明久がヒットを放ったのでノーアウトランナー満塁のチャンスだ。
俺は教師陣の守備の目を向けるとセンターがライトよりに近づくているのが見えた。
貴浩と光一、明久の3人が狙ってライトに打ったから警戒が増したようだ。
ライトに守備を固めてきたな。これじゃあライトに打つのもきついな。
貴浩「さて、雄二。明久も無事進塁したな。
これで明久の貸しが1つ減ったんじゃないか?」
雄二「へっ、ほざけ。アイツへの貸しが一体いくつあると思ってるんだ」
貴浩「そりゃそうだ・・・・・・あとは任せたぞ。俺たちの仕込みは終えたんだ」
雄二「わかってる。後は任せろ」
雄二は俺とハイタッチしてからバッターボックスに向かう。
雄二がどっしりとバットを構えて、相手の投球を待つ。
カウントはノーアウト、ランナー満塁だ。
残り3点、ランナーを一掃すれば逆転勝利だ。
これは最高のお膳立てだぞ。キッチリ決めろよ雄二。
大島先生はランナーを見回し、ゆっくり投球を始める。
一球目が、大島先生の手から離れた。
『───ト─ライッ!』
ストライクの宣告が高らかに響く。
ベンチから見てもかなりの球速なのがわかる。
ノーアウトランナーが満塁なので、闘志がより増したのだろう。
『ボールッ』
二球目は低めに外れたボール。
雄二は手を出すことなく見送る。これでカウントは1-1だ。
誰もが固唾を飲んで見守る三球目。
雄二が後ろ足に体重を乗せ、一気に爆発できるように溜めを作る。
そして、大島先生が大きく身体を乗り出して、腕を振り抜いた。
唸りを上げてバッターに迫る速球。
軸足に体重を移し、身体全体でバットを振る雄二。
───キィンッ!
快音がグラウンドに響いた。
「「「────っ!!」」」
その瞬間、ムッツリーニ、光一、明久の3人が全力で次の塁に向かって全力で走り出す。
打球の行方はセンターとレフトの奥の方にボールが飛んでいく。
ライト寄りに守っていたセンターの寺井先生が慌ててボールを追っていく。
これが俺たちによる仕込だ。ただ単に穴であるライトを狙っていただけではない。
守備が少しでもライトよりに守りを固めるようにするための策だ。
その間に3塁にいた光一はホームに帰還し、
ムッツリーニも3塁を蹴りホームを、そして明久も2塁を蹴り3塁を目指していた。
寺井「鈴村先生っ!」
ボールを拾った寺井先生は中継に入った鈴村先生にボールを託したようだ。
その間に、ムッツリーニがホームを踏む。これで3対3同点だ。
そして鈴村先生がボールを受け取り、
ホームベースを守る鉄人の元に投げようとしたところで、
明久は3塁を蹴りホームを目指した。
『『『吉井っ!?』』』
「やべぇ吉井ーっ! いったん戻れ!」
「そうだ。とりあえず同点になったんだ。まだ挽回できる!」
いや、今は、まだノーアウトだが、あの教師陣だ。
地力の差からいってここで同点なら俺たちの負けだろう。
明久は必死にホームを目指す。ホームベースまであと少しだ。
そこで、鉄人がボールを受け取った。
ベースに飛び込もうとする明久を前に、向こうはブロックの体勢。
これはクロスプレイになるかもしれない。
体当たりでボールを零せば明久の勝ち。完全にブロックをしたら鉄人の勝ち。
明久「っっっ!!」
明久が姿勢を低くし、前のめりになって衝突に備える。
鉄人も同じように衝突に負けないように体重を前にかけようとした。
その時
明久「───っ!」
明久は身体を横にずらし、回り込むように鉄人の前から姿を消した。
西村「っ!? く───っ!」
衝突に備えて体重を前に残した鉄人は咄嗟の明久の行動についていけない。
動きが遅れたその一瞬で、明久は身体を前に投げ出して必死に腕をホームベースに伸ばした。
土煙が上がり、居合わせた全員が息を呑む。
そして審判が結果を高らかに告げた。
『───セーーフ! ホームイン!! サヨナラ2-Fのサヨナラ勝利です!!』
「「「いよっしゃぁああーっ!!!」」」
Fクラスベンチが全員立ち上がって鬨の声をあげた。
雄二「よくやった明久!」
明久「よかったね雄二」
雄二「・・・ああ、ありがとよ」
貴浩「よっしゃー! 皆、果敢にホームに帰還した明久を命がけ胴上げだーっ!!」
「「「おおおーっ!!」」」
そこで明久を囲うように皆が集まる
明久「わっ!・・・はははっ・・・・・・ん・・・命がけ?」
「「「ワッショイ! ワッショイ!」」」
明久「ってわーーーー! 死ぬ死ぬ死ぬ! この高さはやばいって!」
俺たちは明久を数mの高さまで空へ投げ出されていた。
「「「ワッショイ! ワッショイ!」」」
明久「いやーっ! おろしてーー!」
命「ああ、明久君!」
「「「ワッショイ! ワッショイ!」」」
明久「たすけてー!」
「「「横ワッショイ!」」」
最後に上ではなく横に向かって投げ出す。
「「「吉井ー、吉井ー」」」
明久「・・・・・・何この仕打ち。頑張って帰還したのに・・・ガクッ」
命「わー! 明久君! 明久君! 大丈夫!」
投げ出された明久の元に命が急いで駆け寄っていく。
貴浩「明久の癖に調子に乗るな・・・ペッ」
楓「いや、兄さんから胴上げしてましたよね」
貴浩「てへぺろっ♪」
楓「笑って誤魔化さないでください」
貴浩「つい、ムシャクシャしてやった・・・だが反省はしない」
楓「それ・・・性質が悪くないですか・・・」
貴浩「・・・・・・よしっ! 次は雄二だっ! 皆かかれーっ!!」
「「「おおおーっ!!」」」
雄二「い、いや、俺は遠慮───おわっ!」
今度は雄二を取り囲み胴上げを繰り広げる。
「「「ワッショイ! ワッショイ!」」」
雄二「お、おい!」
「「「ワッショイ! ワッショイ!」」」
雄二「お、おい、やめろっ! おろせ!」
数回命がけの胴上げを繰り広げたところでやめる。
そして最後にきちんと整列し
『2年Fクラス対、教師チーム。4対3で2-Fの勝利です!』
『『『ありがとうございましたッ!!!』』』
こうして俺たちの野球大会は幕を閉じた。