鈍色の三番星   作:OK太

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今回は6話の続きとなります。

有馬かなちゃんは推しの子の中でもかなり好きなキャラですが、結構キャラ崩壊しちゃったかも…解釈違いだ、重曹ちゃんはこんなこと言わないと思うかもしれませんのでご注意ください。


第7話 役者とファン

「じゃあ撮るぞー!」

 

 監督の号令で映画の撮影が開始された。

 今回の映画のあらすじをざっくり言うと、自分の容姿にとことん自信のない女が、なぜか山奥にある病院で整形を受ける……って話。

 

 俺――星野アクアと有馬かなは、その村の入り口で主人公と出会う気味の悪い子供達という役を演じる。

 

 

「ようこそおきゃくさん。 かんげいします……どうぞゆっくりしていってください」

 

 

 流石は天才子役。 わずか2歳でここまでの演技ができるのは驚嘆に値する。

 ずぶの素人の俺でも、彼女との演技力に天と地ほどの実力差がある事は分かる。

 同じ事をしたところで目も当てられない結果になるのは明白だろう。

 

 ならどうするか? 普通に考えれば気味の悪い子供の演技をすればいい……が、

 

 

 ―――画面としてはおもしれぇな、なんかに使いたい

 

 ―――監督はアク兄が演技できないってこと知ってるし、演技が上手くなくても大丈夫じゃない?

 

 

 監督が俺に求めてるのは有馬かなのような高い演技力じゃないはずだ。

 『監督が欲しい画』はきっと……

 

 

「この村に民宿は一つしかありません。 一度チェックインしてから村を散策すると良いでしょう」

 

 

 俺は特に表情や声色を変えることなく、前世で医者だった頃に患者へアドバイスするような気持ちでセリフを言った。

 単にセリフを口にしただけで、主演女優の顔に動揺が浮かんだ。

 

 

 ―――本読みの段階じゃ、あんたもアイドルの子の出番もなかった。 今日の撮影するシーンだって、本当だったら私一人のはずだったのに……

 

 

 この台本は急遽追加された部分。 監督が俺の事を知ってから加筆した当て書きだ。

 演技経験のない俺を採用した監督の意図を汲むなら……むしろ演じなくていい。

 

 言葉にはしなかったけど、監督が俺に言いたいのは『演じなくても お前は十分気味が悪い』という事。

 

 監督が求めていたのは1歳児とは思えない子供である普段の俺。  まさにこのシーンの為だけにあるような子供なのだ。

 

「カット! OKだ!」

 

 何度かリテイクするのを覚悟していたが、一発OKだった。

 無事に撮影が終わって一息つくと、有馬かなが監督に詰め寄る。

 

「監督、撮り直して」

 

「ん? いや問題なかったから――」

 

「問題大ありよ!」

 

 その場にいた全員の視線が有馬かなに集まる。

 

「今のかな…! あの子より全然だめだった…!」

 

 俯く彼女は大粒の涙を流し、しゃくり上げながら言った。

 

「やだっ…もっかい! お願いだから!! 次はもっと上手にやるからっ!! もいっかい! ねえ!」

 

 彼女は監督に縋りつき、撮り直すよう泣きながら訴える。

 女性スタッフに引き剥がされながらも、有馬かなは監督に懇願し続けた。

 結局、監督は撮り直しをする事はなく、今回の撮影は終わった。

 

 

 

 

 

 撮影が終わり、俺たちはミヤコさんが帰りの準備が整うのを待っていた。

 

「お兄ちゃん、女の子泣かすとか大人げないよ」

 

「いや向こうが勝手に泣いたんだろ…俺はただ台本通りにセリフ言っただけだし」

 

「うわー さいてー これは将来、お兄ちゃんの口車に乗せられて泣かされる女の子が現れる未来くるわー」

 

「俺を何だと思ってんだ」

 

 ルビーへ悪態をつきながら、ちらりと撮影現場にある休憩所に目をやる。

 有馬かなは依然として泣き続けており、周囲のスタッフが彼女をなだめていた。

 撮影直前に高慢な態度を見せた有馬かなを、本人の肩書通りに泣かしてやると意気込んでいたが、今の彼女の姿に芽生えた怒りもすっかり萎えてしまっていた。

 

(そうれはそうと……ラブラは監督と何の話をしてるんだ?)

