バカと俺達の召喚獣   作:ターダン8

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獲物と生とギブアップ

楓「今度こそ、目標のところへ」

 

楓が投げた球は、俺と先輩の間を通り過ぎていった。

 

「「・・・・・・えっ?」」

 

俺も先輩もボールに反応することができず、ただ呆然と立ち過ごしていた。

 

『ボール』

 

審判がボールを宣言する。

いやいや、もうボールとかストライクとか関係ない。

ってかさっきの球に、まったく反応できなかったし。

ボールが指先から離れたと思ったらもう俺と先輩の間を通り抜けていったんだぞ・・・

 

島村「替えろ坂本! あのピッチャーを今すぐ替えろっ!!」

 

雄二「何を言うんだ先輩。徐々に狙いがシャープになってきてるというのに」

 

島村「その狙いがキャッチャーミットだと思えねぇんだよ!」

 

それは俺も同感だ。絶対先輩を狙っているだろう。

 

楓「うぅ・・・難しいですね。

  兄さんを信用しないと、それにもっと集中しないといけませんね・・・」

 

そして、戻されたボールを握りしめて、更に驚くべき行動に出た楓。

あ、あの楓様・・・な、なにをなさっているのでしょうか?

 

島村「ちょ、ちょっと待て! あのピッチャー目を瞑ってねぇか!?」

 

雄二「違う。アレは信頼関係の現れだ」

 

明久「そうだよ。キャッチャーである貴浩を信じてるからこそできる技だよ」

 

秀吉「それにあれはおそらく精神統一の一種じゃ。

   楓はああすることで物凄く集中力が増すのじゃ」

 

島村「だからって目ぇ瞑ったらそのリードが全くわからねぇだろうが!」

 

光一「それは大丈夫だ。楓殿と貴浩殿は兄妹だから、目を瞑っていても相手のことがわかるんだ。

   それに達人は目で見えなくても気配で獲も──相手の居場所を探り当てることができる。

   楓殿ならそれくらいできても不思議じゃない」

 

島村「居場所を探り当ててどうするんだよ! 必要なのはストライクゾーンだろ!?

   ってかお前今、獲物って言いかけなかったか!?」

 

明久「光一に変な言いがかりをつけないで下さいよ獲物先輩」

 

島村「言っただろ!? 今思いっきり獲物先輩って言っただろ!?」

 

その獲物と呼ばれる中にまさか俺は入っていないよな・・・信じていいよな楓。

 

秀吉「先輩うるさいぞ。楓が集中できないではないか」

 

楓「すぅ・・・はぁ・・・すぅ・・・はぁ・・・大丈夫。私なら目標に投げられます」

 

秀吉「大丈夫じゃ楓。臆さず投げるといいのじゃ」

 

雄二「ああ、自分と貴浩を信じろ」

 

明久「楓ならきっとできるよ」

 

楓「はいっ!」

 

貴浩「お前らぁああ!!」

 

もう既に俺の言葉もサインも届かないだろう。

 

貴浩「し、仕方がない。楓が投げた瞬間に思い切り横に飛ぼう。

   運がよければ助かるはずだ・・・」

 

島村「き、きたねぇぞ織村。1人だけ助かろうってか!

   ってか、さっきまでお前諦めてただろうが!」

 

貴浩「すみません先輩。俺は生きなきゃいけないんだっ!」

 

島村「さっきと言った事と違うじゃねぇか!?」

 

貴浩「俺は生きるんだ!」

 

楓「行きますよ兄さん!」

 

投げる直前、楓が目を見開いて全力でボールを叩き込んできた。

俺はそれと同時に先輩がいる方向とは逆方向に横っ飛びする。

 

 

そしてボールは、

 

全力で、

 

大威力で、

 

超剛速球を。

 

 

 

───オールバック先輩の、召喚獣の頭に。

 

 

貴浩「・・・・・・・・・うわぁ・・・・・・・」

 

皆さんは、初夏に花を咲かせる、ザクロという果物をご存知だろうか。

甘くて少し酸味のある、鮮やかな赤い果物だ。

木になって熟したそれは、たまに収穫される事なく地面に落下して、

道路上で潰れていたりする。赤い果肉と果汁を、辺り一面に飛び散らせて。

今俺の目の前に映る打者の姿は、なぜかそんな光景を彷彿させた。

 

 

【現代国語】

 2-F       VS   3-A

 織村楓 497点       島村辰彦 DEAD

 

 

島村「ひでぇ、よ・・・・あの女、絶対・・・悪魔だよ・・・」

 

無残な姿に変わり果てた自らの召喚獣の隣で、痛みで意識を失いかけた先輩が倒れている。

何を失礼な。楓は悪魔なんかじゃない女神だ。

だから今のは女神からの天罰なんだ。

 

『バッター、ネクスト』

 

審判が淡々と次の打者を促す。

3-Aのベンチを見てみると先ほどの光景を見て

殆どのメンバーが下を向いて審判から目を背けていた。

 

『へいへい、バッタービビッてる!』

 

どこからかヤジが聞こえてくる。

ふっ・・・。びびっているのがバッターだけだと思うなよ。

さっきまではわざと狙っていたからあんな投球だったが、今度からは真面目に投げるだろう。

そう、俺のキャッチャーミットに目がけて投げてくるはずだ。

そうならば、俺も須川と同じ目にあうのが目に見えている。

 

『『『3-A、ギブアップします!』』』

 

そこで、3-Aベンチからギブアップ宣言が聞こえる。

な、なんとか生き残ることができたか・・・先輩ナイスな判断でした・・・お互いに・・・

 

 

2名の打者に対してデットボール2つ、犠牲者4名、

傷害率200%を叩き込んだFクラス投手、織村楓は試合後、俺たちの隣でこう語った。

 

楓「これで、少しは反省してくれると嬉しいですが・・・

  また同じような事になればもう少し本気でやらないといけないですから」

 

「「「・・・・・・・・・」」」

 

 

今回の教訓

【絶対、何があっても楓は怒らせてはいけない】

 

 


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