同級生の美少女四姉妹に勉強を教えていたら何故か好かれてしまった件 作:水垣するめ
「ここが、親父の言ってた家か……」
俺はメモを見ながら、目の前のどデカいタワマンを見上げた。
『ところで御才さんはいつ家にくるんですか?』
明音にそう言われて、親父に聞いたところ、この週末に引っ越すことになっていたと分かったのだ。
週末に引っ越すと言われて、慌てて用意することになったのだが……マジで大変だった。
「タワマンの最上階に住んでるとか、やっぱ医者の稼ぎってすげえなぁ……」
親父から聞いた話によると、ここのマンションは元々百合さんが借りているところで、空き部屋も十分にあるので引っ越してきてはどうか、という話になったのだ。
なんでも、百合さんは「美人すぎる女医」として有名で、テレビに出演したり、本を出版したりでかなり稼いでいるらしい。
とにかく、俺と親父は今日からこのタワマンに引っ越すことになった。
つまりはまぁ、あの四姉妹のいる家にお邪魔することになる。
俺は騒がしいし嫌だったのだが、俺に一人暮らしするような財力はない。それに親父の前では四姉妹と仲良くすることにしたしな。
と言うわけで俺は荷物をまとめてこのタワマンにやってきていた。
「ここで番号を押せばいいんだよな……」
エントランスの前のインターホンで部屋に呼び出しをかける。
数回の呼び出しの後、プツッと音がした。誰かが出たようだ。
「おーい、俺だ。開けてく……」
プツン。
すぐに通話が切れた。
「おい! 今の絶対姫花だろ! 何も言わずに切るんじゃねえ! おい! くそっ、ふざけやがって……!」
俺はもう一度部屋番号を押してコールする。
今度は七回ほどコールが鳴った後、今度は向こう側から焦った声が聞こえてきた。
『すっ、すみません! 御才さん、すぐに開けますね!』
明音の申し訳なさそうな言葉と共に、オートロックの扉が開いた。
「はぁ、マンションに入るだけでなんでこんなにエネルギーを使わなきゃならないんだ……」
俺はそんなことを愚痴りながら、エレベータに乗った。
高坂家の家はタワマンの上階にあった。
「ここか……」
ネームプレートには『高坂』と書いているが、親父と再婚したことで天草へと変える予定らしい。ちなみに、学校でのあいつらの苗字だが、あいつらの希望で高坂のままになっているそうだ。俺もそっちの方が都合がいいのでありがたい。
家のインターホンを押す。
するとドアの向こうから『はーい』と言う声と、小走りで寄ってくる足音が微かに聞こえてきた。
ガチャ、と開けられた扉。そこには明音が立っていた。
「御才さん! こんにちは! そしていらっしゃい!」
元気一杯の明音が挨拶をしてくる。
「お邪魔します。って言っても今日からここが俺の家だけど」
「何だか情緒とかありませんねぇ……」
「家が変わるのはこれで二度目だからな。それよりも早く勉強したい」
「なら尚更家を案内しますよ。御才さん、ご自分の部屋もわからないでしょう?」
確かに家の案内が必要なのは確かだ。
「じゃあ、家の案内は頼む。できれば手短に」
「はい! 任せてください! 張り切って案内しますよー!」
張り切って歩いてく明音の後ろについていくが、これ本当に手短に紹介してくれるの……?
しかし広いな……この家。親父と住んでたのが普通のマンションだから、余計に大きく見える。親父が離婚する前に住んでた俺たち家とどっこいどっこいだな。
「本当なら、親父も今日引っ越すはずだったんけどな……」
「あはは……二人は新婚旅行に行っちゃいましたもんね……」
明音が苦笑いをする。
そう、親父と百合さんはあろうことか、本日から一ヶ月間長期休暇をとって新婚旅行に行くらしい。ちなみに、これも今日親父に聞いた。あの人はサプライズ癖でもあるのか?
