同級生の美少女四姉妹に勉強を教えていたら何故か好かれてしまった件   作:水垣するめ

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9話

 

「これより、裁判を始めます」

 

 俺はリビングで正座していた。

 部屋に夕陽が差し込む中、四姉妹が正座している俺の周りに囲むように立ち、こちらを見下ろしている。

 特に姫花は腕を組み、俺を射殺さんばかりに睨んでいる。

 

「やっぱりあんたが盗んだのね……」

「ち、違うんだこれは……」

「言い訳は法廷で聞くわ。裁判を始めるわよ!」

 

 姫花はそう言って、俺を指差した。

 

「被告、天草御才は私のキャミソールを盗み、あまつさえ自分の部屋に隠し持ってました! それは明音もひめも確認しています!」

「御才くん、大胆だね……」

「まさか御才さんがそんなことをするなんて……」

 

 秋乃と明音は残念そうな顔で頭を横に振っている。

 ぐっ……このままじゃヤバい。なんとか言い逃れをしないと……。

 

「ちょ、ちょっと待て、これは誤解でな……」

「誤解って何がよ。ひめの下着を持ってたくせに」

「俺は盗んでないんだ。信じてくれ」

「嘘ね。ひめが一度質問したのに嘘をついてたもん。絶対に確信犯よ!」

「本当に違うんだ、あれは偶然俺の部屋に落ちてたんだよ」

「はぁ? そんな言い訳通るわけないでしょ。キャミソールに足でも生えて、自分で移動したって言うの?」

「ぐっ……!」

 

 正直に言って、状況はかなり悪い。

 俺の部屋に姫花のキャミソールがあったのは事実だし、俺がそれを手に持っていたことの証言もある。言い逃れするのは難しいだろう。

 だが、俺にも助っ人がいる。それも俺を裁く裁判官側にだ。

 

(頼むすたぁ、助けてくれ……! 上手いこと言ってこの場を凌ぐんだ……!)

 

 俺が救援を求めてすたぁに視線を向けると……

 

「あ、あわ、あわわ……。い、一旦みんな落ち着いて……」

 

 目を泳がせまくったすたぁが姉妹たちにそう声掛けをしていた。お前が落ち着け。

 ダメだ、完全に使い物にならない。すたぁは完全にテンパっているのか、まともな助けは期待できなそうだ。

 

「ひめはこの下着泥棒を今すぐに家から叩き出すべきだと主張するわ! こんな奴と同じ屋根の下にいるなんて、想像するだけでも鳥肌が立つもの!」

 

 姫花は俺を見下ろしそう言い放つ。

 流石に状況証拠が揃っているので、擁護するは難しいのか、明音と秋乃も若干諦めムードみたいな感じになっていく。

 まずい、このままじゃ本当にこの家から追い出されるぞ。

 ぐっ……真実を言いたい! 今すぐに誤解を解きたい!

 その時、俺の脳裏にふとある考えがよぎった。

 

(待てよ、別にすたぁの匂いフェチのことは言っても良いんじゃないのか……?)

 

 そうだ。事実を全て述べたら誤解が解けるし、多分すたぁもこれしかなかったと納得してくれるだろう。

 それに、家を追い出されそうになってまで義理を通す必要なんて……。

 すたぁに目を向ければ、目を伏せて、こくん、と頷いた。

 事実を話してもいい、という合図だろう。

 これですたぁから許可も貰い、俺がすたぁの秘密を隠す理由は……

 

 ──いや、それは違う。

 

「姫花」

「なに、まだ言い足りないことでもあるの?」

 

 姫花の突き刺すような鋭い視線にも俺は動じず、姫花をまっすぐ見据える。

 もともと正座だが、さらに居住まいを正すとピシッと背筋を伸ばす。

 そして床に両手をつき、

 

「すみませんでした!」

 

 ──土下座した。

 

「っ!?」

 

 耐えるように目を逸らしながら、俺が真実を話すのを待っていたすたぁは、予想とは違う俺の言葉に驚愕に目を見開いた。

 

(ああ、確かに事実を言えば俺は助かって、冤罪を晴らすことができるかもしれない)

 

 だが……

 

(俺が言い触らさないって信じて秘密を話してくれた奴の秘密を暴露するほど、俺は下衆じゃないんだ)

 

「は? 盗んだって認めるの?」

 

 姫花も急に罪を認め始めた俺に疑問の目を向けている。

 

「ああ、俺がやった。ちょっと魔がさしたんだ。本当にすまなかった。この通りだ」

 

