彼と同じ日に転校してきた小石川イコと、ヒーローとして世のため人のために隠れて活躍する紅葉山テル。
彼ら三人の前に、ボビーと名乗るスキンヘッドの大男が立ちふさがった。
ボビーはなにやらマサルと因縁のある相手のようだが、彼は今……
「フ……フフフ……。とうとう見つけたぞ……にせオクレ兄さんめぇ~」
ヒーローと敵対する存在、スティグマの間接的な手によって、心を暴走させられていた。
「ど、どうしよう、紅葉山さん!?」
「わ、わ、わ……!」
本来ならヒーローであるテルが、変身して対処しなければならない状況。
しかし彼女の正体はイコ以外の一般人は知らないため、マサルのいる側で「シャイ」になるのはためらわれる。
いや、それ以前の状況に彼女はあった。
目の前のボビーの体はスティグマの黒い指輪の影響で変質し、全身の筋肉が異常なまでに発達、
ボディービルコンテスの会場でないこの場所では、「変体」の二文字が最もふさわしい状態のボビー。
「むぅ……、なんて見事な筋肉なんだ。まるで『マッスルの神様』が宿ったようじゃないか」
テルと同じく目を
「そう、今の俺はマッスルの神様。人は呼ぶ、マ神と……」
いくらか冷静さを取り戻した様子のボビー。
話しが通じるようになったのはいいが、元々の標的であるマサルに再び狙いを定めたのは痛い。
ムキッムキッと筋肉をムキらせながらターゲットに迫る。
当のマサルは、若干の焦りを感じていた。
まさか最強と自負するセクシーコマンドーが通用しない相手が現れようとは……。
その上、女の子二人を
そんな彼の心境を察したか、テルはマサルの隣に並び、意を決した表情で言う。
「ま、マサルさん! 私も……一緒に戦います!」
両腕にはめたブレスレット──転心輪を、二度打ち鳴らす。
光に包まれたテルの体は、瞬時にヒーロー『シャイ』の姿へと変わった。
マサルの顔が驚愕に染まる。
「! テルテル、君は……!?」
「そうです、私は」
「君も……セクシーメイトだったのかい!?」
「ゔん?」
初耳の単語だが、なにか嫌な響きをシャイは覚える。
「なんですかその、セクシーなんとかって?」
「セクシーメイト。つまり君も、セクシーコマンドーを習っている同士なんだろう?」
「違いますよー!?」
「そうなのかい? でも、その恰好はどう見ても……」
シャイの衣装は白いレオタードに似て、割とキワドイそれはどちらかと言えば、ヒーローより痴女のスタイルに近いのかもしれない。
後ろでイコも、言っちゃったかぁ……という顔を浮かべており、やはりシャイの姿は恥ずかしい恰好というのが、世間での認識なのでは……。
「クハァーッ!!」
そのことに気づかされたシャイは悶絶し、地面を転がる。
もはや、共に戦うなどと言ってはいられない有様だった。
「ククッ、早くも一人離脱か」
ボビーはほくそ笑む。
「せっかくだ。花中島マサル……お前は、この技でとどめを刺してやろう」
「技、だって……?」
ボビーはユラリ……と両腕を動かし、不思議な
なにをしてくるのか、素人のイコにはまったく判断がつかなかった。
ただ一人、マサルだけがこの技の意味に気づく。
(こ、これは……まさか……!?)
「うっふぅ~ん」
キュピーン、という効果音と共に、ボビーは両腕を頭の後ろで組み、セクシーさを
「なんだそれーッ!?」 ガビーン
イコが、余りにも意味の無いその動作にツッコむ。
が、マサルは別の意味でボビーの行動に驚いていた。
(ま、間違いない、この技は……『放課後キャンパ……)
「ッ! な、なぁがああああ!!」
マサルは白目をむいて、ガガァァビィィィィンと、これまでにない衝撃を受けた。
彼の異常な状態に、シャイも思わずボビーに視線を向ける。
「え……えあああ!!?」
シャイもまた、ガビビーンと驚きに目を開いた。
ボビーの上げた腕、その根元である
イコは、「あ、男の人でもムダ毛って気にするんだ……」とのん気な感想を浮かべる。
二人が見せた最大の
「 キ ン 肉 ボ ー ル !!」
ボビーはこれまで手にしていた二個の金属球──
プロ野球のエースピッチャーもかくやの速度で投げられた球は、それぞれマサルとシャイの体にヒット。
二人はダメージを負い、派手に吹き飛ばされてしまった。
「紅葉山さん! 花中島くん!」
イコが駆け寄る。
幸い二人とも命に別状はないが、超がつくほどの剛速球をモロに受け、額や口からは血が流れている。
仲間は負傷。敵は健在。イコは
「ま、マズいぞ……どうすれば……」
ボビーに目を向けると
「とうとう限界みてぇだ……」
「なにぃー!!!??」
先の投球で全ての力を使い果たし、ガクリと膝をつくマ神がいた。
あれほど盛り上がっていた筋肉はしぼんだ風船のごとく。
肩でハァ……ハァ……と息をしている様は、どうやら本当に限界を迎えているのが見て取れる。
イコは横たわるシャイに声をかけた。
「ね、ねえ、紅葉山さん。これって、このまま倒せちゃうんじゃ」
「バッキャロー!!」
「!?」
そんなイコに、マサルは怒りをあらわにする。
「そんなことを行ってる場合か! 今は一刻も早く、テルテルの手当をするのが先じゃないのかコンチクショー!!」
まさか、このフザケきった男に正論を吐かれるとは……。
でも、本当にあと一押しで倒せちゃうんだよ?
