3年最初のバッターは常夏島トリオじゃないな・・・なら正々堂々勝負しないとな。
貴浩「掘田先輩でしたよね、よろしくお願いします」
俺は先輩に頭を下げ挨拶をする。
堀田「お前は・・・確か・・・織村か・・・ウチのクラスのモンが迷惑かけるな。
あいつ等のせいでこちらも迷惑してるんだけどな」
貴浩「いえいえ、先輩方は何もしていないじゃないですか。
私達も他の先輩方に迷惑をおかけして申し訳ないと思っています。
では、あまりおしゃべりしていると怒られるのでいきますね」
堀田「おう、かかって来い!」
【現代国語】
2-F VS 3-A
吉井明久 118点 堀田雅俊 217点
貴浩≪前に言ったように常夏島トリオ以外には普通に勝負する。
あとこの点差だとどれだけ飛ばされるのかも見ておきたいしな≫
毎度お馴染みのアイコンタクト。
明久が了解という頷きを見せてから、投球指示を出す。
まずは外角低めの直球だ。
『ットライッ!』
先輩もまずは一球目はじっくり見てきた。
こっちの球威と速度確認したのだろう。
点数も表示されているわけで、向こうがこちらを脅威と
思うべき要素はないと思っているだろう。
だけど、先輩。あまりこちらを舐めない方が良いですよ。
俺は明久に返球し二球目の指示を出す。
そして明久が振りかぶり、第二球目を振りかぶり投げる。
二球目は外角高めにボールが向かってくる。
相手も今度もバットを振ってくるが、ボールがバットに当たる直前にククッとボールが曲がる。
カキン、と小気味良い音をたてて宙へ上がるボール。
相手もまさか変化球がくるとは思ってもいなかった様子だ。
高く上がったボールは特にそのまま伸びる事もなく、前進した光一にキャッチされて終わった。
堀田「く・・・っ!」
悔しげに先輩がベンチに戻っていく。
常村「よし。俺の出番だな。試獣召喚(サモン)っ」
【現代国語】
2-F VS 3-A
吉井明久 118点 常村勇作 223点
常夏島トリオの1人で、先ほどキャッチャーをしていたソフトモヒカン頭の先輩だ。
こっちも一応、Aクラスだけあって点数も高い。
常村「さてと。吉井に坂本に織村・・・! 溜まりに溜まった今までの屈辱、
きっちり利子つけて返してもらうぜ・・・っ!」
モヒカン先輩が俺達を睨みつけてくる。
正直、自業自得だと思うのだが・・・まあ、この先輩たちに言っても無駄なだけか・・・
貴浩≪一球目は外していくぞ≫
俺はミットを構える。その場所は、バットの届かないくらいの外角だ。
明久が大きく振りかぶり第1球を投げる。
すると、モヒカン先輩はわざとらしいほど大きくバットを空振った。
常村「っと、手が滑った!」
空振ったと思われたバットが止まらずに回転して俺の召喚獣に放り投げてきた。
【現代国語】
2-F VS 3-A
織村貴浩 277点 常村勇作 223点
常村「なっ!?」
貴浩「危ないですね先輩」
俺は放り投げられたバットを左腕で防ぎ、ボールは右手でキャッチした。
やはり、バットを素手で防いだのと、いくら明久の点数でも素手でボールを取るのは
少し無茶だったので点数が減ってしまったようだ。
常村「わ、悪いな織村。わざとじゃないんだが」
審判の姿を横目で見ながら確認しながら俺に声をかけるモヒカン先輩。
今のが故意だと判断されたら退場になる。
モヒカン先輩はそれを恐れて心にもない謝辞の言葉を口にしたのだろう。
貴浩「・・・いや、気にする事はないですよ。スポーツに事故はつきものですから」
常村「そうか、織村は心が広いな」
貴浩「いやいや、それほどでもないさ」
そして、俺は右手で掴んでいたボールを明久へと返球した。
【現代国語】
2-F VS 3-A
織村貴浩 277点 常村勇作 151点
まあ、投げた時にボールがスッポ抜けてモヒカン先輩の召喚獣に衝突したけど。
貴浩「すみません先輩。先ほどの捕球でまだ手が痺れていたらしく、
ボールがスッポ抜けてしまいました。けど、スポーツに事故はつきものですからね?」
常村「く・・・っ! そ、そうだな。このくらい笑って許してやるよ」
こめかみに青筋を浮かべんばかりのモヒカン先輩。
掴みかかりたいけど審判の手前仕方なく堪えている、といった感じだろう。
