同級生の美少女四姉妹に勉強を教えていたら何故か好かれてしまった件 作:水垣するめ
ピピピ、とアラームの音。
「朝か……」
スマホから鳴り響くアラームを止めて、ベッドから起き上がる。
「ん?」
隣に何かがいる気配がして、俺は眠い目を擦りながらそれを確認する。
──ウルフカットに緑のインナーカラー。
「っ……!?」
隣にいたのは秋乃だった。
寝息を立てて熟睡している秋乃の格好はかなり薄着で、隙間から見えそうになっていて色々と危ない。
「な、なんでこいつがここに……!?」
俺は思わず壁側へと後ずさる。しかしすぐに壁に激突した。
いや、こんなことをしている場合じゃない。
ただでさえ年頃の四姉妹がいる家で生活しているんだ。
こんなところを見られた瞬間、俺への信頼は大暴落。俺は家から追い出され、立場の悪くなった親父も徐々にこの家に居づらくなって……。
「お、おい秋乃! 早く起きろ!」
慌てて秋乃を起こす。
熟睡していたが、体を揺すられたことで流石に覚めたのか、秋乃の長いまつ毛がゆっくりと持ち上がり、目が開いていく。
「おはよぉ」
秋乃はへにゃっと笑って目を閉じたままそう言うと、のそっと起き上がってベッドの上に女の子座りになり、ぐっ……、と腕をあげて伸びをした。
「んー……」
そして徐々に目覚めてきた秋乃が、俺がいることに気がつき、不思議そうな顔で首を傾げた。
「あれ、御才くん……? なんで私の部屋に?」
「それはこっちの台詞だ! お前が俺の部屋にいるんだよ!」
「え?」
秋乃はそう言って眠たそうに細めた目で部屋を見渡すと、
「あー……、この部屋、前まで私の部屋だったから、間違えちゃった」
あはは、と秋乃は笑った。
「はぁ、間違えた?」
「昨日寝ぼけたままお手洗いに行ったんだよね。多分その時に間違えて無意識に入っちゃったんだと思う。ごめんねー」
「ちょ、そんなサラッと……」
「じゃ、私は朝の支度があるから。今日は学校だし」
秋乃は俺のベッドに忍び込んでいたことはなんとも思ってないのか、サラッとそう言ってベッドから降りると、流れるように俺の部屋から出ていった。
扉が閉じられると俺はため息をつき、ベッドから降りた。
「……別に男と見られてなくても良いんだが、これが続くのは心臓に悪いな」
これから寝てる間にいつの間にか隣に忍び込まれてる、なんてことがないことを祈るばかりだ。
…………すたぁが言ってたバニラの匂いってのは、本当だったんだな。
「じゃ、俺は先に行ってるから」
朝の支度が終わり、制服に着替えた俺はリビングにいる四姉妹に向かってそう告げた。
四姉妹ともまだ朝の準備中なのか、明音は机の上に置いた鏡の前でリボンを結び、すたぁは歯磨きしながらスマホをいじっており、姫花はまだ眠たそうな秋乃の身支度を代わりにしていた。
しかし明音とすたぁは俺の言葉を聞いた瞬間、俺の方へとやってきて服の裾を握ってくる。
「えー、なんでですか御才さん。一緒に登校しましょうよー!」
「そーそー、せっかく一緒の家に住んでるんだから、一緒に学校行けば良くない?」
「一緒に住んでることがバレたら面倒だから嫌だ」
「バレたらバレたで、てきとーに誤魔化しとけば良くない?」
「そう言われてもな……」
お前らの後ろにいるピンク髪の長女がすごく睨んでくるんですよ……。
まるで「あんた分かってんでしょうね、登校時間ズラすわよ」と言わんばかりの圧を全身でビシバシと浴びている。
だが下に目を落とせば、すたぁと明音が寂しそうな目で俺を見つめてくる。
めんどくせぇ……。
「だがな……」
「なに、あたしたちと登校すんの嫌なの? それはそれでけっこー傷つくんですけど」
「そうですよ御才さん、そんなに私たちと一緒に登校するのが嫌ですか……?」
正直に言うと、四姉妹との関係についてバレそうなので、めちゃくちゃ嫌です……。
チラリと姫花の方を見れば、「しょうがないわね……」と諦めたようにため息をついていた。
諦めるなよ、と言いたくなったが、この二人が言い出したら歯止めが効かないことは、まだ数日程度しかこいつらと交流してない俺にも分かる。
「分かったけど、俺は別に適当に勉強してるからな……」
