鈍色の三番星   作:OK太

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今回は短めです。


第2話 星の下に生まれし三つ子

 俺は雨宮吾郎。 宮崎県の高千穂にある病院の産婦人科医――だった者だ。

 

 推しのアイドルであるB小町のアイが妊娠していることを知ってゲボ吐きそうになった俺だったが、彼女の人となりを知ってからは全力で期待に応えようとした。

 出産予定日の夜に、俺は彼女を付け狙う男を追って森の中を駆けまわり――気が付いた時には、

 

 

 

 推しの”子”になっていた。

 

 

 

「いい子でちゅね~ 愛久愛海!」

 

 推しのアイドルであるアイが、俺を持ち上げて名前を呼ぶ。

 星野愛久愛海(あくあまりん)。 それが今の俺の名前だが……改めてすげぇ名前だな。

 これは今流行りのやろう系小説によくある『転生』というものなのだろうか。 もしそうだとしたら、俺はあの時に死んだのか? というか一体どういう原理なんだ? まぁ俺も医者のはしくれだから、いつの日かこの仕組みを解き明かす日も来るだろう。

 

 だが、今はただこの赤ちゃんライフを堪能――

 

 

「はんぎゃーーっ!   はんぎゃーーっ!」

 

「はいはい、なんでちゅか~?」

 

 そうそう、星野家には俺とアイの他に2人の住人がいる。

 

 ベビーベッドからアイに抱えあげられたのは自分と同じく金髪で、赤い目の女の子。

 名前は星野瑠美衣(るびい)。 俺の妹で、三つ子の長女として生まれた子供だ。

 こっちの方がややダメージの少ない名前をしている。 今からでも変えてほしいくらいだ。

 

 そして、さっきまでルビーがいたベッドにもう一人の赤ん坊が眠っている。

 アイと同じく少し紫がかった黒髪で、三つ子の末っ子として生まれた男の子だ。

 名前は星野恋羅度光(らぶらどらいと)……うん、愛久愛海の方がまだマシだな。

 というかラブラドライトってなんだ? ルビーやアクアマリンみたいな宝石なのか? 聞いたことないぞ。

 

「あらら~ ラブラは相変わらずお眠さんだねぇ~ 」

 

 そう言いながらアイはラブラの頬を軽くつつくが、全く起きる気配がない。

 そのまま指先をラブラの口元へ運び、指先で唇に軽く触れると――

 

  パクッ  チュパ…チュパ…チュパ…

 

 まるで餌に釣られた魚のようにラブラはアイの指先を咥え、吸い始める。

 

「あはは♪ くすぐった~い あ、お腹空いてるのかな?」

 

 アイは俺とルビーをソファへ下ろすと、上着の裾に手をかけ――…いや、ちょっと待って! それはヤバいって!

 

「んぎゃああ~~!」

 

 突然の叫びにアイは上着の裾から手を放し、叫びの主であるルビーを抱えた。

 ナイスタイミングだルビー。

 

「どうしたのアクア~?」

 

 いや、そいつはルビーなんだが。

 

「そっちはルビーだろ。 お前それでも母親か」

 

 俺のツッコミに合わせるように現れたのはアイが所属する芸能事務所の社長である斉藤壱護さんだ。 前世でアイが宮崎の病院に入院した時に付き添っていたので面識がある。

 彼の傍らには社長夫人の斉藤ミヤコさんがいた。

 

 話を聞く限り、今夜はアイの芸能活動復帰第一弾として生放送の歌番組があり、アイが仕事の間にミヤコさんが俺たち子供3人の面倒を見てくれるらしい。

 途中でアイが俺たち3人を仕事場に連れては駄目かと斉藤社長に質問したが、即座に却下されてしまった。

 当たり前だ。 16歳のアイドルが3人の子供を産んだなんて事が世間に知れたら、彼女のアイドル生命どころか事務所生命が終わってしまうのだ。 そこんところ分かってるのかこの子? 

