ガ ク ブ ル へ ル メ ッ ト 団 作:名もなきドクター
ラーメンは総合芸術である
細麺、太麺、味噌、豚骨、醤油、塩
漢字で書いて拉麺、引き伸ばされた麺なのだが、日本式のソレは最早原典とはかけ離れた方向へと独自進化してしまった
付け合わせの一種一種、スープの種類との相性、店主ごとに違う手作りチャーシュー
本格店だとスープだけで二十時間以上かけて採られ、麺は自家製麺、用いる野菜は店主自身が細かく選定するなど様々な工夫によって成り立つ一杯は芸術である
育ち盛りの学生や働き盛りの大人、家事育児と忙しない主婦や幼児
正に老若男女問わず魅了する食の頂点に立つモノだ
この前置きがあれば分かる方も多いでしょう
私はラーメンが好きだ!
カップ麺やインスタント麺にはない、生きたラーメンを食べたくなる日もある
ついでに聖地巡りと推し活可能な名店がこの寂れた砂漠の街には一店舗ある
『柴関ラーメン』
名の通り、柴大将と呼ばれる柴犬頭のおっちゃんがバイト一人と経営する小さな店だが、限界集落化したアビドスでも依然と客足が途絶えないことを見るに、確かな人気を獲得していることが分かる
私はカウンター席に座り、広々と感じる店を眺める
この後のことを考えれば、存外屋台というのは正しい選択であるかも知れないとかの話はさておき、今はラーメンに集中しなくては不作法というもの
「はいよ、看板商品の柴関ラーメン一丁!腹一杯食ってデカくなれよ嬢ちゃん!」
厨房から直で卓より一段上のスペースに届けられた一つの大きなどんぶり
「はい、頂きます!」
熱さが伝わるそれを手に取り、目の前に置き鑑賞する
特別な特徴は無いが、ラーメンと想像した時に真っ先に出るイメージと合致したソレは、高校生一人では食べ切れないのでは無いかと思わせる迫力があった
手を合わせ、心の中で一念
箸とレンゲを手に取る
目で楽しんだ後は、香だ
食す前に浅く呼吸をし、漂うスープの香りを鼻腔いっぱいに吸い込む
シンプルな醤油出汁と良い脂の匂いを乗せたチャーシューの香り
そしてレンゲを器に沈め、良く息を吹きかけ冷まし、一口
野菜の旨み、チャーシューから滲み出た肉の脂が味蕾に直撃
美味ぇ!
続け様に箸で麺を取り、これをスープと絡ませて冷まし
これまた一口ずずいっと啜る
柔らかいながらも確かな弾力がある麺に絶品のスープがシナジーを生み出す
よく咀嚼し、味わう
はぁ♡幸せ♡
絶賛女の子がしちゃいけないような卑しい顔を浮かべたリトルだったが、直ぐに表情を引き締めて器に向き合う
最初の吟味が終われば、後は戦(いくさ)である
出来るだけ熱い内に味わい、且つ火傷を避けるチキンレースが始まるのだ
今世のボディのスペックを信用し、少年時代のペースで食べ進める
具、麺、スープ
麺、麺、スープ
麺、スープ、麺
具、具、スープ
麺、チャーシュー、スープ
必ずスープをサイクルに入れながら麺を啜り、具材を噛み締める
体型から想像の出来ない勢いでぺースで腹に収めていく少女は正しく全手動麺吸引機であった
やがて終幕、クライマックスが訪れる
残り一枚のチャーシューと麺を口に納め、残った野菜の掃討作戦を行う
満タンだった器には半分ほど液体しか残っていない
されど侮るなかれ
ラーメンはスープを飲み切らなければ健康食品という格言があるように、こっからはジャンクフードの世界だ
箸とレンゲを静かに器に置き、覚悟をキメる
両手でどんぶりを抱え、小さな口をそっとフチに添える
ゴク、ゴク、ゴク
喉を鳴らしながらスープを胃に注いでいく
口一杯に広がる香りと濃厚な旨味が脳を揺さぶる
直角90度に上がった器は中身を漏らすことなく沈黙する
ゆっくりと卓にどんぶりを置き、残心
手を合わせ、一念
ごちそうさまでした
カウンターに空の入れ物を置いて、会計をお願いする
「500クレジットになります、はい。毎度ありがとうございます!」
元気の良い猫耳ツンデレ娘が勘定をしてくれる
今日もアビドスの戦士はサービス精神に富んだ笑顔をこちらに向ける
戦闘時の鬼気迫る表情とは随分と異なる明るい笑顔であった
財布を懐に戻して、振り返ろうとしたその時
ガラララ
引き戸が音を立てて開かれ、外から五人組が来店する
「セリカちゃん、みんなが来ましたよ〜」
驚異的な胸囲を持つ二年生が先生と横に並んで店に入ってくる
後から湿った砂混じりの風と純情眼鏡っ子、最後に私と同じくらいの身長の最年長が現れる
柴大将が歓迎の声を上げ、皆々が慣れた様子で挨拶を返す
私はただ美しい青春の一幕を目に焼き付け、小さくお辞儀をして店を出る
外を出て数歩、満腹感が脳を支配していたところに
「あ、あの…すみません!そ、其方のお店のメニューにワンコイン以下の料理はあるでしょうか!」
おずおずとした黒い少女に話しかけられた
……って便利屋やないかい!!!
