幻想体。
旧L社、Lobotomy corporationでエンケファリンを抽出するために管理していた存在。
危険度はZAYIN、TETH、HE、WAW、ALEPHで表せる。ロボトミ―の、E.G.O.で武装した職員が居たとしても施設が壊滅する可能性があるのがALEPH。
TETHクラスの幻想体――真鍮の雄牛でさえ人里を半壊させた。
ならばALEPHクラスの幻想体なら、人里どころか神社や吸血鬼の住まう館まで...。
それだけは、絶対に食い止めなければならない。何が起ころうと。
もう一つ気がかりなのは、アルガリア...のねじれ。
アルガリアのねじれは、ローランと対峙して、確かにもう一度演奏を行うと言った。
演奏を行う。それは彼らが、"残響楽団"が図書館を狙い、攻め入った理由でもある。
残響楽団...。
残響楽団のメンバーもこの幻想郷に来ているとすれば...?
そもそもなぜアルガリアはここにいる?
取り留めもなくそんなことを考え、小鈴庵だった焼け跡の残った部屋で布団に寝転がる。
その時だった。空気中を電流が流れる際に発生する、スパーク音が聞こえたのは。
青い光が外に見えた。
おそらく幻想体だ。
先ほどまでにの思考が、私にその考えをもたらした。
もしかしたら、その様な能力を持った者が遊んでいるだけかもしれない。
そんな考えは頭の片隅にさえ無かった。
ゆっくり、隣で寝息を立てるローランを起こさないように外へ出る。
「!」
やはり、幻想体。
鋼の装甲に覆われたムカデのような姿の幻想体がとぐろを巻いて青い電流を火花と共に周囲に放っている。
T-02-11-04、衝撃ムカデ。
それは私に気づいたらしく、鳴き声を上げながらこちらに突っ込んでくる。
そして、私にぶつかる寸前で頭を地面に押し付けるように下げ、尻尾の突起をこちらに突き刺そうとしてくる。
「くッ...!!」
大きな熊のぬいぐるみの腕でそれを受け止め、そのまま押しのける。
そして、私はその体勢のまま紫色の実体のない刃を構えた。
後ろにのけぞったムカデは、その勢いを保持したまま体を横に回し、尻尾の針を左の方向から突き刺す。
しかし、私はそれよりも素早く紫色の刃を正面に振り下ろした。
空間は裂け、紫色の光で満たされた次元へと繋がる。
私はその次元に身を投げ、そしてまた刃を振った。
幻想体の真後ろに出る。
衝撃ムカデの身体をも切り裂こうともう一度刃を振り下ろす。
しかし、薄く蒼色に輝く障壁によって阻まれたどころか、発生した電流が私の体を貫いた。
「う゛あ゛ぁ゛ッ゛..ッ!!」
私はその場に膝をつき、倒れこんでしまった。
何も考えることができなかった。
動くこともできなかった。
「アンジェラ!!」
その声を聞いて初めて、顔を上げる事ができた。
目に写ったのは、黒いズボンを穿いた足。
ローランが、双剣で尻尾を防いでいた。
「お前が居なくなったのには気づいてたんだが...まさか幻想体を相手にしてるとは思ってなくて....」
「一人で何も言わず外に出た私が悪いのよ。」
取り落していた本を再び拾い上げる。
相手はHEクラスの幻想体。
そう簡単には倒れてくれないだろう。
衝撃ムカデは別の支社に収容されていた幻想体なので、対処方法に詳しいわけではないが、あの障壁がある限り傷つけることはできないのだろう。
すると、幻想体は再びとぐろを巻いた。
周囲の空気に電流が走り、火花が舞う。
それと同時に、蒼の障壁が薄くなっていく。
私とローランはこの隙を見逃さなかった。
ローランは近くの家の塀を蹴った。
私は拘束具を身に纏った。
ムカデの頭上からは大剣が重力に乗せて繰り出され、地上からは足枷に着いた重りがムカデの胴体を襲う。
ムカデの頭は前方部分が切り落とされ、ムカデに衝突した重りは空間にひびが入る程の衝撃を発生させた。
幻想体は道の先へと大きく吹き飛んで、蒼い電流と共に核となった。
月明かりに照らされた幻想体の核を回収し、再び小鈴庵の敷地に入る。
「...夜もおちおち寝てられないってわけか....。」
ローランが溜息を憑いた。