同級生の美少女四姉妹に勉強を教えていたら何故か好かれてしまった件   作:水垣するめ

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1話

 

「ここが、今日から俺の通う高校か……」

 

 爽やかな春の風が吹き、桜が舞い散る中、俺は目の前の校舎を見上げる。

 私立一条学院。

 それが俺の通う高校の名前だ。

 市では一番偏差値が高い高校で、その分受験の倍率も高かったが、俺はその受験を突破してこの高校に入学した。

 

「フフ、これもすべてはエリートになるためだ」

 

 そう、俺は将来必ずエリートになる、と決めている。

 日本で一番有名な最高学府の大学を卒業し、官僚や大企業に就職するのが、俺の人生の目標だ。

 その手始めとして、俺はまずこの進学校として名高いこの高校に入学した。

 拳を握りしめた。

 思い出すのは、苦い過去。

 落ちこぼれで、どうしようもなくみっともなかった、最低最悪の俺だ。

 

「俺はもう、昔とは違う……!」

 

 そうだ、俺はもう昔みたいな落ちこぼれじゃない。

 気持ちを入れ替えるために肺の空気を全部吐き出すと、深く息を吸った。

 そして顔を上げるとニヤリと笑みを作って、高笑いを上げた。

 

「ハハハ、まずは三年間成績トップを維持し続けてやる!」

 

 そう意気込んで俺は高校の中へと進んでいった。

 

 

 

 

「というわけで、君たちも高校生になった以上、これからはしっかりと──」

 

 教壇に立つ担任教師がクラスメイトに向かって訓示を垂れていた。

 入学初日というだけあり、流石にまだ授業は始まっておらず、今はホームルームの時間だった。

 だが、もちろんこんな無駄な説教を聞くのだけじゃもったいない。

 なので、俺は持参した英単語帳を赤シートで隠して確認しながら、適当に担任の話を聞き流していた。

 

「クク、隙間時間を活用するのは受験生には必須のテクニックだ……」

 

 ……それにしても、この英単語帳面白いな。

 分厚いだけあって、なかなかとっつきにくそうな外見なのに、中身は意外と面白い。普通に読んでるだけでも知的好奇心を刺激される。

 その時。

 

「お前受験生じゃねーだろ」

 

 パァン!

 思いっきり頭を出席簿か何かで叩かれた。

 

「痛ったぁ!? 何するんですか!?」

 

 俺は頭を押さえて顔を上げる。

 そこには呆れた顔をした、スーツ姿の女性教師が立っていた。

 黒髪で、きつそうな目をしているが、かなり美人ではある。

 

「私の話を聞いていなかったからだ。それになんだ受験生って。まだ入学初日だろうが」

「ふっ、それは甘いですね。もう受験は始まっているんです。できるやつは今も勉強してます」

「あー……まぁ、勉強熱心なのはいいことだが……いきなり笑い出すのはやめろ。全員ドン引きしてるだろうが」

 

 言われた通りに見渡してみると、クラスメイトがドン引きした顔で俺のことを見ていた。

 なるほど、英単語帳をめくっている時から感じていた視線の原因はこれか。

 担任の言うことも一理あるので、俺は素直に受け取ることにした。

 

「確かにそれもそうですね。これからは静かに勉強することにします」

「私の話を聞けバカ」

 

 スパァン! もう一度頭を叩かれた。

 

「それより、自己紹介しろ。天草。お前が名簿で一番最初だ。しっかりやれよ」

 

 担任が出席簿を手でポンポン、と叩く。

 どうやら、入学初日ということで自己紹介をする時間らしい。まぁ、入学したての頃は名前も分からないだろうし、自己紹介を挟んでおいた方が友達ができやすいだろう、という学校側の計らいだろう。

 

「分かりました」

 

 流石に自己紹介くらいはしないとな。そう思って俺は椅子から立ち上がった。

 

天草御才(あまくさみかど)。趣味は勉強。目標は三年間ずっと学年トップを維持すること。よろしく」

 

 至って簡潔に、そう自己紹介をして椅子に座る。

 するとまた頭を出席簿で叩かれた。

 

「痛ぁ!? なんでまた叩くんだよ! ちゃんと自己紹介したじゃないすか! 俺の頭はクイズの早押しボタンじゃないんだぞ!」

「私の言ったことをちゃんとしないからだ」

「お前は溶け込む努力をしろと言ってるんだ。じゃないと私が大変だろうが」

「いや自分のためかよ!」

「当たり前だ。私が一番大切に決まってるだろうが。生徒なんて二の次だ二の次」

「教師がいうセリフかよ……」

 

