同級生の美少女四姉妹に勉強を教えていたら何故か好かれてしまった件 作:水垣するめ
「お、親父、再婚ってマジなのか? それに妹って……」
「本当だよ、御才。今まで言い出せなくてすまなかったが、私はね、再婚することにしたんだ。彼女が私の再婚相手、高坂百合さんだよ」
「はじめまして、御才くん。高坂百合です。これからよろしくね」
「え、あ、はい。はじめまして天草御才です……」
親父の隣の美人がおっとりと挨拶をしてきたので、俺は毒気を抜かれて思わず頭を下げて挨拶を返してしまった。
へー、百合って名前なのか……ってそうじゃなくて!
「親父、こいつらが妹ってマジなのかよ!?」
「そうだよ。御才は四月生まれだから、彼女たちは君の妹になるね。仲良くするんだよ?」
「マジかよ……!」
衝撃の事実に俺は頭を抱える。
もう会うことはないと思ってたのに、まさかこいつらが妹になるなんて……! てか、こいつら姉妹だったのかよ! 廊下の踊り場で会った時は顔も似てないし、ただの友達か何かだと思ってたのに、まさか姉妹だったとは……!
俺の渋い表情を見て、ハーフツインがムッとした表情になり、腰に手をつくと俺を睨んできた。
「何よその顔。なにか文句あるわけ? 私たちだって、今あんたが連れ子だって知ったんだからね」
百合さんは俺とハーフツインを見て、意外そうな顔で口元に手を当てた。
「あれ? もしかして、二人とも知り合いだったの?」
「はーい、私たちも知り合いだよ! 今日学校で会ったの!」
この中で唯一名前を知っている活発ボブの明音がはーい!と手を挙げる。
明音の言葉を聞いた百合さんはパッと明るい顔になり、
「あら、それなら良かったわ。じゃあ、改めて自己紹介しましょうか。さ、姫花から自己紹介するのよ」
「えっ」
百合さんはハーフツインの方を向いてそう促す。ハーフツインはあからさまに嫌そうな顔をした。
すると百合さんは頬を膨らませて姫花と呼ばれたハーフツインに「めっ!」とした。
百合さんはおっとりとしたイメージだが、その嗜める仕草はどこか従わねばならないような、不思議な力を持っていた。これが母親の力なのだろうか。
ハーフツインも不服そうだったが、百合さんの言葉には逆らえないのか、「わ、分かったわよ……」最終的に頷いていた。
「はぁ……しょうがないわね」
ハーフツインは軽くため息をつくと、胸の前で両腕を組んで自己紹介をした。
「私は
「姫花が自己紹介したってことは、次は私ですね!」
活発ボブの明音が手をあげる。
「私は高坂
「じゃー、次は三女の私だね」
ウルフカットの緑インナーカラーが気だるげに笑って、ピースした。
「高坂
「じゃあ、最後はあたしね!」
最後に、金髪ロングのギャルが元気よく手を挙げた。
「あたしは高坂
すたぁはバチーンっ! と長いまつ毛の瞳をウインクさせた。
「ほら、御才。君も自己紹介しなさい」
親父がそう言ったので、俺はため息を吐きながら自己紹介する。百合さんには自公紹介してるからこいつらも知ってるし、正直面倒くさかったけど、自己紹介しないと親父がうるさそうだからな。
「……天草御才。趣味は勉強。よろしく」
学校での自己紹介と同じく、最低限の自己紹介だがこれでも伝わるだろ。と、思ったのだが。
「御才さん質問です! 特技はありますか! 誕生日は!」
明音が勢いよく質問してきた。
「あ? なんでそんなこと言わなきゃいけないんだよ」
「はぁ、なにそれ!?」
俺が明音の質問を突っぱねると、姫花がきっと睨んできた。
「あんたねぇ、さっきから私たちが仲良くしようとしてるのに、何様のつもり!」
「別に無理に仲良くする必要なんてないだろ。ついさっきまで他人だったんだぞ俺ら。他人に友好的になれって方が無理が…………ああもう、ちょっとこっち来い!」
