<来る..!>
私の声と共に囚人たちは身構えた。
目の前の嫉妬に狂った少女は宙へ舞い上がったところだたった。
「妬符『グリーンアイドモンスター』...!!」
蛇のように囚人を追跡する緑の弾幕が、まるで蛇のように私達を襲った。
私を含む多くの囚人はそれを回避し、またある囚人は武器で弾くことができたが
一人、出遅れた者が居た。
「!!!」
<シンクレア!>
囚人の中でもひときわ若い金髪の男の子が一人、迫る緑の光を前に立ち尽くしている。誰かを前に出すべきだろうか...。
思考している時間が惜しい、されど私は結論を出せずにいた。
その矢先、シンクレアが動いた。
「っ!」
自分に当たるギリギリのタイミングで、彼はほんの少しだけ横に逸れた。当然緑の蛇はそれを追尾したが、シンクレアはまるで糸を束に纏めるかのような最小限の動きで避け続けた。
<シンクレア...!!>
「ダンテさん!早く!!」
その声を聞いた私は我に返って唱えた。
―――お前の星に従え。
囚人たちは幾重にも屈折された可能性へと書き換えられた。
今の、リンバス・カンパニーに所属して囚人として生活している世界とは別の世界の自分自身―――ある者は、純然たる春の香りを纏い、またある者は、K社の巣で私達を苦しめた釘と金槌を握る物として、W社の整理要員も、人を材料にしたミートパイ屋さんも、R社のサイチームに所属している者も、裏路地のギャングも。
それら以上の全てをごちゃまぜにした混沌の中から可能性を引き出し、身に纏う。
ちょうど緑の弾幕が止んだ頃、皆が数日ぶりの変化に適応し始めた。
「なんなのよ...お前ら揃いも揃って....!!」
「嫉妬ぞまさなき。あたらかくも美しき顔の台無しならぬや、橋姫よ。」
イサンが黄色の花と枝が絡みつく扇で煽ぎながら言った。
また、橋姫は爪を噛みながら言った。
「何もかもが....妬ましい....ッ!!!」
「花咲爺『シロの灰』!!!」
<全員、避けろ..!!>
緑色の光弾がいくつか放たれた。その後を追うようにして桃色の花が咲き誇る。
「あんな事言うから怒らせちゃったじゃん~。」
巨大な武器のエンジンを始動してロージャが言った。
「申し訳なし...」
そんなやり取りをしている間にも、緑の光と花は着実に私たちの逃げ場所を狭めていく。
「あらら...マズそうですね~。」
そして、橋姫に疲れが見え始めたその時。
「ハッ!!!」
雄叫びと共に、銛が投げられた。
「!!」
投げられた銛は宙を舞う少女の太ももに深く突き刺さり、血が流れだした。
ウェットスーツに身を包んだイシュメールが突き刺さった銛を勢いよく引くと、銛と共に橋姫も地上へ引きずり降ろされた。
「ずっと狙ってたんですよ....。あなたが止まる、その一瞬を。」
イシュメールは彼女の脚から銛を引き抜いて、地面に仰向けに倒れこむ橋姫の首元に突き付けた。
「はぁ...。完敗よ。私の負け。」
地面に血だまりが広がる。先ほどまで嫉妬心に支配されていた彼女の声から敵意は感じられなかった。
「あなたたちなら多分...この先で起こってることもどうにかできるはずよ。」
「せいぜい、頑張ってね。」
それが、私たちの聞いた最期の言葉だった。
囚人たちは元の姿に戻り、とぼとぼ歩き始めた。
後には、彼女の首と胴体が転がっていた。