鈍色の三番星   作:OK太

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沢山ある推しの子の二次小説読んでたら自分も書きたい衝動に駆られてしまいました。

原作ではアイが身ごもった双子には魂がなく、吾郎とさりなの魂がなければ死産していたのでは? というネットの考察から『もし死産した子供がオルフェノクとなって生き返ったら?』という妄想からこの作品を書こうと思い立ちました。

拙文ではありますが、ほんの少しでも楽しんで頂ければ幸いです。


第1話 再燃する命

この世界は嘘にまみれている。

 

捏造し、誇張し、都合の悪い部分はきれいに隠す。

 

そうして塗り固められた嘘に歓喜し、魅了される人間もいるだろう。

 

しかし、世界には信じられないくらいに嘘みたいな奇跡がある。

 

そして、嘘であってほしいと願うほどに信じたくない絶望もある。

 

 

これは、小さな星で生きる者たちの物語である。

 

 

 

 宮崎県の高千穂にある病院。

 その片隅にある分娩室で新たな命が生まれようとしていた。

 分娩台には紫がかった長い黒髪の少女がおり、数人の看護師と医師が彼女の出産に立ち会っていた。

 

「うっ…うううぅぅぅ!!」

 

「しっかり! もう少しですよ!」

 

 出産に伴う激痛に少女は顔をゆがめる。

 彼女を不安にさせないよう、看護師が励ますように声をかけていった。

 担当の医師が看護師に指示を出して、少女への負担を軽減させようとしていた。

 通常の出産でも予断を許さないが、今回は今までにない事例だったからだ。

 なぜなら出産するのは16歳の少女であり、そのお腹に3つの命を宿していたからだ。

 多胎出産は妊婦への負担が大きくなるだけでなく、新生児の死亡率にも関わってくる。

 下手をすれば4人の命が失いかねない危険性があった。

 

 

 医師も看護師も、親子4人が無事に出会えるように尽力する……そして、

 

 

   ウゥンギャアアアアアッ!!    ンギャアアアアッ!!

 

 

「斉藤さん! 産まれましたよっ…元気な男の子ですよ!」

 

「ハッ…はは、よか…ったぁ」

 

「この子を新生児科の先生にチェックしてもらって…斉藤さん、ここからが正念場ですよ」

 

「だいじょう…ぶ! ジャンジャンいくよっ…!」

 

 

斉藤と呼ばれた少女は、医師にサムズアップして笑顔で答える。

そして10分後……

 

 

    ウァアアアアッ!     ンアアアアアッ!

 

 

「おめでとう斉藤さん! 可愛らしい女の子です!」

 

「ほ…ほんとお? わたしに…そっくり?」

 

「えぇ、それはもうっ……あ、君。この子もチェックしてあげて」

 

 医師は看護師に指示すると、少女に向き直る。

 2度にわたる出産で疲弊している彼女を見て、心配するように話しかける。

 

「斉藤さんっ…間を置かずに出産すると、あなたに負担がかかるかもしれません。 少し休憩を―――」

 

「大丈夫っ…まだまだいけるよ!」

 

 それに、と少女は最初よりも小さくなったお腹をさする。

 

「早くこの子を…お兄ちゃんとお姉ちゃんに会わせてあげたいからっ…!」

 

「ッ…分かりました!」

 

 少女の意思を汲み取り、医師と看護師は再び出産に取り掛かっていった。

 

 

 あと一人…最後の一人……早く産んであげたい。

 その一心で少女は苦痛に耐えながら力を振り絞り―――…そして、

 

 

「ハッ…ハッ…ハッ…」

 

 

 お腹が軽くなったことで、少女は最後の子供が生まれたのだと確信した。

 

 

 どんな子かな? 私に似てるかな? それとも彼に似てるのかな?

 

 

 他愛のない事を考え―――ふと、ある事に気づいた。

 

 

 

 

 声が……聞こえない?

