砂原《それでは【如月グランドパークウエディング】プレゼントクイズを始めます!》
俺と翔子の間に大きなボタンが1つ設置されている。
コレをおしてから解答するというオーソドックスなシステムのようだ。
正解したらプレゼント、ということは、間違え続けたら無効になるのだろう。
それなら俺が間違え続けるとするか・・・
砂原《ではあ、第一問!》
ボタンに手を伸ばす用意をし、問題を待つ。さて、どんな問題が来るんだ?
砂原《坂本雄二さんと翔子さんの結婚記念日はいつでしょうかっ?》
・・・・・・おかしい。問題文の意味がわからない。
―――――ピンポーン!
し、しまった。油断しているうちに翔子が勝手にボタンを!
だが、いくらコイツでも正解の存在しない問題に答えなんて―――
砂原《はいっ!答えをどうぞっ!》
翔子「・・・・毎日が記念日」
雄二「やめてくれ翔子!恥ずかしさのあまり死んでしまいそうだ!」
砂原《お見事!正解です!》
しかも正解!?砂原を睨みつける。
すると、砂原は観客に見えない角度で、俺に向かって片目を瞑ってきた。
さては・・・・・出来レースかっ!
そこまでして俺たちにウエディング体験とやらをさせたいのか!?
いいだろう。それならば俺は間違えて見せよう!
砂原《第二問!お二人の結婚式はどちらで挙げられるでしょうかっ?》
――――ピンポーン!と素早くボタンを押し、マイクに口を寄せる。
不正解を出すなんて、造作もないこと!
砂原《はいっ!答えをどうぞっ!》
雄二「鯖の味噌煮!」
砂原《正解です!》
雄二「なにぃっ!?」
馬鹿な!?場所を聞かれたのに鯖の味噌煮が正解なのか!?
砂原《お2人の挙式は当園にある如月グランドホテル・鳳凰の間、
別名【鯖の味噌煮】で行われる予定です!》
雄二「待ていっ!絶対その別名はこの場で命名しただろ!強引にも程があるぞ!」
砂原《第三問!お2人の出会いはどこでしょうかっ?》
ダメだ、聞いてねぇ・・・・・!だが、向こうのやり口はわかった。
今度は確実に間違えてみせる。翔子が動くより早くボタンを押し、間違った解答を―――――
翔子「・・・・・させない」
ブスッ
雄二「ぎゃあぁぁぁ!?目が、目がぁっ!」
――――ピンポーン!
砂原《はい、解答をどうぞ!》
翔子「・・・・小学校」
砂原《正解です!お2人は小学校からの長い付き合いで
今日の結婚までに至るという、なんとも仲睦まじい幼なじみなのです!》
今、俺が目を突かれたのは見えてないのか!?
どこをどう見たら仲睦まじいという言葉が出てくるんだ!
問題を聞いてから動き出すようでは遅すぎるようだ。
翔子の妨害が間に合わないタイミングで解答する必要がある。
砂原《第四問に参ります!》
――――ピンポーン!
問題文が読み上げられるよりも先にボタンを押し、
妨害が入る前に解答を済ませる!どんな問題が来るかはわからんが、
【わかりません】と解答したら100%間違いになるはず!
雄二「――――わかり」
砂原《正解です!それでは最終問題です!》
うぉっ!?俺の解答を無視したぞ!?問題を無視した仕返しか!?
もはや間違えることは不可能だ、と諦めそうになったその時
『ちょっとおかしくな~い?アタシらも結婚する予定なのに、
どうしてそんなコーコーセーだけがトクベツ扱いなワケ~?』
不愉快な口調の救いの神が現れた。その場の全員が声の主を探る。
すると、彼らは呼ばれてもいないのにステージのすぐ近くまで歩み寄ってきていた。
砂原『あの、お客様。イベントの最中ですので、どうか――――』
『あぁっ!?グダグダとうるせーんだよ!オレたちはオキャクサマだぞコルァ!』
どこかで見た連中だと思ったら、入場口で似非野郎に絡んでいたチンピラどもか。
『アタシらもウエディング体験ってヤツ、やってみたいんだけど~?』
砂原『で、ですが――――』
『ゴチャゴチャ抜かすなってんだコルァ!
