バカと俺達の召喚獣   作:ターダン8

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ウエディング体験②

砂原《それではいよいよ本日のメインイベント、ウエディング体験です!

   皆様、まずは新郎の入場を拍手でお迎えください!》

 

ここで盛大な拍手が聞こえる

 

刀麻「坂本雄二さん、お願いします」

 

舞台袖でスタッフ(刀麻)が耳打ちしてきた。

コイツをブチのめして逃げてやろうか。

 

刀麻「抵抗したら、海栗とタワシの活け作りを雄二の実家に送るぞ」

 

くっ。そんな物を送られたら、

あの母親はきっと全部海栗だと勘違いしてタワシにも手を出してしまう……!

 

雄二「やれやれ・・・・・・。まぁ、あくまでもただの体験だしな。

   適当に付き合ってさっさと終わらせるか・・・・・・」

 

油断を誘うため、刀麻に聞こえるように諦めの言葉を呟く。

 

恐らくこいつらの狙いは、指輪交換から誓いのキスまでの一連のシーンだ。

それらを大々的にメディアに発表することで、

俺と翔子を世間的に結婚させるつもりだろう。

 

確かに世間でそういった目で見られてしまえば、

違うやつと歩いているだけで何を言われるかわかったもんじゃない。

 

いやらしいが巧いやり方だ。

 

だがそれなら、俺は誓いの言葉に入るまでの間に脱走したらいい。

 

好都合にも衆目の前だ。ちょっと大げさに仮病でも使ってやれば、

相手側も式を断念せざるを得ないだろう。

 

この場を逃れたらあとはどうとでもなる。

 

刀麻「さァ、どうぞ」

 

雄二「あいよ」

 

小さな階段を昇る。

そのままステージに上がると、その光景に一瞬眩暈がした。

 

雄二「おいおい・・・・・・なんだよこのセット・・・・・・」

 

数え切れないスポットライトにライブステージのような観客席。

スモークの設備はおろかバルーンや花火の用意までしてあるように見える。

向こうにある電飾なんていくらかかってるか見当もつかん。

 

砂原《それでは新郎のプロフィールの紹介を――――――》

 

ん?俺のプロフィール紹介か。まるで本物の結婚式みたいだな。

目的のシーン以外の部分もきちんとしているようだ。さっきのクイズもそうだが、

きっと貴浩たちにでも聞いて細かく下調べを――――

 

砂原《―――――省略します》

 

手ぇ抜きすぎだろ。

 

『ま、紹介なんていらねぇよな』

 

『興味ナシ~』

 

『ここがオレたちの結婚式に仕えるかどうかが問題だからな』

 

『だよね~』

 

最前列に座っている連中からそんな声が聞こえてきた。

声の主は・・・・さっきクイズ会場で騒いでいたチンピラどもか。

しかし、最前列に座っているのに大声で会話とは。

外観に相応しいマナーの持ち主だな。

 

砂原《・・・・・他のお客様のご迷惑になりますので、

   大声での私語はご遠慮頂けるようお願い致します》

 

『コレ、アタシらのこと言ってんの~?』

 

『違ぇだろ。オレらはなんたってオキャクサマだぜ?』

 

『だよね~っ』

 

『ま、俺たちのことだとしても気にすんなよ。

 要は俺たちの気分がいいか悪いかってのが問題だろ?

 それに俺はあの有名な羽鳥グループの社員だぞ!!これ重要じゃない?』

 

『うんうん!リョータ、イイコト言うね!』

 

調子に乗って下卑た笑い声が一層大きく響きわたる。

主催側のイベントの邪魔になる要因は排除したいだろうに

――――やっぱりあれだけ騒ぐ連中だと手を出せないだろうな。

宣伝目的でやっているのに悪評を流されたら意味がないから仕方ないな。

ってか羽鳥の社員か。それはご愁傷様だな。

 

砂原《――――それでは、いよいよ新婦のご登場です!》

 

心なしか音量が上がったBGMとアナウンスが流れ、

同時に会場の電気が全て消えた。シモークが足元に立ちこめ、

否応なしに雰囲気が盛り上がる。・・・・・・ははっ。

コレで翔子に花嫁衣装が似合っていなければ興さめもいいところだな。

脱出はもう少し待つとしよう。折角来たんだ。

翔子のドレス姿くらい見ておくのも一興だ。

そんなことを考えながら待っていると、目が暗がりになれるよりも早く、

一条のスポットライトが点された。

 

砂原《本イベントの主役、霧島翔子さんです!》

 

アナウンスと同時に更に幾筋ものスポットライトが壇上の一点のみを照らし出す。

暗闇から一転して輝き出す壇上に、思わず目を瞑ってしまう。

そして、再び目を開けた時に飛び込んできた姿に俺は一瞬、言葉を失った。

幼い頃からの知り合いでありながらも今日この場で初めて出会ったような、

そんな感覚を抱かせるほどの見違えた姿。

彼女は花嫁と呼ぶに相応しくたおやかに佇んでいる。あれは・・・・・誰だ?

