TSっ娘は呪いを解きたい!   作:エイジアモン

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3.自分を知る

 

 森に入って少し経った頃、フレデリク達は油断していた、いや、正確にはフレデリクが男の時なら気付いていたであろう些細な空気の変化に気付けず、レオは気付いてはいたがフレデリクが反応しないなら問題無いのだろうと判断していた。

 

 歩幅が短く、少し後ろを歩くフレデリクにレオが振り返ったタイミングが丁度4匹のゴブリンが草陰から飛び出す瞬間だった。

 

「フレデリク!後ろ!」

 

 とっさに叫び、フレデリクへの攻撃を剣で打ち払い、対峙した。

 レオが後ろを振り返っていなければフレデリクはやられていただろうタイミングだった、運が良かったと言える、しかしここからが本番だ。

 フレデリクも慌てて剣を構えるも明らかに剣の重さを感じ普段のような安定感を感じられなかった。

 

 レオが周りを見渡し気配を探るがどうやら正面のゴブリン4匹だけのようだ。

 

 ゴブリンは人型の魔物の中で一番弱く、知能も低い。集団行動する事と武器を使う事さえ気をつければ武器の心得が無い成人男性でも1対1で追い払う事が可能な程度の強さだ。

 

 戦いさえ始まればいつもの調子に戻れると考えていたフレデリクは先陣を切る。

 

「先に仕掛ける!【身体強化】!はぁッ!」

 

 フレデリクは自身に【身体強化】を使用、身体が一瞬光りを帯びて、そのまま自分に一番近いゴブリンに狙いを定め上段に振り被った。

 【身体強化】を掛けてすら剣は重さを感じ、自分の動きは遅いと感じるほどだった。

 しかし剣を振り下ろすもゴブリンに躱され、さらに剣に身体が引っ張られて踏ん張りが効かず、バランスを崩す。

 

 その隙をゴブリンは見逃さずフレデリクに狙いが定まる。

 

 レオはフレデリクが動くと同時に息を合わせるようにフレデリクが狙ったゴブリンの右横にいるゴブリンに狙いを定め、剣を素早く振り下ろし、ゴブリンに致命傷を与えた。

 フレデリクを見ると剣を大きく振り上げ、ゴブリン目掛けて振り下ろす所だった。

 その剣の速度は昨日までと大きく違い、とても遅く、一直線に振り下ろせず剣がブレていて、レオには信じられない光景に思えた。

 フレデリクの剣はゴブリンにあっさり躱され、バランスを失ってたたらを踏む。

 

 

 ゴブリンの狙いがフレデリクに集中した瞬間、危険だと察知したレオは前方に居たゴブリンに【火炎】を放った。

 炎は2体のゴブリンを包み、燃焼させた。放って置いても絶命するだろう。

 

 そして、ゴブリンと対峙しているフレデリクの戦いを見守った。

 危なくなれば手助けする、だけどフレデリクの事だ、さっきは身体が馴染まずに失敗しただけだろう、今度は上手くやってくれる、そう信じたい気持ちがレオにはあった。

 だから、この戦いを見守る、そう決めた。

 

 残されたゴブリンはがむしゃらに棍棒を振り回し、フレデリクに迫る。

 棍棒を弾き、防いではいるが明らかに押されていて、剣に振り回されて、フレデリクには余裕が無く、いつ攻撃を受けても不思議じゃないほどに危なっかしい状態だ。

 これがあのフレデリクとは信じられなかった。

 

 見ていられない、もう見たくない。レオは無言でゴブリンを背後から袈裟斬りにし、終わらせた。

 

◇◆◇

 

「すまねぇ、助かった」

 

 乱れた金髪、乱れた呼吸を正しながら感謝の言葉を述べるフレデリク、しかしレオからの返事は無い、レオを見るとその瞳はフレデリクを見ておらず、どこか遠くを見て考え事をしているように感じられた。

 

 フレデリクが危惧していた事が、起こってしまった。

 

 気配も感じられなくなり、剣もろくに扱えないほどに、技術で補う事すら出来ないほどに非力で、加護で発現した【身体強化】も戦いにおいては誤差と感じる程度でしかなかった。

 もう、剣を持って戦う事など不可能なんだと、嫌というほど理解らされた。

 戦いだけじゃない、体力が無く、身体が小さく、動作が俊敏でも無い事、これは旅をするのにずっとついて回り、レオの足を引っ張り続けるという事だ。

 

 もう、旅なんて言ってる場合じゃない、すぐに家に戻り、大人しく過ごすべきだ。それが一番なんだ。

 そう思うと、情けなくて、悲しくて、申し訳なくて、涙が溢れてきた。

 

 情けなかった。

 あれだけ自信満々でいたのに実戦では全く役に立たないどころか奇襲を受け、危ない目に合った事が。

 薄々自覚していたはずなのにそれでも何とかなると思い上がっていた事が。

 レオにどうしようもない弱さを見せてしまった事が。

 

 悲しかった。

 感覚が鈍り、力も体力もバランスさえも、何もかもが弱くなっていた事が。

 もう呪いを解くことは出来ず、男に戻れない事が。

 レオに見限られそうになっている事が。

 

