希望光でございます。
今回はちょっと思いついた、ということから記した作品です。
前書きはこの辺で本編どうぞ。
追記:2023/10/24
後書きに記載したリンクのページが間違っていたので正しいものに変更しました。大変失礼いたしました。
——俺は一般通過高校生の大井
そして何があったのかわからねぇが、一緒に帰ってます。イマココ。
「泰斗君も、帰り道こっちだったんだね」
「そう、みたいですね」
思い人を前にドキがムネムネな俺はカタコトな返答をしてしまう。我ながら、不覚。一生の恥! そのまま多摩川にでも飛び込みやがれくださいまし。
「電車使ってるの?」
「え、あ、はい。西側住みなので」
「私とおんなじだね」
その言葉と共に明るくどこか幼さを感じさせる笑みを向けてくる倉田さん。ああ、困りますお客様! 行けません! そんなのこんな下等生物に向けては行けません!
「倉田さんって……電車通学なんですか?」
「うん。もしかして同じ電車だったりして?」
どこかイタズラな笑みを浮かべる倉田さん。その笑顔は俺に対して無事クリティカル判定を繰り出し情緒が滅される。
もうやめて! 大井のライフはとっくにゼロよ!
「ま、まさか……ね」
反応に困った俺は困ったような笑みと共に言葉を詰まらせる。凄く不甲斐ない! そのまま腹切って自爆しやがれ!
とかなんとかツッコミ入れていると、何故だかすでに駅の前。ここは俺が利用してる駅なのだが……倉田さんもここへ来てしまっている。……おやおや?
「駅ってここ?」
「はい。倉田さんも……ですか?」
「そうだよ」
……オイオイオイオイ、死んだわコイツ。思い人と利用駅同じじゃねぇか。しかもこの駅1路線分でしかないということはですね、通学に利用している路線おんなじってことなんですよ。
なんてこったパンナコッタ……勢いそのままに殺人ウィルスばら撒く能力に目覚めそうだよちくしょう。
「本当に同じ電車だったね」
「そ、そうです……ね」
倉田さんの言葉に消沈気味に返答する。なんだろうこの胸の突っかかりは。背徳感やら自己嫌悪感やら申し訳なさが込み上げてくる。こんな、こんな事実を突きつけてくるなんてあんまりジャマイカ!
無知は罪とは言ったりするけど本当ですね。よって自分は
てなわけで電車に乗り込んだ俺と倉田さんなんですけど、今すぐ死にたいです。本当に本当に。推しが近過ぎて無理、尊い爆発する。
「今日はちょっと混んでるね?」
「そう……ですね」
なんか知らんが車内混んでて倉田さんと密着してます。荷物が両足の間にあるせいで倉田さんが俺のほぼ真正面。しかも、若干当たってるんですわ。どことは言わんけど。うん。死ぬわ。
「もうちょっと、そっちに詰めてもいい……?」
「大、丈夫ですよ」
少し間を置き腹を括った俺は小さく頷く。それに僅かに遅れ倉田さんがその華奢な体躯をこちらへと寄せる。
近くなり過ぎですね。いい匂いしますね。見れば見るほど美少女ですね。より一層好きになっちゃいます。ついでに有罪案件ですねこれ。誰か殺してくれ。
「ごめんね。狭い、よね?」
「慣れて、ますので、お気になさらず」
嘘である。全くもって慣れてませんこんな状況。生まれて初めてですよ。本当に本当になんでこんなことになってるんですか。というか相変わらず倉田さんが近いし良い匂いだし、ついでに倉田さんの倉田さんが当たってて気が気じゃなくなりそう。意識すればするほど理性が溶けていくのがわかる。
……いかんな。こういう時は素数を数えて落ち着こう。素数は1と自分でしか割れない孤独な数字。というわけで数えるよー。
1、2、3、5、7……って、1は素数じゃないんですよ!?
「泰斗君、顔赤いけど大丈夫?」
「
一昔前の返答をしながら視線のみを逸らした俺は、静かに且つめいいっぱい息を吸うと呼吸を止め、なるべく呼吸の回数を減らしていくことに努める。息が荒いことをバレるのを避けるために。ここで変な気を起こしかけているのが倉田さんにバレたら、人生終わるナリ……人としての尊厳も同時に無くしそうだから、絶対に回避しなくては。
なんて思っていると、列車がカーブに差し掛かったらしくスピードを緩め、それによって慣性が乱れた結果車内が大きく揺れる。
「わ……」
俺は吊革に掴まった状態で立っていたため、大きくバランスを崩すことは無かったが、真正面に立っていた倉田さんは、掴まっているものが無かったために大きくバランスを崩しこちらへと倒れてくる。
そんな彼女を何とか受け止めた俺だったが、本日どころかここまでの人生で1番色濃く忘れられそうにない感触を我が身を持って知ってしまう。
「ご、ごめんね?」
「大丈夫ですよ……」
1周回って賢者タイムになってしまった俺は冷静に受け答えをする。うーん、気持ち悪いぞ泰斗。こんな公衆の面前、且つ推しの眼前で悟りを開くなんて。まだここで腹か首掻っ切った方がマシだよ。
気が気でなくなりつつあると、唐突に倉田さんに袖を引かれ意識を呼び戻される。
「あ、あの泰斗君」
「はい……?」
「その、泰斗君に掴まってても……良い?」
……はえ? なんて? 今こっちに掴まっても良いかって聞いてきたのか? え、つまりは密着状態になるってことでしょ? 待って待って、間違いなく死んじゃうよ。
でもさ、倉田さんからのお願いを断るのも気がひけるしさ、ここで断ると倉田さんが危ない気もするのよね……もう1回、腹括るか。
「俺なんかでよければ……全然」
「うん、ありがとう……」
どこか気恥ずかしそうな笑みを浮かべ謝意を述べる倉田さん。うーん、これは間違いなく国宝級のお顔。因みにこんなの至近距離で貰うとどうなるかって言えばね、平成キック後並みの勢いで爆発します。大炎上不可避。……
そうやって現実逃避をしていると、降車人数が増えていき車内は先ほどの混雑が嘘のように閑散とし始めた。これで恐らくだが倉田さんとの距離が取れる……任務、完了。
何て具合に安堵している俺だったが、未だ俺と倉田さんは先程の状態を保ったままだ。つまりですね、まだ倉田さんが俺に掴まった状態のままなんですよ。あれ、おっかしいなぁ……?