 

『・・・・・・・・綺麗』

 

静まり返った会場から溜息と共に洩れ出た、誰のものともわからない台詞。

だが、その言葉は何にも阻まれることなく壇上の俺のところまで届いてきた。

余程入念に制作したのか、純白のドレスは皺一つ浮かべることなく着こなされている。

スカートの裾は床にすらない限界の長さに設定されているようで、

アイツがステージの中央まで歩いてくる間、一度も床に触れることはなかった。

 

翔子「・・・・雄二・・・・・」

 

ヴェールの下に素顔を隠し、シルクの衣装に身を包む幼なじみが、

どこか不安げにこちらを見上げている。

胸元に掲げている小さなブーケが所在なげに揺れた。

 

雄二「翔子、か・・・・・・?」

 

翔子「・・・・・うん」

 

頭の中が真っ白になり、いわずもがなの質問が口をついて出た。

あまりの変わりように、確認せずにはいられなかったのかもしれない。

動揺する俺に、翔子は恥ずかしげに問いかける。

 

翔子「・・・・・・どう・・・・・?私、お嫁さんに見える?」

 

コイツが見知らぬ少女に見えたせいか、会場の雰囲気に飲まれたのか、

それとものかの要因か。俺は考えを巡らせることもなく勢いで返事をしてしまった。

 

雄二「ああ、大丈夫だ。とても似合ってるぞ、翔子」

 

先ほど頭に浮かんだ言葉なんて既にどこかへと飛んでいた。

似合っている、なんて言葉を付け加えられただけでも上出来だと思う。

 

翔子「・・・・・雄二・・・・・」

 

翔子は小さな声で俺の名を呼び、ブーケを抱え直した。

そして、その場で動きを止める。

 

雄二「お、おい。翔子・・・・・・?」

 

なんだ?様子がおかしい。俺の返事が何かマズかったか?

駆け寄るべきか、一瞬迷う。

すると、俺が迷ってる間に、翔子は再び言葉を紡いだ。

 

翔子「・・・・・嬉しい・・・・・」

 

目の前で少女が俯き、ブーケに顔を伏せる。

そして、それ以上は言葉を発することなく静かに震え出した。

 

砂原《ど、どうしたのでしょうか?

   花嫁が泣いているように見えますが・・・・・・?》

 

仕事を思い出したかのようにアナウンスが入る。泣いている?

言われてみて初めて気づく。俯いて肩を震わせて―――――翔子は静かに泣いていた。

 

雄二「お、おい。どうした・・・・・?」

 

ヴェールとブーケが邪魔で表情が見えない。なぜ急に泣き出したんだ?

会場から静寂が消え、観客の間に少しずつざわめきが生まれ出す。

そんな中、彼女は小さな、だがはっきりと聞き取れる声で呟いた。

 

翔子「・・・・・・ずっと夢だったから」

 

涙混じりのかすれた声。

 

砂原《夢、ですか?》

 

翔子「・・・・・・小さな頃からずっと・・・・・・夢だったから

   ・・・・。私と雄二、2人で結婚式を挙げること・・・・・。

   私が雄二のお嫁さんになること・・・・。

   私1人だけじゃ、絶対に叶わない、小さな頃からの私の夢・・・・・」

 

口数の少ない翔子が懸命に紡ぐ言葉は、俺に形容し難い何かの感情を喚起した。

幼い頃のある出来事がきっかけで抱かれた、コイツの俺への想い。

それは罪悪感と責任感からくる勘違いなはずなのに

―――――コイツはどうしてここまで強い気持ちを抱けるのだろうか。

 

翔子「・・・・・だから・・・・・本当に嬉しい・・・・・。

   他の誰でもなく、雄二と一緒にこうしていられることが・・・・」

 