 

 

 少女は頭を起こし、分娩台の下にいる医師へ視線を向ける。

 医師の手には小さい赤ん坊がいた。 しかし、赤ん坊は産声一つ上げる事なく、医師の手からはみ出た小さな腕が力なく垂れ下がっている。

 それが何を意味していたのか理解した途端、少女は全身の血が抜けるような錯覚を覚えた。

 

「これはっ…! 急いでNICU(新生児集中治療室)へ運ぶぞ!」

 

「し、しかし先生! NICUには既に他のお子さんたちの治療中で人手が足りません!」

 

「雨宮にはまだ連絡がつかないのか!?」

 

「それがっ…何度も携帯や自宅へ電話をしましたが…」

 

「くっ……俺がやる! 君たちは斉藤さんへの処置を頼む!」

 

 末っ子の赤ん坊を抱えた医師は数人の看護師を引き連れて分娩室を出て行った。

 残された3人の看護師は少女への処置を施していく。

 

「――…看護婦さん、赤ちゃん…大丈夫だよね?」

 

「それは、その…」

 

 看護師が少女の質問に言い淀んでいると、分娩室の扉が開いて2人の看護師が入ってきた。

 2人の腕には先ほど産まれた男女の赤ん坊が小さく鳴いていた。

 

「斉藤さーん。 赤ちゃん連れて――…あれ、先生は?」

 

「先生は……」

 

 残った看護師から現状を説明された2人の看護師は顔をこわばらせるが、少女の視線に気づくと、優しく話しかけてきた。

 

「斉藤さん、初めての出産で不安ですよね」

 

「うん…」

 

「大丈夫! うちのお医者さんは雨宮先生に負けないくらい優秀な人が多いんですよ。 末っ子ちゃんも元気になって戻ってきますよ!」

 

 そう言うと看護師たちは少女に2人の赤ん坊を差し出した。

 

「さ、どうぞ! 斉藤さん!」

 

「うっ…うん」

 

 少女は戸惑いながら看護師から赤ん坊たちを受け取った。

 金色の髪。 かつて体を重ねた彼と同じ髪の色だった。

 腕の中で泣く赤ん坊たちを見つめていると、星を宿した両の瞼から涙を流した。

 

 あぁ、なんて可愛いんだろう。 産まれてきてくれてありがとう。

 

 涙とともにあふれる思いを込めるように、少女は2人に赤ん坊を優しく抱きしめた。

 

「ゴロー先生にいてほしかったけど…」

 

「本当にごめんなさいね斉藤さん。 雨宮先生見つけたらシバいときますので」

 

「ハハハッ…お手柔らかにねぇ」

 

 少女が苦笑していると、分娩室の扉が開く。

 その場にいた全員が扉へ見やると、先ほど少女の出産に立ち会った医師が数人の看護師を連れて入ってきた。

 

「あ、先生。 赤ちゃんは――」

 

 少女が話しかけようとすると、医師が深々と頭を下げた。

 

「え? なに、どうしたの…?」

 

 戸惑う少女に、医師が重々しく口を開いた。

 

「斉藤さん、申し訳……ありませんっ…!」

 

「……え」

 

 

 少女は、医師が何を言っているのか初めは理解できないでいた。

 近くの看護師に聞こうと周囲を見渡したとき、皆が顔を伏せていること気づき、理解してしまった。

 

 

 助からなかったのだと。

 

 

 命を落としてしまったのだと。

 

 

「先生」

 

 少女の呼びかけに医師が顔を上げる。

 自身の無力感と少女への罪悪感で、表情を歪めてしまっている。

 そんな彼に少女は優しく微笑んだ。

 

「末っ子ちゃんを抱いてあげたいんだけど……いいかな?」

 

「ッ…はい!」

 

「わ、私が連れてきます! 待っててくださいね斉藤さん!」

 

 看護師の1人が分娩室を飛び出し、数分して息を切らしながら戻ってきた。

 彼女の腕には布にくるまれた末っ子がいた。

 

「この子たちをお願い」

 

 少女は近くの看護師に2人の赤ん坊を託すと、末っ子を連れてきた看護師に両手を差し出す。

 看護師は、末っ子が男の子であることを伝え、慎重に少女の腕へと抱かせた。

 

 抱いた瞬間、少女は呼吸を乱した。

 初めに生まれた兄姉には確かな重みと温かさがあり、生きていることを実感できた。

 この子は兄姉と比べて体格が半分ほどしかないせいか軽い…いや、軽すぎる。 おもちゃの人形かと思ったほどだ。

 

 少女は改めて末っ子を見る。

 顔立ちは長男と似ているが、髪の色は黒く、よく見ると少し紫がかっていた。

 

「君の髪は、私譲りだねぇ…」

 

 末っ子の頭を撫でながら、少女は懐かしむように語り始めた。

 

「ゴロー先生がねぇ、私の体格だと帝王切開になるかもって言ってたんだ。 でも私の子だから小顔で美人だと思って自然分娩で産もうって決めたんだ……でも、小顔過ぎちゃったかなぁ?」