「えと、倉田さん?」
意を決した俺は倉田さんへ声をかける。すると彼女は、ゆっくりと顔を上げたかと思えば辺りを見渡し始めた。おろろ……? もしかして気が付いてなかった感じですかね?
「大分、空いてきたね……?」
「そう、ですね」
視線を逸らしながら短く返答する俺。えーっと、空いてるから掴まってる必要無いと思うんですけども、相変わらず倉田さんは俺に掴まったままで……Why Japanese people!
投げやりとも取れそうなツッコミを、心の内で飛ばしていると目の前の倉田さんが言葉を紡ぎ始めた。
「その、泰斗君とこうしてるの、なんか凄く落ち着いて……もう少し、このままでもいいかな?」
やや上目遣い気味の表情でこちらへと投げられる倉田さんからの問い。……あ、スゥーっ。そんな頼み方反則ですよ……絶対首を横になんて振れない。これはね、倉田さんとお別れしたら即自爆ですよ。うん。これはもう、明日俺が生きている保証は無くなったな。終わり! 閉廷! 解散!
「どう、ぞ……」
「ありがとう」
理性が破綻しそうになるのを必死に堪えながら震える声で肯定を述べると、謝意と共に可愛らしくて儚い、且つ愛おしいと思える程の笑顔で返してくれる。とてつもない返しに、オデノジョウチョハボドボドダ! マジでどうしてこうなった? Morfonicaのファンの皆様とか、倉田さんのファンの皆様に殺されかねないよ俺? やだよ、帰り道とかで背後から『ごめん——さようなら』されちゃうの。悲しみの向こう側とか辿りつきたくないから。
というわけで、一歩踏み外せば間違いなく二重の意味で死を体感できそうなこの現状を何とか乗り切ろうと、心頭滅却していく。落ち着け、まだあわあわ……慌ててるね。ダメだこりゃ。煩悩退散しなくちゃ。歯ぁ食いしばれぇ大井! 前歯全部折ってやる!
自分で自分を殴ると言った意味不明な構図を思い浮かべながら、思考をそちらへと沈めていく。あ待って、ちょっと内面大井君、武器持ってくるのは卑怯だよ? しかも釘バットじゃねぇか! こっちが死んじゃう! ごめん! ごめんて! 300円あげるから許して!
内面の自分から強めの反撃をもらう想像をしている内に、列車は俺の最寄りの1つ隣の駅を出る。もう着くじゃん。
「あ、もうこんなところ……」
思考を切り上げ、現実へと意識を戻した俺はドア上に備えられた行き先表示を見ながら呟く。あっという間に最寄り。今日早かったね。死が急速に迫ってきてる感じがして、生は実感できんかったが。
「泰斗君、どこで降りるの?」
「次の駅なんですが……」
倉田さんからの問いに答えると、またしても倉田さんが驚いた様子を見せる。ほぇ……この流れってもしかしなくても……?
一抹の不安を覚えている俺の手前、倉田さんが口を開く。
「私も次なんだ」
「そ、そうなんですね。すごい偶然だ……」
静かに阿鼻叫喚しながらも、到着した列車から降りる俺と倉田さん。ほんとに何でこうなったの? これで出口も同じ方向だったら、真面目に多摩川in考えちゃうよ?
「私こっちなんだけど、泰斗君は?」
改札を出たところで倉田さんから投げかけられる。倉田さんが示したのは西口方面の出口。所謂開けてる方。対する俺の帰り道は東口……少し閑散とした方。どうやらここは逆らしい。よかった。
「俺は逆で、あっち側です」
「そっか、じゃあここでお別れだね」
その言葉と共に名残惜しそうな雰囲気を醸し出す倉田さん。え、何でそんな雰囲気出してるんですかあなた? ……不謹慎なんだけど、そんなお顔も素敵です。惚れちゃうね。あ、もう惚れてた……。
「そう、ですね。じゃあ、俺はこの辺で……」
その言葉と共に倉田さんに背を向け歩み出す俺。このままここにいると、こっちも空気に飲まれそうなので早々に撤退。三十六計逃げるに如かずってこういうことを言うんだろうね。知らんけど。
「泰斗君!」
何歩か進んだところで、不意に背後の倉田さんから呼び止められ振り返る。そこにはこちらへ大きく手を振る倉田さんの姿が。あー、写真に収めて待ち受けにしたい……ま、やったら捕まっちゃうんでしょうけど。無念。
「また……一緒に帰ろうね!」
本日最高と言っても過言ではない笑顔で告げてくる倉田さんに対して、俺は小さく会釈し再度帰路へとつく。……塩対応みたいになっちゃったね。死にたい。でもね、あんな神々しいの直視できない。どのみち詰み。帰ったら美味しいもの食べてそのまま昇天すっか。
自身の行く末を決定したところで、俺は自宅へと足早に向かっていくのだった。因みにこの日、夜は眠れませんでした。所詮俺は、先の時代の敗北者じゃけぇ……対あり。