鈍色の三番星   作:OK太

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お久しぶりです。 艦これの秋刀魚イベントが落ち着いたので創作を再開しました。
前作からだいぶ間が空きましたので、おさらいでオリキャラであるラブラくんの現時点での設定を簡潔にまとめます。

星野恋羅度光(ほしの らぶらどらいと)

三つ子の末っ子で末弟。 髪の色はアイと同じく少し紫がかった黒髪でショート。瞳の色は蝶の羽のように輝く青色で、アクアとルビーのように綺羅星のハイライトはない。 顔はアクア似で、アクアと比べて表情が柔らかい。 笑った顔にアイの面影がある。 超未熟児で生まれたため三つ子の中では最も体格が小さい。

出産日に超未熟児で出産されてすぐに集中治療室へ運ばれるが、治療の甲斐なく死亡が確認される。アイの希望で彼女に抱きしめられたとき、彼女の腕の中で息を吹き返すという奇跡が起き、病院で『イエス様の再来』と話題になる。

前世持ちであるアクアとルビーとは異なり前世がなく、はじめは上の二人がアイに夢中なのか理解できないでいたが、ライブで見せたアイの笑顔に魅せられ、めでたくファンになる。 乳児期の時点で言葉をまねるほどの知能があり、アクアとルビーの指導で簡単な会話ができるほどに上達している。


第5話 芸能界の裏側

 あのミニライブから1年が経った。

 俺たち3人は、立ったり喋ったりしても怪しまれない程度に成長している。

 

「ママ! ママ! よしよししてぇ~!」

 

「はいはい、よしよし」

 

 気兼ねなく喋る事ができたルビーは、ソファにアイへ抱き着いていっぱい甘えた。

 推しのアイドルである母親に頭を撫でられたルビーはだらしなく顔を緩める。

 

「あぁ~ 極楽浄土ぉ~」

 

「――…極楽浄土なんて難しい言葉、どこで覚えたの?」

 

「…!?」

 

「あっ…えーと…」

 

「もしかして……うちの子ヤバいくらいの天才っぽい?」

 

 とまぁ、このようにアイが俺たちの事を怪しいと思う事もなく平穏に日々を過ごしている。

 俺がホッとしていると、リビングの扉が開いてラブラがやって来た。

 

「お母さーん、ミャーコさんがそろそろ出かけるって言ってるよー」

 

「はいはーい! 教えてくれてありがとねラブラ!」

 

 立ち上がるついでにアイはラブラの頭を撫でる。

 不意に撫でられて戸惑いながらも、ラブラは嬉しそうにはにかんだ。

 

 1年経っても変わらない初心(うぶ)なラブラの反応は見ていて思わずほっこりする……だからルビー、アイの背後で嫉妬に満ちた視線を向けてやるな。 姉貴だろ一応。

 

 

 

 

 ここ最近のアイは、モデルにラジオアシスタントなどの仕事を着実に増やしつつある。

 今日はその集大成ともいえる仕事――ドラマ出演の日なのだ。

 

「ママの初ドラマ、楽しみだね!」

 

「ちょい役だけどね」

 

 撮影現場へ向かって高速道路を走る一台のライトバン。

 その車内の後部座席でルビーとアイの楽しそう会話する。

 同じく後部座席にいる俺が横で2人の会話を聞いていると、運転席にいるミヤコさんがバックミラー越しに俺たちを見やった。

 

「いいですかルビーさん、アクアさん。 2人がどーしてもって言うから連れて行きますけど、くれぐれもアイさんの事をママなんて絶対に呼ばないで下さいよ。 あと、目立つ行動もしないで下さいね」

 

「言われなくたって――…っていうか、なんで私とアクアだけ? ラブラはどうなのよ?」

 

「ラブラさんはお二人よりも信用できますので」

 

「はぁ? 私とアクアは信用できないっての!?」

 

「ミニライブの件……忘れてませんからね」

 

 ミヤコさんの指摘にルビーは言葉を詰まらせる。

 あれから1年経ったといえ、B小町が何かしらの活動をするたびにツイッターにヲタ芸を打つ俺たちの映像がトレンドに上がるなど、今でも影響が根深く残っているのだ。

 

「まぁまぁミヤコさん、この子たちのおかげで仕事増えたようなものだからそう怒んないでよー」

 

 俯くルビーの頭を撫でながら、アイはなだめるように言う。

 