 

 あと少し分かった事だが、アイは人の顔と名前を覚えるのが苦手のようだ。 さっきから斉藤社長の事を『佐藤』って呼んでるし。

 

「めんどくさいよねアクア」

 

 ルビーの事を俺と間違えるし…

 

「そっちはルビーだ。 つーか間違えずに呼べるのラブラだけじゃねぇか」

 

「え~ そんな事ないよ。 ねぇルビー?」

 

「……そっちはアクアだ」

 

 ソファに座る俺を撫でるアイに社長が力なくツッコむ。 いちいち指摘するの辛いよな、うん。

 

 アイは母親として相当駄目な部類に入るだろう。

 まぁ社長たちのフォローも手厚いし、案外なんとかなるかもしれないな。

 

 

「ベビーシッターなんて経験ないのにぃ…なんで私がこんなぁ……zzz」

 

 俺たちの面倒で疲れたミヤコさんが寝たのを確認し、テレビの電源を点ける。

 ちょうど出演者のトークコーナーに入ったようで、アイ含めた他のB小町メンバーもいた。

 

「あ、そうだ」

 

 俺は涎をたらして寝ているルビーのそばに行き、ベビーバスケットの縁をつかんで揺さぶった。

 

「おいルビー、早く起きろ。 Nステ始まったぞ」

 

「だぅ……あぅ……」

 

「……アイが出てるぞ」

 

「ん……えぇ!?」

 

 目をカッと開いたかと思うと、ルビーはバスケットから飛び出してテレビの前へ転がり込む。

 

「あっぶな! 生放送のリアタイ見逃すとこだった~」

 

「あんまり騒ぐなよ、ミヤコさんが起きるだろ」

 

「大丈夫でしょ、そんな簡単に起きないだろうし」

 

 それより、とルビーはテレビへ視線を戻すと画面いっぱいに映るアイに目を輝かせた。

 

「ママ可愛いすぎー! 顔よし、スタイルよし、全国の視聴者全員億を支払うべき!」

 

 ルビーは俺と同じく、どこぞの誰かの生まれ変わり。 それも俺以上の筋金入りなドルオタだ。

 同じアイドルのファンだから意気投合できるかと思ったら結構辛辣な扱いをしてくるものだからタチが悪い。

 まぁそれは置いといて、アイのトークに戻るか。

 

 

 『本日、活動再開となったアイさん! 大丈夫? ちゃんとご飯食べてる?』

 『ハイ! いっぱい食べてます!』

 

「よかったぁ、ママちゃんとやれてるね」

「あぁ、これなら問題な――」

 

 『そうそう! ご飯と言えば、こないだウチの子が――』

 『ウチノコ?』

 

「「 ブゥゥゥゥーー!!?? 」」

 

 アイがさらっと投下した爆弾発言に俺とルビーは同時に吹きだした。

 咄嗟にアイが『ウチの子猫』と言い直したおかげで事なきを得たが…

 

「はぁ…はぁ…さ、流石はママ。 ちょっと抜けてるアピールをしつつ、心臓を潰しにかかるなんて…!」

 

 そうこうしている内にトークコーナーは終わり、B小町のパフォーマンスへと移行しようとされていた。

 

「お、そろそろ始まるな」

 

「ねぇ! ちょっとあの子起こしてきてよ! 私ママのこと見てるから!」

 

 なんで俺が、と愚痴りながらルビーが寝ていたバスケットの横に置かれているもう一つのバスケットに近づき、眠っているラブラを揺すった。

 

「おいラブラ、起きろ」

 

「ん……んぅ」

 

 俺の呼びかけにラブラが目を開く。

 まるで蝶の羽のように揺らめくような光を放つ青い瞳。 俺やルビーに左右の片目ずつにある綺羅星のようなハイライトはないものの、十分に美しいと感じる。

 ラブラは大きくあくびしながら目をこすり、寝ぼけ眼を俺に向ける。

 

「……なぁに?」

 

「そろそろアイのライブが始まるからお前も見て行けよ」

 

「……ねむ」

 

「悪い、でもそんなに時間もかからないだろうし、終わったらすぐ寝ていいから」

 

「……うん」

 

 目をショボショボさせながらラブラはバスケットから身を乗り出すと――

 

 

    ゴンッ!!

