バカと俺達の召喚獣   作:ターダン8

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5/12 修正


勝負と敬遠と三振

『プレイ』

 

試合が再開される。

ピッチャーは俺、キャッチャーは明久。

迎えるバッターは5番、保健体育教師の鈴村先生だ。

 

≪ど真ん中、ストレートでいくぞ≫

 

≪了解≫

 

俺の召喚獣が投球モーションに入り、その1球目を力強く投げる。

 

ズバン!

 

とミットから乾いた音が鳴り響く。

ミットの音が聞こえたという事は明久は無事捕球できたということだな。

 

   

【日本史】

 2-F       &   2-F

 織村貴浩 632点      吉井明久 459点

 

 

『ストライク』

 

少し遅れて審判のコール。

鈴村先生は俺の球に反応できずにいた。

これでも日本史は得意科目の1つだ。

それを全力で投げているんだ。そう簡単には打たれてなるものか。

 

明久「ナイスボール! このまま遠慮せず全力で」

 

貴浩「ああ! 捕球ミスするなよ!」

 

明久「モチ!」

 

≪外角 低め フォークですぐいくぞ≫

 

俺はボールを受け取るとすぐにアイコンタクトを送り、すぐさま投球する。

俺の球は指示したとおりにミットに到達する。

 

『ス、ストライッ!』

 

≪危ないじゃないか! すぐに投げるからさすがに焦ったよ≫

 

明久がボールを返球しながらアイコンタクトを送る。

 

≪ぬるいこというな。お前が言ったんだろ。遠慮せず投げろって≫

 

≪・・・上等! 絶対に捕ってみせるよ≫

 

≪頼むぜ。最後は内角 高め ストレートいくぞ≫

 

貴浩「さて、先生方。手前勝手ですみませんが、こっちも色々事情が変わりましてね」

 

俺はそう口にすると共に3球目を振りかぶる。

その直後、明久が構えていたミットにズドンっと重い音を立てボールが収まっていた。

 

『ストライク、バッターアウッ!』

 

これで三球三振。まずはアウト1つだ。

 

貴浩「これから先、誰も塁には出しませんよ」

 

さて、残り二つ。頑張っていきますか!

 

スタン「鈴村先生どうでした? 彼の球は?」

 

鈴村「ああ、たいしたもんだ。最後の球なんか手が出せなかった」

 

スタン「さすが織村ですね」

 

鈴村「スタン先生、心してかかったほうがいい」

 

スタン「ええ、わかってます。やるからには俺も全力でいきますよ」

 

スタン先生が鈴村先生と会話した後、バッターボックスに入る。

 

スタン「さあ来い織村! 俺も全力でいくぞ!」

 

明久≪どうする貴浩? 敬遠する?

   ここで無理しなくてもその後の2人で勝負したほうが安全じゃない?≫

 

貴浩≪いや、ここは勝負する。スタン先生を打ち取って完全に流れをこちらに引き込む≫

 

明久≪了解≫

 

貴浩≪まずは内角、普通、ストレートでいくぞ≫

 

俺はアイコントクトを送り投球する。

 

ズバン!

 

『ストライク!』

 

スタン先生は1球見送った。

 

スタン「直に見るとかなり速いな」

 

貴浩≪外角 低め スライダー≫

 

俺はボールを受け取るとすぐにアイコンタクトを送り、ボールを投げる。

 

スタン「ハッ」

 

キィン!

 

投げた球はスタン先生が振ったバットに当たる。

その打球は1塁線の外にバウンドする。

 

スタン「う~ん、振り遅れたか」

 

貴浩≪内角 低め フォーク≫

 

再びボールを受け取るとすぐに間髪いれずに投球に入る。

 

カキィーーン!

 

「「「!?」」」

 

投げた球はレフト線に飛んでいく。この高さならホームランだ。

 

貴浩「きれろー!」

 

ボールはレフトのポールの外側を通過し観客席に入る。

 

ふぅ~危ない。もう少しでホームランだった。

 

スタン「ん~、今度は少し速かったか・・・でも次は打つ」

 

スタン先生から凄い気迫が伝わってくるのがわかる。

生半可なコースや球を投げたら打たれる。

やはり、明久の言う通り敬遠したほうがいいか

・・・ここで無理しても・・・ピンチになるだけだ

 

秀吉「貴浩! 後ろは任せるのじゃ!

   どんなライナーが来ても体を張って受け止めるのじゃ!」

 

光一「守備は俺たちに任せて、投球に集中してくれ!」

 

俺が悩んでいると守備陣から声が上がる。

 

楓「兄さん、守備は私たちが何とかしますから全力で投げてください」

 

命「そうだよ。守備は任せて! それに貴浩君がもし打たれても私たちは非難しないよ」

 

光一「俺たちは貴浩を信じてます! だから全力で投げてください!」

 

明久「そうだよ貴浩! 貴浩はただ全力で僕のミット目掛けて投げてよ!」

 

少し気弱になってたみたいだ。

 

パァン!

 

俺は自分の顔を思い切り叩いて活を入れる。

 

そして、明久にアイコンタクトで指示し、4球目を投げた。

 

ズバンッ!!

 

直後、ストライクゾーンど真ん中に構えたミットの中に、

最高速度のストレートが突き刺さっていた。

 

『ストライク!バッターアウト!』

 

スタン「・・・まさか、まだ球速が上がるなんて・・・お見事だよ」

 

続く大島先生も三球三振に打ち取り、これで3アウトとなり交代だ。

さて、雄二のヤツは策を考えついたかな。

 

 

 

 

 

 

 

雄二「皆、よく守りきってくれた。こっちの攻撃はあと二回!