「……とにかく! 現場では皆さんは”斉藤ミヤコ(わたし)の子供”という設定でいきますので忘れないで下さい。 いいですね!」

 

 今でこそアイの仕事が増えてきたのは、あのミニライブがきっかけの一つではあるが、俺たちの迂闊な行動でアイとの関係がバレる危険性があったのは認める。

 あのヲタ芸動画がバズったせいで斉藤社長に怒られてしまった事は本当に申し訳ないと思う。

 ま、だからといって下出に出るつもりはないけど。

 

「はいはい、ママママなでなでしてー」

「私もしてママー!」

「ママー お小遣いちょーだい」

 

「くっ…」

 

 俺の適当な返事にアイとルビーが便乗する。

 後ろからの煽りにミヤコさんが苦い顔をしていると、助手席からラブラが話しかける。

 

「ねぇねぇ」

 

「ん? なんですかラブ――」

 

「ママお仕事がんばってね」

 

「……はい!」

 

 元気よく返事をしたミヤコさんはハンドルを握りなおす。 俺がいる後部座席からでも分かるくらいに頬を緩ませていた。

 

 ラブラにとってミヤコさんはアイの仕事を手伝い、俺たちの世話をするいい人と認識しており、神の使いという設定で上から目線に振舞う俺とルビーに対し、ラブラは好意的に接している。

 激務に加えて赤ん坊の面倒と、神経をすり減らす日々を生きるミヤコさんにとって、ラブラは数少ない癒しの存在となっていた。

 

 数十分後、俺たちを乗せたライトバンはドラマの撮影現場に着いた。

 俺たちが後部座席でシートベルトを外していると、ミヤコさんが運転席からラブラのシートベルトを外した。

 

「ありがとミャ――わっ!?」

 

「はぁい着きましたよ~」

 

 ラブラが礼を言おうとした瞬間、ミヤコさんが猫なで声で運転席からラブラをヒョイと持ち上げた。

 

「え、えと……ぼくは一人で降りれるよミャ――」

 

 言葉を続けようとするラブラの唇に、ミヤコさんが指先をあて、悪戯っぽい笑みを浮かべる。

 

「今日は、ママって呼んでください。 いいですね?」

 

「あ…はい、ママ」

 

「はーい! ママですよ~ 今日もお仕事頑張るからね~」

 

 上機嫌に返事したミヤコさんは、戸惑うラブラを抱き上げて車から降りていく。

 俺とルビーが呆然としている横で、アイが笑った。

 

「ミヤコさんもすっかりラブラにメロメロだね~ じゃ、私たちも行こっか!」

 

 母親の余裕からか、アイは特に取り乱すことなく俺たちを車から降ろしてくれた。

 

 

 

 

 アイが現場スタッフたちへの挨拶を終えた後、俺たちは撮影が始まるまでの間にキャスト陣と触れ合っていた。

 俺を膝に乗せている女性はグラビアモデルの子で、ルビーの相手をしているのは『可愛すぎる演技派』と評される若手女優だ。

 

「双子ちゃん可愛い!」

 

 双子? 俺たちは三つ子のはずだと思い、その場を見渡した時、ラブラの姿がないことに気づいた。

 

「ラブラ?」

 

 ミヤコさんも気づいたらしく、周囲をキョロキョロと見渡す。

 俺はグラビアの子から降りてミヤコさんに駆け寄り、小声で伝えた。

 

「ちょっとラブラ探してくる。 ここでルビーと居てあげて」

 

「わ、分かりました」

 

 正直なところ、キャストにとっかえひっかえで愛でられてたら体がもたない。

 この場を抜け出す良い口実ができた事だし、ラブラを探すとしよう。

 

「ラブラの奴、どこに……ん?」

 

 教室を出て周囲を見渡すと、廊下の突き当りで五反田監督と話しているラブラがいた。

 俺が近づくと、2人がこちらに気づく。

 

「ん、お前さんの兄貴じゃねえか」

 

「あれ、アク兄どうしたの?」

 

「どうしたの、じゃないだろ。 何してんだ?」

 

「あっ…ごめん。 撮影について監督さんに色々聞いてた」

 

「別に構わねえさ。 撮影に興味持ってくれるのは監督冥利に尽きるってもんだ」

 

 ただな、と五反田監督は俺たちと目線を合わせるようにしゃがみ込み、脅すような口調で言った。

 