 俺なんかより、この担任の方が百倍やばい発言してるんじゃないだろうか。俺なんかただ「勉強が大好きピチピチ十五歳ですっ!」って挨拶しただけだぞ。いや、そんなこと言ってないか。

 

「はぁ、お前には何を言ってもダメそうだな。もういい。次、井ノ上、自己紹介しろ」

 

 なんか勝手に諦められて、次の自己紹介に移っていった。

 なぜか俺だけ問題児扱いなのは不服だが、勉強を再開する。こうしている間にもライバルたちは勉強してるはずだからな。

 単語帳を広げ、勉強に没頭しようとした。

 しかし。

 

「アホか」

 

 バシィンッ! 今までで一番強く叩かれた。

 

「痛った! 何回叩くんすか!」

「自己紹介は聞け。クラスに対して自己紹介するということは、お前にもしてるんだぞ。相手に失礼だろうが」

「…………すんませんでした」

 

 担任の言うことはもっともだったので、俺は素直に謝ると言われた通りに単語帳をしまい、クラスメイトの自己紹介を聞くことにした。

 確かに言う通りだ。自己紹介を無視して勉強するなんて、人として最低だ。駄目なことなんだ。

 人として間違ったことはしたら駄目だと、親父にもよく言われてる。危うく言いつけを破るところだった。

 危ない危ない。

 ……そうか、頭の中で暗唱するならバレないのか。

 

「よし、再開してもいいぞ」

 

 担任が自己紹介を再開するように促す。

 そして俺は、クラスメイトが自己紹介している間、頭の中で英単語帳を念仏のようにぶつぶつと唱えて勉強するのだった。

 

 

 

 

 そしてホームルームが終わり、授業もないので放課後になった。

 勉強したいので荷物をまとめて普通に帰ろうとしたのだが。

 

「おーい、天草」

 

 帰ろうとした途端、担任が声をかけてきた。

 気だるげそうな声と顔をした担任が出席簿で肩を叩きながら、俺の方まで歩いてきた。

 

「なんですか」

「今からちょっと職員室来て」

「え、嫌です」

「駄目でーす。問題児を連行しまーす」

「はぁ!? なんすかそれ!」

「良いから来い。ほら行くぞ」

「ちょっ、無理やり引きずらないでくださいよ!」

 

 担任は俺の制服の襟首を掴むと、無理やり連行される。

 くっ!? 勉強ばっかりしてるせいで筋肉がないから振り解けない……!

 俺は自分の貧弱さを呪った。

 

 

 

 

 そして、俺は無理やり職員室へと連れてこられた。

 

「ほい、これ」

「……なんすか、この大量のプリント」

 

 いきなり俺の手にどさっ、と大量の藁半紙の束が載せられた。なにこれめちゃくちゃ重いんですけど。

 担任にこれは何かを聞くと、紙コップに紅茶のティーバッグと、机の上に置いた電気ポッドからお湯を注ぐと、俺の質問に答えた。てか、この人の机汚ねぇ……。しわしわになったプリントとかコーヒーの空き缶とか置いてるんですけど。

 

「これ、運んどいて」

「は? 嫌ですけど」

「え? なんで」

 

 担任は至極不思議そうな顔で首を傾げた。いや、そんな顔されてましても……。

 

「俺は今すぐ帰って勉強したいんです」

 

 俺がそう言うと、担任は不満そうな顔になった。

 

「えー、だって出席番号一番じゃん。それに天草さぁ、成績良いんだろ?」

「はぁ、まあ」

「てことはさ、真面目ちゃんってことだろ? ガリ勉だろ。だったら先生の言うこと聞けよ」

「いや関係ねーだろそれ! どいう理屈だよ」

「残念、天草は問題児なのでもう先生のパシリ決定でーす。まあ、社会の準備室に運んどいてくれたら良いから。じゃ、よろしく頼むなー」

「えっ、ちょ、は?」

 

 担任はそう言うとヒラヒラと手を振って机に向きなると、机の上の紙コップに入れた紅茶を飲み始めた。温かそうなそれを飲んで「はー……」とリラックスした息を吐いている。

 俺の言葉は完全無視だ。

 くっ……! ちょっと美人だからって調子に乗りやがって……!