うそぉ?いや、そっか
先生と一緒に対策委員会が食べに来てるし、そうだよね!
「あ、いえすみませんでした!!」
沈黙していると荊のヘイローを持つ陰気な少女は逃げだそうとしたので、慌てて引き留めていう
「えっと、ちゃんと五百円で一杯食べられますよ!」
腕を引かれて驚きの視線を向けられつつ、伊草ハルカは私の言葉を聞いて目を輝かせた
実際に“いっぱい”食べられるだろうし、大丈夫
「あ、ありがとうございます!!」
全力で後方へと疾走していく彼女を見つめながら、私は感慨深く思う
入学時一緒に地面で荒ぶる新入生に踏みつけられた同志であったからだ
まあ、私が不登校から抜け出した頃には見かけなくなったし、多分便利屋に加入したとは思ってたが
先程走り去った彼女は、こちらへと戻ってくる、三名の上級生を伴って
「ハルカ、良くやったわ!これでご飯が食べられるわ!」
「アルちゃん、それって四人で一杯を分け合う前提だよね?」
「わ、私は食べなくても平気ですので!」
「駄目よ!社員の福利厚生も社長である私の義務よ!社長命令よ、ハルカ。私達と一緒に食べなさい!」
「福利厚生って多分もっと……。」
隠しきれないポンコツ風味の社長さんと小悪魔系幼馴染の室長
あわあわしながら追随する平社員と後方から皆を見守る最年長の課長
はえー、すっごい
生の便利屋だ!
確か風紀委員会と敵対したせいで口座が凍結されてるし、割とサバイバル生活してるんだっけ
あ〜でもこの時は傭兵にお金全ツッパしたんだっけ
かんぺき〜!な恩を仇で返す行動をしているのに、好感度が落ちないってすごいカリスマ性を感じるよな…
「あっはい。あ!あの方が五百クレジット以下のメニューがあるって教えてくれました!」
ハルカの一声で視線が自分に集まるのを感じる
長身(私より)の赤髪美女が目の前までやってくる
「うちの社員がお世話になった上、情報提供感謝するわ!」
お、おう…
なんだろ、すっごい不思議な気分
原作知識からポンコツってわかってるのに、なんか心惹かれるというか、付き従いたくなるっていうか
直でその美麗な尊顔と自信に満ちたその視線を向けられると鼓動が…!?
えっ?嘘ぉ!?
ど、どどどうしよ!?何すればいいいんだっけええ?
動転する頭をシャットアウトし、身体と脊髄で対応する
「あっ、えっ…大したことでは無いので、あっ!こちらをお納めくださいぃ!」
「はい……ええ。えっ??ちょっ!?「どういたしましてー!!」
顔に血が昇って来るのを感じて、思わず自分の財布を差し出した私は大きく一礼をして、そのまま全速力でその場を後にした
その場に残された陸八魔アルはしばらく手にある財布とリトルが走り去った方向を見比べて途方に暮れていたが、仲間たちに引きずられてそのまま入店していった
……
……
……
学生証やカードは別に保管していて良かった、そんな大した額入ってないしいっか
アル社長のカリスマって凄いな…
私が雑魚だからってのもあるかも知れないが、あのオーラは傑物だわ
家のドアの前で静かに今日を振り返って、私はそう思った
扉を潜り、明日に起こるであろう戦闘の観察用に双眼鏡を取り出して鞄に詰める
ここまでお読みいただきありがとうございます!
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次回便利屋襲来!さて、どうやって絡ませようか……