 

 

 顔面から着地した。

 

 

「お、おい大丈夫か!?」

 

「ん…だい、じょぶ」

 

 眠気が勝るのか、ラブラは痛がる事無く起き上がる。

 フラフラとおぼつかない足取りでルビーの横に座った。

 

「いい? ラブラ。 ママのライブ、一秒たりとも見逃すんじゃないわよ!」

 

「……ん」

 

 気合を入れるルビーに対し、うつらうつらと頷くラブラ。

 あまりにも対照的な2人を見て、俺はあの時の事を思い出す。

 

 

 

 あれは俺が現実を受け入れ始めた頃、アイが寝静まった深夜に聞こえた物音に目を覚ました。

 気になって音の聞こえた先に行くと――

 

「はぁ死ねよ!? ママの美を理解しない類人猿共が! パフォーマンスの質で格の違い明らかでしょ! 運営に贔屓されるのはもはや必然なんだけど!」

 

 そこにはアイのスマホでアンチと壮絶なリプ合戦を繰り広げるルビーがおり、この時点でルビーが俺と同じ転生者であることを理解した。

 

「お前もしかして…俺と同じか?」

 

「え…」

 

「……」

 

「赤ん坊が喋ったぁ!? きもーーー!??」

 

「お前もだろ……ん?」

 

 背後に気配を感じて振り返ると、こちらに近づく小さな影があった、

 ルビーも気づいたようで、手にしていたスマホのライトを向けると、暗がりの中で二つの青い点が浮かんだ。

 一瞬ぎょっとしたが、すぐにその正体が分かった。 末っ子のラブラだった。

 ハイハイするラブラは俺たちの前に来ると、こちらをジーっと見つめる。

 

「まさか、この流れは…」

「え、まさかこの子も…?」

 

 

「――…キ」

 

 

「まじかよ…!?」

「ちょっと静かに…!」

 

 

「…キ……キ」

 

 

「「  き? 」」

 

 

「……きもー」

 

「「 いやなんでだよ!! 」」

 

 

 後で分かった事だが、ラブラは俺やルビーとは違って前世の記憶がないらしく、こちらの言葉を真似するだけで会話すらまともにできなかった。 それにしたって最初の言葉が「きもー」って…

 それから大人たちの目を盗んでラブラに言葉を教えていったことで、簡単な会話をする程度の言語能力を与えることができた。

 普通に考えて俺やルビーみたいに前世持ちで喋る赤ん坊なんて異常だが、短期間で会話できるようになったラブラも相当だ。

 

 

 ……と、思い出にひたっていたらアイのライブが終わったようだ。

 ルビーは感激のあまり涙を垂れ流している。

 

「あぁ、最っ高ぉ…やっば感動でちょっとチビったかも。 どうラブラ? ママのライブ――」

 

 ルビーが横を見やると、そこには顔を床に押し付けて突っ伏しながら爆睡するラブラがいた。

 ライブが始まって1分も経たないうちに寝落ちしたのには気づいたが、この調子だと起こせるのは難しいだろう。

 

 さっき述べたようにラブラには前世がない。 ちょっと会話ができるだけの赤ん坊だ。

 それ故に自分の母親がどのような人物なのかもまったく知らないし、アイドルとしてのアイがどれだけ素晴らしいのかも分からないうえに興味も湧かないのだ。

 

 しかし、そんな事情などガチのドルオタであるルビーには与り知らないわけで、ラブラの胸ぐらを掴み上げた。

 

「この子ザルが! ママの芸能活動復帰第一弾になに呑気に寝てんのよ!」

 

「 zzz 」

 

「おーきーろー!!」

 

 一向に起きる気配のないラブラを、ルビーが激しく前後に揺さぶる。

 

 

 俺はつくづく思う。 アイには普通の子供を産ませてあげたかった。

 こんな可笑しい三つ子じゃなく。




今後の予定ですが、原作に沿ったストーリーを描きつつ、幼稚園~運命の日との間にラブラくんの人外描写をメインとした回を書く予定ですので、オルフェノク要素を楽しみにされている方には申し訳ありませんが、今しばらくお待ちください。
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