「えっ? ちょ、ちょっと!」
俺は姫花の手を掴むと、引っ張ってレストランの外へと連れてきた。
姫花は無理やり俺の手を振り解いて、俺から後ずさった。
「わ、私になにするつもりよ!」
「ちょっと話があるんだよ。……てか、なんでお前らまで着いてきてんだよ」
俺たちの後ろには、明音と秋乃、すたぁがついてきていた。
「なにを話すのか気になったので!」
「だって面白そうだし」
「妹だし、いいっしょ!」
「…………はぁ、まぁいいか」
どうせ俺がなにを言って戻らなそうだし、それにこれはこの三人にも関係のある話だ。
「姫花」
「な、なに……」
俺は真剣な表情で姫花に向き直る。姫花はごくりと唾を飲んだ。
「すまんかった」
頭を下げて、姫花に対して謝罪をした。姫花だけじゃなくて、他の三人も驚いているのが空気で伝わってくる。
「は、はぁ!? なんのつもり!?」
「俺の態度は正直悪かった。それを謝罪してる。ついさっき親父から再婚するって聞かされて、ちょっと取り乱した」
「じゃ、じゃあなんで急に謝ってきたのよ」
「俺は、親父には幸せになってもらいたいんだ。ただでさえ前の母親とは俺のせいで離婚してるからな。今度こそ、親父には幸せに暮らしてほしい。お前もそうじゃないのか?」
「わ、私だってママには幸せになって欲しいわよ」
「それなのに、俺たちが喧嘩してたら、親父たちはどう思う」
「……結婚しない方が良かったって、思うかも」
「だろ。だから取引をしないか?」
「取引?」
「そう、俺は親父たちに幸せになってもらいたい。でも、俺は正直に言って勉強に集中したいから、お前らにあんまり関わりたくない。お前も俺みたいな男とは関わりたくないんじゃないか?」
「それは……」
「だから、取引だ。親父たちの前では俺たちは仲のいい兄妹を演じ続ける。でも私生活で干渉するのはなし。これでどうだ?」
ただでさえ高校生というのは思春期だ。今まで女家族でやってきたところに、俺みたいな男が現れて一緒に生活しよう、と言ってもどこかで不破が生じる。
なら、お互い関わらなければいいのだが、それは親父たちの幸せな結婚生活に水を差すことになる。それだけは避けたい。
だから、俺たちは表面上だけは仲のいい理想の兄妹を演じ続ける。そして、お互い干渉はしない。これでお互い無理に関わることなく生活できるというわけだ。
「…………そうね、確かにそれがいいかも知れないわ」
姫花は顎に手を当てて少しの間思案した後、賛成を示した。
ニッ、と俺は笑う。
「じゃあ、交渉成立だな」
姫花に対して握手の手を差し伸べる。すると姫花はふん、と鼻を鳴らして俺の手を握った。
「言っとくけど、あくまで私たちの関係は演技上の、嘘だから。勘違いして私に告ったりしてこないでよ?」
「お前こそ、東大に入ったエリートの俺を見て「御才くんかっこいい! 結婚したぁーい」とか言い出すんじゃねえぞ」
「うっわ、なにその言い方。キモっ」
「お前の真似だバカ」
「は? バカってなに? 私バカじゃないんですけど」
「入試の点数知らないのか? 俺は一位だった。つまりお前は俺以下のバカってことだよ」
次第に、お互い相手の手を握り潰さんばかりに力を込めながら、笑顔で睨み合っていた。
それを見て明音が感心したように声を漏らす。
「おぉ、二人とも早速仲良しさんの演技ですか?」
「「違う!」」
声がハモった。
そして俺たちは親父たちのところへと戻った。
「おや、五人ともどこへ行ってたんだい?」
「え、えーと、親睦を深めに……な、姫花?」
予め打ち合わせしていた通り、俺が姫花に合図を送ると、姫花は笑顔で俺に抱きついてきた。
「えっ、あ、うん! お互い誤解してたみたい! ねー? お兄ちゃん!」
姫花がギリギリと締め付けるように力を込めてくる。マ、マジで骨折する……!
