同級生の美少女四姉妹に勉強を教えていたら何故か好かれてしまった件 作:水垣するめ
「で、あれはどういうことだ」
「えっっっとぉ……」
俺とすたぁは、俺の部屋へと移動して事情聴取をしていた。
聞くのはもちろんすたぁが姉妹達の洗濯物に顔をうずめ、匂いを嗅いでいたことだ。
すたぁはモジモジとしながら、大量の冷や汗をかき目を泳がせている。
「なんでそれを吸ってたんだよ」
俺はすたぁが背中に回している、姉妹達の服を指した。
「その、これはね? 事情がありまして……」
すたぁはさらにだらだらと汗を流す。
「事情ってなんだ。姉妹の服の匂いを嗅がないといけない理由でもあるのか?」
俺が追及すると、
「う゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛んっっ!!! お願い御才っちぃ! 皆んなには言わないでぇ!!!」
いきなりすたぁが縋り付いてきた。
引き剥がそうとしても力が強く、なかなか引き離せない。
「ちょっ、おまっ」
「おねがい御才っち、なんでもするからぁ……!」
「い、一旦離れろ!」
泣きながら縋り付いてくるすたぁを何とか引き離す。
すると今度は床に座り込んでえんえんと泣き始めた。
「ぐすっ、終わったぁ……っ! あたしの人生ついに終わっちゃったぁ……っ!」
「わ、分かった、誰にも言わないから」
「ほんとっ!?」
その姿を見て少しだけ可哀想になったので、なんとか宥めようとそう言ったら、ものすごい勢いでまた俺の服を掴んできた。
涙目で見上げてくるすたぁから目を逸らす。
「……そうだな、じゃあ、なんで嗅いでたのか教えろ。一応理由を聞いて判断してやる」
「えっ、それは……」
すたぁはあからさまに嫌そうな顔になった。理由を聞かれたくないのだろう。
「なんでもするって言ったろ。理由を言ったらそれでチャラにしてやるから」
「うう……」
すたぁは躊躇っていたが、意を決したように息を吸って、俺の瞳をまっすぐ見据えた。
「みんなの服の匂いを嗅いでたのはね、実は……」
すたぁの決意がみなぎった、どこか迫力を感じさせる眼差しに、思わず俺はゴクリと唾を飲み込んでいた。
薄紅色の唇がゆっくりと開いた。
「あたし、匂いフェチなの!」
「……………………なんて?」
「だからあたし、重度の匂いフェチなんだよね。しかも特に女の子の匂いがめっっっっちゃ好きなの! 女の子の匂いって、吸うとすっごく幸せな気持ちになるんだよね? なんだろ、若さを吸ってるっていうのかな。吸ってる時は多分絶対寿命伸びてると思う! 実は御才っちが家にくる前からも毎晩みんなが寝静まった頃を見計らって匂い吸ってたし……あ、知ってる? 一日着た後の服ってめちゃくちゃその人の匂いが染み付いててね、それを胸いっぱいに吸い込むと口の中と鼻にぶわぁって匂いが広がって、「はぁぁ、幸せぇ……!」って……」
「……すまん、一旦落ち着かせてくれ」
ヒートアップしてきたすたぁに一旦制止を入れると、俺は腕を組んで天を仰いだ。
えーっと……今すたぁはなんて言った?
重度匂いフェチ? しかも女の子の匂いが特に好きで、夜な夜な姉妹の服を嗅いでた?
四姉妹の中では比較的話が通じる相手だと思ってたんだけどなぁ……。
「……あの、えっとごめんね?」
「どうした?」
思考を遮るようにすたぁが謝ってくる。
視線を戻してみれば、すたぁは申し訳なさそうな顔で床を俯いていた。その表情はどこか暗く、自虐的だ。
「やっぱさ、ヘンだよね。こういうの。自分でも分かってるんだけどさ、やっぱり今のは聞かなかったことに……」
「いや、別に変じゃないだろ」
「いやでも……」
「俺はな、新しい教科書の匂いが好きなんだ」
「へ?」
いきなり語りだした俺に、すたぁが首を傾げる。
「あのインクの香りが、『ああ、また新しいことが勉強できるんだな』って感じさせてくれるんだよ」
「え、えと? なんの話? なんで急に教科書……」
くっ……ぽかんとした顔をしやがって!