「居るのは構わねえが、泣き出して収録止めたら締め出すから覚悟しとけよ」

 

「あっ いえ! 我々は赤ん坊ですがそのような粗相はしないよう努めますので!」

 

「は?」

 

「加えて愚弟がお世話になり大変恐縮であります! ですが現場の進行を妨げないのは最低限のルールと認識しております! 弊社のアイをっ…今後とも何卒ご贔屓にっ…!」

 

 俺たちの不手際でアイに不利益を被らせるわけにはいかない。

 恥を承知で俺は五反田監督にペコペコと頭を下げる。

 

「めちゃくちゃ喋るなこの赤子! どこで覚えたそんな言葉!?」

 

「えー…ユーチューブで少々……」

 

「すげぇなユーチューブって! 時代だなぁ!」

 

 感心したように言うと、監督が俺を抱え上げる。

 

「こっちの弟もよく喋る方だが、ここまで早熟な奴は初めて見た。 お前も演技とかするのか?」

 

「いや…演技とかそういうのは……」

 

「画面としてはおもしれぇな、なんかに使いたい」

 

 監督は俺を下ろし、ポケットから1枚の名刺を差し出した。

 

「これは俺の名刺だ。 どっかの事務所 入ったら連絡しろ」

 

「いえ…仕事を振るなら僕じゃなくてアイの方が…」

 

「あー あのアイドルな。 顔は抜群に良い、運が良けりゃ生き残るだろ」

 

「顔が抜群に良いのに運?」

 

 俺の質問に、監督は役者について説明してくれた。

 まず役者は大きく分けて3つある。 一つは広告等の役割を持つ『看板役者』、二つは作品の質を担保する役割と持つ『実力派』、最後に『新人役者』だ。

 監督が言うには、新人役者には演技力なんて期待しておらず、画面に新鮮さを出してくれれば及第点なのだそうだ。

 アイを含めた新人たちは全員 テレビ業界から投資を受けている段階であり、客に売れるか、現場に好かれるかのどちらかが無ければ次の新人に席を奪われ落とされる。 誰か一人でも生き残れば大成功という世界だそうだ。

 

「ま、生き残れるとしたら、何かしらの1流だけってことだ」

 

「ふーん、じゃあ平気だね。 アイはアイドルとして1流だから」

 

「いや…アイドルとして1流でも仕方ないだろ」

 

「監督! 本テスの準備できました!」

 

 監督のもとに助監督がやってきて撮影準備完了を報告する。

 ここで見とく、と監督が返事すると助監督はカメラのレンズ前にカチンコを構える。

 

「カット74! よーい…」

 

 カチンコの音を合図に撮影が開始された。

 このシーンは可愛すぎる演技派女優演じる主人公と、アイが演じる同級生が教室で会話するという場面だ。

 確かに主演女優は可愛い。 だがアイの存在感は遠目からでも分かるくらいに大きく、周りにいる役者たちが霞んで見えてしまうくらいだった。

 

「演技は並みだが…いやに目を引く」

 

 監督もその事に気づいたのか、腕を組んでつぶやく。

 

「でしょう? アイが言ってたんだ。 ステージでは観客一人ひとりに可愛く見せなきゃいけないけど、ここならたった一人(カメラ)に可愛く思ってもらえばいい。 MVと同じ要領でいいならむしろ得意分野だって」

 

「MV感覚かよ…時代だなぁ」

 

「めっちゃ出来良いから絶対見た方がいいよ! 何なら貸すから!」

 

「声がでけーよ」

 

 思わず興奮してしまった俺は口をふさぐ。 だが撮影にはしようがなかったようで、滞りなく進んだ。

 この調子ならアイがメディアに大きく取り上げられるのも夢じゃないだろう。

 ラブラもきっと喜んでいるに違いない。そう思った俺はラブラを見やり、首を傾げた。

 アイを見つめるラブラの表情は暗く、どこか不安がにじみ出ているようだった。

 

「ラブラ?」

 

「えっ…なにアク兄?」

 

「いや、どうかしたのかなって」

 

「……なにも、ないよ。 監督さんたちの邪魔になるといけないから、ミャ…ママのとこに戻るね」

 

 そう言うとラブラはミヤコさんとルビーがいる休憩所へ走っていった。

 この時、ラブラが暗い表情をさせた理由を知るのは、それから1ヶ月後の事であった。

 

 

 

 

「ママの演技楽しみ!」

 