 

 頭を撫でていた手を、末っ子の頬にそっと添える。

 赤ん坊は大人よりも体温が高いと言われるだけあって、まだ温もりが残っていた。

 しかし、時間が経つにつれてその温もりが少しずつ、そして確実に失われていくのが手の平から伝わってくる。

 

「私は頭悪いから…子供3人いたら賑やかになるなぁって楽観視してて……ゴロー先生は私に元気な赤ちゃんを産ませるって言ったから大丈夫だろうって気が緩んじゃってて…」

 

 自分の不甲斐なさを嘆くように少女は語り掛けるが、末っ子の瞼は固く閉じられて開かない。

 小さく開いた口からは声どころか、吐息すら漏れてこない。

 否応なしに突きつけられる現実に、少女の声が少しずつ震えていき――堰を切ったように涙があふれた。

 

「ごめんねっ…丈夫に産んであげれなくて、ごめんねぇ…!」

 

 嗚咽を漏らしながら謝り続ける少女の姿に、医師も看護師も目に涙を浮かべた。

 そのうちの1人が涙をぬぐって再び親子を見たとき、違和感に気づく。

 

 

 気のせいか? 今、末っ子ちゃんの口が動いたような―――

 

 

 

 

 

    ァア゛ア゛ア゛ッ!   ゥ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!

 

 

 

 

 分娩室に響き渡る甲高い叫び声。

 その声は少女に抱かれている末っ子から発せられていた。

 

「は…えぇぇっ!?」

 

「うそ…!」

 

 周囲の看護師がどよめき、少女のすぐそばにいた医師は驚きのあまりにその場でしりもちをついた。

 当然だ。 呼吸や心臓が停止し、死亡が確認されてから10分近く経っている。 医学的にも、生物学的にもありえない。

 

 しかし、この場で誰よりも驚いていたのは末っ子の母である少女だった。

 

 さっきまで物言わぬ人形同然だった我が子が、 腕の中で力強く産声をあげている。

 さっきまで冷めゆく我が子の体が、まるで生まれたてのように熱を帯びている。

 

 その声が、その温もりが、この子が間違いなく生きている事を実感させてくれた。

 

「ありがとぉ…帰ってきてくれてっ…! 産まれてきてくれて、ありがとぉ…!」

 

 少女は顔をくしゃくしゃにして泣きながら、息を吹き返してくれた末っ子に感謝を伝え、抱きしめた。 

 

 

「き…奇跡だ!!」

 

 奇跡。 医師が口にしたそれは、医者として軽々しく言ってはいけない言葉。

 だが、目の前で起きた光景を言葉で表現するにはそれしか思いつかなかった。

 周囲の看護師たちは互いに抱き合い、歓喜に沸いた。

 

 病院の片隅にある分娩室で起きた奇跡。

 医師や看護師、そして三つ子の母親である少女も、この奇跡による喜びを享受していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それ故に彼女たちは気づかなかった。

 

 

 少女に抱かれる末っ子の目が薄く開き、その瞳に灰色の影がよぎっていた事に。

 

 

 

 

  ――2日後。

 

 

「いや~ 楽ちん楽ちん、いい乗り心地だよ佐藤社長」

 

「俺は斉藤だ。 つーか仮にも所属事務所の社長に車椅子押させるんじゃねえ」

 

「えぇ~ 出産して間もない女の子に自力で漕げとか鬼畜すぎ~ 全国のお母さんを代表して抗議しちゃうよ~」

 

「やめろバカッ! そんな事されたら俺たちが破滅するっての!!」

 

 病院の廊下では、妙な掛け合いを繰り広げながら移動する2人組がいた。

 1人は2日前に三つ子を出産した少女で、もう一人はサングラスをかけた金髪の男だった。

 一見その筋の人にも見えるが、れっきとしたカタギである。

 

「そういえば、担当医の先生は見つかったのか?」

 

「ううん、出産の日から行方不明らしくて、警察に捜索願出したらしいけど…」

 

「そりゃ心配だな。 早く見つかるといいが…」

 

 会話をしながら移動する2人は、廊下のある場所で止まる。 そこは新生児室だった。

 中では数人の新生児が窓際に並べられたベッドで眠っており、そのそばで看護師が検査をしていた。

 看護師の1人が少女たちに気づくと、新生児室から出てきて話しかけてきた。

 

「どうも斉藤さん。 お子さんに会いに?」

 

「うん! 子供たちは元気?」

 

