同級生の美少女四姉妹に勉強を教えていたら何故か好かれてしまった件 作:水垣するめ
「では次は私たち四姉妹の部屋紹介といきましょう」
「いや、別に俺の部屋だけで……」
「では行きましょう!」
明音は張り切ってリビングから出ていった。
これは付き合ってやらないと俺の部屋を紹介してくれなさそうだな……。
はぁ、とデカいため息をつきながら明音の後を追う。
ちなみに、明音が開けたのはリビングからつながるもう一つの廊下への扉だ。タワマン最上階に位置するこの家、本来は一つの廊下が二つ存在するのだ。末恐ろしい……。
(それにしても、さっきのアレ、深く掘り下げるべきじゃないよな)
俺は明音の背中を見ながら、さっきの言葉を思い出していた。
明音たち四姉妹は、お互い血が繋がっていない。それどころか百合さんとも血が繋がっていないそうだ。
多分、そこには何か深い事情があるのだろう。
と、そこまで考えて、イヤイヤ、と俺は頭を振った。
(……いや、詮索はナシだ。俺が聞いて良いようなことじゃないだろ。それに、俺も過去は詮索されたくないしな……)
ふと脳裏に苦い思い出が蘇って、俺は唇を噛んだ。
と、上機嫌で廊下を歩いていた明音が、とある部屋の前でピタリと止まった。
「最初はこのお部屋です!」
「ここは何の部屋なんだ」
「ここは私の部屋です!」
「なんでお前の部屋を知る必要があるんだよ……」
「え? だって一緒に暮らすなら、知っておいた方が良くないですか?」
「別に今じゃなくても良くない? 勉強したいし……」
「ダメです! 御才さんのことですから、このままだと勉強ばかりで私たちの部屋すら知らない、なんてことになるに決まってます! 今のうちに詰め込まないと……!」
「じゃあ、さっさと紹介してくれよ」
「はい! どぅるるるるる……じゃじゃーん! ここが私の部屋です!」
「なんだそのふざけた演出」
明音が口を尖らせて人力ドラムロールをした後、扉を開いた。
部屋の中を見た率直な感想を俺は述べた。
「どうですか!? 可愛いですか!?」
「なんというか……普通だな」
「ぐわっ!? なんですかその反応」
「いや、だって予想を超えて来なかったし……」
明音の好きな色なのか、オレンジ色で統一されている。ベッドの上にはぬいぐるみが置かれていた。勉強机と思わしき机は比較的整頓されていて、小さな植物も置かれておしゃれだったが、整頓され過ぎて本来あるべき教科書や参考書は乗っていなかった。どこだよ勉強道具。
自信満々に紹介されたので、よほど部屋に自信があると思ったのだが、特に意外なところもない普通の女子の部屋って感じだ。
「それより、教科書とかどこにあるんだよ。まったく見たらないぞ」
「うっ……その、教科書とかは全部一番下の引き出しにしまっていて……」
「なんでだよ。学生だろ、一番上に置いとけよ」
「うー……、だってついこの前受験が終わったところなんですよ! 少しくらい勉強から距離を取ったっていいじゃないですか!」
「全く共感できん。勉強なんていくらしても楽しいだろ」
「こ、この勉強中毒!」
「はは、効かないな」
明音の罵倒にも余裕の笑みを浮かべて腕を組む俺。
その言葉は俺にとっては逆に褒め言葉だ。
「さ、さぁ! 私の部屋はもう良いでしょう! 他の姉妹の部屋を紹介しますよー!」
このままでは俺に勉強説教を喰らうと察したからか、明音はぐいぐいっ、と俺の背中を押して、自分の部屋から追い出そうとしてきた。
「次はココ! 秋乃の部屋です!」
明音に押されるまま連れて来られたのは、ウルフカットの緑色インナーカラー無口少女こと、秋乃の部屋だった。
「秋乃ー? 御才さん連れてきたよー」
コンコン、とドアをノックしながら明音は話しかける。
すると「はーい」と声が帰ってきて、ドアが開かれた。
「御才くん、もう来てたんだね」
出てきたのは、黒のシャツにジーンズ姿の秋乃が出てきた。眠たそうな目で、首にはネコミミ型ヘッドホンを下げていた。色は緑色だった。インナーカラーと一緒だし、秋乃はきっと緑色が好きなんだろう。
「あ、もしかして寝てた? ごめんね秋乃……」