「けっこう撮ったからね」

 

 ドラマ撮影からひと月が経ち、ついに地上波で放送される日となった。

 自宅のソファで、俺たち4人はドラマを視聴している。

 アイの出番がまだかまだかと緊張する俺、ワクワクするルビー、そしてソワソワと落ち着かないラブラ。

 俺はアイの演技が主演に負けないくらいの実力があったと確信していた。 撮影ではアイが登場するシーンはそれなりにあったし、いずれのシーンも1発OKだった。

 

 

 アイの雄姿が全国のお茶の間に映される―――そう思っていた。

 

 

「あ、このシーンだっけ」

 

 アイが画面を指さすと、アイが演じる主人公の同級生が教室に入って挨拶する。

 

「ママだ!」

 

「もっと大きく映せ!」

 

 アイが登場して数秒で場面が切り替わり、俺は思わずヤジを飛ばす。

 だが焦る事はない。 先月の撮影では、この後でアイが登場するシーンが入るはずだ。

 そのシーンが来るまで見守って、

 

 

 

 ……見守って、

 

 

 

 ……見守って、

 

 

 

 ―――…終わってしまった。

 

 

 

「えっ…これだけ?」

 

「ワンシーンちょびっとじゃん!」

 

「カットされ過ぎぃ!!」

 

 俺たちがドラマへの不満を爆発させていると、アイが表情を曇らせる。

 

「……私、演技下手だったのかなぁ」

 

「そ、そんな事ないよ…!」

 

 ルビーがすかさずアイを励ます。

 俺が監督に文句を言ってやろうと名刺を取り出した時、沈んだ表情のラブラがポツリと言った。

 

 

「――やっぱり、か……」

 

 

 その言葉に反応したルビーは、キッとラブラを睨みつけた。

 

「なによラブラ! あんたはママの演技が下手だって言いたいわけ!?」

 

「っ…そんな事ない! お母さんの演技がすごいのぼくも知ってるもん! ただ…!」

 

 ラブラは口をつぐみ、顔を伏せる。

 悲しみと悔しさが混じった顔でポロポロと涙をこぼす。

 

「ラブラ」

 

 アイの呼びかけにラブラは顔を上げる。

 アイは膝に乗せていたルビーを下ろし、両手を差し出す。

 

「おいで」

 

「…ッ」

 

 ラブラはアイの膝に抱き着き、嗚咽を漏らす。

 アイは膝で泣き続けるラブラの頭を優しくなでた。

 

「ラブラ…ひょっとして今回のドラマ、私の出番がカットされるって分かってた?」

 

 その問いにラブラはこくんと頷いた。

 

「ぼく…監督から映像作りについて聞いてて…そしたら主役より目立ったり、上の都合で出番がカットされる事もよくあるって……」

 

 合点がいった。

 今回のドラマの主演は、事務所が『可愛すぎる演技派』を売りにしている女優だ。

 だが、同じ画面にその女優よりも可愛い人物がいたとしたら? イメージ戦略的に大きな痛手になり得るはずだ。

 加えて主演女優が所属する事務所は大手だ。 アイがいくらアイドルとして有名でも小規模の事務所である苺プロでは会社間とのパワーバランスでは劣る。

 おそらく制作会社の希望で、主演女優より目立つアイが登場するシーンを限りなくカットして編集するよう監督に指示したのだろう。

 

「撮影してる時のお母さん、すごく可愛かった…主役の人の顔がぼやけて見えちゃうくらいに……だけど思ったんだ。 主役の人よりお母さんが可愛く見えちゃったら、今見てるのがカットされちゃうんじゃないかって……」

 

 あの時のラブラが表情を暗くしていたのは、それが理由だったのか。

 俺がラブラを探す前に監督から編集について聞いていて、撮影で一際目立っていたアイに不安を抱いてたのだ。

 

「ぼく、監督にカットしないでって言いたかった…でもそんなことしたらお母さんやミャーコさんに迷惑かけちゃうし…カットされるかもって言ったらみんな不安になると思って言えなくて…もしドラマでお母さんの出番がカットされちゃったら、お母さんたちが がっかりするんじゃないか怖くて……」

 

「そっか、辛かったねぇ…」

 

「ラブラ、そんなに思い詰めてたなんて…怒鳴っちゃってごめん」

 

 ルビーはラブラに謝ると、その背中をさすった。

 自分たちが暢気に構えている間に、ラブラはたった一人で苦悩していたのだ。

 それを思うだけで胸の奥がきりりと痛んだ。

 