観念して俺がそう言うと、明音とすたぁは歓声を上げた。
「やったー!」
「堅物御才さんを折れさせたー!」
いえーい! と明音とすたぁはハイタッチした。朝からよくそんなに元気だな……。
「ねえ、そういえばひめの服どこに行ったか知らない? 朝起きたら失くなってたんだけど」
「うーん、私は見てないな……」
「……ねむ」
「やっば、五人で登校とか初めてじゃないエモっ!? 写真撮ろ、はいチーズ!」
姫花と明音は軽く雑談しながら、秋乃は舟をこきながらも、姫花に手を引かれてなんとか歩いていた。そしてすたぁはスマホで俺たち五人の歩く姿を写真に収めていた。
俺はその四姉妹の後ろにつき、単語帳を見ながら歩いていた。
「……やっぱりうるせぇ」
きゃいきゃいとうるさい四姉妹に、すたぁが浴びせてくるカメラのシャッター音。
ろくに勉強に集中できる環境ではない。いくら俺がうるさいのに慣れているとはいえ、朝のこの時間帯でこれは流石に頭に響く。
こんなことなら四姉妹と一緒に登校するんじゃなかった。
そなことを考えていると。
「ういっす、御才っち」
すたぁが歩くスピードを落とし、俺の隣に並んできた。
「いやー、五人揃って歩くのって、なんか良いね」
「そうだな。てか外で兄妹のことを言うな」
ここ数日間、この四姉妹と関わって、学校でこいつらと接触を避けるのは無理だと若干諦めている。
いくら俺から接触しないでおこうとしても、明音とすたぁが無理に関わってくるからな。
だから交流があることがバレるのは仕方ないとして、兄妹になったことは秘密にすることは死守する、という目標に切り替えた。友達ってだけなら学校の奴らに追及されても誤魔化しが効くからだ。
「ねぇねぇ、御才っち。昨日のことなんだけどさ……」
「ああ、安心しろ。誰にも言ってない」
「あ、いやそうじゃなくてさ。あたし、御才っちのことは疑ってないし。そうじゃなくてさ、ありがとね。黙っててくれて」
俺は無言で単語帳のページを捲る。
「ほんとはダメなことだって分かってるんだけど、ずっとやめれなくて……でもこれを機に、みんなに打ち明けられるように、あたし頑張るよ」
「おう、頑張れ」
「あはは! 何それてきとーなんですけど!」
すたぁが肘で小突いてくる。
「昨日も言ったが、俺は味方だから安心して当たって砕けてこい」
「っ……! あ、あははー……当たって砕ける前提かよ! …………やっぱりずるいって、それ」
すたぁはぎこちない笑い声を上げた後、顔を逸らしてボソッと呟いていた。だから何がずるいんだよ。
それっきりすたぁは黙ってしまい、俺たちは無言のまま肩が触れ合うほどの近さで並んで歩いていく。
…………なんか、こいつ今日は妙に距離が近くないか?
いや、前からギャル特有の距離感なのか、パーソナルスペースは狭かったのだが、今日は輪をかけてスペースが近い。
「なぁ、なんか近くないか?」
「えっ!? あはは、ほんとだ。ごめんねー!」
パッと俺から離れるすたぁ。そして姉妹の方へパタパタと走っていった。
すると今度は入れ替わるように、姫花が俺の隣に並んできた。
「ねぇ、あんたも知らない? ひめの下着。あ、キャミソールのことね。見当たらないんだけど」
「俺が知るわけないだろ。なんで俺に聞くんだよ」
「だって、あの家でひめの下着を盗むなんて、男のあんたしかいないじゃない」
「おいふざけんな。盗む奴は俺以外にも……」
そこまで言って口をつぐむ。
「……確かに俺しかいないかもしれないが」
「うっっっっわ。やっぱり盗んだんだ……」
「だから違うって言ってんだろ、お前のなんか誰が盗むか! いらねぇよお前のキャミなんか」
姫花はドン引きした顔で両腕で肩を抱くと俺から逃げるように後ずさったが、俺が即座に否定すると、今度はムッとした顔になって突っかかってきた。
「はぁ、それどういう意味!? 喧嘩売ってんの?」
「先にお前が売ってきたんだろうが」
「……ねぇ、話は変わるんだけど。あんた、すたぁに何かした?」
「な、なんの話だ。俺は何もしてないぞ」
「うーん……なんかいつもとちょっと違うって言うか……元気が無いわけじゃないんだけど、何かが違うのよね」