 

 

 

 仕方がないので、俺は廊下を大量のプリントの束を持ちながら歩いていた。

 重い。そしてダルい!

 

「くそっ、本当ならもう帰ってこれからの授業の予習に費やすつもりだったのに……!」

 

 これも全部あの無茶苦茶な担任のせいだ。

 

「だが、この状況でも勉強するコツは掴んできたぞ……!」

 

 プリントの上で単語帳を開きながら、ぶつぶつと呟いて英単語を覚えれば、こんな時でも勉強ができる。

 

「ハハハ……! 俺が現代の現代の二宮金次郎だっ……!」

 

 ゼェハァと肩で息をしながら廊下の角を曲がり、階段を上がる。

 すると踊り場の方から女子の声が聞こえてきた。

 

「えー、それ本当なの?」

「ほ、ほんとにいたんだもん! 入学初日で勉強して、高笑いあげてた人!」

「それってさぁ、明音(あかね)の見間違えじゃないの!」

「あたしは明音信じるよー!」

 

 ほー、俺みたいに勉強熱心なやつがいたんだな。

 そんなことを考えながら階段を上がっていると。

 

「あー! この人! この人だよ三人とも!」

 

 ビシッ! と指で指されて名指しされたので、俺は顔を上げた。

 

 ──そこには、四人の美少女が立っていた。

 

 一人目は、ハーフツインでピンク色に髪を染めていて、鋭い目つきが性格のキツさを窺わせる美少女。

 

 二人目は、いかにも能天気でおバカそうな顔で、明るい亜麻色の髪をボブカットにしてオレンジのリボンをサイドで結んでいる美少女。

 

 三人目は、ウルフカットに緑色のインナーカラーを染めている、背が高めのダウナーな美少女。

 

 四人目は、いかにもギャルな見た目で金髪ロングの、人懐っこそうな笑みを浮かべている美少女。

 

 階段の踊り場に差す太陽の光が、まるで四人を女神かのように照らされて立っていた。

 

「この人が単語帳で勉強してた人! めちゃくちゃガリ勉の人だよ!」

 

 明音、と呼ばれた明るそうな美少女が俺を指差す。するとその大袈裟な動きで胸元のリボンが揺れた。俺と同じ一年生みたいだな。

 

「えっ、実在したんだ」

「なんかプリント重そうじゃない?」

 

 ハーフツインの美少女と、ウルフカットの美少女が少し驚いた顔でこっちを見ていた。

 

「……」

 

 なんか面倒くさそうだし、別に話しかけられた訳でもないので、そのまま無視して通り抜けようとしたのだが。

 

「あ! 私手伝いましょうか? ええと……天草さん!」

 

 名前を呼ばれたら流石に振り返らざるを得ない。

 

「……いや、大丈夫だ。これくらい楽勝だから」

 

 本当はかなりキツいのだが、今すぐに帰って勉強したいので俺はその申し出を断った。多分、この明音ってやつと関わったら面倒なことになる気がする。俺は今すぐに帰って勉強がしたいんだ。

 しかし俺の断り方が気に障ったのか、ハーフツインの美少女が眉を寄せた。

 

「はぁ? どう見ても辛そうじゃん。絶対に出来ないでしょ。意地張ってないで素直に助けてもらったら?」

 

 『出来ないでしょ』

 ピタリ、と俺は足を止めた。

 そしてハーフツインの美少女の方へと振り返る。

 この時、完全に俺はカチンときていた。

 それは俺が言われて一番頭にくる言葉だった。

 

「な、何よ……」

 

 ハーフツインの美少女が警戒したように、半歩身を引く。

 

「余計なお世話だ。これくらい俺一人で運べる」

 

 俺は構わずいっ、と近づくと、至近距離で言い放ってやった。

 そしてまた俺は階段を上がっていく。

 

「〜っ! 何なんのよあいつっ!」

 

 背後からハーフツインの怒っている声が聞こえてきたが、俺は鼻で笑い飛ばす。

 あのハーフツインにも、そのお友達の三人にも確実に嫌われただろうが、別に問題はない。これからの高校生活で関わらなければ良いだけだからな。

 私立のこの学園は広い。もう会うこともないだろ。

 この時、俺はそう思っていた。

 

 

 

 

「痛ってぇ……明日は絶対に派手な筋肉痛になってるだろこれ……」

 

