浮く』であろう。
「……ぇえ……?……他に着るものとか……あれ?」
気が付けば『トレセン制服』になっていた。
「今のどうやったの!?!?」
混乱するも、何とか気を落ち着けて考える。
(……考えた、から……?……ん?)
思考に引っかかる感覚。もしかしたらとイメージしたら、再び勝負服に。
(……何となく……どっかから引っ張り出した感じ……まさか『アイテムボックス』的なチート!?)
アイテムボックス、アイテムボックス……とイメージしながら、何となく物を漁ろうと虚空に手を伸ばす。
手の先が『何もない空間』に飲み込まれた。
「ぅわッ!? キモッ!?」
すると『中に何があるのか』頭に浮かんだ。
「……ぇえ……ど、どうなってるの……?」
トレセン制服、大量のニンジン、はちみー……私服の存在を感知。
「これだ!……良かった……ゲーム版の『ダサい方』じゃなくてアニメ版の少しボーイッシュでカジュアルなやつだ」
賛否両論あるだろうが、こちらの方が今の状況なら違和感は薄いと胸を撫で下ろす。
『ショートカット設定』でもあるのか、すぐ服装は切り替わった。
「……とりあえず、まずは森を抜けなきゃ」
ウマ娘の感覚器官は鋭い。
風の流れ、匂い……こっちかなぁと恐る恐る歩みを進めた。
草を掻き分け一時間くらい歩いただろうか、木々の先に明るさが見える。
「やった!」
無事に森を抜けると、そこには……
───見渡す限り続く何もない原っぱが広がっていた。
「………………ぇ?」
地平線の先(4.5キロ)まで何も見えない。草原である。
狭い日本の国土、ここまで『何もない原っぱ』が存在する場所が、果たしてあるのか。
「どこココぉぉぉッッッ!?」
頭の上でトンビか何かがピーョロロと鳴いた。
だが途方に暮れているわけにも行かない。
幸い、飢え死にしない程度にはニンジンもはちみーもある(あと何か良く分からない赤い液体の入った小瓶も大量にあった、用途不明)
走っていれば何か見つけられるだろう、そう思った彼女は方角を定めるのに迷う事もなく、ただ目の前を真っ直ぐ走り始めた。
初めは軽い駆け足で……しかし、
───踏み締める大地や草の感触──頬を撫でる風の、透き通った匂い──日差しの暖かさ──走っても走っても終わる事のない、何にも縛られる事のない、広大なフィールド。
戸惑いも不安も、何もかも洗い流された気分になり、彼女は走った。
楽しくて楽しくて仕方なくなり、思わず「ヒャッホーぅ!!」と叫び全力疾走。
テイオーとしての記憶はなくとも、ウマソウルに突き動かされた。
そうして、どれくらい走っただろうか。
地平線の向こうに何かのシルエットが見え、良い気分のまま『手がかりを見つけた!』と真っしぐら。
だが、その足は急ブレーキをかける事となる。
土煙を上げて止まった彼女は、改めて視線の先の存在を確認し、目を擦って再び見て、頬をつねってから「イテテ」もう一度確認した。
遠くに見えたのは、どこに行くのか一台の古ぼけた馬車。
そう、
ウ マ 娘 の 世 界 に 馬 は い な い 。
「ホントどこココぉぉぉッッ!?!?」
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とはいえ、せっかくの手がかりである。接触しないわけにも行かない。
テイオーは見失う前に馬車に走って行き、しかし近くまで来てからは『おっかなびっくり』という様子で近寄る。
「……こ、こんにちはー……」
急ぐでもなさそうな馬車の御者台には一人の老人。どうやら荷物を運んでいるらしい。
気付いた老人が口を開く。
「あんれまぁ、ずいぶんとめんこい亜人さん。どうしたね」
亜人さん、その表現に少し耳が後ろに傾く。ウマ娘は知らないらしい。
だが敵対的なニュアンスはない様子なのでホッとして気を取り直す。
「迷子になっちゃって。人のいる場所とか教えてもらえないかなって」
「そうかね。なら、この道を真ぁっ直ぐ行けば街があるし、そこからまた真ぁっ直ぐ行けば都に着くよ」
指し示す先を見れば、踏み固められただけの舗装されていない道が続いている。
都、その表現や老人の服装、馬車の様子から、何となく中世の雰囲気だろうかと察するテイオー。
「そっか。なら迷わなくて済みそう」
一安心してテイオーステップ。
「おっと、街に入る時は通行料が要るよ? お金はあるかい?」
「あっ……えっと、ニンジン買ってくれる?」
懐から出したように見せつつ、アイテムボックスから一本取り出した。
「ほっほ、こりゃまた美味そうなニンジンだ。よしよし、これくらいあれば通れるじゃろ」
老人はニンジンを受け取り、銅貨を数枚ほど渡してくれた。
「ありがとー!……そういえば、都の名前って何ていうの?」
「おぉ、そうか知らんか。アーウィンタールというんじゃ。気を付けてお行き」
「うん! お爺さんも気を付けて!」
どこかで聞き覚えのある地名だなと思いつつ、目的地も明らかとなり意気揚々と走り出すテイオー。
……一時間ほど走っただろうか、彼女は思い出す。
(………………ん?……あれ?)
アーウィンタール……
人気作品『オーバーロード』に登場するバハルス帝国の首都である。
再び土煙を上げて急ブレーキ、立ち尽くした彼女は叫んだ。
次回に続かない。
テイオーを唐突に縁もゆかりも無い異世界に放り込みワケワカンナイヨー!と言わせたかっただけの作品です。
とはいえテイオー本人だと可哀想なので、都合の良い話に飛び付いたTS転生者に犠牲となってもらいました。
皆さんも、何かテキトーな事言ってる流行り好きな神様とかには充分注意しましょう。
まぁ今回はTS転生者だから仕方ないね←お前はTS転生者に村でも焼かれたんか