「えぇ、元気ですよ。 こちらです」

 

 看護師に案内され、少女はガラス越しに我が子と対面する。

 

「長男くんと長女ちゃんの経過は良好で、近いうちに退院できますよ」

 

「よかった! あ、末っ子ちゃんは?」

 

「精密検査を行いましたが驚きましたよ。 体重が軽いこと以外では特に異常はありませんでしたから。 ただ平均的な重量になるまで入院する方が望ましいので、退院には1~2ヶ月ほどかかるかと…」

 

「そっかぁ…まぁ、何はともあれ無事でよかったよ」

 

「知ってます? 今、うちの病院では末っ子ちゃんの事で話題になっているんですよ」

 

 何が? と少女が首をかしげると、看護師は詳細を教えてくれた。

 

「看護師の間で、奇跡の復活を果たした末っ子ちゃんの事を『イエス様の再来』なんて言う人がいるんです」

 

「アハハ! なら私はさしづめ聖母マリアだね!」

 

 少女はひとしきり笑い、新生児室を見やる。

 新生児ベッドでスヤスヤと眠る子供たちの姿に、少女はだらしないくらいに顔を緩めた。

 

「きゃわいぃ~~! もう何十時間でも見てられるよ~!」

 

「何十時間なんて無理に決まってんだろ。 つーかはしゃぎすぎだ!」

 

 2人のやり取りに、看護師は顔を綻ばせる。

 ねえねえ看護婦さん、と少女が話しかけ、新生児室内を指さす。

 

「あの紫のステッカーはなに? 他の子のベッドにはないみたいだけど」

 

 少女の指さす先には一つの新生児ベッドがあり、赤ん坊の枕元に紫色の蝶のステッカーが貼られていた。

 看護師は少し気まずそうな表情をし、周囲に自分たち3人しかいないことを確認すると少女に話し始めた。

 

「あのステッカーは…多胎出産で兄弟姉妹を失った赤ちゃんのベッドに貼られるものです」

 

「え…?」

 

 看護師によると、かつてイギリスに在住していたとある夫婦が双子を授かるが、片方の子供が死産してしまった事がきっかけとの事らしい。

 子供を失って悲しみに暮れる妻に、事情を知らない双子出産した女性から「あなたは双子でなくてよかったわね、双子は大変だから」と悪意なき失言をされ、怒りを覚えるも、事情を話せば女性が傷ついてしまうと苦悩したそうだ。

 夫妻は自分たち以外にも多胎妊娠で兄弟姉妹を失った子供を持つ親たちを、事情を知らない人たちによる不注意な言葉から守るよう、お互いに気遣えるための目印として作られたのが紫の蝶のステッカーなのだそうだ。

 

 看護師はステッカーの貼られたベッドの赤ん坊へ視線を向ける。 その目には憐れみがあった。

 

「あの赤ちゃんは、末っ子ちゃんが生まれる直前に弟さんと一緒にNICUで治療を受けていたんです…ですが、末っ子ちゃんの死亡確認とほぼ同時に弟さんが……」

 

 少女は思い出す。

 出産に立ち会った医師が末っ子を搬送する際に、他の子供の治療でNICUの人手が不足していた事を。

 

(その時の子供が…あの子だったんだ)

 

 よく見れば末っ子と同じくらいに体が小さく、今は呼吸器を着けて落ち着いているようだ。

 話しを終えた看護師は申し訳なさそうに頭を下げる。 

 

「ごめんなさい。気分を害してしまって…何か御用がありましたらお声かけください」

 

 そう言い残し、看護師は新生児室へ戻っていった。

 

 少女は改めて3人の我が子を見つめ、ポツリとつぶやく。

 

「もし末っ子ちゃんが帰ってこなかったら、上の2人のベッドにあのステッカーが貼られてたのかなぁ…」

 

「かもしれねぇ…だがな、元来出産ってのは命がけでやるものなんだ。 今でこそ医療が発達してる世の中だが、いくら手を尽くしても生まれることなく失う命だってある」

 

 男は少女の肩に手を置く。

 

「だからこそ、頑張って生まれて来てくれたあいつらを守っていかなきゃな」

 

「……うん、そうだね! 私もママだから頑張んないと!」

 

 気合を入れるように少女はガッツポーズする。

 

「ところで子供たちの名前とか決めたのか?」

 

「んっふっふ~ もちろん考えてあるよ」

 

 少女はポケットからメモを取り出し、男に見せる。

 そのメモには以下の三つの名前が書かれていた。

 