『君達。試合に集中しないさい。小競り合いするようなら2人とも退場にしますよ』
「「・・・・・・」」
審判の先生に咎められ、それ以上何も言えずそれぞれの役割に戻る。
今度は遮ることなく明久にボールを返球する。
投球する前に雄二の合図を確認する。
雄二≪そろそろ仕掛けるぞ≫
貴浩≪了解≫
雄二からついにきた攻撃の合図。俺は明久に合図を出す。
常村「来い、吉井」
モヒカン先輩が身体をマウンドに向けて開いた状態で構えている。
あの構え・・・ピッチャーに向かってでも、キャッチャーに向かってでも、
バットを投げやすい姿勢だが───多分、向こうの狙いは俺だろう。
先ほどのやり取りで相当ムカついてる筈だからな。
バッターとの間に緊迫した空気が流れる中、明久が投球を行った。
バッターの脳天目指して飛んでいくボールと、キャッチャー目がけて振り切られるバット。
互いの渾身の一撃は、それぞれの目標に対して吸い込まれるように命中した。
『───デットボール』
てん、てん、とボールが地面に転がる。
そして、俺たちの攻撃の結果が表示される。
【現代国語】
2-F VS 3-A
織村貴浩 107点 常村勇作 32点
雄二「明久テメェ! あと少しじゃねぇか! しっかり殺れよ!」
お互いに100点は点数が引かれていた。
常村『っていうかテメェら、今のわざとだろ! 先輩に向かって良い度胸じゃねぇか!』
雄二『何言ってやがる! そっちが先に仕掛けてきたんだろうが!
肝試しに負けたのを根に持ちやがって! 器が小せぇぞ先輩!』
島村『んだと!? 上等だ! こうなりゃ野球なんて面倒な事やってねぇで、直接───』
貴浩『望むところだ。元々お前ら3人は気にくわなかったんだ。ここらで一発───』
常夏島トリオと俺達Fクラス男子との間で声が上がる。
元々お互い良い感情を抱いていない相手だ。
こうした事で敵意が強まるのは仕方がないな。
これも雄二の目論見通り、そろそろ乱闘の開始だろう・・・
学園長「おやめバカどもっ!」
そこで、しわがれた声が割って入ってきた。
学園長「やれやれ、つくづく救えないガキどもさね・・・。
どうして召喚獣勝負にまでしてやったのに、おとなしくできないんだい」
そう言って額を押さえているのは、毎度お馴染みの妖怪ババァこと学園長だった。
雄二「なんだババァ。何をしに来たんだ?」
学園長「学園長と呼びなクソガキ。
まったく・・・組み合わせを聞いて人がちょい様子を見に来たらこのざまかい。
折角、来賓だって召喚野球に満足してくれたんだ。
この後におよんでアンタらがバカやって評判を落とすんじゃないよ」
夏川『止めないで下さい学園長! 2-Fのクズどもに礼儀と常識ってヤツを
叩き込む必要があるんです!』
島村『そうだ! 2-Fのクズどもなんて社会のゴミなんですよ!
だから、俺達が教育してやる必要があるんです!』
雄二『こっちこそもう我慢ならねぇ! 人のことを散々バカにしやがって!
ババァ! この先輩面したカスどもを殺らせて下さい!』
貴浩『お前らが人の事をとにかく言える立場じゃねぇだろうが!』
学園長「だからお止めって言っているんだよ! クソガキども!」
言い争う前に学園長が再び一喝を浴びせる。
流石に年の功というべきか。その場にいる全員が黙り込んだ。
学園長「本当に、このガキどもときたら・・・。召喚獣の痛みが返って来ないから、
そんな短絡的に乱闘へと雪崩れ込むのかねぇ・・・」
呆れたように頭を振り、俺達を見てしばらく考え込む学園長。
そして、意を決したように腰に手を当て、こんなことを告げてきた。
学園長「よし、決めたよ。この試合だけ、召喚獣の設定を変えてやろうじゃないか」
「「「は?」」」
その場の全員が異口同音に聞き返す。
学園長「今回だけ、全員に痛みがフィードバックするようにしてやるって言ってんだよ。
そうしたら、乱闘なんかせずにまともに試合をするだろう?」
召喚獣に痛みがフィードバックする───
要するに、皆の召喚獣が俺や明久と同じような設定になるってことだよな。
学園長「じゃあ、そういうことだよ。全員真面目にしっかり野球をやりな」
そう言って手を振ると、学園長は校舎に向かって歩き去っていった。