同級生の美少女四姉妹に勉強を教えていたら何故か好かれてしまった件 作:水垣するめ
そして勉強に集中すること数時間。
「もうこんな時間か……とりあえず飯作らないとな」
気がつけば時刻は夜の六時になっていた。いつもならそろそろ夕飯を用意する時間帯だ。
「あ、そういえばあいつらもいるんだったな……」
そこで俺はあの四姉妹がいると言うことを思い出した。
あいつら、自分の飯はどうしてるんだろう。俺は簡単な料理くらいなら作れるが……ま、一旦聞いてみるか。
部屋の扉を開くと。
「わお、御才っち」
扉の前には目を見開いたすたぁが立っていた。ちょうど部屋をノックするところだったのか、拳を作って掲げているところだった。
すたぁは目があうとにっこりと笑った。
「タイミングバッチリだね。そろそろご飯できるみたいだから、呼んできてって言われたんだー」
「そ、そうか」
「じゃ、一緒にリビング行こ」
すたぁと並んで廊下を歩く。
「今日は姫花が夜ごはん作ってくれてるんだけどね、姫花のご飯すっごく美味しいんだよー!」
「そうか」
……前から思ってたが、距離が近いなこいつ。と、その時俺はあることに気がついた。
「え、俺の飯あるの?」
「え? 何言ってんの。家族なんだから当たり前じゃん」
「……ついこの間、友達って言ってなかったか?」
「友達で家族なんだよ。それもアリでしょ!」
すたぁはバチーン! とウインクを送ってくる。
「なんでもありだな……それしてもやっぱり距離が近けぇ」
「ん、今何かいった?」
「いや、なんでもない」
そんな話をしながら、俺はリビングの扉を開けた。
「ねー、姫花、ご飯まだー?」
「あともうちょっとで出来るから待ってなさい」
「今日、なんのご飯ー」
「オムライスよ」
リビングにはキッチンに立つ姫花と、その目の前で口からよだれを垂らしながら姫花の手元を覗き込んでいる明音と、ソファの上でゴロゴロとしながらご飯を待つ秋乃がいた。
「おお、御才さん!」
「御才くんもご飯は食べるんだね。勉強に全て捧げて修行僧みたいに絶食するタイプかと思った」
ぐでー、とソファにもたれている秋乃がひらひらと手を振ってきた。
「どんなイメージだそれ……。さすがの俺でも飯を食べないと死ぬぞ」
「御才さん、今日のご飯はですね……」
「オムライスだろ。聞いてたよ」
リビングの隣のダイニングの机に座り、部屋から持ってきた参考書を広げる。どんな隙間時間でも使わないとな。
「明音ー、お腹すいたねー」
「わっ、すたぁ! もー、くすぐったいよー」
視界の端で、すたぁが明音に後ろから抱きついているのが見えた。明音に抱きつくすたぁは笑顔で、明音も嬉しそうにキャッキャと騒いでいた。仲が宜しいことで。
そして待つこと数分。
「さぁ、出来たわよ」
コト、と目の前にオムライスの乗った皿が置かれた。
置いたのは姫花だ。俺はじっと姫花を見つめる。
「……」
「な、何よ……もしかして、まださっきのこと怒ってるの? あれはちゃんと悪いと思ってるわよ」
「いや、俺を嫌ってるお前のことだから、残飯でも出されると思ってた……」
「失礼ね……。そんなことしないわよ。私はご飯では差別しない主義なの」
姫花は髪を纏めていたシュシュとエプロンを外す。
背後のソファからは「ねぇ、さっきのことって?」「ああ、秋乃。それはね、姫花が御才さんをビンタしたの」「あははっ、何それ! まじウケるんだけど!」と三姉妹が会話していた。何がウケるんだよ。
「何はともあれ、ご飯食べよう! 私、もうお腹がぺこぺこだよー!」
若干ぐったりしている明音が姫花にもたれかかる。相当腹が減っているのだろう。
「お腹空かしてる子もいるし、さっさと食べましょうか」
「さんせーい」
「あたしもお腹すいたー!」
秋乃とすたぁが姫花の言葉に賛同する。
そして、俺と四姉妹は席についてオムライスを食べ始めた。
「……美味いな」
「……そ」
俺の感想に姫花が短い返事を返してくる。そのままお互いに無言になり、気まずかったので黙々とオムライスを頬張っていると。
「……おい、なんだお前ら」
明音と秋乃、すたぁの三人がニヤニヤしながらこっちを見てきた。
「いえー? 別に、なんでもないですよ」
「姫花、嬉しそうだなって」
「そうそう、めちゃくちゃ嬉しそうだよねー!」
「なっ!? 違うわよ、全然嬉しくなんかないんだからね!」
三姉妹の言葉に姫花は顔を赤らめて否定する。だが、それは悪手だ。
その反応はあの三姉妹が何よりも欲しい反応なのだから。
「うんうん、そうだよね」
「姫花は素直じゃないから」
明音と秋乃は意味ありげな表情で何度も頷く。
「だ、だから違うって! 私はこんな奴のこと、ミジンコほども好きじゃないんだから!」
女三人よれば姦しいと言うが、やっぱり騒がしいな。
「ご馳走様。美味かったよ」
「え? あ、うん……」
四姉妹が騒いでいるうちに食べ終わった俺は、最後に姫花にそう言って席を立った。
いつも敵対的な態度を取ってるから今の状況は落ち着かないのか、姫花はそわそわとしていた。
それを見たすたぁがまたニヤリと笑う。
「あれれー? やっぱり姫花……」
「だ、だから違うって!」
背後からそんな声が聞こえてきたが、俺は無視した。
夕食後。俺は息抜きとしてリビングで勉強することにした。