 

     星野愛久愛海

     星野瑠美衣

     星野恋羅度光

 

 

 男は目を細め、眉間に深いしわを作った。

 その反応が不満だったのか、少女はプクゥっと頬を軽く膨らませる。

 

「ちょっとぉ~佐藤社長。 なんかリアクションしてくれないとつまんないよ~」

 

「俺は斉藤だ! いや…1人目は『あくあまりん』、2人目は『るびい』ってのはなんとなくで読めるんだが……3人目が全然分からねぇ、なんて読むんだこれ?」

 

「この子の名前はねぇ…『らぶらどらいと』!」

 

「……は?」

 

 男は顔をポカンとし、数秒遅れで いやいやいや! と少女に詰め寄った。

 

「絶対やめろ! 子供が苦労する未来しか見えねぞ!」

 

「むぅ…そんな事ないもん! ね、恋羅度光(らぶらどらいと)?」

 

「あのなぁ…そんな名前で呼んだって――…あ」

 

 ガラス越しに呼び掛ける少女に、呆れながら新生児室を見やった男は目を見張った。

 さっきまで眠っていた末っ子が目をゆっくりと開いたのだ。

 

 蝶の羽のように揺らめいて輝く青い瞳。

 

 混じり気の無いまなざしが、ゆっくりとガラス越しの2人に向けられる。

 

「恋羅度光! 分かる? 君のママだよ~!」

 

 再び呼びかけると、末っ子は足を小さくばたつかせながら少女に向かって手を伸ばす。

 まるで彼女の呼びかけに応えるように。

 その行動の一つ一つに少女は黄色い声を上げてはしゃいだ。

 

「キャーー♡ これ名前を気に入ってるよね! もうこれ恋羅度光で決まりじゃないかなぁ!?」

 

 テンションアゲアゲになる少女を見た男は手で顔を覆い、深いため息を吐く。

 

「なぁアイ…分かってるとは思うが、お前は3児の母親である前にアイドルだってこと忘れるなよ。 もしバレるようなことがあったら…」

 

 そう不安げに話す斉藤と名乗る男。

 少女も看護師たちに斉藤と呼ばれていたが、実はこの二人は親子ではない。

 

 男は株式会社『苺プロダクション』の代表取締役である斉藤壱護。

 少女は苺プロを代表するアイドルグループ『B小町』のセンターである星野アイ。

 

 数か月前、アイは体調不良を理由に活動を休止し、ここ宮崎の病院を訪れていた。

 しかし、真の理由は彼女が16歳にして3人の子供を身籠っていたからだった。

 16歳のアイドルが3児の母。 彼女のアイドル生命を終了させるには十分すぎるほどのスキャンダルだ。 九州の田舎にあるこの病院をわざわざ選んだのも、人目が付くのを避けるためである。

 入院に際して斉藤と偽名を使ったのも、彼女の担当医を務めた雨宮吾郎という産科医の計らいによるものであり、そのおかげで彼女の正体はバレずにすんでいる。

 

 少女――アイは斉藤に不敵な笑みを見せた。

 

「心配いらないよ佐藤社長。 子供の一人や二人――…いや三人だって隠し通してみせるよ」

 

 それにね、とアイは新生児室にいる三つ子に優しい笑みを向ける。

 

「私、欲張りだから。 母としての幸せと、アイドルとしての幸せ……どっちもほしいからね!」

 

「はぁ…分かったよ、そこまで言うなら止めねぇ。 あと俺は斉藤だ」

 

 根拠もなく自信たっぷりに応えるアイに、諦めに近い返答をする壱護だったが、一つだけ確信している。

 星野アイは生粋の嘘つきであり、嘘を武器にしてアイドルとしての高みに登り詰めてきた天才なのだと。

 

 ただ口にすると調子に乗るかもしれないので、心の内に仕舞っておく事にしたのだった。




最後まで読んで頂きありがとうございます。

オリキャラの名前の元ネタであるラブラドライトは、見た目がグレーで一見地味に見えますが、見る角度によって蝶の羽のように青く輝くそうです。『グレーの見た目』 『蝶の羽のような青』 というキーワードに、仮面ライダー555のオルフェノクとスマートブレインの青い蝶のイメージと合致する部分が多く見受けられたので即決しました。

今後オリキャラを『ラブラ』と呼称していこうかなと思っていますが、ラブラドライトについて調べてたらサンリオのジュエルペットに同名のキャラがいるらしいですけど…これはギリセーフですかね?
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