 申し訳なかった。

 自分を信じて任せてくれたのに期待に応えられなかった事が。

 足を引っ張るだけで何も出来なかった事が

 レオにそんな判断をとらせてしまっている事が。

 

 涙は止め処無く溢れ、フレデリクはまるで女の子のように泣きじゃくっている。

 そして「ゴメン、ゴメン」と謝り続けていた。

 

「フレデリク」

 

 不意にレオに声を掛けられ、フレデリクはビクリと反応する。

 レオの次の言葉が想像できてしまい、恐怖を感じる、嫌だ、聞きたくないと思ってしまう。

 まだ俺を見限らないでくれ、どんな事だってする、だから……。

 

「お願いが有るんだ、聞いてくれるかな」

 

 嫌だ、聞きたくない。

 本当は首を縦に振りたくない、だけど横にも振れない。……だから、頷く。

 

「もう剣を持たないで欲しい」

 

 ああ、終わった。

 目の前が真っ暗になったと感じる。

 剣を持つなとは、つまりはそういう事だ、ここで呪いを解く旅は終わって、村に戻るんだ。

 

「前に出て戦わないで欲しいんだ、これからは僕の後ろでアドバイスと【身体強化】をして欲しいんだ」

 

 ……え?

 

「そして、フレデリクには僕に剣を教えて、そして鍛えて欲しいんだ。僕たち2人の旅が上手く行けるくらいに強くなれるように、ね」

 

「……え、それって……」

 

「呪いを解くまではまだまだ先は長いからね、こんな所で立ち止まってられないよ」

 

「良いのか……それで……だって俺がいたら、足手まといじゃ……」

 

「何言ってるの、旅の目的を忘れたの?僕達2人で祠に入って、フレデリクが僕の分まで呪いを受けたじゃないか。そして2人で旅して、呪いを解く。それが目的でしょ」

 

「でも俺はきっとこの後もずっと足を引っ張る!そんな状態で旅なんて!」

 

 フレデリクは言いながらも心は期待していた、まだ自分を見捨てないレオに、良く分からない何か、嬉しいものを感じていた。

 そしてレオの決心を確かめるように不安要素を述べてしまっていた。

 

「大丈夫、その分僕を強くしてよ、それでおあいこだよ。1人旅だなんて、何のために旅に出たのか分からなくなるし、それに、フレデリクと一緒なら僕はもっと強くなれると思うんだ、嫌だった?」

 

 フレデリクは歓喜の絶頂の中にいた、こんな自分を必要としてくれる、ちゃんと役割を与えてくれる、それに一緒ならと、嬉しい事を言ってくれる。

 良く分からない何かに身体が突き動かされ、金髪をなびかせてレオに抱き着いてしまう。

 

「ありがとう、ありがとうレオ!」

 

 またしても、しかしさっきとは違う、嬉し涙を流しながら、レオに抱き着き、感謝の言葉を述べる。

 レオは所在無さげな手をフレデリクのサラサラな金髪の頭に起き、優しく撫でながら囁いた。

 

「だからさ、これからもよろしくね」

 

 フレデリクは赤く染まった顔を上げ、喜色満面の笑みで応えた。

 

「俺のほうこそ、よろしくな!」

 

 その時レオに抱き着いている事に気付き、フレデリクは照れくさそうに身体を離した。

 

◇◆◇

 

 日が落ち始め、森はもう暗くなりつつあった。

 今日は此処までとして、早々に晩飯の準備を始める。

 

 レオは火を眺めながら、今日の出来事を振り返っていた。

 

 フレデリクが呪いで金髪の女の子になり、呪いを解く旅に出る事になった。

 問題は女の子になった事で想像以上に非力に、そして感覚も衰えてしまった事だ。

 

 そしてゴブリンとの戦いを見るに、フレデリクのあんな姿はもう見たくないし、それにあれではいつ取り返しがつかない事になるか分からない。

 だから剣を持たずに、後ろに控えてもらう事にした。

 幸い今日はあれ以降何事も起きてないけど、明日からは分からない、いつかは確実に魔物に襲われるだろう。常に背後にも気を配って、出来るだけ戦いを避けて、慎重に行動する事を心がけないと。

 それにフレデリクに師事してもらい強くなる事は本当に必要だと思っている。

 もっともっと僕が強くならないと旅を無事に終わる事は出来ないだろう。

 

 それにフレデリクがまだ自信を喪失したままだ、このままじゃいけない、何か別の方法で自信を取り戻していつものフレデリクに戻って欲しいと思う。

 

 僕がフレデリクを守らないと、それに今のフレデリクを見ていると庇護欲が掻き立てられる、守りたいと思う。

 ふふ、まさか僕がフレデリクを守る側になるなんて、光栄な事だけど、複雑な気持ちだ。

 

 

 レオはフレデリクを信じていた、彼ならきっと切っ掛けさえあれば立ち直ってくれると、このままでいるはずがないと。

 そして、違う形になろうとも大きな姿を見せてくれるはずだと、そう信じていた。

 




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