俺はすたぁに分かりやすく話を噛み砕いてやる。
「要するにだな、人それぞれ好きな匂いはあるし、それがお前の場合はたまたま女子の匂いだったってだけだ。匂いが好きっていうのは普通なんだよ」
「……そうなの、かな」
「ああ。だから俺は匂いフェチだってだけで変とか、全くそうは思わない。少なくとも俺はお前の味方だ」
「っ……」
すたぁは顔を両手で覆って「それずるい……」と呟いていた。
何がずるいんだ? まあいいか。
「ただ、服を嗅ぐのは普通に変だからな」
「う……反省します」
すたぁは若干しょんぼりしていた。
「てか、別に他の姉妹達に言っても、別に馬鹿にされないと思うんだが、なんで言わないんだ?」
「それは、その…………夜中にみんなの服吸ってるし、たまに抱きついて髪とか香水の匂いとか吸ってるし……正直に言ったら絶対に嫌われちゃうってー!」
「…………確かにそれは言えないな」
そうだね、匂いフェチはともかく、行動が変態とか不審者のそれだ。
すたぁが隠し通したい気持ちも分かる。いや、まずそんなことをしなければいい話なんだが。
「分かった。理由を聞いたら秘密にするって約束したし、今日のことは他の姉妹には内緒にしといてやる」
「ほんと!? うぅ、ありがと御才っち……」
すたぁは感激したようにうるうるとした瞳で俺の手を握ってくる。
まさか、一見ギャルなこいつが、中身はかなりの変態だったなんてな。
と、その時すたぁがぴーん! と何かに気づいたような表情になった。
「ん? てか今さ、御才っち匂いが好きって言ったよね?」
「ああ、言ったけど……」
「御才っちも匂いフェチなの!?」
俺の手を握ったまま、すたぁが同志を見つけたような目で顔を近づけてくる。
「は、離れろ……」
「嬉しい! あたしずっと仲間がいなかったから、御才っちが初めての匂いフェチ仲間だよ! あ、そうだ、あたしの香水コレクション使ってみる!? 好みが合うかどうか分かんないけど、ラインナップには自信があるんだ! ボディクリームとか、アロマとか、お香とかも置いてるよ! てか今から私の部屋くる!?」
「お、おう、また今度試すよ……」
俺は匂いフェチではない。
なので一度すたぁの話を遮ってそのことを話そうと思ったのだが、すたぁの仲間を求める純粋な目を見ると、とてもそんなことはできなかった。
今まで話す同志がいなかったことの反動か、まるで今までの鬱憤を晴らすかのように、すたぁの語りはどんどんとヒートアップしていく。
「そうだ、さっきの話の続きなんだけどね。女の子の匂いが大好きで、今まで色んな女の子の匂いを吸ってきたけど、姉妹の匂いは段違いでいい匂いなんだよね! それはもう毎晩洗濯かごの中から取り出して吸っちゃうくらいには! 分かる! 分かるよね!?」
「分かんない……」
「だよね分かるよね! 姫花はフローラルな香りでね、お花系の香水をよく使ってるの。ザ・女の子って感じでめっちゃいいよね! それでね、明音は柑橘系のフルーティーで爽やかな匂いなんだよ? 明るくて活発な明音のイメージにピッタリだよね! まさに青春って感じ! 秋乃はね、バニラみたいな匂いがするんだけど、でもその中に色気があって、そのギャップにめっっっちゃ興奮するの!」
「い、一旦落ち着け!」
俺の声ですたぁがハッと我に戻った。
「あ、あはは……あたし一人で何熱くなってんだろ……はずー」
今更語っていたことが恥ずかしくなってきたのか、パタパタと手で顔を仰ぐすたぁ。
「まあ、お前の情熱は痛いくらい伝わったよ。だから安心しろ。もしお前のフェチがバレても、俺は最後まで味方になってやる」
「あ、ありがと……」
すたぁがさらに顔を真っ赤にして視線を逸らした。
今の所に顔を真っ赤にする要素あったか?
「どうした、何かあったか?」
「べ、別になんでもない!」
顔を覗き込むとすたぁがいつもの調子で返事をしてきたので、そろそろ自分の部屋に戻るように促すことにした。
「ま、とりあえず今日のところはもう自分の部屋に戻ってねろ。夜も遅いしな」
「うん!」
すたぁは意外とすんなりと言うことを聞いて、部屋から出ていった。
「じゃあね、おやすみ。ばいばーい」
「はいはい、おやすみ」
部屋を出ていくすたぁが両手で小さく手を振った。
俺もヒラヒラと手を振ってそれに答えた。
「…………なんか疲れたし、寝るか」
これから勉強する気力は流石に湧かなかったので、俺は寝ることにした。