「ねぇ、お客さん!大変なの!!」
吸血鬼姉妹の...妹の方、フランドール・スカーレット――私はフランと呼んでいる
が、部屋に駆け込んできた。
まだ朝早くなので、ローランは寝息を立てている。
「どうしたの?フラン。」
「門の前に...私の能力が通じない化け物が。」
「...やっぱりそうなのね。」
「今は咲夜と美鈴が頑張ってるけど...早く来て!」
とだけ言い、走り去ってしまった。
ベッドから体を起こし、できるだけ急いで外へ向かう。窓を破れば早いのだが、流石にそこまではできない。
どうか...もう少しだけ持って...。
外に出ると、そこには筋線維の露出した二足歩行型の幻想体がいた。
肩甲骨の辺りから皮膚のない腕が上向きに生えており、本来人間に腕が生えているべき場所には二の腕の1/3ほどの長さの突起が残っている。そして、肩甲骨から伸びる腕の開いた掌からは、定型化されていない紫エネルギーで形作られている大振な刃が突き出ている。
そして、何より目を引くのは大きな裂け目である。
股から顎のあたりにかけて、両サイドから何本か牙の生えた口のようになっていて、その中から何本か細い触手が蠢いている。
下半身は鈍い青色の衣服と灰色のブーツで覆われているため確認できないが、あの色には見覚えがある。W社整理要員の制服だったはず。
「T-02-21-07ね...。」
T-02-21-07。"道を失った乗客"。HEクラスの幻想体だ。
エネルギーの刃で空間を切り裂いて奇襲や逃走を行う、かなり厄介な相手だ。
咲夜のナイフや美鈴の殴打がそれなりに効いているようだが、それだけで倒せる相手ではない。
観察する暇もない。本を開いて走り出す。
すると、乗客が動いた。
乗客は両腕を滅茶苦茶に動かし、周囲にたくさんの次元の裂け目を作り出して、その中に隠れた。
「危ない!二人とも、今すぐに離れて!」
「!!」
一人はバックステップで距離を取り、もう一人は時間を止めて距離をとった。
次の瞬間、いくつかの裂け目から幻想体の腕と刃が飛び出し、空を切る。
「感謝するわ。」「教えてくれてありがとうございます...。」
全ての裂け目が閉じて、私達から少し離れた場所の地面に紫色の裂け目が現れる。
「あそこですね...!!」
私たちはそちらの方向へ駆け出した。駆け出してしまった。
誰もが、考えもしなかった。頭から抜け落ちていた。
「ッ!!」
私達の後ろから、幻想体が顔を出していた。
あの裂け目は囮か...ッ!
そして刃が振りかぶられる。
刃はまたしても空ぶった。隣のメイドが時間を止め、私達を逃がしたのだ。
「助けられたわね。」
「いいってものよ。そんなことより、彼奴について知ってる限りの全てを教えて。」
「さっきまでの戦闘でわかる通り、両手の刃で空間を裂いて攻撃と移動を行う幻想体よ。」
「当然弱点は両手の刃ね。あれを破壊できればあいつは何もできなくなるわ。」
私の言葉を聞くなり、門番は地面を蹴った。
「華符『彩光蓮華掌』ッッ!!!」
幻想体の左胸に直撃した拳は無数の光弾を放ち、蓮の華を描いた。
それは相手を吹き飛ばすには十分な衝撃であり、乗客は宙へ吹き飛ばされた。
それを見た咲夜は悪態を飛び上がり、ナイフを投げた。
『...メイド秘技『殺人ドール』」
彼女は放射状にナイフを投げた。
そして、一瞬の違和感のあと、それぞれのナイフが別々の方向に動き始めた。
ナイフのほとんどは幻想体とその掌に刺さり、近くの大木に磔にする。
私は本から魔法の杖を取り出した。
愛と憎しみの名の下に、杖を地面に突き立て魔法の光線を放つ。
「―――アルカナ・スレイブ。」
青と桃色の魔法陣がいくつも重なったあと、
桃色の光が放たれた。
桃色の光線は、幻想体を光で包み、姿を隠した。
それからほんの少し経って、光は止んだ。
視線の先には、道を失った乗客の核と焼け焦げた木が何本か聳えていた。
「...あっけなかったわね?」
確か、本にはヒロインはこういう時に調子に乗るものだと書かれていたはず。
「私たちが居たから勝てたくせに...」
「まぁまぁ、いいじゃないですか。そんなことよりも、早く帰って朝ごはんでも食べましょうよ。」
うーん。雑。