と言うわけで、これから少なくとも一ヶ月はこの四姉妹と暮らすことになるわけだ。
「はぁ……想像するだけで気が重い……」
「? ホームシックですか?」
「違う。これからの騒がしい生活を想像して憂鬱になってるんだよ」
「まあまあ、家族が増えて賑やかになったと思えば。あ、着きましたよ、ここがバスルームです!」
明音がバスルームの扉を開けた。
「あっ」
「え?」
「あれ、御才っち?」
脱衣所には下着姿で髪をタオルで拭いているすたぁがいた。
紫色で豹柄の下着は派手だが、ギャルのすたぁにはよく似合っているな、という感想を俺は抱いた。そして、今風呂から上がってきたばかりだからか、しっとりと濡れた髪は下着姿なのも相まって色気が……
「ごごご、ごめん! すたぁがいるって知らなくて!」
明音は慌てて、バーンッ! と音を立てながら脱衣所の扉を勢いよく閉めた。
「……」
「……」
しばらくの間、俺と明音の間に気まずい沈黙が流れる。
ハハ……、と引き攣った笑みを浮かべて、明音が俺へと振り返った。
「さ、さぁ、御才さん。気を取り直して案内を続けましょう……」
「なぁ、俺、次に顔合わせるときにどんな顔すれば良いんだ……?」
「すみません御才さん、謝るときは私も一緒に謝ります。私が言えばビンタくらいで許してくれるので……」
「ビンタくらいで許してくれるのか……?」
俺と明音がそんな話をしていると、脱衣所の扉が開いた。
一瞬ドキッとしたが、今度はちゃんとすたぁは服を着ていた。Tシャツにショートパンツのラフな格好だ。
出てきたすたぁはカラリと笑って、
「ごめんごめーん、そう言えばそろそろ御才っちが来る時間だったよね? あたし忘れてたぁ」
「あ、あのすたぁ? 怒ってないの……?」
明音が恐る恐る尋ねる。するとすたぁは……
「えー、全然怒ってないよ」
あっけからんとそう言った
「えっ? 怒ってないの?」
明音が驚いた声ですたぁに問いかける。
(よ、よし、何だかビンタは回避できそうだぞ……!)
ビンタは免れないと思い、すでに右の頬を差し出す準備をしていた俺は、なぜだかビンタを回避することができそうな雰囲気に、ちょっとだけ喜んでいた。
「だって、あれくらい恥ずかしくもないでしょ。それにこれから一緒に生活するんだし、こういうのいっぱいあるって。今のうちに慣れてこー、的な? ねぇ、御才っちもそう思うでしょ?」
「え? あ、うん……」
急に話を振られた俺は適当に話を合わせる。
「でしょ? そういうことだから。……あたしの下着姿、見れて嬉しかった?」
すたぁはニヤリと悪戯めいた笑みを浮かべ、俺に耳打ちしてきた。
俺は呆れた声を出す。
「なっ、お前なぁ……」
「ふふ、じゃあねー。あたし、もっとちゃんとした格好に着替えてくるよ」
すたぁはヒラヒラと手を振って去っていった。
二人でその背中を見送っていると、明音が俺の肩にぽん、と手を乗せてきた。
「なんだよ」
「御才さん……ドンマイです。あれは男としてすら見られてませんね」
明音はわざとらしく「オーウ……」とアメリカ人みたいな仕草で額に手を当てながら、深刻そうな顔でふるふると首を横に振った。なんかムカつくなその表情。
「良いからさっさと次を案内してくれよ」
「かしこまりました!」
明音はビシッ! と敬礼すると、今度はテンポよく家の中を案内してくれた。案内されている途中、またさっきみたいに四姉妹の誰かと遭遇しないかと心の中で少しだけ心配していたのだが、それは杞憂だったみたいだな。
「てか、姫花と秋乃はどこにいるんだよ」
さっきからずっと姿が見えない二人について、明音に尋ねる。
「秋乃は多分、自分の部屋にいると思います。秋乃はインドア派なので、休みの日はずっと部屋に篭ってるんですよ。アウトドア派の私には考えられません。ずっと家にいるなんて息が詰まりますよ」
「お前がアウトドア派なのはイメージ通りだな」
活発なイメージだし。今日の服装もショートパンツにゆったりとした半袖と、このままスポーツもできそうな、動きやすそうな格好だ。
「姫花は多分リビングにいます。いつもそこで雑誌を見たり、インスタを見たりしているので」
「ふん、あのキラキラパリピのSNSか。姫花らしいな」
ハン、と俺は鼻で笑う。あんなSNS見てても人生に一ミリも役に立たないのに、なんでみんなあんなのを狂ったよに見てるのか理解できないね。
インスタで加工されまくった顔写真や、フィルターがかけられた風景の写真を見るくらいなら、資料集を見て一つでも詰め込んだほうが将来の役に立つ。
「さ、次はリビングの紹介ですよー」
明音がリビングにつながるドアの取手をひく。
リビングに入ると、姫花がソファに座っていた。手にはファッション雑誌か何かを持ち、真剣な表情でそのページを覗きこんでいる。
「おい、姫花! さっきはよくも俺を閉め出してくれたな!」
先ほど無言で締め出された恨みを込めて、俺は姫花を睨みつける。
「えー、なにぃ? ひめ何のことかわかんなーい」
「コイツ……!」
しかし姫花はどこ吹く風で、わざとらしく演技がかった仕草で首を傾げる。くっ、むかつく……!
