「止まりなさい。」
その場にいた全員が声の主を見る。
冷たくて幼い声を持つのは、帽子を被り、蝙蝠のそれとよく似た大振な翼を広げ、紅い眼を暗闇に輝かせていた。
その姿はまるで...
「吸血鬼...!?」
「...お嬢様、お言葉ですが奴らは侵入者で...」
「紫から話を聞いたわ。」
紫さん..
ちゃんと話してくれていたのね....
「えぇ、どうか泊まる部屋を用意してくれないかしら...。」
「もちろんよ。」
と、吸血鬼は了承する。
「大変なご無礼を働いてしまい、大変申し訳ございません。」
メイドの方も、先ほどとは打って変わって落ち着いた態度で謝罪する。
「どうか頭を上げて。」
「ですが..」
「先に話をしておかなかった私達も悪いのよ...」
「あぁ...全く持ってその通りだ...」
「それじゃあ、部屋に案内するわね。」
「どうやらお嬢様は久しぶりのお客様で気分が高揚しているみたいなんです。」
へぇ...カワイイじゃない...。
「それは随分微笑ましいな。」
「っと。ここがあなた達の部屋よ。」
...広い。
「流石は高貴なお嬢様の屋敷だな...」
そういえば、聞こうとして忘れていた。
「ねぇ、メイドさん。」
「十六夜 咲夜です。」
「咲夜さん、どうしてこのお屋敷はこんなに広いの?」
「外見より...とても広く見えるの。」
「ふっふっふ...」
「実は、私の能力で空間を拡張しているんですよ!」
へぇー。能力。
ん?普通にすごくね?
「凄い...」
メイド長は得意げだ。
「それでは、私はお食事の準備をしているのでお寛ぎください。」
...ふむ。なるほど。食事まで出してくれるとは。
それから暫くして、咲夜さんが部屋まで呼びに来た。
ちなみにそれまで私とローランは猫の尻尾の構造について喋っていた。
食堂へ案内される。やはり広い。
そして、先ほどの吸血鬼
――レミリア・スカーレットの近くの席に通される。
前菜は、小さなグラスに入ったサラダだった。
生の細かく立方体の形に切られた白身魚に酢とパセリがかかっていて、その上にシャケの魚卵が盛られている。
レミリア・スカーレットは私たちのいた世界の事を聞いてきた。
とりあえず、食欲が減退しそうな話はやめておいた。
続いてスープは、ハーブが刺されたかぼちゃのスープだった。
...うん、美味しい。機械の舌では味を感じることはできないけれど、感覚として脳...の役割をする回路へ送ることはできる。
続いての魚料理は鱈のムニエルだった。皿に美しく盛られていて、味もバターが効いていて美味しい。
口直しのシャーベットが運ばれてきた辺りで、レミリアは私たちにどうして幻想郷に残ることにしたのかと聞いた。
一瞬、正直に話すか迷った。
幻想体の事を伝えれば怯えてしまうのではないだろうか?
冷静に考えるとそんなことはない。
なので話すことにした。すると、レミリアはいつでも協力する。と心強いことを言ってくれた。
ありがたい限りだ。
肉料理はローストビーフで、近くに小さな人参やさや入りの豆や葉っぱなどが配置されていた。当然とても美味しい。
そしてサラダ。サラダはニンジンやダイコン。トマトなんかが並んでいたりもして、肉の油を落とすのには十分だった。
そして、フルコースの最後に運ばれてきたのはチーズプレートだった。
ざくろの実が置いてあったり、赤黒いソースがかかっていたりする。
当然これも美味しくいただいた。
チーズの甘い酸味が、ざくろの甘さとよく似合う。
それにざくろに含まれるポリフェノールはとても健康にいい。機械の私も肌が綺麗になったり、生活習慣病を予防できたりするだろうか。
そんなこんなで、レミリアの妹であるフランドール・スカーレットに気に入られ、懐かれもした。彼女の部屋で暫く話した後、こうして今自分の部屋に帰ってきた。
...明日に備えて寝よう。