部屋の中が暗かったことに気がついた明音が、手を合わせて秋乃に謝罪した。
「ううん、大丈夫。起きてたから」
「じゃあなんでこんなに暗く……」
「ああ、それはね、昨日は金曜日だったから徹夜でゲームしてたんだよね。そしたら気づいたら朝になってたの。暗くても窓から光は入ってくるし、まぁ良いかなって」
はは、と秋乃は笑う。
「別に良くないけどな」
こいつは夜通しゲームしてたのか……。開けた扉の隙間からチラッと覗く、暗い部屋の中も散らかっている。汚ねぇ部屋だな。一日や二日で片付けれなそうな部屋だ。
こっちもろくに勉強している気配はない。机の上にはキーボードとマウス、そしてエナジードリンクの空き缶やらで埋め尽くされているせいで、勉強ができそうなスペースなど一つもないことは一目瞭然だ。
「せっかくだし入ってきなよ。あ、どうせだったら、散らかってるところも片付けてくれると嬉しいんだけど」
「よし、次に行くぞ」
俺は秋乃の言葉を遮り、次の部屋に向かった。
「じゃあ、次はすたぁの部屋ですよ! すたぁ、御才さん連れてきたよ!」
「はいはーい!」
部屋の中から元気な返事が聞こえてきて、すたぁが部屋の中から出てきた。
…………何というか、さっきのことがあるから気まずいな。
しかしすたぁの方は全く気にしている様子はなく、あっけからんとした笑顔を浮かべている。
「え、なになに? みんなの部屋を紹介して回ってるの? いーよー、好きなだけ見てってよ、ほら!」
すたぁは俺と明音を部屋に招き入れる。
「なんと言うか……すごいな」
部屋の中を見て、俺は感嘆の声を漏らした。
壁の一面を占めている棚には香水の瓶やら、ボディクリームなどが綺麗に並べられており、その光景は圧巻だった。
すたぁの香水や、匂いというものに対する情熱が伝わってくる。
ただ、棚が整頓されている代わりというべきか、勉強机と思われる机にはヘアアイロンや、化粧品などが置かれていて、とても勉強ができるような環境とは思えなかった。代わりに部屋の真ん中に置かれたローテーブルには、同様に漫画が積み上がっている。
部屋を褒められたすたぁはニコー、と笑顔になった。
「でしょー! こんなに集めるのめちゃくちゃ大変だったんだー! 私さ、香水とかめっっっちゃ好きなんだー!」
「まぁ、熱量だけは伝わるな。そういえば、特定の匂いは勉強に役立つっていうし、今度買ってみても良いかもな……」
それはちょっとした呟きだったのだが、すたぁはそれを聞き逃さなかった。
すたぁの耳がピクリと動いたかと思うと、すごい勢いで俺の方へ振り向いた。
「え? なになに! 御才くん興味あんの!?」
香水の棚を感心しながら見ていると、すたぁがやけに興奮した様子で食いついてきた。
こいつはなんでこんなにワクワクしてるだ……?
「いや、別にそんなに知らないけど……」
「そ、そっか……」
俺の言葉にすたぁは露骨にがっかりした。まるで同好の士を見つけれなかったことを嘆くみたいに。
おかしいな、香水好きなんてそこらじゅうに沢山いるだろうに。ましてこいつのコミュ力なら、同じ香水好きとはすぐに仲良くなれると思うんだが……。
「それじゃあ最後は姫花の部屋ですよー! 姫花の部屋はとっても可愛くてすごいんですよー!」
「まぁ、ある程度予想はつくな……」
恐らく姫花の部屋は女子らしい、ファンシーな部屋なのだろう。多分ぬいぐるみとか沢山置いてたり、天蓋付きのベッドが置いたりしてるんだろうな。
「姫花ー? 御才さん連れてきたよー」
明音が扉をノックして、部屋の中の姫花に呼びかける。
『いや、ひめ、そいつの顔見たくない』
しかし、部屋の中から帰ってきたのは、拒絶の言葉だった。
「うん、これも大体予想通りだな」
「もー、御才さんもそんなこと言ってないで……。姫花ー、さっき御才さんを叩いちゃったこと、謝らないとでしょ」
『…………』
明音が困った顔で扉に呼びかけると、十秒ほど経った後、ゆっくりと扉が開かれた。
扉の隙間から姫花が滑るように出てきて、すぐに後ろ手で扉を閉めた。
「……確かに、明音の言う通り、さっき叩いたのは悪かったわ。それは謝る。ごめんなさい」
