精霊の存在する世界に転生した宇宙の帝王   作:クー(無課金勢)

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暗躍する者

 士道が空間震と共に現れた少女に襲われ、天王寺怜花に強い恐怖心を抱いたあの後、空を飛ぶ武装した少女達と士道を襲ったドレスのような鎧を纏った少女との戦いの衝撃によって士道は近くの瓦礫に頭をぶつけて意識を失った。

 

 そして、次に目を覚ました時には、士道は〈フラクシナス〉と呼ばれる戦艦にある医務室の中にいた。

 

 そこから先は、驚きの連続だった。

 

 士道の妹である琴里がその〈フラクシナス〉の司令だということ……

 

 士道を襲った少女は『精霊』と呼ばれ、世界を殺す厄災と恐れられていること……

 

 空間震はその精霊が隣界という場所からこちらの世界に来る時に発生する余波だということ……

 

 空を飛んでいた武装した少女達はASTと言われる精霊の殲滅を目的とした部隊だということ……

 

 そして、自分にはその精霊の力を封印できる力があるということ……

 

 それらの説明を聞き、士道は勿論驚きを隠せなかった。妹が自分の知らない内によく分からない組織に所属していたこともそうだが、精霊などという非現実的な存在をそう簡単に受け止められなかったのだ。

 

 だが、それ以上に聞かねばならないことがあった士道は喉から出かかっていたあらゆる疑問を一旦飲み込み、とあること聞いた。

 

「じゃあ……天王寺も精霊なのか? それとも、ASTって奴らの仲間なのか?」

 

 その疑問に琴里は言っている事に意味が分からないとでもいいたげな様子で、呆れ顔のまま首を傾げた。

 

「天王寺って……もしかして、あの天王寺コーポレーションの人間かしら? あんたあの家系と関わりでもあったの?」

 

「関りがあるもなにも、さっきその精霊から助けてくれた奴がそうだよ。あいつが天王寺コーポレーションの社長の娘の天王寺怜花だ」

 

 妹の所属している組織よりも、精霊の存在よりも、士道は怜花のことを知りたかった。それは殿町のような下心あっての気持ちなどではなく、純粋な恐怖故にだった。

 

 人間は未知の存在を恐れる傾向にある。だからこそ、その存在のことを知ろうとする。それは士道も例外ではなく、いきな現れて自分に恐怖を植え付けた怜花の存在が恐ろしかったからこそ、なによりも優先して怜花のことを聞いたのだ。

 

 しかし、その言葉を聞いて琴里を含めた〈フラクシナス〉のブリッジにいる者は唖然とする。

 

「士道……あんた、あいつを知ってんの……」

 

「あ、ああ……クラスメイトだからな……」

 

 士道がそう答えると周囲はざわざわと騒ぎ立てる。琴里もその事実がよほど衝撃だったのか、額に手を当てて「嘘でしょ……」と言葉をこぼした。

 

「ど、どうしたんだよ琴里。何か知ってるなら教えてくれよ」

 

 いきなり騒がしくなった艦内の状況についていけない士道は焦り気味に琴里に問いかける。そんな士道に琴里は一度ため息を吐き、椅子に深く腰をかけてから話し始めた。

 

「このことは今話すつもりはなかったけど……既にあんたがあいつと接触してるなら隠す理由はないわ。さっき説明したことは覚えてる? 精霊がこっちの世界に来ると空間震が発生するって話よ」

 

「ああ、だから精霊を助けるために力を封印するのが琴里達の目的なんだよな?」

 

 そう答え、士道は先程の話を思い出す。

 

 誰かを傷つけようという思いがなくとも、空間震が発生する影響で精霊は自分の意志関係なく多くの人を傷つけてしまう。精霊はその力があるため、ASTに命を狙われる。

 

 そんな精霊を救うために士道が精霊と対話……というか恋をさせることでその力を封印するのが〈フラクシナス〉の目的であるという。

 

 壮大な目的のわりに、その過程がデートして惚れさせるとかいうどこか気の抜ける作戦に士道はどんな顔をしていいのか分からなくなる。

 

「その通りよ。でもね、中には例外もいるわ」

 

「例外?」

 

「いるのよ。好き好んで人を傷つける精霊がね」

 

 琴里のその言葉を聞いて、士道の背筋には悪寒が走った。先程までの話では、精霊は悪意がないのに誰かを傷つけ、そのために命を狙われる可哀想な存在だと思い込んでいた。実際に、先程出会った精霊も自分から望んで剣を振っているようには士道は見えなかった。

 

 だからこそ、琴里の話は士道に大きな衝撃を与えた。しかし、驚愕の事実はそれだけではなかった。

 

侵略者(インベーダー)……士道の言ってる天王寺怜花は、そんな精霊の中でも最悪の存在よ」

 

侵略者(インベーダー)……」

 