   きっちり点数をもぎ取って、俺らのお宝を取り戻すぞ!」

 

「「「おうっ!!」」」

 

この守備の間にいつもの調子を取り戻したようだ。

やはり雄二はこうでないと・・・雄二じゃなきゃこのFクラスのバカ軍団を引っ張っていけないだろ。

 

雄二「向こうにゃ点数では負けてるが運動能力じゃ決して負けてねぇ!

   若さってもんを見せてやれ!」

 

「「「おうっ!!」」」

 

雄二「これから先、俺はさっきまでのような腑抜けたような行動はしねぇ! 全力を出す!

   だから・・・・・・お前らも協力してくれ! 没収された大事な物を取り戻すために!合言葉は───」

 

「「「Get back ERO‐BOOK!!」」」

 

雄二「反撃行くぞお前ら!」

 

「「「っしゃぁーーっ!!」」」

 

いつもの雄二の鼓舞に否が応にも力が入る。

 

貴浩「で、雄二。策はあるのか?」

 

雄二「当たり前だ。何のためにお前らに時間をもらったと思っている」

 

貴浩「どんな策だ?」

 

雄二「なに、ルールに乗っ取った方法だ」

 

貴浩「ルールに・・・?・・・・・・あぁ、そういうことか、了解」

 

明久「なになに?どういう作戦なの?」

 

貴浩「後で教えてやるよ」

 

雄二「近藤、須川、秀吉!」

 

雄二が次の打順から始まる3人の打者の名前を呼ぶ。

呼ばれた3人は、それぞれ雄二の前に集まった。

 

雄二「作戦だ。いいか? どうせこのまままともに向こうとやりあったところで

   いくら貴浩や楓、光一の高得点者がいたところで勝ち目は少ねぇ。だから───」

   

そこで雄二が皆に作戦を伝える。

それをベンチで控えているメンバーに伝え、ある行動をとる。

 

明久「ってことはその作戦を実行するまでの時間を稼げばいいんだね」

 

雄二「ああ、そういうことだ」

 

秀吉「うむ、了解じゃ」

 

須川「エロほ───参考書のためだ。時間稼ぎくらいいくらでもやってやるさ」

 

近藤「その代わり、次の回はしくじるなよ」

 

三人は首を縦に振り、快く了承してくれる。

折角の出番で活躍できるのに、それでも時間を稼いでくれるなんて、

Fクラスのメンバーなんだとつくづく実感するな。

 

 

『エロ本、エロ本、エロ本・・・・・・』

 

『抱き枕、写真集、シャワーカーテン・・・・・・』

 

 

・・・・・・本当に、Fクラスのメンバーだなぁ・・・

 

 

『プレイッ!』

 

バッターボックスに入るまでの時間を反則にならない程度まで引き延ばし、

1番打者である近藤が召喚獣に構えを取らせる。

バットを短く持って、カットを続けて時間を稼いでくれる。

 

貴浩「雄二、仕込みはできてるのか?」

 

雄二「バッチリだ。クラスの連中にもちゃんと指示を出してある。

   あとは時期が来るのを待つだけだ」

 

明久「そうなんだ。3人には粘ってもらわないとね」

 

俺たちは雄二と話し合いながら、祈るように試合を見守る。

相手は教師チームら。時間稼ぎすら上手くいくかどうかわからない。

 

『ストライッ!バッターアウト!』

 

近藤「ぐ・・・」

 

気が付けば近藤は追い込まれ、何とか食い下がるも、敢え無く三振に終わった。

 

続く須川もカウントをフル使って粘りに粘るも、絶妙なコースに剛速球を叩き込まれて凡退。

残るバッターは秀吉1人になった。

 

明久「そろそろ来てもいいと思うんだけど・・・」

 

雄二「あと少しだ。あと少しで始まる。頑張ってくれ秀吉・・・!」

 

貴浩「今の秀吉の技術ならできるはずだ・・・頑張れよ秀吉」

 

『ファール!』

 

話している間にも試合は続いていく。

コンパクトにバットを振り続ける秀吉は、必死に食らいついていた。

校舎に掲げられてる時計が、午後2時28分を指している。

秒針が無いせいか、時間が過ぎるのがゆっくりに感じられる。

残り2分がやけに長く感じる。

 

『ファール!』

 

今ので20球は超えただろう。

カウントは2ストライク2ボール。向こうはまだボール球を投げてくる余裕があるのに対し

こちらは一球たりともミスはできない。

流石にこう何度も先生の球をカットを続けていると、秀吉の集中力も落ちてくるだろう。

 

光一「まだか・・・まだなのか・・・」

 

貴浩「あと少しのはずなんだ。頑張ってくれ秀吉」

 

今の俺たちには祈る事しかできない。

 

カキン

 

『ファール』

 

ボールが投げられるたびに、背中に冷たい汗が流れる。

いつ秀吉が打ち取られてもおかしくない。

手に汗を握り、俺は次の打者なのでネクストバッターサークルで待機し、

時期の到来を心待ちにしていると───

 

康太「・・・・・・・・・来た」

 

雄二「っ!!」

 

雄二がムッツリーニの言葉に反応して校舎に取り付けられたスピーカーを見る。

 

 

『───ジジ・・・・・・ジ・・・・・・』

 

そのスピーカーからノイズ混じりの音が聞こえる。

 

雄二「来たかっ!」

 

雄二が嬉しそうに声をあげる。

そして一瞬送れて、アナウンスが響き渡った。

 

『これより、中央グラウンドにて、借り物競争が始まります。出場選手の皆さんは、所定の場所に───』

 

『『『来たぁっ!!』』』

 

クラス皆の声が重なる。

その直後、秀吉が打ち上げた球を捕球されて、ついにアウトになってしまう。

これでチェンジだが・・・・・・目的は果たした。

 

 

 


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