そこまで言って、あとは言葉にすることができずに翔子は静かに泣いた。

 

砂原《どうやら嬉し泣きのようですね。花嫁は相当に一途な方のようです。

   さて、花婿はこの告白にどう応えるのでしょうか?》

 

どう応える?そんなものは決まっている。

場所がどこであろうと、時間がいつであろうと、俺がやるべきことはただ一つ。

コイツの勘違いを正してやることだ。頭ではそう考えている。

それなのに――――不思議なことに俺の口はあの言葉を紡ぐことが出来ずにいた。

 

雄二「翔子。俺は―――――」

 

『あーあ、つまんなーい!』

 

何かを言いかけたところで、観客から大きな声があがる。

俺は慌てて口を噤んだ。よくわからないが、どこかでホッとしている自分がいる。

ということは、これは俺にとって天の助けなのか。

 

『マジつまんないこのイベントぉ~。人のノロケなんてどうでもいいからぁ、

 早く演出とか見せてくれな~い?』

 

『だよな~。お前らのことなんてどうでもいいっての』

 

どうやら俺の窮地を救ってくれたのは最前列に陣取る馬鹿二人組みのようだ。

会場が静まり返っていたおかげで発言者がはっきりとわかる。

 

『ってか、お嫁さんが夢です、って。オマエいくつだよ?なに?キャラ作り?

 ここのスタッフの脚本?バカみてぇ。ぶっちゃけキモいんだよ!』

 

『純愛ごっこでもやってんの?

 そんなもん観るために貴重な時間割いてるんじゃないんだケドぉ~。

 あのオンナ、マジでアタマおかしいんじゃない?ギャグにしか思えないんだケドぉ』

 

『そっか!コレってコントじゃねぇ?あんなキモい夢、

 ずっと持ってるヤツなんていねぇもんな!・・・・・ゲフッ!てめぇ何しやがる!』

 

『リュ、リュータ、大丈夫!いきなり何すんのよアンタ!』

 

口々に文句を言い、翔子を指さして笑い始める2人組。

すると、そこに男の方を殴りかかった奴が1人。

それは俺が知ってる限り最も馬鹿なヤツ・・・・・・・明久だった

 

明久「・・・・・・・に・・・・・・・・・・・・のか?」

 

『ああん?何言ってんだよお前。』

 

明久「てめぇらに霧島さんの夢を笑える資格があるのかって言ってんだよ!」

 

それだけ言って、明久はもう一回起き上がった男を殴りつける

 

明久「霧島さんはな、この時をずっと待ってたんだぞ!

   あっちの馬鹿な新郎に心の中でずっと積もってた思いを打ち明ける日を!

   何年もかけて育っていったその大切な夢を

   お前らが馬鹿にして霧島さんを傷つけたんだ!」

 

『ハッ、用はここが俺達に使えるかどうか、それさえ確認できりゃあそれで良いんだよ!

 あんな女の事情なんて知った事か!』

 

明久「なんだと!」

 

砂原《お、お客様、落ち着いてください!》

 

命「落ち着いてよ、明久君!」

 

貴浩「今はひとまず落ち着くんだ明久!」

 

あの野郎・・・・俺と翔子の間に何があったかも知らないで・・・・・・。

・・・・・・・・・・・あの時からだな、俺が変わったのは。

ただ学力だけがすべてじゃない。

それを証明するために俺は神童から悪鬼羅刹になった。

そんなことのために学力であろうが、地位であろうが、

・・・・翔子への気持ちであろうが俺はそれまでのすべてを捨てた。

 

・・・・・なんだ、俺があいつから逃げているだけじゃないか。

あいつは俺に気持ちを伝えたいために追いかけてくる。

それから逃げ続けているだけ、ろくに向き合ってやらないで。

そしてあいつは今、俺に気持ちを伝えた。だったら俺は・・・・・・

 

砂原《は、花嫁さん?花嫁さんはどちらに行かれたのですかっ?》

 

チンピラどもと明久が暴れている席から翔子の方に目を向ける。

だが、この短い時間の間に翔子は壇上から姿を消していた。

さっきまで立っていた場所にブーケとヴェールを残して。ヴェールを拾い上げる。

それは羽根のように軽いはずなのに、

涙で湿って少し重くなっていた。

 

雄二「・・・・・・・俺が翔子に言わなくちゃならない事・・・そんなもん決まってる!」

 


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