オレたちもクイズに参加してやるって言ってんだボケがっ!』
『うんうんっ!じゃあ、こうしよーよ!アタシらがあの二人に問題出すから、
答えられたらあの二人の勝ち、間違えたらアタシらの勝ちってコトで!』
慌てるスタッフや貴浩たちをよそに、そのカップルはズカズカと壇上に上がり、
設置してあるマイクの一つをひったくる。これはチャンスだ。
この連中が相手なら間違えられることができる。
あとは翔子の妨害を邪魔しておけば・・・・!
翔子「・・・・・・ゆ、雄二・・・・・・?」
解答者席の陰で翔子の手を握る。これで目潰しは出来ない。
あとは向こうの問題に間違えるだけだ!
『じゃあ、問題だ』
チンピラがわざわざ巻き舌の聞き取りにくい発音で言う。
『ヨーロッパの首都はどこだか答えろっ!』
雄二「・・・・・・・・・・・・・・」
言葉を、失った。
『オラ、答えろよ。わかんねぇのか?』
確かにわからないと言えばわからない。俺の記憶では、
ヨーロッパは国というカテゴリーに属していたことは一度もないのだから。
その首都を答えるなんて不可能だ。
砂原《・・・・・・坂本雄二さん、翔子さん。おめでとうございます。
【如月グランドパークウエディング体験】をプレゼントいたします》
『おい待てよ!こいつら答えられなかっただろ!?
オレたちの勝ちじゃねぇかコルァ!』
『マジありえなくない!?この司会バカなんじゃないの!?』
バカップルがぎゃあぎゃあと騒ぎ立てる中、ステージの幕が下りてくる。
前の明久以上、またはFクラス以上のバカがいるとは世界って広いもんだな・・・・。
「おメデとうございマス。ウェディング体験が当たるなんテ、ラッキーでスね」
翔子「・・・・・・凄く嬉しい」
雄二「そういえば翔子。お前の持ってきた鞄は何が入っているんだ?
随分と大きいが」
翔子「・・・・・・別に、なんでも・・・・・」
翔子が少し困ったように答える。何かあるのだろうか?
「翔子サン、ウェディング体験の準備があるノデ、
このスタッフについていってもらえマスか?」
いきなり似非野郎の後ろから女性のスタッフが歩み出て頭を下げる。
いかにも業界人といった風貌の人だ。
「初めまして。貴方のドレスのコーディネートを担当させて頂きます。
一生の思い出になるようなイベントにする為、お手伝いをさせてください。」
そう言ってスタッフは翔子に笑顔を向けた。おいおい、随分と本格的だな。
まさかスタイリストまでつけてくるとは。
となると、如月ハイランドの狙いはアトラクションじゃなくて最初から
このウェディング体験だったってことか。
どうやら今からの時間を目一杯使って結婚式の擬似体験をさせてくるようだ。
雄二「ってことは、俺は長い時間待たされるのか?」
ドレスを着てメイクをするってことは数時間もかかるような大作業になるだろう。
その間俺は何していればいいんだ?
「ご安心下サイ。如月グループの誇る新しい技術を使うノデ、
メイク等にアマリ時間は掛かりませーン。それに・・・・・」
新技術?そんな物使って大丈夫なのか?
それになんだ!?嫌な予感がする。
「坂本雄二サンは逃亡を考えるだろうカラ、
コレで気絶させてカラ着替えさせるように、とある方らの指示デース」
そういって野郎が取り出したのは、スタンガン
雄二「た、たかひろぉぉぉぉぉ!!」
「少しガマンして下サーイ」
首の後ろでバチンッと大きな音が響き、俺は意識を失った。