「ラブラ」

 

 アイはラブラの両頬に手を添え、顔を上げさせる。

 目を真っ赤に泣き腫らしながら、ラブラはアイを見つめた。

 

「教えてくれてありがとう。 おかげで自信ついたよ!」

 

「お母さん…?」

 

 突然パアッと顔を明るくさせるアイに、ラブラは目を丸くさせた。

 

「私の出番がほとんどカットされちゃってモヤモヤしてたけど、ラブラの話を聞いて私が主役を食っちゃうくらいの演技が出来てたって分かったんだ」

 

「食っちゃうって……お母さん、あの女優さん食べちゃうの?」

 

 いやラブラ、主役を食うってそういう意味じゃ無い。

 心の中で突っ込んでいると、アイがいかにも悪そうな笑みを浮かべた。

 

「そうだよ~? お醤油をつけて食べちゃうかもねぇ~」

 

「う、うそだよね…?」

 

 おやおや、とアイはラブラを抱え上げ、膝にのせる。

 そして獲物を見つけた獣のように舌なめずりした。

 

「ここにも美味しそうな子がいるねぇ?」

 

「お…お母さん?」

 

「どれどれ試しに一口…」

 

「まっ…待って! ぼく食べてもおいしくないよ!」

 

「あー…」

 

 口を大きく開けたアイが顔を近づける。

 恐怖のあまりラブラは目を閉じる。 そして――

 

 

  チュッ

 

 

 軽いリップ音とともにアイの唇がラブラの額へ落された。

 

「……へ?」

 

「ふふっ 驚いた?」

 

「あ…あぁ…」

 

「おっと」

 

 腰が抜けて膝から転げ落ちそうになるラブラをアイが抱きとめる。

 そして彼の頭を優しく撫でた。 

 

「ねぇラブラ」

 

「な…なあに?」

 

「心配かけてごめんね。 今回のドラマはちょい役だったから残念なことになっちゃったけど…いつか大きな仕事がもらえるくらいに頑張るから」

 

「……お母さんなら大丈夫だよ。 あの監督さんも褒めてたもん」

 

「そっかそっか! もしかしたら監督さんの方から仕事をくれるかも――」

 

 その時、アイのスマホから着信音が響いた。

 ちょっとごめんね、とアイはラブラをソファに座らせてスマホを手に取った。

 

「知らない番号…誰だろ?」

 

 もしもし、とアイが電話に出る。

 その直後、彼女は大きく目を見張った。

 

「監督!? あっ、先日はお世話になりました…! え? あぁ、全然気にしてませんよ? むしろ私が可愛すぎて主役を食っちゃうかもだからしゃーなしですし……あはは、よく言われまーす」

 

 照れくさそうに頭をかきながら通話するアイ。

 いったい監督とどのような話しをしているのだろうか。

 

「ところで監督、私に何か……え、いますけど?」

 

 ちょっと待ってください、とアイが俺にスマホを差し出した。

 

「監督がアクアに代わってほしいって」

 

「俺に?」

 

 監督が俺に何の用だ?

 そんな疑問を抱きつつ、電話に出る。

 

「もしもし」

 

『よう、久しぶりだな早熟ベイビー』

 

「どうしてアイの電話に?」

 

『いやな、ちょっと用があって苺プロのマネージャーに電話してみたら、お前ら兄弟がアイドルの所に泊ってるって聞いたから番号教えてもらったんだよ。 っていうかアイドルの家に泊まるとかお前ら随分と大胆だな』

 

「別に…それで俺に何か用?」

 

『あぁ、この前のドラマでアイを使ってやれなくて悪かった。 上からの希望には逆らえなくてな』

 

「その事は弟から聞いてるよ。 納得はしてないけど、理解はしてるつもり」

 

『だろうな。 そこで替わりと言っちゃなんだが、アイに仕事を振りたい。 映画の仕事だ』

 

「えっ…マジで!?」

 

 ただし、と監督が言葉を付け加える。

 

『お前も出るのが条件だ』

 

「……は?」

 

 

 監督からの提案。 それは俺にとって未知の領域である芸能界への誘いだった。




お察しと思いますが、次回はあの天才子役が登場する予定です。
書き貯め分がなくなったため、投稿ペースが遅くなるかもしれませんが、今後もよろしくお願いします。
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