 土下座して姫花に対して謝り倒す。

 多分誠心誠意謝れば、軽蔑されども家を追い出される可能性は低くなるだろう、という判断だ。

 

「っ! やっぱりあんたが盗んだのね! 今更謝ったって遅いわよ、あんたみたいな変態、今すぐにこの家から出ていって!」

「御才くん……」

「御才さん……」

 

 三人が俺に非難する目を向けてくるが、俺は黙ってただ頭を下げ続ける。

 

「──待って!」

 

 すたぁの大きな声が割り込んできた。

 俺たちはしんと静まり返る。

 すたぁはその場にいる全員の視線を一気に受けながら口を開いた。

 

「御才っちは悪くない。全部あたしのせいなの」

「おま……」

「ごめん御才っち。でも、御才っちに冤罪をかけたまま犠牲にするくらいなら、全部バレた方がいい。それに、いつかは皆に打ち明けようって思ってたから。これで良いんだよ」

「…………そうか」

 

 本人がそう言うなら、俺からはもう言うことはない。

 すたぁはそう言うと、姫花に向き直り、

 

「ごめん、姫花のキャミソールを盗んだのは私なの! 御才っちはあたしを庇ってくれてただけで、本当は全部冤罪なの!」

 

 頭を下げて姫花に謝った。

 

「は、はぁ? な、何言ってんのすたぁ。なんであんたが私の下着を盗む必要があるのよ。」

「実はあたし……めっっちゃ女の子の匂いフェチなの!! それで夜な夜なみんなの着た服の匂いを嗅いでたの!」

「……は?」

 

 姫花と秋乃と明音の頭の上に疑問符が浮かんだのが見えた。

 まぁ、そうだよな。普通意味分かんないよな。

 

「昨日、あたしが夜中に姫花の服を吸ってるところを御才っちに見られて、そのまま御才っちの部屋でこのことを黙ってもらうようにお願いしてたんだけど、その時に御才っちの部屋に置いちゃったんだと思う。だから、御才っちは姫花の下着を盗んでないの」

 

 すたぁは頭を下げたまま、そう説明する。

 リビングに沈黙が流れる。

 最初に口を開いたのは姫花だった。

 

「……よし、最後まで喋らなかったわね。みんな、もういい?」

「うん、そうだね。ここら辺で種明かししとこうか」

「それがいいと思う。私ももう限界だし!」

 

 姫花と秋乃と明音は、お互いに頷きあうと深く息を吐き出した。

 

「はい、しゅーりょー」

「つ、疲れました……」

「そう? ひめは結構楽しかったけど」

 

 気の抜けるような声でパチンと手を鳴らす秋乃と、疲弊している明音、そして余裕そうに笑っている姫花。

 俺もすたぁも、自体がまだ飲み込めてなかった。

 

「……は?」

「えっ? え、みんな何言ってんの?」

 

 俺とすたぁだけは話についていけず、疑問符を頭に浮かべていた。

 

「あんたをテストしてたの。すたぁの秘密をバラさないかね」

「テスト?」

「そ、あんたが本当に信用できる人物なのかをね」

「じゃ、じゃあ今までのは全部……」

「そう、演技よ」

「はぁぁぁぁ!?」

「う、うそ!? 全部演技だったの!?」

 

 思わず俺は叫んでいた。すたぁもだ。

 今までのが全部茶番だと知ったら、叫びたくもなるだろう。

 

「はは、ごめんねー、御才くん」

「すみません御才さん。試すようなことしちゃって。私は反対したんですけど、姫花がどうしてもって聞かなくて。あ、でも私は最初から御才さんのことは信じてましたよ!」

 

 秋乃と明音が謝ってくる。

 

「何のためにこんなことを……」

 

 俺は姫花に質問する。すると姫花は肩をすくめて答えた。

 

「だって、乙女が四人住む家に年頃の男が入ってくるのよ。それなりに信用がおける人物かどうか、テストして確かめないと安心できないじゃない」

「こんなこと、いつから思い付いてたんだよ」

「今日の朝ね。まぁ犯人はすたぁって分かってたけどあたしのキャミが失くなったのと、昨日の夜中に起こったことは大体分かってたから、二つを合わせてあんたのテストに使えると思ったのよ」

 

 姫花の言葉で全てを悟った俺は、姫花に質問した。

 