自分の部屋だけで勉強してると結構息が詰まってくるから、集中が切れてきたら部屋を変えて勉強することにしているのだ。
「げ」
「あ、御才っち」
勉強道具を持ってリビングに入ると、そこには三姉妹がいた。明音と秋乃、すたぁの三人だ。
三人はリビングにあるデカいテレビにゲーム機を繋いで、三人で対戦しているようだ。
「ちょうど良かった。御才っちもこれ一緒にやんない? 四人対戦まで出来るんだー」
「そうそう、人がいた方が盛り上がるし」
「御才さんも一緒にやりましょー!」
「せっかくのお誘い悪いが、俺はゲームはしないことにしてるんでな」
すたぁは不満そうな顔でプー、と膨らませる。
「えー、なんで。楽しいよ?」
「楽しいから駄目なんだよ。俺は弱い人間だからな。娯楽は禁止してるんだ」
「すたぁ、あんまり無理に誘うのも悪いよ。ごめんね御才くん。今から勉強するなら私たちも静かにやるから……」
「いや、別にお前らが気を遣う必要はないぞ」
「え?」
秋乃が意外そうに目を見開いた。
「俺がリビングで勉強してるのは俺の勝手だ。勉強してるからって偉いわけじゃないし、俺に遠慮するな。それに秘密兵器もあるしな」
「秘密兵器!? なんだかカッコいい響きです!」
明音がキラキラと目を輝かせる。
ふふ、そうだろうそうだろう、と頷きながら、俺はポケットからあるものを取り出した。
「飛行機の中でも熟睡できると噂の、強力ノイズキャンセリング機能付きイヤホンだ! これでどんな騒音がうるさかろうとも集中できる」
高校生が買うにはかなり高かった。だが、親父からもらってる小遣いは滅多に使わないからな。こいつらと一緒に暮らすことが分かった瞬間、思い切って奮発することにした。
「騒音……」
「私たち、そんなにうるさいですかね……」
「御才くんってたまに切れ味鋭いよね……」
と、その時リビングの扉が開いて、姫花が入ってきた。
風呂上がりなのだろう、頬は上気して髪は少し濡れている。
「お、対戦相手はっけーん!」
すたぁは笑顔で姫花に駆け寄ると、ガバッと抱きついた。
「ちょ、ちょっとすたぁ……」
「お風呂上がりの姫花、いい匂いがするー……」
すたぁはこれ以上ない笑顔で、姫花の髪に顔を近づけてスンスンと鼻を鳴らしている。
その光景を見て俺は「性別が変われば犯罪だな……」と感想を呟いた。
「ねえ姫花、対戦するでしょ? 御才っちにはフラれちゃったんだー」
「ふっ、あいつみたいな勉強オタクには、私たちみたいな可愛い子と遊ぶのは緊張するんじゃない? あ、もちろん対戦するわ」
「おい、聞こえてるぞ」
姫花はすたぁに誘われたことが嬉しかったのか、上機嫌でテレビへと近づいていった。
「はぁ……勉強するか」
俺はため息を吐いて、手元に視線を落とす。
しばらくすると、四姉妹のうるさい声が聞こえてきた。
俺はその声をBGMにしながら勉強に集中するのだった。
「はぁ……結構疲れたな」
湯船の中、俺は足を伸ばした。
このバスルーム、なぜかはめ殺しの窓がついているので夜景が見えるのだが、気分はちょっとしたセレブだ。
それにバスタブも広い。ゆるゆると足を伸ばしてもまだ余裕があるくらいに広い。多分、二人くらいなら十分入ることができるだろう。
「ふぅ……」
深く息を吐いて、天井を見上げていると。
ガラッ。
「は?」
「え?」
風呂の扉を開けて、明音が入ってきた。
バスタブに浸かっている俺と明音の目がバッチリと合った。
「お、おまっ……!」
「す、すみません御才さん! まさか入ってるとは……っ!!」
「さっき入るってちゃんと言ってたろ!」
慌てた明音は急いで風呂から出ていった。
「何してんだよあいつ……」
と、そんなハプニングがありながらも風呂から上がり、俺は夜中まで勉強を続けた。
──そして、深夜に事件が起こった。
「んっ……もうこんな時間か」
俺は机から顔を上げ、ぐっと伸びをした。
現在の時刻は深夜の一時。
自室に戻ってきていた俺は、この時間帯まで勉強していた。
昼は色々とあって勉強できなかったか、らその分を取り戻すために夜遅くまで勉強していたのだ。
「もうあと一時間やって寝るか……と、その前に顔洗ってこよ」
流石に眠くなってきたので、冷たい水で目を覚ますために洗面所で顔を洗うことにした。
自室の扉を開けて廊下に出れば、真っ暗な空間が広がっていた。
「確か……洗面所はこっちだったよな」
昼間明音に案内してもらった時の記憶を頼りに、洗面所へと向かう。
これは……明音に案内してもらってなかったら、迷ってたかもな。
あの時は無駄としか思わなかったが、意外と役に立っていたことに気がつき、俺は心の中で明音に感謝した。
よし、着いたぞ。
なんとか目的地に辿り着き、洗面所の扉を開けると──
──すたぁが、洗濯物の匂いを嗅いでいた。
すたぁは俺に気がついていないのか、洗濯かごから取り出した俺のものではない、三姉妹の誰かの洗濯物に顔をうずめて、思いっきり息を吸い込んだ。
俺が奇行に思考が停止して固まっていると、すたぁは顔を上げて恍惚な笑みを浮かべた。
「ふあああああっ…………ああ、やっぱり最高ぉ。女の子の匂いが一番しゅきぃ……ん?」
そして、顔を上げたことで俺に気がつき……。
「あ゛」
すたぁは固まった。