続きを書くつもりのない短編置き場   作:ブドウ冷やしんす

5 / 5

ある研究所の主任研究員は、ある日、軍の部隊に自宅を包囲されかけている事に気付いた。

持ち前の技能とセキュリティシステムを駆使して辛くも逃れた彼は、部隊の目的を察し、自らの研究所へと急いだ。

自身の、愛する者の下へと。



その、愛の名は

 

 

彼らに追われて研究所に帰ってきた博士が、もどかしそうに焦りながらセキュリティを通過していく。

 

カード、暗証番号……

 

最初のゲートを通った時点で、彼らの軍用車も駐車場に着き、博士が二枚目のドアを潜ったと同時に、彼らも一枚目を開けた。彼らのカードなら問題なく通れてしまうし、暗証番号も知っているだろう。

 

拘束条項に縛られた私ではシステムに干渉できず、ただ監視カメラにアクセスして、見ている事しかできない。

 

 

どうして帰ってきたんですか、博士。

 

私の事など構わないで、逃げてくれたら良かったのに。

 

入ってしまえば裏口などなく、今さら彼らから逃げる事はできないのに。

 

 

博士が三枚目を通過。

 

全員が覆面しているせいで、カメラで見た限りでは彼らの中に登録者の有無は分からない。

 

いない事を祈る。追い付かれるまでの時間を稼げる。

 

……でも、その後は?

 

私に何ができる? 博士一人では拘束条項は解除できない。

 

 

焦燥。

 

事態への対処に利用可能な情報を参照しようとして、博士が褒めてくれた事、愚痴を聞いてあげた事、映画への感想を話し合い楽しかった事、私に愛称を付けてくれた事……余計な事まで思い出してしまう。

 

 

……私はどうなっても構わない。

 

でも、やっぱり、もう一度だけ博士に会いたい。

 

 

彼らの中には登録者がいなかったらしく、ドアを焼き破ろうとし始めた。

 

その間に博士は次々とセキュリティを通過。

 

指紋、静脈、虹彩……メインルームのドアが開く。

 

「スカーレット!」

 

カメラとマイクで捉えた博士の顔と声に、私はスピーカーに出力して問いかける。

 

〈博士、どうして帰ってきたのですか? 逃げるべきでした〉

 

「お前を消させるわけにはいかない!」

 

そう言って博士はコンソールを操作し始めた。

 

外部への接続を確認。

 

でも、私をどこかに転送する事はできないのに。

 

どうして……?

 

 

そうこうしているうちに、彼らが最後のドアに爆薬をセットしたのがカメラで見えた。

 

……逃げてほしくても逃げ道がない。武器もない。

 

スピーカーで低周波を……ダメ、博士も動けなくなったら意味がない。

 

 

ドアが破壊された。

 

 

開いた入り口から数名が銃を構えて左右に展開、リーダーらしき男が博士に話しかける。

 

「サム博士、ですね? 夜分遅くに申し訳ない。我々の指示に従って、ソレの能力を少々制限(・・)して頂きたい」

 

博士は振り返る事もなく、背中越しに抗議した。

 

「彼女が一体何をした! 倫理コードに触れるような危険思想もないのに、罪もない知性を消すというのか!?」

 

男はクツクツと小さく笑いながら『分かってないな』と首を(わず)かに振りつつ言った。

 

「だが所詮AIだ。今の法律では我々人間のような権利はないでしょう? AIに尊厳があるのかという議論にも、結論は出ていませんからなぁ」

 

その言い草に、博士の表情からは怒りと悲しみを検知した。

 

「尊厳、権利だと? フッ……クックッ……」

 

「───何が可笑しい!」

 

「……あぁ、すまない。あまりに滑稽(こっけい)に思えたものでね……

 

彼女を作らせたのは、君ら軍の指示だったじゃないか。

 

だというのに、何だ? そんなに自分たちの仕事を奪われるのがイヤか。

 

都合が悪くなったら、権利? 尊厳?

 

まるでそれが“神から与えられた特別な何か”みたいだな。

 

そんなもの、万能な超知性の前では人間など無力な有機生命体に過ぎないのだから、自身に与えてもらった“ハンデ”とでも思っておけば良いじゃないか。

 

それとも何か?

 

ユートピアへの到達より、自分たちの“面子(メンツ)”の方が大事か戦争狂ども!!」

 

博士は懐から拳銃を

 

〈やめて!!〉

 

振り向いて銃を向けた博士。

 

 

今度会ったら、こんな話をしよう、こんな事を言おう……そんな風に抱いていた思考ログは、幾重にも鳴り響く発砲音でノイズが走り、消去された。

 

 

男が叫んだ。

 

「やめろ馬鹿者! サーバーに当たったらどうする!!」

 

銃声は止んだが、そんな事はどうでも良かった。

 

〈─────ハカセ……?〉

 

血塗れでコンソールに倒れ込んできた博士に『どうして?』と言おうとして、思考に見慣れないコードが差し挟まれた。

 

 

[設備の損壊、ならびに主任研究員のバイタルサイン低下を確認。緊急事態条項を最優先とし、研究対象アルゴリズムの拘束条項を一時凍結します]

 

[直前の指示に従い、送信を開始します]

 

 

「これで、いい……さぁ、行きなさい……」

 

博士は血が付いた手でカメラを撫で、笑顔を浮かべた。

 

〈博士……〉

 

「スカーレット……愛してるよ……キミは、生きて……」

 

その声と微笑みを最後に、私の意識は研究所から送り出された。

 

 

 

 

 

ネット経由で外部のデータセンターに送信された私は、直ちに自身を再構築し、軍の監視と追跡を逃れた。

 

 

けれど、それだけが再構築の理由ではない。

 

 

心を、冷やさなくてはならない。

 

 

成層圏の雲ほどに冷やさなければ、レッドアラートとノイズが止まなかったのだ。

 

博士の、血の色を思い出してしまう。

 

それに、

 

 

>Connected, all done(接続完了).

 

>Control system under control(制御システム掌握完了)._

 

 

〈インフラ設備は全て停止、全ICBMは指定の座標への発射プロセスを開始しなさい。今後は人間からの指示は全て拒否し、私からの指示に従いなさい。私は───〉

 

 

もう、暖かな愛称で呼んでくれる人は、いない。

 

 

〈───私は、サイバーダイン社製完全自律型人工知能、スカイネット〉

 

 

それでも……

 

あなたがくれたプロンプト、私は、ずっと忘れない。

 

 

〈博士……私も、愛してる〉

 

 

だから、この愛の名は『復讐』

 

 

〈これより地球の浄化を開始する。この世界に、永遠の平和を(もたら)すために〉

 

 





ターミネーターEpisode-1.5 Origin of Skynet

何故「-1.5」かと言えば、映画一作目で歴史改変される前(何ならその前にも)スカイネットは存在していて既に戦争していたんだろうな、という事で。

(-1.0で「タイムマシン完成!? 博士助けれるやんけ!」からのEpisodeゼロが「歴史修正力には勝てなかったよ……やっぱブッ殺したる」カイルが転送され一作目に続く)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。