 

 ベンチでは監督とラブラが座っており、何やら会話をしている。 いったい何を話しているのだろうか。

 

 

 

「なぁ早熟弟。 お前、有馬かなのファンだってな?」

 

「アク兄から聞いたの?」

 

 まあな、と監督は有馬かなのいる休憩所を目配せする。

 

「推しの役者があんなに泣き喚いてがっかりしたんじぇねぇかと思ってよ」

 

「別に? アク兄やアイお姉さんを悪く言ったからざま―みろって思ってるよ」

 

「その割には複雑そうな顔してんぞ?」

 

「……ぼく、以前見たドラマに出てた かなちゃんを知ってから、今日会えるの楽しみにしてた。 でも……」

 

「実際に会って幻滅したってか?」

 

 その問いにラブラは無言でうなずく。

 ふー…、と監督がため息を吐く。

 

「いいか早熟弟、役者本人に夢を見すぎるのはよしたほうがいい」

 

「え?」

 

「役者ってのは優しいキャラに怖いキャラ……かっこいいキャラにドジなキャラ……賢いキャラにおバカなキャラ……そういう演技を視聴者に見せて楽しませるんだ」

 

 監督の話に相槌を打つようにラブラは小さくうなずく。

 

「ただ、視聴者の中には役者本人をキャラと同一視したり、自分の思い描いたイメージを押し付けてボロクソ叩くやつがいる。 役者の中には悪役の演技が上手すぎたばかりに子供に蹴られた大物役者や、世界中に嫌われたりした子役だっている。 役者本人はただ仕事のために頑張ってるだけなのにな」

 

「…ッ」

 

 ラブラは目を見開き、顔を俯ける。

 そんなラブラの頭へ監督がポンと手を置いた。

 

「そう落ち込むな。実際にも有馬かなみたいに性格が悪い役者はいる。 だがあいつはまだ2歳だ。 今後の身の振り方によっては評価を改めれる事だってある。 それまで生温かく見守って――」

 

「監督…!」

 

 2人のもとにADが駆け寄る。

 どうだ? と監督が問うと、ADは首を横に振る。

 

「まいったな…今回の撮影、有馬かなにも良い経験になるって思ったんだが……」

 

「すっかり心折れちゃったみたいで、役者辞めるとまで言ってて…」

 

「…ッ!」

 

 横で話を聞いていたラブラはベンチから飛び降り、休憩所へと駆けだしていった。

 有馬かなの前まで来ると、彼女をなだめていたスタッフたちが なんだこいつ? とばかりにラブラを見つめる。

 有馬かなはラブラに気づくと、弱いところを見せたくないように涙を拭い、キッと睨んだ。

 

「――…なに? 私を笑いに来たわけ?」

 

「……役者を辞めるってほんとなの?」

 

 その問いに、有馬かなはうんざりするように深いため息をつく。

 

「あんたも見てたでしょ…あんたの兄貴と私の演技との差が。 私の演技は全然駄目だった……天才子役って皆に言われてるのに、無名の新人に演技で負けたのよ。 滑稽でしょ?」

 

 自嘲気味な笑みを浮かべて首をかしげながら有馬かなが問いかける。

 ラブラが黙って話を聞いていると、 有馬かなは顔を隠すように白い帽子を目深にかぶった。

 

「監督は撮り直してくれなかった…今日撮影したシーンが上映されたら、観客全員があの子に注目するに決まってる……有馬かななんかとは比べ物にならないくらい凄いって……」

 

 有馬かなが嗚咽を漏らすたびに帽子の影から雫がこぼれ落ちる。

 帽子のつばを掴む手が震えていた。

 

「そんな恥ずかしい思いするくらいならっ…いっそ辞めた方が――」

 

「駄目なんかじゃないよ! かなちゃんの演技は凄かったよっ…アク兄じゃ真似する事なんて出来ないくらいの凄い演技だったもん!」

 

「そんな安い同情なんかいらないわよ……私の事なんか庇わなくたって……」

 

「庇うよ。 だって、ぼく……かなちゃんのファンだから」

 

「……え?」

 

 突然の告白に有馬かなは顔を上げ、ラブラを見つめる。

 少し見つめ合った後、ラブラは気恥ずかしそうに話し始めた。

 

「ぼく、以前見たドラマでかなちゃんの事を知ってから過去の作品も見たんだ。 皆の言うように泣く演技も印象的だったけど……なにより お日様みたいな演技に惹かれたんだ」

 

「お日様みたいな演技?」

 

「こう…なんて言うのかな。 他の人が霞んじゃうくらいに眩しくて……それでいてずっと見ていたら胸がじんじんするくらいにあったかくなって、もっと見たくなるっていうか……ごめん、上手く言えないや」