「ま、まぁまぁ御才さんも姫花も一旦落ち着いて。私たち、これから一緒に暮らすんですから仲良く……」
一色触発な俺たちの間を明音がなんとか取り持とうとする。
「絶対にムリ!」
「俺も同感だ。こいつとは仲良くなんでできない!」
姫花と俺はふん! とそっぽを向く。
「てか前の学食、何あれありえないんですけど! ひめに関わらないでよね。約束したじゃん」
「あれは明音が無理やり連れてきたんだからノーカンだろ」
と、その時、ふと姫花がソファの前にあるローテーブルの上に、開かれて置かれている雑誌が目に入った。
雑誌を手に取って、開いてあるベージを読み上げる。
「ん? ……恋愛運占い?」
「なっ、ちょっと! 返しなさい!」
姫花が慌てた様子で雑誌に手を伸ばした。
俺はニヤニヤと笑いながら、姫花と雑誌を交互に見つめる。
「へー、すぐに怒る瞬間湯沸かし器みたいなお前も、流石に恋愛には興味あるんだな」
「なっ……!?」
姫花がかぁっ、と顔を赤らめる。
「ち、違うわよ! これはただた、たまたまそのページを開いてただけで……」
「ほー、きちんと付箋も貼ってあるのに?」
雑誌を姫花に向ける。開かれたそのページには、ご丁寧に付箋が貼られていた。このページを何度も見返している証拠だ。
「っ! サイテー!」
バチンッ!
「ボベ……ッ!」
怒りが頂点に昇ったのか、姫花が俺にビンタを喰らわせた。
そして涙目でキッと俺を睨みつけると、部屋に戻っていってしまった。リビングの扉が大きな音と共に閉じられる。
「ちょっとやり過ぎたな……」
姫花が去った後、今更ながら頭が冷えてきた俺は、その背中を見ながら俺は反省する。熱くなってやり過ぎたかもしれない。
「そーですよ。女の子の恋事情は繊細なんですから。御才さんはデリカシーがないです」
「後で謝っとくか……」
「でも、姫花も手を出したのは悪いので、後できっちり言って謝らせますね。あ、その時は御才さんも変に茶化したりせずに、謝罪を受け取ってあげてくださいね」
「わかったけど……お前、なんかお姉ちゃんみたいだな」
「えっ?」
明音は少し虚を突かれたようにポカンとした後、ふふーん! と胸を張った。
「そうですか!? まぁ、誕生日的には姫花が長女ですけど、お母さんに引き取られたのは私が一番最初なので、実は私が一番のお姉ちゃんと言っても過言じゃないですからね!」
「ぐっ、少し褒めたらすぐに調子に乗って…………ん、いや待て。今お前なんていった……?」
「えっ、あ! そう言えば、御才さんにはまだ言ってませんでしたよね」
明音は重要なことを思い出したかのようにポン、と手を叩き──とんでもない情報を告げた。
「私たち全員、実はお母さん──百合さんの実の娘ではないんです……お母さんに引き取られた養子なんですよ」
明音はにひひ、と笑う。
「……マジかよ」
サラッと爆弾情報言いやがった。
道理で、四人とも姉妹のくせに似てないはずだ。
まさか、四人とも血が繋がってなかったとはな。
──この時、俺は思いもしなかった。
この中に、五年前の「約束のあの子」がいることを。
そして、コイツらが妹になったことで、日常が変わってしまうことを。