急にすたぁの話を振られたので、少しドキッとしたが、どうやら匂いフェチ云々のことに気がついたわけじゃなさそうだ。
俺は心の中で胸を撫で下ろした。
……てか、俺はすたぁの様子の違いなんて分からなかったが、こいつには分かるのか。
血が繋がってないとはいえ、そこら辺はやっぱり姉妹なんだな。
「俺は特に何も知らないな」
「そ、ならいいわ」
本当のことは話せないので俺は嘘をつく。
姫花はそれに短く返事をして、また姉妹の輪へと戻っていった。
姫花が戻ってくると、すたぁは姫花と腕を組んで「あれ、シャンプー変えた?」と姫花の髪の匂いを嗅いでいた。何やってんだあいつ。
そして昼休み。
「御才さん!」
「おわっ、なんだ!」
後ろからいきなり明音が引き留めてきた。
四姉妹と昼飯を食べることになった先日の二の舞にならないよう、気配を消して行方をくらませようとしていたところだった。
「捕まえましたよー! さぁ、一緒に食堂に行きましょう!」
「くっ……振り解けねぇ」
女子に力負けしてしまう俺。マジで筋トレしようかな。
食堂へと連行されている時、明音が俺に質問してきた。
「あ、そうだ御才さん。質問がるんですけど」
「なんだ」
「すたぁの様子について何か知りませんか? 今日の朝からちょっと変なんです」
「……どこら辺が」
「それは分からないんですけど……こう、いつもと違うんですよ!」
「……あいつに続きお前もか」
「え、なんのことですか?」
「いや、なんでもない。すたぁについては俺は何も知らない」
「そうですか。うーん……じゃあ、何が原因なんでしょう……」
明音は悩んでいたが、俺は何も言わなかった。
同じく昼休み。俺と四姉妹が食堂で昼飯を食べていると。
列に並んでいる最中、俺の後ろに立っていた秋乃がツンツン、と背中を突いた。
「ねぇねぇ、御才くん」
「……大体用件は分かるが、なんだ」
「わお、すごいね。じゃあ聞くけど……」
秋乃が俺の耳に内緒話をするように口を寄せてきて、よく通るハスキーボイスで囁いた。
「すたぁなんだけど、いつもと様子が違うの。何か知らないかな」
「知らない」
「そっか。なら良いんだけど」
秋乃は特に追及することなく俺から離れていった。
秋乃が姉妹たちのところへ戻っていくと、すたぁが戻ってきた秋乃に抱きついて、くんくんと匂いを嗅いでいた。一体誰のせいでこんな事になったのか分かってんのかこいつ。
「はぁ……」
家に帰ってきた俺は、自分の部屋でため息をついた。
やっぱりあの姉妹は鋭い。すたぁの些細な違いでも気がつくんだからな。
なのにすたぁの奇行には気が付かなかった、というのだからなんとも不思議な話だ。
「ま、俺が黙ってればあとはすたぁが頑張るだろ……」
椅子の背もたれに身体を預けて天井を仰ぎながら、ぐるぐると回っていると。
「ん? なんだあれ」
まだ荷解き途中の段ボールの上に、グレーの布がかかっているのが見えた。
俺はダンボールに近づいて、その布を拾い上げる。
するとふわり、と薔薇の香りがした。
──姫花はローズの匂いがするんだよ!
その時、すたぁの昨日の言葉がフラッシュバックした。
「っまさか!」
俺は慌ててその布を広げる。
「……嘘だろ」
そのグレーの布は、キャミソールだった。
『ねぇ、あんたも知らない? ひめの下着。あ、キャミソールのことね。見当たらないんだけど』
姫花の言葉を思い出し、サーっと青ざめた。
「な、何でこんなところに……そうか、昨日すたぁが置いていったのか!」
思わず頭を抱えるが、そんなことをしている場合ではない。
こんなところを見られたら、確実に誤解される。
「とりあえず隠さないと……」
「御才さーん! 夕飯の食材を買いに、一緒にスーパーに……」
ガチャ。
俺の部屋の扉が開かれた。
明音は俺が姫花のキャミソールを広げているところをバッチリと目に映している。
「御才さん、それ……」
「ねー、ひめのキャミソール見つけたー?」
そして姫花もやって来た。
「なっ……やっぱり、アンタだったのね……っ!」
姫花は俺がキャミソールを掴んでいるのを見ると、涙目で睨んできた。
…………あ、俺の人生終わったわこれ。