なんかモヤモヤした思いを抱えつつも、イコはマサルの剣幕に押され、シャイに肩を貸してこの場から撤退するのだった。
ボビーの前から立ち去った三人は、近くにあるというマサルの実家まで避難してきた。
おそらく二階建ての一軒家と思われるマサルの家。
おそらくと言うのは、外からはその外観が分からないためである。
「「布ー!!?」」 ガビーン
変身を解いたテルと彼女を支えるイコは、マサルの家の前で叫んだ。
彼の自宅は、上からすっぽりと一枚の布で
「さあさあ。突っ立ってないで、お入りよ」
「あ、うん……」
「お、お邪魔します……」
強烈な不安を抱えながら、少女らはドアをくぐる。
家の中は意外と、本当に意外過ぎるほどに普通の内装だった。
ただ一か所、壁から唐突に突き出ている、なんらかの棒意外は。
「なにかな、あの棒……」
「下の方に『レバー』って書いてありますけど……」
ヒソヒソと話す女子二人を意に介さず、マサルはレバーの場所に近付く。
付近の壁にはメモのような紙が一枚、貼られていた。
「なになに、今日は……七センチか」
マサルはメモを見ながら、レバーを壁の「七センチ」と区切られている場所へ動かす。
「よし!!」
((なにがー!!??))
この行動の理由を一切説明することなく、マサルは少女らを自室へと案内する。
マサルの部屋も、やはり変わった所の無い、一般的な男子学生の部屋という感じだった。
部屋に通された二人。
イコはマサルから渡された救急箱を片手に、テルの怪我の手当てを行っている。
「ところで花中島くん」
「呼んだかい?」
マサルの独特な髪型──馬の尻尾のように、妙に長くのばされていた右側の部位が……どこへともなく消失していた。
「サッパリしてるーッ!!!」
「ああ、これかい? 大丈夫、このリングを付ければ元の髪型に戻るから」
爽やかに言ってのけるマサルだが、一体両肩のリングはなんなのか……少女らの疑問がつのる。
が、そもそも花中島マサルという人物自体が訳の分からない存在なのだ。
そんな男の身の回りになにがあろうと、それがなんだというのだろう。
イコは気を取り直し、話しの続きをする。
「それで、あのボビーって人は、君とはどういう関係なんだい?」
「僕も詳しいことは知らないんだ。わかめ高校に通っていた時から、何者かに追跡されていてね。そいつらから逃れるため、君たちの学校に転校したってわけさ」
そこでついに姿を現した刺客が、件のボビーということである。
「まったく。せっかくこうやって変装までしたっていうのに見つかるなんてなぁ」
そう言って、マサルは口元のおヒゲ様を……ペリッと
自前のものだと思っていたテルは思わずビックリ。
「えっ!? そ、それ、付けヒゲだったんですか!?」
「そうだよ。見事な出来栄えだろう? 僕の宝物の一つさ」
ウフフ、とマサルは目を細めてヒゲを愛でる。
変装アイテムが付けヒゲ一点のみ、ということは……やはりあの紳士肌着は普段着なのか……。
ヒゲを前に嬉しそうなマサルの様子はスルーして、イコは今回の事態の原因に切り込むような発言をする。
「そういえば、ボビーって人は花中島くんが肩に付けている輪っかを狙っていたよね? それって、なんなんだい?」
「これかい? 僕のチャームポイントさ!」
「いや、そういうことじゃなくて……」
マサルは、肩に付けている輪っか──通称チャームポイントを、セクシーコマンドーの修行中に拾ったと答える。
「山の中に落ちてたって、もしかして宇宙人の落とし物とかじゃ……」
「バカだなぁ、テルテル。宇宙人なんているはずないじゃないか」
マサルは笑ってテルの推測を否定した。
イコもテルの言葉に乗っかる。
「し、しかし、付ければ髪が伸びて外せば縮むなんて物質が、この地球上にあるわけが……」
「なにかは知らないが、地球の山に落ちてたんだ。地球のモノには違いないさ」
「他になにか落ちてなかったのかい? 例えば宇宙人が落ちてたとか?」
「いいや。あ、でも……オシャレな銀色の服を着た二人組はいたけどね」
「! そ、その二人ってどんな風だった?」
「背が低くて、クリっとした大きな目が特徴の、少年風だったかな。でも失礼な奴らだったなぁ。僕が拾ったチャームポイントを見て、『つべこべ言わずそれを置いていけ』って」
「そ、それで……どうしたの?」
マサルは昔を懐かしむような
「ブン投げた」
「「ええー!!?」」
「まったく、近頃の若いのはどうなってるのかねぇ」
とプンスカしている彼の背後で少女らは
((う、宇宙人を投げ飛ばすなんて……スゴイ。アホだけどスゴイよ、マサルさん))
と、恐怖とも尊敬ともとれない感情をマサルに抱いた。
そんな時である。
テルの腕輪──転心輪から、電話の呼び出し音にも似たコール音が鳴り響く。
それは、少女がシャイとして活動する時のパートナーであるエヌ=ヴィリオ、通称えびおさん──とテルは呼んでいる──からの通信。
「はい、もしもし? どうしたんですか、えびおさん?」
リングの先から、ノイズ交じりに暗く低い、
「えびおさん……?」
『た……タすケテ……』
「にぎゃー!!」
あまりにもおどろおどろしい声の響きに、ホラー映画好きのテルも思わず叫び声をあげてしまった。
マサルは、「またか」という感じでテルに声をかける。
「ああ、それチャームポイントのせいなんだ。こいつが近くにあると、機械がうまく動作しないんだよ。この前もラジオから『アフロ』って声が流れてきたしね」
そう言って、マサルはリングを部屋の外へ追い出す。
通信は回復したが、その内容は三人にとって喜ばしくないものだった。
「えっ。街中に、復活したボビーさんが現れた……!?」