「昨日の夜中って……まさか、気づいてたのか」

「夜の一時とはいえ、流石にあんなに大声で話してたら分かるわよ」

「私もゲームして起きてたしね」

「あ、私は朝に全部二人から聞きました……」

「さっきは責めて悪かったわね。でも、ひめも心にもないことを言うのは辛かったのよ?」

「嘘つけめちゃくちゃノリノリで俺のことを罵倒してただろうが」

 

 ともあれ、俺は深く息を吐き出す。

 騙されたのは正直言って癪だが、姫花たちの立場に立って考えれば、気持ちは分からないでもない。女子四人にいきなり男一人が混じって共同生活をしているのだ。得体が知れず、信用もできず恐い、というのは当然の心理だろう。

 だからあまり怒る気持ちはなかった。そこまでするか、とは思うが。

 

「はぁ……なんか全部どうでも良くなってきたし、最後に気になってたことも分かったから、勉強に戻るか」

「そうね、じゃ、解散で」

 

 そうして解散しそうになったところで、

 

「ま、待って!」

 

 すたぁが呼び止めた。

 

「ちょ、ちょっと聞いていい? あの、さ、犯人があたしって分かってたって言ってたけど、それってもしかして匂いフェチのこと……」

「え? 知ってるけど……」

「……」

 

 すたぁは数秒間絶句した後、ギギギ、と秋乃の方を見た。

 

「あ、秋乃も……?」

「あ、うん知ってたよ」

「……明音も?」

「うん。全部知ってたよ」

「な、何で……」

「そりゃ、こんだけ一緒に暮らしてたら分かるよねぇ……夜中に洗濯物吸ってるところとかたまに遭遇するし」

「あはは……私たちの髪とかよく嗅いでくるもんね」

「洗濯に出したはずの服をすたぁがベッドで抱きしめながら寝てる時もあったわね」

「じゃあ、全部バレて……」

 

 カァァァ、とすたぁの顔が急速に赤くなっていく。

 

「逆に何で隠せてると思ってたのよ」

「……うう、死にたい……っ!」

 

 すたぁはよっぽど恥ずかしいのか、顔を真っ赤にした上湯まで出していた。茹で蛸みたいだ。

 でも確かにあそこまで露骨に匂い吸ってて、何年も一緒に住んでる姉妹が気づかないはずないか。

 羞恥に悶えているすたぁをよそに、秋乃と明音が話しかけてきた。

 

「それにしても、すごかったね。あんなに責められてもすたぁの秘密をバラさないなんて」

「御才さん、かっこよかったですよ!」

「ああ、そう……」

 

 秋乃と明音が褒めてくるが、どちらかといえば心労の方が大きかったので、素直に喜べなかった。

 そして秋乃は姫花を肘で小突く。

 

「ほら、姫花、御才くんを褒めてあげないと」

「……まぁ、ちょっとは見直したわ」

 

 姫花は肩にかかった髪を手で払い除けると、偉そうな態度でそう言った。

 

「ここまでやってちょっとなのかよ……」

 

 普通信頼してくれるところだろうがここは。

 ……まぁいい、逆に考えればこれでこれからある程度信頼されたということだから、家の中で無駄に険悪になることも少なくなるだろう。

 と、その時秋乃が姫花に背後から首に両腕を回して抱きついた。

 

「あ、秋乃……」

「こら姫花、御才くんはツンデレにあんまり耐性がないんだから、ちゃんと分かりやすくいってあげないとダメでしょ」

「な、何よツンデレって。私は知らないわよ」

「ほら、信頼したって言ってあげなよ」

「ぐっ……」

 

 姫花は俺に向き直ると、

 

「ちょ、ちょっとは信頼したわ……これでいい!?」

 

 頬を赤く染めながら、涙目で睨んでそう言った。

 秋乃が「ほら、何か言ってあげて」みたいな視線を寄越してきたので「わー、嬉しいなー」と棒読みで応えた。

 

「じゃ、これで本当に解散ね。みんなお疲れ様」

 

 ぱん、と手を叩いて姫花が解散の合図を告げる。

 

「ふー、疲れたねー」

「やっぱり私、演技するのは苦手かも……」

 

 秋乃と明音もそれぞれ自分の部屋へと戻っていく。

 

「俺も勉強するか……」

 

 俺も自分の部屋へと戻ろうとしたその時だった。

 

「ね、ねぇ」

 

 くい、と背後から袖を引かれたので振り返る。

 そこには頬を染めたすたぁが、俺のことを上目遣いで見ていた。

 

「御才っち、今からちょっと時間ある……?」

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