 士道は怜花が精霊だったという事実に表情を暗くする。琴里は精霊を惚れさせろと言うが、どれだけ考えても士道が怜花を惚れさせるイメージが湧かなかったからだ。

 

「あいつは正真正銘の化け物よ。他の精霊ならまだ対話の余地はあっても、あいつだけはダメ。人間の心を理解して、その上で人間を殺すのがあいつよ。今まで、わざと空間震を引き起こして、呼び寄せたASTを何度も全滅させてるわ。しかも、あいつのおかしいところは命を奪う対象が人間だけじゃないってとこよ」

 

「人間だけじゃって……」

 

「……精霊も殺すのよ」

 

 それを聞いた士道は、一瞬琴里が言っている言葉の意味を理解できなかった。

 

「え……精霊が精霊を……」

 

「驚くのも無理ないでしょうね。でも事実よ。侵略者(インベーダー)にとって人間も精霊も関係ないの」

 

 敵対している人間の命を奪うことに納得はしたくなくとも、僅かには理解していた。しかし、同族である精霊を殺すことは今の士道には理解が出来なかった。

 

 それでは、もはや正当防衛で相手の命を奪っているのではなく、本当に人間の殺人犯と変わらない。その瞬間、学校の多くの生徒に慕われている怜花の姿が士道の脳裏に浮かび上がる。裏で人を殺しているなんて思いもしない程に自然な怜花の様子に薄れていた恐怖が再度湧き上がってくる。

 

 そんな兄の様子を察した琴里はキツく叱ってやろうかとも考えたが、あの精霊が相手では仕方ないであろうと同情したような目で士道を見つめる。

 

 

 

「分かってると思うけど、これ以上あいつと関わっちゃダメよ。精霊と対話して封印するのが私達の目的だけど、あいつだけは諦めなさい……命が惜しいならね」

 

 恐怖に震えていた士道だったが、琴里のその言葉だけは強く耳に残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……――あいつだけは諦めなさい……命が惜しいならね』

 

 

 

「ほっほっほっ、随分と好き勝手言ってくれますね。わたしが化け物ですか。まあ、彼女から見ればそれも間違いないのかもしれませんね」

 

 そこは、天王寺コーポレーションが所有する50階以上はある高層ビル。その地下室にある一室に三人の人物がいた。

 

 真っ黒い壁に白い天井、無機質な部屋の中にある誰が見ても豪華だと分かる椅子に座った来禅高校の制服を纏って座る一人の少女――天王寺怜花は目の前の机に置かれたモニターへと映し出された映像を目にして、笑みを浮かべていた。

 

「〈フラクシナス〉……ですか。確かDEM社の裏切り者が作った組織が所有している空中戦艦でしたね。精霊との和解が目的と掲げているようですが、一体裏で何を企んでいるのやら」

 

「へっ、そんなことどうでもいいじゃねぇか。どうせ、お嬢の相手にはならねぇんだからよ。それにしても、奴ら今も情報を抜かれてるなんざ思ってもいねぇだろうなぁ」

 

 怜花の少し後ろで、まるで従者かのようにモニターを見る二人の男も怜花に続いてそう言葉を述べる。

 

文旦(ぶんたん)さん。それを探るのが貴方の仕事ですよ。麝香(じゃこう)さんも油断は禁物です。わたしが作った小型昆虫型ロボットが見つかるのも時間の問題でしょう。それまでに早く〈フラクシナス〉の情報を抜き取りなさい」

 

「「はい! お任せください!」」

 

 方やクールな高身長の美男子、方や丸々太った身長の低い野蛮そうな雰囲気の男。対照的な二人に怜花が丁寧にそう忠告すると、二人はピシッと敬礼する。

 

 士道が〈フラクシナス〉の人間にとっての秘密兵器だということを知っていた怜花は、士道の制服の内ポケットに偵察用の小型ロボットを忍ばせていたのだ。ハエ程度の大きさにも関わらず、撮影、ハッキング、遺伝子情報の抜き取り、おまけに自爆機能までついた超精密機械。

 

 当然、その事実に冷静さを欠いていたあの時の士道もそんな機械の存在など知っているはずもない琴里も気づくはずがない。結果、〈フラクシナス〉は士道と共に偵察用ロボの侵入を許してしまった。

 

 そしてお分かりの通り、〈フラクシナス〉での琴里と士道の会話は怜花へと筒抜けの状態となっており、艦内の設備情報に関しては現在進行形で盗み取られている。

 

「怜花様、こちらが現在判明している〈フラクシナス〉の資料です。どうぞ、お目通しください」

 

「ありがとうございます。どぉれ、ちょっと拝見……」

 

 文旦と呼ばれた美男子から怜花は束ねられた資料を手渡されると、ペラペラぺラッと凄まじい速度で捲り始める。そして、数秒の内に教科書一冊分はある資料を全て捲り終えると、目の前にある机にバサッと勢いよく資料を置いた。