 家に帰ってきた俺は、担任の理不尽によって課せられた重労働の結果、筋肉痛を引き起こした腕を労っている。

 幸いにもペンや参考書を握るくらいの握力は残っているが、なんてことをしてくれたんだあの担任……。

 入学初日だと言うのに、なんか目をつけられたみたいだし、これからも今日みたいな雑用をさせられるんだろうか。

 

「ま、いいか。とりあえず勉強だ、勉強。もう大学受験は始まってるんだからな」

 

 ぐるぐると肩を回して自分の席につく。

 とりあえず明日の予習でもしようかと思ったその時、扉がノックされた。

 

「御才、いるかい?」

「あれ、親父。今日はもう帰ってきたのか?」

 

 扉を開けて入ってきたのは親父だった。

 いかにも人の良さそうな柔和な笑みを浮かべている親父は、今病院から帰ってきたのかスーツ姿で、手には鞄を持っていた。

 

「御才、これから一緒にご飯でも食べに行かないかい? 入学祝いもまだだったしね」

「えぇー……マジで?」

「まあそんな嫌そうな顔せずに。たまにしかこうやって食事できないんだから、親子のコミュニケーションでもとろうじゃないか」

 

 まぁ、確かに親父の言うことは納得できる。親父は医者として病院で働いていて、それに加えて仕事熱心な性格なので、家には滅多にいない。なのでこうした時ぐらいしか一緒に飯を食べることができないのだ。

 

「分かったよ。じゃあ、今制服から着替えるから……」

「ああ、制服のままで良いよ。そこそこフォーマルなお店だから」

「分かった」

 

 俺は親父の言う通り、制服で行くことにした。一応ジャケットとかある分にはあるけど、いちいち制服から着替えるのも面倒だしな。なるほどな、親父がジャケットなんか羽織ってたのはそういうわけか。

 持ってくのは……まぁ、スマホと単語帳を持っていったらいいか。

 スマホと単語帳をポケットに突っ込み、俺と親父は家を出た。

 

 レストランに行く道中、俺はポケットから単語帳を取り出すと、道を歩きながらページをめくっていく。隙間時間を活用して勉強しないとな。

 

「こら、勉強熱心なのは良いことだけど、危ないよ」

 

 親父に注意されたので英単語帳をポケットにしまい込む。

 昔から親父の言葉には弱い。

 

「……御才、まだ母親のことは引きずっているのかい?」

「……引きずるに決まってるだろ。だって、俺が出来損ないだったせいで、親父と母さんは離婚したんだから」

「御才、それは違う。君は決して出来損ないなんかじゃない」

 

 親父は、この話になるといつもこう返してくる。

 

「でも、実際に親父たちが離婚したのは俺のせいだろ。俺が母さんの期待に応えれなかったから、母さんは俺を見捨てたんだ」

「御才……」

「妹の瑠璃はできてたんだ。なら、俺も出来なきゃだめだった。でも俺は失敗した。それは変わらない事実だから」

 

 ──母さんは、俺が勉強ができないとわかった途端、様々な才能があり勉強もできた妹の瑠璃により愛情を注ぐようになった。

 そんな状況を見て親父は離婚を申し込み、母さんと俺を引き離した。

 今でも『もっと頑張っておけば』と思う時がある。

 もっと努力すれば母さんから見捨てられずに、親父も離婚せずにすんで、家族が引き裂かれることもなかったのではないだろうか、と。

 才能を表す「才」と帝にかけられた「みかど」という読み方。

 「御才(みかど)」という名前を与えられておきながら、ろくに勉強もできないせいで母親から見限られ、捨てられたという事実から目を背けるつもりはない。

 事実として、俺は出来損ないだった。

 この事実が俺に努力をさせる原動力なのだから。

 

「これは俺の解決するべき問題だ。俺が勝たなきゃいけない過去なんだよ」

「そうか……」

「ああ、でも離婚云々はもう吹っ切れたよ。親父もそろそろ再婚してもいいんじゃない?」

「う、うん。そうだね……」

「どうしたんだよ親父」

「いいやなんでも」

 

 様子のおかしい親父にそう問いかけたが、返ってきたのはなんとも歯切れの悪い誤魔化しだった。

 

 

 

 

 そんな会話をしながら電車を乗り継ぎ、目的地へと到着した。

 俺と親父がやってきたのは高層ビルの上階にある、フレンチの高級そうな店だった。

 高層ビルの上にあるこのレストランにいる客は、どう見ても金持ちっぽい見た目のおじ様やおば様方ばっかりで、俺は気後れしてしまう。本当に入学祝いがこんなに高そうなところとか、大袈裟すぎるだろ……。絶対料理がコースで出てくるところじゃん……。