「痛っ……!? はは、姫花は甘えんぼさんだなぁ」
俺は痛みに耐えながら引き攣った笑みを浮かべて、姫花の頭をポンポン、と叩いた。
あっ、さらに腕に力が……! 折れる! 本当に折れるから……!
姫花の腕をポンポン、と叩いてギブアップの合図を送るが、全く力が緩められない。し、死ぬ……!
そんな俺たちを見て、親父と百合さんは頬を緩めた。
「ふふ、随分と仲良くなったみたいで良かった」
「そうね、お互いそりが合わないんじゃないかと不安だったけど、これなら心配ないわね」
よ、良かった……。ボロボロの演技だったが、なんとか親父たちの目を誤魔化せたらしい。
俺は心の中で安堵の息を漏らした。
「そ、そーです! 二人ともとても仲良くなったんですよ! 仲がいいフリをしてる演技じゃありませんよ! ね、秋乃!」
「えっ、うん、そうそう。本当に仲良くなっちゃって…………ぷぷっ、面白いくらい」
「二人とも本当仲良いよねー! なんだっけ、喧嘩友達みたいな!」
……後でこいつらはこってりと絞ってやる。
それはそうと、未だに俺の腕をへし折ってやらんとばかりに絞め続けている姫花に向かって、耳打ちをした。
『おい、姫花』
『なあに、お兄ちゃん』
『さっきから当たってる』
『なにが……ってうそっ!?』
姫花は俺が言わんとしたことが分かったようだ。
「〜〜〜〜っ!!」
顔を真っ赤にした姫花は、弾くようにして俺の腕から離れた。
あー、良かった、やっと解放された。
俺が地獄から解放されて喜んでいると、真っ赤な姫花が涙目で俺を睨んできた。いや、なんでだよ。
「なにはともあれ、仲良くなったみたいで良かったよ。私も百合さんもそれだけが心配だったからね。さ、そろそろコース料理が運ばれてくるよ。みんな座って」
そうして親父の言葉で、たった今、家族となった七人の初めての食事が始まったのだった。
会食が終わり、家に戻ってきた俺はベランダに出た。
春の夜の涼しい夜風が肌を撫でていく。
「はぁ……今日は色々あったせいで疲れたな……」
ベランダの柵に手をつくと、俺はそう呟いた。
今日は衝撃の出来事の連続だった。
親父は急に再婚するわ、連れ子は四人いて、それが全員同じ学年だったとか、他人に話しても信じてくれないだろう。
「まぁ、親父が幸せならそれでいいけどな」
と、その時、俺は今日が満月だったことに気がついた。
「そっか、あの子と約束した日も、今日みたいな満月の日だったよな」
俺はポケットの中からあるものを取り出した。
安物の、どこにでも売っていうるようなビーズのブレスレットだ。だけど、俺にとっては何よりも大切な物だった。
そのブレスレットを見ながら、俺は昔の記憶を思い出す。
五年前の春の夜、俺とあの子はとある約束をした。
『俺が十八歳になったら、結婚しよう』
指切りを結んで、将来絶対に結婚するのだとお互い約束しあったのだ。
「約束まであと二年か…………いや、って言ってもあの子ももうこんな約束覚えてないだろうな……」
ハッと自分の言葉を笑う。
何せ、小学生の時の約束だ。
もし約束を覚えていたとしても、未だに本気にしてることはないだろう。
「バカなこと言ってないで勉強するか」
俺はぐっ、と伸びをすると、部屋の中に戻る。
会食から家に戻ってくると、家に入った瞬間、早歩きで自分の部屋に戻った。
姉妹たちは訝しんでたけど、それどころじゃなかった。
部屋に入って、勢いよく扉を閉める。
そして背から扉にもたれかかると、ずるずると尻餅をついてしまった。
「うそ、まさか御才くんがお兄ちゃんになるなんて……!」
熱くなる頬と、大きな心臓の鼓動を必死に抑える。
まさか御才くんとこんな形で再開するなんて思ってもみなかった。
あっちは気づいてないみたいだったけど、でもこれはチャンスだ。
胸の前できゅっ、と手を握る。
その手には、ビーズのブレスレットが握られていた。
「約束のこと、まだ覚えてるよ?」
ここにはいない御才くんに向かって、そう呟いた。