 

 一体何をしているのか分からないかもしれないが、怜花はこの一瞬で渡された資料を全て読み終えたのだ。人並外れた動体視力と高い記憶力があるからこそ可能とする彼女の得意技である。

 

「素晴らしい。この短い時間でよくこれだけの情報を集められましたね。ですが、どれも艦内の構造や設備ばかり。五河琴里を始めとした乗船員の情報が全くといっていいほど足りません。その人物の性格、家族構成、恋愛経験。一見、どうでも良いと思ってしまいそうな情報ですら、役に立つ時はあります。貴方の独断で必要ないと判断してしまうのは、とても愚かな行いですよ」

 

「も、申し訳ありません! すぐに再調査を!」

 

「いいえ、必要ありません。わたしが彼と接触した以上、あちらも警戒していることでしょう。ここで焦ってしまえば、あちらに付け入る隙を晒してしまうことにもなりかねません。この失敗は次の機会で取り返しなさい」

 

「わ、分かりました」

 

 己のミスを取り返そうと、すぐさま行動に移ろうとする男を怜花はあくまで落ち着いた声色で引き止める。しかし、その声に呆れの感情があったことは長い付き合いである男には分かったのだろう。少し怯えがちに指示に従う。

 

「へへへっ、やっぱりテメェはどこまでいっても中途半端だな。だから、いつまで経ってもコソコソした仕事しか任せられねぇんだよ」

 

 そんな男にもう一人の丸々太った麝香と呼ばれた男が汚い笑みを浮かべながら、侮辱するような言葉を浴びせる。

 

 この二人の立場に上下は無く、対等である。だからこそ、相手より自分の方が上回っていると二人は信じて疑わない。

 

 故に、こうあからさまに侮辱され、文旦と呼ばれる男が大人しく引き下がるわけがない。

 

「なんだと……貴様の方こそ、その足りない頭のせいで子供でもできるような簡単な仕事しか成功させた試しがないではないか。いつもいつも、怜花様のお手を煩わせて、部下として恥ずかしくはないのか?」

 

「んだと!! 俺はいいんだよ! 戦闘要員だからな!」

 

「戦う以外に貴様にできることがないのかと言っているんだ! この脳筋!!」

 

 そうやってお互いがお互いを挑発しあうと、二人は顔を歪ませて睨み合う。その様子はまさにバチバチと火花が散っているかのようだ。

 

 このままでは、物理的な喧嘩に移るのもそう遠い話ではない。見て分かる通り、彼らはまさに犬猿の仲である。お互いが相手を常に見下しているため、こうして顔を合わせれば毎回罵り合いへと発展する。

 

 そんな二人の喧嘩を仲裁できる者がいるとするならば、たった一人しかいない。その人物こそ、言い合いを続ける彼らに挟まれ、心底不機嫌そうな表情を見せる怜花である。

 

「やめなさい!」

 

「「っ……」」

 

 たった一言、彼女が怒気を強めてそう言うだけで、二人に言い争いが終わるのがその証拠だ。

 

「申し訳ありません。怜花様」

 

「……悪い。お嬢」

 

「分かればよろしいのです。どちらが優れているのかどうしても決めたいというならば、わたしを驚かせる程の功績をあげなさい。もし、それが出来たのならば、わたしの口からはっきりと貴方達の上下関係を定めてあげましょう」

 

 先程までの罵り合いが嘘かのように、従順な下部のようになった二人は怜花の言葉を聞いてその顔に喜色を浮かべる。怜花の言葉は絶対である二人にとって、自身が優れているという絶対的な証明を得ることができるチャンスが来たからである。

 

 二人は「ありがとうございます!」と声を大にして感謝の言葉を告げる。

 

「ん……コホンッ。それでは怜花様。今後の〈フラクシナス〉への対応はどのようにいたしましょう?」

 

「ひとまず……様子見でいいでしょう。実際に精霊を封印する場面というのも見てみたいですし、本格的に彼女達と接触するのは二人目からでも構いません。お二人もその方針でお願いしますよ」

 

「はっ! 私の部下達にもそう伝えておきます。麝香、貴様の部下には自分で知らせろ」

 

「ちっ、テメェに指図されるのは気に食わねぇが、お嬢の命令だから聞いといてやる。いいな! テメェに従ったわけじゃないからな!」

 

「分かったからさっさと行け」

 

 そうして、二人の男はその部屋から足早に出ていった。そんな二人を怜花は見届けると、未だ〈フラクシナス〉の艦内の映像を映し出すモニターを前にしながら、悪質な笑みを浮かべて呟いた。

 

 

 

「ふふふ、貴方には期待していますよ。せいぜい、わたしの役に立ってくださいね。五河士道さん」

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