 

(親父、これのどこが『ちょっと』フォーマルなところなんだよ……)

 

「……これ、俺の入学祝いにしてはちょっと大袈裟すぎじゃない? 中学に入った時は普通に回転寿司だったじゃん」

 

 俺は素直に親父にそう伝える。

 しかし、親父から返ってきたのは、

 

「まぁまぁ、良いから良いから」

 

 という、誤魔化すような返事だった。

 怪訝な顔をしても親父は表情を崩さないので、俺はもう諦めることにした。どうせ、入学祝いで、サプライズか何かでも用意してるんだろ。それならその時が車で考えるだけ無駄だ。それより、少しでも勉強した方が役に立つ。

 店員に案内されるままにテーブルにつく。

 

「料理が出てくるまでまだ時間はあるから勉強しててもいいよ」

 

 そう言われたので、俺はポケットから英単語帳を取り出す。

 そしてページをめくりながら、俺は親父へと質問した。

 

「親父」

「なんだい」

「これってさ、どう見ても二人用の席じゃないよな」

「そうだね。あと五人は座れるかな」

「人数を聞いたんじゃない。俺が質問したのはなんで七人用の席に座ったかってことだ」

「それはもうすぐ分かるよ」

 

 親父はそういうと、それきり黙ってしまった。

 サプライズか何かか? と考えたものの、親父はそういうタイプじゃない。何をするつもりか気になるものの、親父はこれ以上話しそうになかったので、俺はしょうがなく手元の単語帳に視線を戻した。

 てか、ここ勉強しやすいな。高級な店だけあって客はマナーが良く、大声で話したりなんかもしない。しかも余計なBGMがかかっていないので、集中するにはもってこいの環境だ。

 あぁ、もっとしっかりした勉強道具を持ってくるんだった。いや、流石にここでノートや教科書を広げて勉強するのはまずいか。

 そして、しばらく集中していると。

 

「お、来たね」

 

 親父はそう言った。

 俺はコースの料理がやってきたのだろう、と思い、フレンチよりも勉強の方が大切だったので、特にそちらの方を振り向くことなく勉強に集中していた。

 しかし──

 

「あーっ! さっきのガリ勉の人!」

「うっそ…………マジ!?」

「おぉー、こんなところでも勉強してるんだ。流石に驚きを通り越して感心してきたかも」

「あはは! ウケる、めちゃくちゃガリ勉じゃん!」

 

(あれ? なんだこの声。さっき聞いたような……)

 

 聞き覚えのある声が四つ、背後から聞こえてきた。

 同時に、嫌な予感が走って、俺は単語帳から顔を上げる。

 すると……

 

「…………は?」

 

 そこには見覚えのある顔が四つ。

 

 

 ──さっきの廊下の踊り場で出会った四人の美少女がいたのだ。

 

 

「な、なんでこいつらがここに……!」

 

 驚きのあまり俺は椅子から立ち上がり、身を引いた。

 

「御才」

 

 親父が俺の名前を呼ぶ。

 親父の方を振り向けば、その隣には綺麗な女性が立っていた。外見は三十代前半くらいの、親父と似て優しそうな微笑を浮かべた美人だ。

 そしてその綺麗な女性は、親父の腕に自分の腕を絡ませていた。

 ──まるで、夫婦がそうするみたいに。

 

「彼女とは職場で知り合ってね。同じ医師として、意気投合したんだ」

「ちょ、ちょっと待ってくれ親父。何を言ってるんだ? その人は誰なんだよ」

「私の新しい妻だ」

「っ、まさか……」

 

 ここまで来れば、嫌でもどういうことか理解した。

 隣の女性と親父がそうなったということは、つまり──

 親父は俺が理解したことを察したのか、微笑みを浮かべると頷いて、こう言った。

 

「そうだよ、御才。私は再婚することにしたんだ。そして──今日から彼女たちが君の兄妹になる。仲良くするんだよ?」

「……嘘だろ?」

 

 ハハ、と渇いた笑いが漏れる。

 確かに、これはとんだサプライズだな……。

 とさり、と床に英単語帳が落ちる。

 ちょうど、たった今まで俺が勉強していたそのページには、こう書かれていた。

Stepsister。日本語訳は『義姉妹』だ。

 その日、俺に四人の妹ができた。

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