「あー、俺も悪かったな」
明音の手前お互いに謝罪を済ませる。
姫花も俺も口ばかりの謝罪だったが。
「じゃ、これでもう良いでしょ。ひめは部屋に戻るから」
「ちょ、ちょっと待ってよ姫花。御才さんにお部屋見せてあげて」
「嫌よ。ひめの部屋をこいつに見せたくない」
「だそうだ。別にいいんじゃないか。俺も見たいわけじゃないしな」
俺の言葉に姫花がムッとした顔になった。
「何よそれ。私の部屋に何か文句でもあるわけ?」
「ちげーよ」
「そこまで言うなら見せてあげるわよ、ひめの部屋をね!」
「どっちなんだよ……」
というわけで、俺は姫花の部屋に入ることになった。
確かに、明音の評判通り姫花の部屋はファンシーな、女子らしい部屋だった。白とピンクで統一された部屋は、可愛らしい壁紙や小物が置いてあるものの、他の姉妹と比べて一番整頓されていて、姫花の几帳面な性格を窺わせる。棚には教科書の他、姫花の趣味か少女漫画が多めに置いてあった。ドレッサーにはメイク用品と香水、そして美容品の数々が並べられている。あと本当に天蓋付きのベッドがあった。
「どう? かわいいでしょ」
「ああ、それっぽいな」
「よし、見たわね。じゃあ、出てきなさい。ほら、出てって」
部屋を見た途端、姫花はグイグイと俺の背中を押して部屋から追い出した。
「追い出されちゃいましたね……」
「で、俺の部屋はどこなんだよ」
「それはですね……じゃじゃーん! このお部屋です!」
「姫花の隣の部屋かよ……」
俺の部屋は姫花の隣の部屋だった。まぁ、明音とすたぁの部屋が横にあるよりマシか。二人が隣の部屋だと騒音が酷そうだしな。
「ムムッ、御才さん。私の隣よりかはマシか……、とか考えてませんでしたか……?」
「お、よく気がついたな」
「もー! なんですかそれ! 私だって、二十四時間騒いでるわけじゃないんですよ! 夜になったら寝ます!」
「結局寝るまではうるさいのかよ……」
こんな話をしてても始まらない。とりあえず部屋に入ろう。
ドアを開けて中に入ると、俺は感嘆の声を漏らした。
「おお、結構広いな……」
部屋は流石というべきか、俺の前の部屋の二倍は広かった。
しかも、タワマンの最上階にあるおかげで、窓から見える景色がめちゃくちゃ綺麗だ。
「もうすでに引越し業者の人が段ボールを運び込んでくれました。あ、あと家具も御才さんの希望通りに置いてもらってます」
部屋の中にはダンボールが二、三個地面に置かれ、勉強机と空の本棚は俺が元住んでいたマンションの部屋と同じ配置で置かれている。これは俺が引越し業者の人に頼んでそう置いてもらったのだ。理由は単純、慣れた間取りの方が勉強に集中できるからな。
「ああ、色々とサンキュな。案内もありがとう」
「……」
「なんだよポカンとした顔して」
「いえ……御才さんにも感謝の心があるんだな、と……」
「俺にだって感謝の心くらいあるわ。貴重な時間を使って案内してくれた奴に礼くらい言うだろ。まぁ、若干お前の趣味に付き合わされたがな」
「な、なんのことでしょう……」
明音は分かりやすく目を泳がせて、俺と目を合わせなかった。
俺はため息をつく。こいつは隠し事ができないタイプだな。
「今日の部屋紹介、俺がこの家に馴染めるようにってことだろ。違うのか?」
「……う、バレてましたか」
「別に無理に馴染むつもりもないんだが、その計らいは感謝する。お前、良い奴だな」
「え、えへへ……そうですか?」
俺が素直な感想を伝えると、明音は照れたように後ろの頭をかいた。
「じゃ、俺は勉強するから出てってくれ」
「え゛」
「ただでさえ今日はあんまり勉強できてないんだ。早く勉強させてくれ」
「……分かりました」
明音はむー、と頬を膨らませると、ちょっと怒った表情で部屋から出ていった。
「よし、これで勉強に集中できるな。とりあえず勉強道具だけ出して、あとは追々片付けていけばいいか」
扉の隙間から明音がジト目で睨んできてるが、無視だ無視。
俺はダンボールから勉強道具を取り出すと、明音に付き合ってた時間を取り戻すように集中した。