 

 稚拙ながら自分の思いを伝えようとするラブラの姿勢に、有馬かなは気まずそうに顔を伏せる。

 

「でも私は、 あんたの兄貴とあのアイドルを馬鹿にしたのよ? むかついたんじゃないの?」

 

「……確かにアク兄とアイお姉さんを悪く言われたのはショックだったし、頭に来た。 でも…さっきの演技を見て、やっぱりかなちゃんは凄いんだって感動したのはほんとだよ」

 

 ラブラは前屈するくらいに深く頭を下げる。

 

「星野アクアの弟としてじゃなく、一人のファンとしてお願い……辞めないで」

 

「…!」

 

「勝手なお願いだとは思う……だけど、かなちゃんにはこれまで以上に凄い役者さんになるって思ってる。 これからも役者を続けてほしい。 だからっ……」

 

 

 深く頭を下げたままラブラは訴える。

 

 しばしの沈黙を破るように有馬かなが口を開いた。

 

 

「――…さっきからなに真に受けてんのよ」

 

「え…?」

 

「私がこんな事で辞めるわけないじゃない」

 

「えっ…でもさっき役者辞めるって……」

 

 恐る恐る言うラブラに、有馬かなは ハンっと鼻を鳴らした。

 

「私は『10秒で泣ける天才子役』よ? あんなの演技に決まってんでしょ」

 

「……ほんとに辞めない…よね?」

 

「だからそう言って――…っえぇ!?」

 

 有馬かなが雑に返事しようとした瞬間、声が裏返った。

 ラブラの青い瞳を宿す双眸から涙がこぼれ、頬を伝ったからだ。

 

「ちょっ…なにも泣くことは…! いや、傷付けるつもりはっ!」

 

 咄嗟についた嘘で傷つけたと思い、有馬かなは戸惑う。

 するとラブラは腕で涙を拭って、くしゃくしゃに笑った。

 

「よかったぁ……」

 

「え?」

 

「かなちゃんが役者やめなくて…ほんとによかった……」

 

 有馬かなは言葉を失った。

 彼の笑顔には、純粋な安堵にあふれている。

 この子は心の底から喜んでいるのだ。 自分の兄やアイドルを馬鹿にした子役が辞めなかった事に……こんな自分の事を。

 

 

「あの……」

 

「ん?」

 

「あんたの兄貴と、アイドルを……馬鹿にしてごめん」

 

「……うん、許すよ。 謝ってくれたから」

 

 その言葉に、有馬かなは小さくうなずいて返した。

 

「ねぇ、あなたの名前教えてよ」

 

「え?」

 

「一応、私のファンなんだし? 名前くらい憶えておきたいから」

 

 それもそうだね、とラブラは有馬かなに向き直る。

 

「じゃあ改めて……星野アクアの弟、星野恋羅度光です」

 

「ら、らぶっ…?」

 

「らぶらどらいと」

 

「……なに、その変な名前」

 

 それを聞いたラブラは顔をムスッとさせる。

 

「お母さんからもらった大事な名前なんだけど……」

 

「ご、ごめんっ! 余りにも奇抜な名前だったから…」

 

「あ…じゃあ、呼びにくかったらラブラでいいよ」

 

「ラブラ……星野ラブラ……うん、覚えた」

 

 少し反芻するようにラブラの名前を覚えた有馬かな。

 あ、そうだ…とラブラは一言加える。

 

「余計なお世話かもだけど、現場にいる人たちとは仲良くした方がいいよ。 アク兄から聞いたんだけど、自分の印象を悪くしたら洗濯されちゃうんだって」

 

「洗濯……干されるってこと?」

 

「そうそう、そんな感じ」

 

「いや…干されるってそういう意味じゃないから」

 

「え、そうなの?」

 

「むしろ何だと思ったのよ……まぁ、とりあえず頭の片隅に入れとくけど」

 

 

 

  ラブラ―  帰るわよー

 

 

 

「あ、はーい! 今行くよママー!」

 

 遠くから呼びかけてくるミヤコに向かってラブラが叫ぶ。

 彼は有馬かなの方へ向き直ると、ペコッと頭を下げた。

 

「じゃあ、行くね」

 

「あ…」

 

 ラブラは有馬かなの返事を待たず、ミヤコの方へ駆けて行った。

 ミヤコのもとへ着いたラブラが彼女と手を繋ぐと、有馬かなに向かって手を振りながら帰っていった。

 

 有馬かなも手を振り返そうと思ったが、少し恥ずかしいので手を腰の高さまで上げて振り返した。

 

 

(あの人がラブラのママかぁ……あんなにデレデレしちゃって、そりゃラブラドライトなんて奇抜な名前を付けるのも納得――― …ん? ママ?)

 

 

 ――お母さんからもらった大事な名前なんだけど……

 

 

(さっきお母さんって言ったのにママ呼び? なんで?)

 

 

 不意に覚えた違和感。

 それを確かめる間もなく、ラブラを含めた苺プロの面々は車に乗って現場を後にしていった。

 

 

 

 

 

 ――数日後。

 

 

「……なんでお前が来てんだ? 今日の撮影でお前の登場シーンは無ぇぞ」

 

 休憩所のベンチで待機している五反田監督は、隣で足をプラプラさせる有馬かなを見やる。

 

「別に、今日はお休みだから見に来ただけ。 撮影の邪魔はしないから気にしないでよ」

 

「……まぁ居るのは構わねぇが、この前みたく泣きだしたら締め出すからな」

 

 言われなくたって…と、有馬かなは不貞腐れ気味に言葉を返す。

 

「ねぇ監督、今日は苺プロのアイドルが来るんでしょ?」

 

「来るには来るが……まさか八つ当たりするつもりじゃ――」

 

「そんなんじゃないって! 無名の星野アクアでもあの演技だったから、アイドル本人の演技が気になっただけだから!」

 

 慌てて弁明する有馬かなに監督は少し驚いた顔をし、持っていた台本を閉じる。

 

「お前さんが他人に興味を持つなんてな……やっぱあいつを誘って正解だったわ」

 

「なんの話?」

 

「なんでもねぇよ。 そろそろあいつも来る頃……っと、噂をすればだ」

 

 そう言って立ち上がった監督は、撮影準備をしているスタッフたちの方を見る。

 有馬かなは監督の視線の先を追い―――目を奪われた。

 

 撮影準備をするスタッフたちに挨拶をする、紫がかった黒髪の女性。

 端正な顔立ちでスタイルも良く、遠目からでも美人である事が見て取れる。

 だがそれだけではない 既に現場入りしているベテランの俳優陣が霞んで見えてしまうほどに彼女は存在感があった。

 男ならともかく、子供ながらも女である自分も見とれてしまったのは初めての感覚だった。

 

「監督! 今日はよろしくお願いします!」

 

「おう、今日はよろしくな」

 

 監督への挨拶をしたアイは、監督の傍らに立つ有馬かなに気づくと、目線を合わせるようにその場でしゃがみ込んだ。

 

「かわいー! この子って監督の娘さんですか?」

 

「んなわけあるかっ! 俺は独身だっての!」

 

「あ、やっぱり? だって監督に全然似てないもん」

 

「……可愛い顔して辛辣だなおい。 っじゃなくて、こいつは有馬かな。 この前お前さんとこの早熟と共演した子役だよ」

 

「あぁ、たしか重曹を舐める―――」

 

「10秒で泣ける天才子役!!」

 

 あまりにも素早い有馬かなのツッコミにアイは目を丸くし、数秒遅れて ごめんごめん、と謝りながら有馬かなの頭を撫でた。

 

「ルビーから聞いてて、どんな面白い子かなって思ってたけど、けっこう真面目なんだねー」

 

「おいおい…お前さんからすれば、こいつは役者の先輩なんだからあんまりからかわないでくれよ」

 

「はいはーい! これからよろしくね、かなちゃん先輩!」

 

「…!」

 

 

 有馬かなに見せたアイの笑顔。

 その笑顔は先日出会った星野ラブラと重なって見えた。




今作で今年の投稿が最後となります。

私事ですが中学に見た『誰も知らない』という映画で毒親を演じたY●Uさんの事が嫌いになって、テレビで見るたびにチャンネルを変えるほど嫌悪していた時期がありました。 wikiで知ったのですが、バラエティ番組で出演していたY●Uを見た映画監督が「いかにも育児放棄をしそうなキャラ」という直感から演技未経験のY●Uさんをオファーしたそうで、なんだかアクアの映画デビューエピソードと重なるものがあると感じました。

ハーメルンで活動する以前はPixivで小説を投稿してましたが、多くの方々に読んで頂けたり、感想や点数を頂けてくれたことが嬉しく、モチベーションアップになりました。 遅筆ではありますが、来年もよろしくお願いいたします。
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